表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
323/915

        参



「まあ、話はこんな所ね

取り敢えず、私達の連合軍への参加は此処までね

目的の貴女達は確保したし争乱も此処で決着だもん

黒幕の…張譲だっけ?

それは袁紹に任せて置けばどうにかするでしょ」



そう言って小野寺と穏へと雪蓮様は顔を向ける。

軍師の穏は判るんだけど、小野寺への信頼も厚い。

……ああ、夫だったわね。

格好が格好だから、そうと見えないのよ。

ったく、紛らわしいわ。



「董卓軍の兵を捕虜として大量に抱えてるからなぁ…

これ以上の行軍は厳しいし兵糧とか不足する可能性が高くなるもんな」


「それじゃ〜、予定通りに撤退ですね〜」



そう言って頷く二人。

臣従したとは言え、現状は捕虜扱いの私達が方針への口出しは躊躇われる。

しかし、兵糧等なら有る。



「兵糧とか足りひんの?

それやったら虎牢関の中に残っとるの、持ってったら良えやないか」


「私もそう思うわよ

実質的に貴女達が虎牢関を落とした訳なんだし…

問題無い筈でしょ?」



そう私達が訊ねると三人は顔を見合わせて苦笑する。

何か事情が有るのかしら。



「実はね、私達が虎牢関の指揮権を得る上で連合軍の総大将を遣っている袁紹に一番乗りさせる言い回しをしてるのよ

だから、下手に兵糧とかを回収出来無いのよ

勿論、曹操や公孫賛もね」


「尤も、公孫賛は捕虜とか殆んど捕ってないだろうし居ても解放するか、曹操か宅に引き渡すだろうな

だから、自分達の分だけで足りるから必要無い」


「曹操さんは呂布さんとか居ますけど〜…

抑、基本的な財力なんかは格が違いますから〜…

態々鹵獲したりしなくても問題無いでしょうね〜」



まあ、そうでしょうね。

私達も一番怖かった相手は曹操だったし。

他と違って長期戦をしても勝てる気がしないもの。



「って事なのよね〜」


「要するに虎牢関に袁紹を一番乗りさせて満足させて此処での指揮権を得るのと同時に後始末を丸投げして自分達はさっさと自領内に引き上げる、と…」


「その通りなんだけどさ、もう少し言い方が…」


「事実だし仕方無いわよ

さっ、話は終わり

此処に馬鹿大将が来る前に曹操や公孫賛に挨拶をして置かないとね」


「それは雪蓮の仕事だから俺達関係無いんだけど?」


「高順に挨拶したら?」


「…雪蓮さ、絶対判ってて言ってるだろ?」



子供の様な遣り取りをする新しい主人夫婦。

ただ、その雰囲気は決して嫌だと感じなかった。

気苦労は有りそうだけど、色々と楽しそうでもある。



──side out



 公孫賛side──


虎牢関での戦いは完勝だと言って良い結果となった。

局面局面を見れば、私達も活躍したと言える。

しかし、全てを決定付けた“一手”は高順の存在。

乱戦・混戦となった中では時として個人の武勇により戦局が動き、決するなんて事は珍しくはない。

だが、軍戦が始まる以前に個人の武勇で結果が決まる事なんて見た事が無い。

当然、聞いた事もだ。


それでいて、一軍将だ。

曹魏は底が見えない。



「難しい顔してるわね」


「…したくもなるだろ?」


「それは…まあ、ねぇ…」



私の返した言葉に対して、出し掛けた言葉を飲み込み苦笑を浮かべる孫策。

あの高順の一騎打ちを見て何も思わなかったら所詮は紛い物だろう。

間違っても“群雄割拠”の舞台には立てない。



「あら、二人揃って難しい顔をしているわね

何かしら、“今後”の事で気になっているの?」


『──っ!?』



孫策と顔を見合わせたまま僅かに身体を震わせる。

“曹操の噂をすれば曹操が現れる”なんて話を聞いた事が有ったんだが…

まさか、本当なのか?

