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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
327/915

        肆


襲い掛かってくる傀儡達を倒しながら、敢えて相手の時間稼ぎに付き合う。

勿論、最終的には崩すが。

最初から“気付かれた”と気取られた場合には即座に対応策を打たれる。

だが、ある程度思惑通りに進んでいると必ず心理的に油断が生じる。

それは本当に僅かな物かもしれない。

しかし、その僅かな油断は小さな混乱を引き起こす。

順調で有れば有る程に。

特に、こういう時間稼ぎの場合には有効だろう。

必要となる時間を気にするあまりに焦りが生じる。

その焦りが思考を妨げる。

条件が揃えば“後の先”は必殺必中の一撃と化す。



「それに…」



呟きながら、視線を向ける先には一本の通路。

──と、タイミング良く、増援の傀儡達が通路を抜け飛び出して来た。



(…判り易過ぎだろ…)



そう胸中では呆れながらも表情・態度には出さない。

いや、別に出してしまって構わないのだけど。

それはそれで考え物だ。


時間稼ぎに加え“誘導”の意図も見て取れる。

宮殿にて最初に待ち受けて襲ってきた傀儡達。

それと同様に先に進む度に各所で待ち受けていた。

ただ、必ず増援が現れるし必ず“一つの通路から”の出現が共通点だった。

…まあ、要するに“此方が怪しいですよ?、ささっ、此方へどうぞ〜♪”とでも言っている様な物。


人──傀儡だが──が同じ通路から来る場合。

控え室・待機所が有るか、“要所”が有るか。

そう考えるのか普通だ。


もしこれが潜入して人質や情報、或いは何かの物品を奪還・奪取して、脱出する様な場合で有るなら人波を避けて進む可能性は高い。

多数の敵との接触・戦闘は自分の存在を察知されるし時間を無駄にするからだ。


だが、要所を目標とすれば人が多い方へ進む事は十分意味が有るだろう。

その先には何かしら情報が存在する可能性が高いし、敵を減らす事で動き易くもなってくる。

更に、騒ぎの混乱に乗じて身を隠す事も出来る。

傀儡相手では無意味だが。


そんな常識的な思考を敵も理解しているのだろう。

だから、各所で待ち伏せて時間を稼ぎつつ増援を使い“目的地”へ誘導しているという事になる。


時間稼ぎと同じで、誘導もバレない様に乗ってやる。

此方の目的の為にも。

宮殿に潜む敵は二人。

その内、術者が時間を欲し傀儡を使っているとすれば好都合だからだ。

残った方が標的。

術者の者と切り離した上で情報収集をさせて貰おう。




 左慈side──


于吉の指示で待機する様に言われた場所──ではなく其処を離れて廊下を歩く。

待ち伏せなんて面倒だ。

どうせ時間稼ぎをしながら戦う事になるなら、于吉の指定した場所ではなくても問題は無いだろう。

と言うか倒してしまっても問題無いだろう。


──という結論に達して、俺は奴の元へと向かう。

今、人形共と戯れながらも此方へと向かって来ている曹純の元に。



「…曹純か…」



思えば、奴は他の二人とは格が違っていた。

黄巾の乱の際にも唯一人、“真実”へ辿り着いた。

“餌”として使った女共は小野寺の所に行ったが特に支障は無いから無視。

はっきり言ってしまえば、どうでもいい事だ。

そんな事以上に俺の興味は曹純に向いていた。


結局、あの一戦だけだ。

曹純が表舞台へと姿を──その実力を露にしたのは。

あれより前も後も、一切の情報を掴ませない。

掴める情報は俺達にとって価値の無い事ばかり。

何処までも用心深く決して隙を見せない知性を持ち、同時に優れた武を備える。

正に“強敵”だ。

それだけで血肉が滾る。



「しかし、面倒な物だ…」



何れだけ闘志が昂っても、曹純を殺す事は出来無い。

