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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
320/915

        伍


駆け抜け──反転し追撃。

そう来るかと思いきや足を止めて、ゆっくりと此方へ振り向いた。



(──なんて奴やっ!)



あの状況から更に前に出る為には、並大抵の度胸では足りない。

死中に活路を見出だす。

正に、その通り。

そして、遣って退けただけではなく、一転して此方を一撃で追い込んできた。

こんなにも緊張感を味わう戦いは久し振りだ。


驚嘆、そして、歓喜。

昂る感情を出さない様にと平静を装う。

だが、口元に浮かぶ笑みは抑えられない。

楽しくて仕方が無い。


けれど、その熱を呑み込み静かに構える。

別に、仕切り直しという訳ではない。

ただ、互いに機を窺う。


互いに理解している。

“心行くまで…”と戦いを長々とは続けられない。

彼女達は“連合軍”だ。

今、此処には居ない後続の勢力が近付いている。

この場に居ない無粋な輩。

それは董卓軍として見ても厄介と言うか…面倒臭い。

彼女達とは違って矜持など持ち合わせないのだから。


互いを見据えたまま動かず只管に集中力が高まる。

いつの間にか自分の鼓動が聞こえなくなる。

ただ、先ず距離的に考えて普通ならば聞こえない筈の相手の息遣いだけが異常にはっきりと判る。

静寂の世界に彼女の呼吸の音色だけが響く。



「──っ!」



僅か──本当に僅かにだが彼女の呼吸が“変わった”瞬間が判った。

直後に“来る!”と直感し一瞬だけ早く動いた。



「──っ!、──っ!?」



高まった集中力が故。

夏侯惇もまた此方の動きに気付いて反応した。

しかし、間が悪かった。

彼女が“決め”に来る。

そう決意して動き出した、その瞬間だったから。

既に全身全霊を傾けての、攻撃の初動。

止めてしまえば、或いは、変えてしまえば。

その一撃は鈍り、軽くなる事は避けられない。

それを理解しているから、夏侯惇は迷わなかった。

攻撃に集中した。


──だが、僅かに揺れた。

その理由は単純。

此方が“動かない”から。


もし仮に自分が彼女よりも一歩速く動き出したなら、間合いの分だけ有利。

先程よりも更に困難な中で彼女は勝つ為に己の活路を見出ださなくてはならなくなってしまう。

ただ、こういう状況下では“前”に進む方が容易い。

ただただ一撃に、攻撃に、全身全霊を傾け集中すれば高揚し躍動する己の心身が“限界”を突き破るから。


けれど、動かない相手程、厄介な事は無い。

その分だけ、“選択肢”が増えてしまうのだから。

その分だけ、思考する事を強要されるのだから。

結果、生じる。

本の僅かな──けれども、致命的な揺らぎが。



──side out



 夏侯惇side──


機を窺う探り合いに対し、無駄だと判断。

自ら動き、決めに行った。

余計な事は考えず、只管に己の一撃を決める事だけに集中して。


そして、動き出す瞬間。

視界の中で張遼が揺れた。

彼女もまた、自分と同様に決めに来た。

そう思って踏み込んだ。

──次の瞬間。

背筋が凍る様な悪寒。



(──遣られたっ!!)



張遼は──動かない。

一瞬見せた“揺れ”は私を動揺させる為の罠。

先程とは立場が逆転。

先手を取った筈の私の方が後手を考えさせられる。



(くっ──どうするっ?!)



懸命に頭を回転させる。

下手な小細工は自滅。

動きを止めれば終わる。

このまま攻撃を継続して、次手に繋げなければ勝機は失われてしまう。

その為に何としてでも──



(──っ!?、違うっ!!)