そう、疑いたくなる位には驚かされた。

二人共、言動には出さずに何とか堪えたけど。



「さて取り敢えず、先ずは二人共御苦労様

良い動きだったわよ」


「其方──と言うか高順のお陰なんだけどね〜…

まあ、此処は一応、有難く受け取っておくわ」



強気な発言をする孫策。

その姿を羨ましく思うのは自身の器を理解しているが故なのかもしれないな。



「ふふっ、それでだけど、私は此処で引き上げるわ

捕虜にした呂布と部隊兵を連れての行軍は出来るけど質が落ちてしまうしね

貴女達はどうするの?」


「私も同じね

捕虜にした張遼達が居るし兵糧とかも厳しくなるから撤退するつもりよ」



“成る程”と納得出来る。

その一方で悩む。

私も撤退したいのだけど、良い理由が浮かばない。

…正直、本初に付き合って洛陽に行きたくはない。



「貴女の所も被害が少なく済んでいるし、兵糧とかが厳しいんじゃない?」


「兵糧が無くなれば進軍は困難になるわ

幽州に戻るまでの分は必要不可欠だもの

引き際、でしょうね」



孫策の言葉に曹操も賛同し私に道を示してくれる。


未来は判らない。

けれど、二人と対等に肩を並べられた事を私は一生涯誇りに思うだろう。



──side out



暫し地平を見詰めていると真夏の陽炎の様に揺らめき地平を霞める土煙。

それは“待ち人”の到来を告げる狼煙でもある。



「世は乱れるとも、天下の途に乱れ無し、か…」


「それは誰かの言葉?」



言いながら傍に来て左腕を取って身を寄せて来る。

こんな場所でも堂々と何も気にせずに遣るのは華琳位だろうな。

…いや、数名居るか。



「ただの俺の戯言だ」


「そう?、軍師陣が聞けば後世にまで名言として伝え遺されるんじゃない?」



…そんな事は絶対勘弁して欲しいんだけどな。

“言うなよ?”と華琳へと向けた視線に込めながら、周囲に意識を向ける。

……よし、誰も聞いてないみたいだな。

“纉葉”も動いてないし。

ほっ…と一安心する。


今、俺達が居るのは陣営を離れた岩山の上。

他には誰も居ない。

勿論、姿も不可視状態。

因みに、既に黒鎧は脱いで普段──と言うか、久々に“飛影”の格好をしている状態だったりする。

うん、此方の方が我ながらしっくり来るんだよね。


顔を右後ろ下方へ向ければ撤退準備をしている三つの陣営が視界に映る。



「すんなり終わったか」


「ええ、あっさりとね」



まあ、当然と言えば当然。

孫策の陣営は宅と同じ考えだろうから言う迄も無く、公孫賛は袁紹達とは違って虎牢関が決戦地だと理解をしているだろうからな。

三陣営揃っての撤退。

それは必然として纏まる。



「孫策の方は洛陽に関して何か言ってたか?」


「特には何も」



となると、賈駆は洛陽から残っていた民達が避難した事は知らない訳か。

まあ、態々教える必要とか無いから構わないけど。


そう考えていると、華琳がぎゅっ…と左腕を抱き締め顔を預けて来る。



「…“後始末”は袁紹達に押し付けるとして…

どうしても、私達は一緒に行ってはいけない訳?」



…やっぱり、と言うべきか最後の最後まで納得出来ず訊いてくるんだな。

長い付き合いなんだ。

俺の性格はよく判っているだろうに。



「言っただろ?

連中が何を考えているのか現時点では判らない

目的も…飽く迄も可能性の域を出ないんだからな

危険は冒せない」


「…判っているわよ」



拗ねた様に呟く華琳。

立場が逆なら俺も簡単には納得出来無いだろうしな。

…と言うか、一体納得した様に見せて動く、絶対に。

大切だからこそ、な。




 曹操side──


全く…本っ……っ当にっ!!

この夫は質が悪い。

私達には危険な事の類いは絶対にさせない癖に自分は平気で首を突っ込む。

その上に、厄介事も含めて自分に向ける様に仕向けて勝手に処理してしまう。

しかも、その圧倒的過ぎる能力が有るから始末が悪く私達も手が出せない。



(…少しは私達の気持ちも考えなさいよね…)