俺達には奴を直接殺す術は存在していない。

その事が歯痒い。

奴と闘いたい。

全身全霊を賭し、命懸けで殺し合いたい。

何方らかの生命が燃え尽き果てるまで。

その一戦で全てを失う事に成ったとしても。

熱く、激しく、思うまま、心逝くまで戦いたい。


“生きている”と実感する事が出来るまで。



「………叶わぬ願いか…」



足を止め、廊下から夜空を見上げて呟く。

綺羅星の如く、動く時代に英傑達が舞台に上がる。

“群雄割拠”の到来。

その幕開けとも言えるのが今回の戦争だ。

出来る事なら、俺も舞台に上がって戦いたい。

英傑達と、全てを賭して。



「……英傑、か…」



フッ…と自身を一笑する。

何なんだ、その夢見勝ちな青臭い“願望(ゆめ)”は。

“んな質じゃねぇだろ?”と自分の中で問い掛ける。

ああ、柄じゃない。

そんな感傷的な考えをする軟弱な奴は俺じゃない。

そう言い聞かせる。

俺は──俺達は、ただ只管“あの御方”の意志に従い成すべき事を成すだけだ。

それが“全て”だ。



「我が全ては“あの御方”の為に有るのだから」



余計な事は考えるな。

それらは俺には必要の無い事なのだから。


再び歩を進める。

己が役割を果たす為に。



──side out



宮殿の廊下を進んでいると背後から迫る怒気。

それを左に動いて躱す。

突風の様に駆け抜けて行き視界の先──大きな広間となっている部屋の中央部に怒気を放出している存在が着地して振り向いた。



「手前ぇ…一体、どういうつもりなんだ?」



そう言いながら親の仇でも見る様な鋭い眼差しをして此方を睨み付ける。

その視線を受け止めながら静かに考える。

“おお〜…怖い怖い…”と巫山戯てみたくなって。

初対面なんだが感じる。

俺の直感が叫ぶ。

此奴は“弄られキャラ”に間違い無い、と。

ドS──いや、俺の眠った本能を揺り動かす。

“今しかないっ!”と。


だがしかし、状況が状況。

“此処は空気を読もう”と比較的真っ当な部類の俺が窘める様に意見を言う。


それに対して反論が出る。

“何を馬鹿なっ!、今こそ弄っ…精神的に揺さ振り、笑いも…平常心を失わせて優位に立つ時だっ!”等と本音が駄々漏れの意見。

因みに、言ったのは華琳と遣り合っている俺だな。

敵には特に容赦が無い。


“確かにそうだが…”と、奇跡的な程に純粋で天然な俺が納得し掛ける。

勿論、無視されるが。


“お前達は馬鹿なのか?、死ぬの?、死にたいの?、華琳に殺されるよ?”との冷めた一言に一様に黙る。

発言は妻に激弱な俺。


──結論、自重すべし。


この間、僅かに一秒。

満場一致の脳内会議に従いゆっくりと小首を傾げる。



「どう、と訊かれても…

もう少し具体的に質問して貰わないと返答する此方も困りますが…」



そう言いながら苦笑。

ビキッ…と彼方さんの蟀谷辺りに青筋が浮いた。


……あれ?、何だかんだで結局はおちょくるみたいな事言ってるよね?

…うん、無駄だったわ。

脳内会議した所で、自分の身に染み付いた習性までは変えられないみたいだ。

勉強になったな。


そんな事を脳内寸劇として遣っている目の前では彼が口の端と左頬を引き吊らせ両手を握って、肩を小さく震わせている。


“もしかして、トイレ?、行って来たって良いよ?、此方で待ってるからさ”と笑顔で言いたくなる。

言ったら彼は、絶対に怒るタイプだろうけどな。


“あっ、そうすか?、なら少しだけ──って、手前ぇ何言わせんだよっ?!”とかノリツッコミしてくれたら面白いんだけど。

やっぱ、シリアスばっかり遣ってると疲れるよね。

灯璃が居ればなぁ。




ギリギリギリグギギッ…と歯を噛み締める音が部屋に響いている。

強烈な苛立ちと葛藤の中で必死に堪えている。

何と言うか…質問したのは其方なんだけどね。

其処ん所、忘れないでね?



「…いいか、よく聞け?