“私は一体何を馬鹿な事を考えているんだっ!”と、自身を叱咤する。

そうではない。

そんな弱気でどうする。

何よりも、こんな遣り方は私には似合わない。

先の一撃を思い出せ。

張遼には騎馬戦での圧勝で気付かない油断が有った。

だから、隙を突いて上手く遣れただけだ。

今の私達では間違い無く、彼女の方が上。

勝機は僅かだと言えるし、それも油断が有ればだ。

だが、既に油断は無い。

なら、勝機は無い。

“今のまま”の私には。


私は彼女に勝ちたい。

作戦だとか、孫家だとか、そんな事は関係無い。

ただ、彼女に勝ちたい。

負けたくはない。






──“彼奴”には絶対に、負けたくない。


脳裏に浮かぶ人影に想う。

“皆を護りたい”と言ったその姿に負けたくない。

負けてはいられない。

追い付いて、追い抜こうと追い掛けてくる。

必死に、貪欲に、直向きに格好悪くても。

見る(もの)の心を何故か惹き付ける程に。


──前へ、一歩。

思考から余計な物の全てを排除する。


──更に、一歩。

次手など必要無い。

この一撃で必ず決める。



「──ぁあああああっ!!」



怖れず、怯まず、加速。

これまでの私には踏み込む事の出来無かった領域へ。

その一歩を刻み込む。

現在の“(げんかい)”を超えて行く。


自分に勝ち、張遼に勝ち、更に“前”へと進む為に。



──side out



 張遼side──


本当に…彼女は一体何度、自分を驚かせ歓喜させるのだろうか。


経験という差は実戦でこそ意味と価値を発揮する。

特に生死を分ける場面で。

確かに今、彼女が出来得る最良の選択肢ではある。

と言うか、自分に勝つにはそうするしかない。

より正確に言えば、勝機を手離さない為には、だが。


当然、ウチかて態と負けるつもりなんて無い。

全身全霊で迎え撃つ。

その上で勝つのはウチや。

戦いに勝って投降したって悪くはないんやしな。


前へ、更に前へと踏み込み迫って来る夏侯惇。

気迫に、覚悟に、闘志に、意志に、勇姿に。

思わず踏み出したくなる。

真っ向からのど突き合い。

それも悪くない。

寧ろ、彼是考えずに感情に任せて戦いたい位だ。


しかし、今はそれ以上に、彼女の見せる“可能性”を見たくて仕方無い。

自分で“勝つ為には…”と仕掛けながら、彼女の放つ輝きに魅せられている。

皮肉だとすら言える。

それが無ければ此処で見る事は無かったのだから。

故に自分で放棄する訳にはいかなくなった。

何とも身勝手な理由だ。

だが、悪い気はしないから後悔は無いだろう。


一歩──まだ、遠い。


一歩──次で、間合い。


一歩──彼女が踏み込むと同時に此方も動く。

下から掬い上げる様にして放つ変則的な突き。

刃先の反った偃月刀の鋒が獣爪の様に襲う。

だが、必殺ではない。

弾く・躱す・防ぐ・往なす事を想定した一撃。

余計な力を込めず、即座に次撃に繋げる事を重視し、前提とした初手。



「──っ!?」



それに対して夏侯惇は剣の柄尻を偃月刀の鋒に当て、想定していた何れでもない──否、全てを遣った。

当てて防ぎ、僅かに下へと弾きながら、後方へ往なし自身は僅かに左へ動く事で躱して懐に飛び込む。

一歩間違えば、両手の指を鋒が抉り取るだろう。

本当に驚かせてくれる。


しかし、まだだ。

まだ終わらせない。



「──哈ぁああぁあっ!」



前に踏み込んだ右足を引き身体を左前に捻る。

長物は、その長い柄もまた武器に違い無い。

両肩・両腕を全力で動かし偃月刀を振るう。

狙うは右脇腹。

骨を砕き、弾き飛ばす。

その光景を想像し──








「──ウチの、敗けや…」



前のめりに倒れ込む。

胸が詰まり息苦しさと共にじわり…と、腹部に広がる痛みを感じながらも彼女に降参の意思を伝えた。


闇に沈んでいく意識の中、自分が笑みを浮かべている事が可笑しくなる。

でも、気分は清々しい。

それ程までに彼女の一撃は“真っ直ぐ”だった。



──side out



 Extra side──

  /小野寺


二人から離れた場所で事の成り行きを見守っていたが深々と安堵の息を吐く。



(…無事に終わった〜…)



春蘭と張遼の一騎打ち。

一般兵に扮して雛里の側で護衛をしながら気にしつつ何時でも動ける様に準備をしていた。

“原作”の中では、必ずと言っていい程に起きていた“盲目”イベント。

どのルートでも春蘭の眼は潰れてしまう。

ある意味一番回避不可能な出来事になっていた。

“原作”内では“流れ矢”という事になっているが、意図的に放たれた可能性も否定は出来無いしな。


でも、春蘭が曹操ではなく雪蓮に仕えている事。

更に事前に行われた高順と呂布の一騎打ち。

この二つの要因が有れば、回避出来るんじゃないかと考えていた。


楽観視はしていなかった。

ただ俺には飛んでいる矢を撃ち落とす技術は無い。

かと言って、雪蓮に言って祭さんを待機させて貰うと作戦が厳しくなる。

だから、そうなった時には一騎打ちの最中でも構わず飛び込むつもりだった。


だから、張遼が倒れた時。

その様子を見て張遼の隊の兵士達が投降した時。


──完全に油断していた。



「──祐哉っ!?」



それでも、反応出来た事は奇跡と言えるだろう。

気付いた時には春蘭に対し見事なタックルを決めて、地面に押し倒していた。


右肩に生まれる熱。

身体の内から響くかの様にジクジクと強まる痛み。

視線を向ければ見事な程に深く突き刺さった矢。

“ああ、肺とかじゃなくて良かったぁ…”と、ズレた感想が頭に浮かぶ。

毒矢でもなさそうだし。

本当、ただの“流れ矢”で良かったよ。


結果的に春蘭は無事。

その因果を変えられた。

“魏ルート”の一刀君にも出来無かった事。

ちょっとだけ、嬉しいな。



「おい、しっかりしろっ!

頭は打ってないだろっ!」


「どういう意味だーっ?!」


「怪我してニヤニヤしてる奴を見れば、そういう風に心配して当然だろうが!」


「仰有る通りですっ!」



…言い返せない、だとっ!?

