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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
363/915

        弐


 関羽side──


偶々、特に予定も無い為に自室をゆっくり出た所で、縁側に居た雷華様に会って流れで膝枕をする事に。

断る理由等無く──寧ろ、“是非”にと自分から申し出たい位だ。

因みに、承諾した直後には周囲を見回して確認した。

邪魔が無いかどうか。

折角の二人きりなのだ。

閨での状況とは違い意外と普段の中でだと有りそうで無かったりする。

そういう約束をしていない限りは雷華様も私達も各々忙しい身だからだ。

故に、こういう機会は特に貴重だったりする。


そうして、雷華様に膝枕し仕事の時間が来るまでの間のんびり過ごす事に。

…実は、こういう風な形で二人きりで過ごす事に少し憧れてもいた。

出来るなら夜も含めて独占したい所では有るが。

流石に其処までは…な。

それでも十分に幸せだ。


まあ、少々“御疲れ”気味と思える雷華様の事が心配ではあるが。

確か、昨日は紫苑と雪那が雷華様を……ああ、うん。

多分、気疲れでしょうね。

雪那も普段とは違い閨では積極的らしいですから。

…どうして私がそんな事を知っているのか?

私達には妻同士、女同士の情報網が有るのですよ。

雷華様は知らない方が良い“女の秘密”です。


──と、そんな事を考え、不意に思い出した事が有り思わず笑みが浮かんだ。


その事が気になったのか、雷華様が私の太股に優しく口付けをされた。

“どうしたんだ?”という意味だとは感じ取ったが、少々恥ずかしく思ったので“何でもないです”と言い話を流そうとしたら太股の内側に口付けされた。

反射的に漏れる声。

それは雷華様以外には誰も知る事の無い音色。

擽ったい感じではあるけど似て非なる物。

それだけに瞬時に羞恥心が増大し、直ぐ様白旗を上げ降参を示した。


油断していた──というか完全な不意打ち。

のんびりとした雰囲気故に特に気を張っているという訳でもなかったので突然の刺激に対しては無防備。

それも…その…口付けだ。

愛する人にそんな事をされ平静で居られる訳が無いが“仕事が有る”という事を理性が繰り返し告げるので何とか我慢している。

そうでなかったら雷華様に思いっきり甘えていたい所だったりする。


…まだ時間有りますよね?