手前ぇが此処に来るまでの道は人形共が誘導してた

手前ぇが此処に居る以上は成功したと言える…」


「まあ…そうですね…」



彼の言葉を素直に肯定。

だって、本当の事なんだし事実此処に居るんだから。

誘導は成功してるよ。

誘導は、ね。



「つまり、此処へ来るには“一本道”だった筈だ」


「ウン、ソウダネー」



先程とは違い遣る気の無い棒読みでの返事。

序でに死んだ魚の眼の様に適当な表情をしている。

…彼?、自分を抑える事に必死で目を瞑って俯いてる状態だから気付きません。

ほらほら〜、変顔〜♪。

まあ、流石に手足を動かす真似はしないけど。

此処でバレたら面白くないじゃないですか。


彼が何が言いたいのか。

実は最初っから判っていて態と遣ってたりする。



「…だったら…」



到頭我慢の限界かな。

全身がはっきり見て判る位ブルブルと震えている。


“寒いなら、これ使えよ”とか言って二枚目気取って後ろに回って外套を肩から掛けて遣りたい。


いや、それも二度押しか。

“あれ?、またトイレ?、ちょっとちょっと飲み過ぎなんじゃないの?”なんて切り返してみようか。

一回目を遣ってないから、押しじゃないけど。

“また!?、またって何だよ訳判んねぇーよっ?!”って返しが欲しい所だな。


彼、絶対気付いてないよ。

其方の適性と才能有るって教えてあげたいよな。

目指せ、笑道天下一っ!

笑いで天下統一を目指した笑いに命を懸け歩いた男の真実の物語。

…興行でいけるかも。

今度真面目に物語を書いてみようかな。

こういう御時世だから結構ウケそうだし。

時代的に娯楽が少ないから大衆演劇って流行るしな。

収入も期待出来そうだ。

よし、遣ってみよう。



「──だったら、手前ぇは何で俺と遇わずに“後ろ”に居たんだよっ!?

どう考えても前だろっ!?

可笑しいだろうがっ!?」


「──あっ、ごめん

まだ遣ってたんだ…」


「──なっ!!??」



──あ…遣っちゃった。

思考が商売モード入ってて反射的に本音が出た。

膝から崩れ落ちて、両手を床に付いて這い蹲う。

精神的ダメージの大きさが彼の背負う負のオーラから窺い知れる。

うん、本当にごめん。

一生懸命堪えて、頑張ってくれてたのにね。

本っ当、ごめん。




今直ぐにも降り出しそうな曇天の様な雰囲気の彼。

その姿に居た堪れなくなり励ましたくなる。

だって、俺に非が有るし。


と言うか、一応は俺達って敵同士なんだけどね。

このまま殺れるよ?

今、無防備過ぎるから。

まあ、殺んないけどさ。

流石にそんな真似が出来る空気じゃないし。

抑、それ遣ったら情報収集出来無いんだから。


さて、取り敢えず雰囲気をどうしようかな。

謝罪、励ましや慰めとかは傷口に塩を塗る様な物か。

かと言って、笑って済ます訳にもいないよな。

これは傷口を抉る訳だし。


となると、スルーか。

何事も無かったかの様に、巻き戻してのリテイク。

……俺だったら無理だな。

立ち直れないかも。


そうすると、取り敢えずは彼の質問に対し答えるのが一番かもしれない。

今挙げた問題点に触れない様に気を付けて。

…何気に難易度高いな。

口調はどうしようかね。



「…貴様らの目論見など、この曹純には児戯に等しく容易く看破できたわ」


「………」



…あれ?、外した?

う〜ん…これじゃないか。

仕切り直す意味で言うなら上から目線なんだけど。

って言うか、面倒臭いな。

もう適当でいいか。



「此方を誘導しているのは見え見えだったからな

無理に逆らう理由も無いし乗ってたんだけどな」


「……だったら何故…」



──お?、復活したか?

それとも単純に気になって仕方無かったのかね。

何方でも構わないけどな。

会話になってくれてれば。

一人で解説するのって馬鹿みたいだもん。

…あ、俺が彼の立場なら、無視して遣り返すか。

意外に素直だね、彼は。



「皇女──子揚が俺の妻の一人なのは知ってるな?」


「…ああ…」


「子揚にとっては宮殿での生活は鳥籠の中と同じだと言える物だった…

だが、それでも中には良い思い出も有った

その思い出に関係する物が宮殿内に有るんでな

回収しに寄ってたんだよ」



実際には物だけじゃなくて庭園丸ごと、とかだけど。

だって、この後の戦闘での被害規模は判らない。

結構ヤバいと思う。

被害を考えて戦うのが面倒だから住民を都外に退去・避難させたんだしね。

全力を出して来なさいな。



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