ぁ痛つつっ、大声だしたら余計痛くなってきた。

…あっ、雪蓮が此方を見て笑ってる。

額に青筋を浮かべて。


せ、説教ですか?

お、お仕置きですか?

もしかして、両方ですか?

……両方ですよねぇ〜。

はぁ〜…泣きたい。



──side out



予想外に素晴らしい戦いを見せてくれた二人。

夏侯惇と張遼に胸中でだが静かに称賛を送る。



「二人共、惜しいわね」


「ああ、そうだな」



華琳の護衛を俺一人に任せ他の面々は呂布隊の兵士の捕縛に勤しむ。

そのお陰で特に言葉遣いを気にしなくて済む。


“人材マニア”と言われた“曹操”の性は少なからず華琳にも有る。

まあ、その俺も華琳の事を言えないけどな。

俺は“育成マニア”だが。

二人を自身の手元で育ててみたいとは思う。



「でもまあ、縁が無ければ仕方無いわよね」



それは俺が言ってきた事。

どんな形であれ、人と人は縁によって繋がる。

そして、その縁の“先”をどうするのかは各々の意思次第に他ならない。

夏侯惇も張遼も縁が無くはなかった訳だが、此方側の都合上で縁は切れた。

尤も、群雄割拠にて孫策を降してしまえば纏めて手に入れられるけどな。

それを遣ったら、今までの仕込みが無意味になるから先ず遣らないが。



「取り敢えず、これならば問題無く終了かしら?」


「まあ、そうだろうな

小野寺も怪我はした様だが命に別状は無い

張遼とその部隊も問題無く孫策に降ったしな」



陳宮は既に離脱。

と言うか、呂布を失ってか気絶した陳宮を部下が抱え逃走しただけ。

孫策も公孫賛も深追いする気は無い様だしな。


華雄と公孫賛の方は巧みに公孫賛が捌いている。

倒す必要が無ければ優先は“敗けない”戦い方だ。

経験では華雄の方が上だが防衛戦に関しては公孫賛に一日の長が有る。

伊達に他国から白馬長史と呼ばれてはいない。



「後は賈駆ね」



二人が静かに視線を向ける先には虎牢関が有る。

門扉を開けたまま、閉める様子は全く見せない。

味方の“逃走経路”を塞ぐ事になる為だろう。

その事からも籠城や撤退の意思は無いと言える。


しかし、交戦自体は今も尚門扉から少し出た位置にて孫策軍と行っている。

賈駆としては仲潁を助ける為にも簡単に投降する事は出来無い所だろうな。



「宅としては粗終了だ

“帰り支度”を始めよう」


「ええ、そうね」



虎牢関前で続けられている戦いを他所に指示を出す。


尤も、俺個人にとっては、此処からが本番だけどな。





姓名字:呂 布 奉先

真名:恋

年齢:21歳(登場時)

身長:159cm

愛馬:夕都(せきと)

   赤鹿毛/牝/四歳

備考:

元董卓軍所属。

黄巾の乱の活躍によって、“飛将軍”と称される。


その傑出した能力は幼少の頃から現れており、自身の両親や兄姉妹・祖父母にも“化け物”扱いされた。

その為か、愛情や温もりに飢えていた気持ちが歪んで成長してしまった。

四歳位の時、故郷は盗賊に襲撃され、壊滅した。

だが、その中で彼女により盗賊達も全滅。

本人は長らく忘れていたが“孤独”と絶望による暴走だっと言える。

その後、約十二年間山中で獣染みた生活を送る。

“朱天童子”と称されるが董卓と出逢い、下山。

彼女の転機となる。


武術に関しては曹家を除き最強と言っても良い。

しかし、氣の扱いを知らぬ為に“燃費”が悪い。

傑出した武力は有しても、武力頼みの行動はしない。

基本的には作戦や戦略等に従って行動する。


感情が表に出難いのは幼い頃からの影響。

しかし、感情が無いという訳ではないので判る者には表情の変化も判る。

基本的に素直で純粋な為、喜怒哀楽も実は読み易い。

自覚は無いが甘えん坊で、寂しがり屋。


家事能力はかなり低い。

董卓の手伝いをしたりする程度は可能だが、一人では炒飯も作れない。

でも、サバイバルが長い為丸焼きは得意。

基本的に食中り・腹痛等の経験は皆無の鋼の胃腸。


氣型:強化特化型

資質:8:1:1

総量:4800/8000±


※赤鹿毛は独自設定です。

 実在はしません。




◇曹魏陣営の年齢設定表◆


◎24歳

 紫苑・雪那

◎23歳

 斐羽・月

◎22歳

 冥琳・愛紗

◎21歳

 秋蘭・翠・稟・斗詩・恋

◎20歳

 珀花・蓮華・桂花・彩音

◎19歳

 葵・泉里・鈴萌・凪

◎18歳

 華琳・思春・灯璃・結

◎17歳

 螢・流琉


※雷華を15歳とした時の 年齢になります。




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