ふと、胸中で雷華様に問う様に訊ねた。

それは自分自身に対しての“言い訳”なのだろう。


そう冷静に考えている私が居るのだが、その私の中に否定の意思は無い。

つまり、反対意見は皆無と言って間違い無い。

もし問題が有るとすれば、“それ”を雷華様に対して御願い出来るか、だな。

…中々に高い壁だ。





「……愛紗?」


「──っ!?」



思考が他所に逸れてしまい現状を忘れそうになるが、雷華様の声で我に返る。

…危ない所だった。


私が妄想に走っていたとは雷華様に知られたくない。

…ああ、でも、知られたら知られたで悪くもない。

恥ずかしくはあるだろうが自分の望みを素直に伝える事が出来るだろうからな。

ただ、正直に言うと悩んでしまう所ではある。


まあ、現状は雷華様は私が話す事を躊躇っている様に思っているだろうが。

こういう時、奇妙な鋭さや空気の読めなさが無い所が雷華様の良い所。

ある意味、本能的に私達の“女心”を察しているとも言えると思う。



「…黄巾の乱の中でした

私が御二人に臣従し曹家に加入したのは…

その時、私はどういう道を辿っていても雷華様の元に来ていたと思いました」



私の言葉に雷華様は肯定も否定もされない。

それは当然の事だ。

そう考えられるのは結局は私が感じているから。

私の、道だから。

雷華様には判らない事。

可能性という意味でならば今も“彼女”の元に居て、暗愚な道化師を演じ続ける私が居たかもしれない。

可能性に“絶対”は無い。

それが可能性という物。

だから、雷華様から返答が無い事が正しい。


もし、この場面で私に対し“そうかもしれないな”や“それが運命だろ?”とか言われても私は素直に喜ぶ事は無いだろう。

そんな事を言う様な方ではないのだけれど。


以前の私ならば脈絡の無い上辺だけの言葉であっても喜んだかもしれない。

生憎と、そんな中身の無い言葉が今は一番嫌いだ。

それは私自身の罪の証とも呼べる事だから。

“彼女”の想いは本物でも覚悟や信念が伴わなければ漢王朝時代に蔓延っていた腐敗しきった宦官・官吏と何も変わらない。

そんな物に一時と言えども“理想”を垣間見た自分が情けないからだ。



「糧になっているのなら、全てが悪い事ではない

時に“遠回り”をする事で得られる物も有る

大切なのは、過ちから目を逸らさずに向き合う事だ

逃げ続ける事しか出来無い者には、そういう未来しか訪れはしない…

自ら可能性(せんたくし)を放棄し続けいるのだから」



──こういう方なのだ。

気付かれたくはないけれど“間違い”だと言える事は絶対に見逃さない。

何処までも厳しく、優しく私達を導いて下さる。


だからこそ、応えたい。

そう、強く思う。



──side out



愛紗が急に黙ってしまった事から言い難い事なのかと思い声を掛けてみた訳だが単に考える事に集中し過ぎだったみたいだ。

ビクッ…という驚いた時の反応が有ったしな。

まあ、非常に判り難い位に些細な反応なんだが。

目蓋を閉じている分だけ、他の感覚が敏感なんです。


まあ、そんな感じで愛紗が落ち着いて語り出したのは軽い懺悔の様な話。

宅には負けず嫌い以外にも真面目過ぎて“ネガ拗”を発症させる者が多い。

因みにだけど“ネガ拗”は“ネガティブを拗らせる”という意味。

別に真面目もネガティブも悪い事じゃない。

拗らせるのが問題なだけ。


一応、フォローという事で一言釘を刺しておく。

そんなには心配しなくても大丈夫だろうけどな。


それを物語る様に、愛紗は落ち着いた声で話す。



「乱も終息し、氣を学び、暫くしての事でした…

私と凪が雷華様から武具を賜わったのは…」


(…ああ、あの時の事か)



愛紗が何を言いたいのか。

それを理解し、どうするか微妙に悩んでしまう。

正直に言えば、“アレ”は俺が意図した事ではない。

愛紗の方は、俺の意図だと思っているのだろうが。

…この際だから、はっきり言っておいた方が良いな。



「愛紗、一応言っておくが“アレ”は俺が意図した事じゃないからな?」


「はい、判っています」



………………あ、あれ〜?

もしかして俺、自意識過剰だったりした訳?

うわっ、滅茶苦茶恥ずっ!

物凄い“勘違い男”っぷりじゃないですかっ!