雷華を信じている。

どんな相手であろうとも、敗ける事は想像出来無い。

何より、雷華を負かすのは私が一番最初なのだから。

雷華の師は除いてね。


でも、雷華の気持ちも全く判らない訳ではない。

もし私が雷華の立場ならば同じ様に遠ざける筈。

それが解る事も面倒。

解らなければ納得出来ずに無理矢理にでも行動に移す事が出来るのに。


まあ、そういう意味でなら私達は誰一人として勝手な真似が出来無いでしょう。

何しろ、“そういう”風に私達は指導されてきた。

他ならぬ雷華自身に。


勿論、雷華が好き勝手する為にではない。

国王として、当主として、重臣として──妻として。

大切な事を学んできた。

だからこそ、出来無い。



(言い分も真っ当だし…)



支離滅裂なら指摘出来る。

でも、雷華相手に論破する事は天下統一より至難。

寧ろ、私達自身の傍にこそ最大の難敵が居る訳よね。


で、雷華の言う通り。

相手の狙いは未だに不明。

ただ、“それ”が世界規模──正確には漢王朝の領と周辺の領域を中心としての“災厄”だろうとは私達の一致した見解。

それは“歴史”という点で“重なる”から。

そして、分岐──つまり、“未来”が変わる転換点に成り得るから。

だからこそ、雷華一人には背負わせたくない。



「それに…此処は通過点に過ぎないだろうしな」


「…洛陽は陽動だと?」


「いや、それはそれ…かな

確かに“歴史”的に見ても意味は大きい

だが、既に“歴史”からは外れた存在が有る…

その時点で一部を変えても意味は無い」


「…貴男が狙いでも?」



口にはしたくなかったが、訊かずに後悔はしたくない気持ちが勝った。

こういう時、自分の性格が良いのか悪いのか悩みたくなってしまう。

今の所後悔は無いけれど。



「寧ろ、俺は大歓迎だな」



そう言って不敵に微笑んだ雷華を見て、思わず呼吸も忘れて己の胸を高鳴らせてしまうのだから困る。


──恋は不治の病。


本当に上手く言う物だわ。



──side out



今回の焦点は“董卓”だ。

流れ自体は“歴史”通りに進んでいる。

曹魏の建国は外れているが群雄割拠になってしまえば有耶無耶に出来無くはない事だとは思う。

勿論、させないが。


“董卓”を助ける。

その意志が内外にて生じた事でも外れてはいる。

ただ、それは一部の行動に影響するだけ。

それ以上ではない。

しかし、仲潁が助けられて保護された時点で流れ的に意味が変わってくる。


“董卓”は一石ではない。

“釣り餌”だ。

表向きに見れば張譲の為の“身代わり”でしかないが特定の相手にとってみれば気になる存在。


けれど、相手は“歴史”を知っているとは思えない。

仕掛け所は合っている。

なのに、内容が拙い。

いや、手緩い。

三人の“天の御遣い”達がターゲットだとするなら、先の黄巾の乱で確認済みで攻撃出来ただろう。

だが、何も無かった。

考えられる可能性は相手は“何か”を恐れている。

或いは警戒している。

だからこそ、万全を期して誘い込む算段をした。

その為の餌が董卓だ。


しかし、“歴史”を知ると仮定したなら張譲に任せて監禁などはしない。

確実に呼び込む為に手元に置いておくだろう。

俺ならそうする。

だから、断言出来る。

“歴史”は知らないと。

結果として、二人は確実に洛陽に来ないのだから。


尤も、華琳の言った様に、狙いが俺一人なら構わない事かもしれないがな。



「…一応、言って置くわ

傷一つでも残る様な結果は赦さないから」


「本当、厳しいな…」



苦笑する俺に対して華琳は少し怒った様に眉を顰めて顔を近付け──唇を重ねて問答無用で黙らされる。

そんな強引な行為に反して僅かにだが震える唇。

左腕を腰に回して引き寄せ右腕でしっかりと抱く。

唇を離すと顔を見ずに俺の胸元へと顔を沈めた華琳の後ろ頭を右手で撫でる。



「心配しなくても大丈夫

“本番”はまだ先なんだ

お前達に任せっ放しなんて遣らないって」


「もしそうなったら貴男の出番は無くしてあげるわ」


「それは俺の立場が無いし何より…“後”が怖いな」


「当然でしょ?」



顔を上げると、そう言ってクスッ…と笑う華琳。

人は守りたい存在が有り、帰る場所・居場所が有って強くなれる。

華琳に出逢って俺が学んだ真の“強さ”だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