穴が有ったら入りたい。

…厭らしい意味ではなく、だからね。



「──ですが、結果として雷華様が導いて下さったと言ってもいいでしょう

少なくとも私は、その様に思っています」



目蓋を閉じていても声色や口調、髪を梳く指の動きで愛紗の想いは伝わる。

寧ろ、表情を頼みにしない分だけ強調されている様に感じてしまう位だ。


しかし、先ず落としてから持ち上げるとか一体何処で覚えたんだか。

…ああ、うん、俺か。

愛紗自身にした事も有るし他の皆にしている所を見た事も有るだろうからな。

それは覚えるわな。

そして、俺は自業自得か。


思わず頭を抱え悶えそうになってしまう。

色々な意味で、愛紗以外に誰も居なくて良かった。

そう、心の底から思う。

愛紗なら他の皆に喋る事は無いだろうしな。

…うっかり、口を滑らせる可能性は無いとは言えない事では有るが。

多分、大丈夫だろう。

…信じてるぞ、愛紗。




 関羽side──


澄み渡る青い空。

其処に流れる白い雲は長く川の様にも見えた。

それを辿って行けば何処へ到達するのだろうか。

川と同じ様に広大な海へと繋がるのかもしれない。

私は海を見た事が無いので聞いた話程度にしか想像も出来無いのだけれど。


ふぅ…と、一息吐く。

そのまま視線を自分の胸元──両腕に抱く我が子へと向けた。

上の兄とは親子と言っても間違い無い位の歳の差。

あの子もこの子が産まれて来てくれた事を本当に喜び祝ってくれた。

私も本当に嬉しかった。


長子であるあの子を産んで二回、出産をした。

産まれた次男と三男。

しかし、何方らも今は世に存在していない。

次男は二歳になったばかりだった時に流行り病により他界してしまった。

三男は一歳を迎える前に。

飢え死にしてしまった。

時期が悪かった。

そう言ってしまえば間違いだとは言えない。

大凶作だった為、私達自身どうにか食べ繋いだ程。

そんな中、私の母乳も出ず村に乳飲み子を持つ女性も運悪く居なかった。

金銭的にも苦しかった。

全てが悪い方へ悪い方へと傾いてしまった結果。

三男は亡くなった。

己の親としての至らなさが不甲斐なくて仕方無い。


そんな思いを抱きながら、十年もの時を経て身籠った四人目の子供。

しかし、私自身の年齢から偶々立ち寄られた華佗様に命懸けだと言われた。

今の内に堕胎させれば私の命は危なくない、と。


夫もあの子も悩んだ。

選ぶ事の出来無い二択。

それでも必ず選ばなくてはならない。


だから、私は選んだ。

命懸けで、産むと。

この子を絶対に守ると。

きっと死んで逝った兄達が守ってくれる。

そんな予感もしたから。


そして、この子は無事に、この世に生を受けた。

私の方も無事。

足を止め、出産に携わって下さった華佗様には本当に感謝しています。



「…ごめんなさいね」



そう、静かに告げる。

視線の先には普段は布地に包まれている我が家に家宝として伝わる偃月刀の姿。

この子を育てる為には今の我が家の蓄えでは厳しく、手離す事にした為。

私達の身勝手で手離す事は先祖にも、この偃月刀にも申し訳が無い。

だから、怨むのなら私達。

この子に罪は無いから。


それでも、私達はこの子に生きて幸せになって欲しく心から願う。










 幸せになってね、愛紗







それは“追体験”という物だったらしい。

雷華様も私と偃月刀の間にそういう“縁”が有る事は御存知無かったそうだ。

まあ、私自身も知らない事ではあったのだが。

ただ、偃月刀という事から“もしかしたら…”程度に考えられた事が有るのかもしれない。

口にはされないが。



(…継ぎ繋ぐ想い、か…)



今も脳裏に浮かぶ光景。

母が、父が、兄が、如何に自分を愛してくれていたか思い知らされた。

自分は決して独りではなく常に繋がりの先に居ると。

そして今、私も繋いでゆく想いを知った。

最愛の男性に──雷華様に出逢って。



「“縁”というのは本当に不思議な物ですね…

“現在”に在り振り返れば全てが“必然”に見えます

ですが、実際はその何れも当時では“偶然”です」


「“必然”は過去が有って成立する事だからな

当時は“偶然”と思っても何の不思議も無い

それは人も同じだ

“過去”の積み重ねが有り“現在”の自分が有る

良い事も悪い事も含めて、その全てが、な」


「そうですね…」



心の水面が波立つ事は無く静かに穏やかなまま。

否定や拒絶をせず、全てを受け入れられる様になると感じられる感覚。

いつでも、ではないが。


そう私が素直に思える様になったのは雷華様の存在が在ってこそ。

それもまた“現在”だから言える事に違い無い。


長い間我が家の家宝だった偃月刀を止むを得ず手離し家族の想いは複雑だった事だと思う。

ただ、私と家宝を秤に掛け自分を選んでくれた想いはとても嬉しく思う。

…偃月刀──あの子には、申し訳無いのだが。


けれど、あの子は我が家を長い間見守って来てくれた文字通りの家宝。

家族の想いを、私の想いを理解し、赦してくれた。

あの子曰く、何方らにしろ自身の役目の為に我が家を離れなくてはならない時が迫っていたそうだ。

各々に事情が有るものだ。



「…雷華様」


「…ん?」


「御時間、頂けますか?」



時は有限で、戻らない。

なら、得られた機を活かし想いを紡ぎ、繋ごう。

永久に絶えぬ様に。

強く、強く、輝く様に。

愛する人と共に。

遥かな未来の先へと。



──side out。



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