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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
304/916

        肆


 孫策side──


泗水関を抜け、夜営出来る十分な広さが有る場所まで進軍して今日は終了。

既に日は落ちて、黒天には月と星が輝いている。


後続として追い付いて来た曹操を始め、韓遂・王匡、袁紹・袁術が到着。

自陣の設営も後に回して、袁紹が命じたのは大天幕を設置しての軍議。

既に自陣の構築を済ませた宅と公孫賛・曹操は静かに兵士達に同情する。

馬鹿に振り回される事に。


暫くすると大天幕は完成し各陣営に使者が訪れ軍議が開始される。



「伯珪さんっ!、

今回のこれは一体どういうおつもりですのっ!?」



挨拶も無しに全員が集まり着席した直後に角卓を叩き一人立ち上がった袁紹。

何がしたいのかしらね。

公孫賛は眉根を顰めながら袁紹を見る。



「…これって何れだよ?」


「泗水関の一番手ですっ!

何故、貴女が最初に抜けて行ったのですかっ!?」



そう言われた公孫賛は目を見開き、口を開け、呆然と袁紹を見詰める。

“何言ってんだ此奴?”と言外に表情が物語る。

それには激しく同意する。


因みに私達は祐哉の意見でこうなる可能性が高い事を示唆された為、通り抜けの一番手は予定通り公孫賛に譲る形を取った。

公孫賛には悪いのだけど、袁術だけでも面倒臭いのに更に袁紹にまで絡まれたくないのよね。

何より、鬱陶しいから。



「はぁ…あのなぁ…本初

劉備の所が壊滅状態だった事は見て来ただろ?」


「ええ、勿論ですわ

“私の”率いる連合軍には相応しくない無様で哀れで情けない姿でしたわね」



…酷い言われ様ね。

と言うか、その劉備に対し先陣を命じたのは他ならぬ貴女でしょうが。

これじゃあ劉備の兵士達も浮かばれないわね。



「それがどうしまして?」


「どうもこうもないわよ」



傍観するかと思っていたら意外にも曹操が動いた。

溜め息混じりに一言言うと袁紹の方を見る。



「敗戦は劉備自身の責任よ

けれど、結果として後続の公孫賛達が来るまで何とか持ち堪え時間を稼いだわ

まあ、華雄も泗水関を焼き追撃を防ぎ、時間を稼いだ訳だけど…

私の所は勿論、更に後続を待っていたりすれば敵側に余裕を与える事になるわ

折角撤退をさせて多少でも士気を削いだのだとしたら間を与えるのは愚行よ

公孫賛の判断は正しいわ

それに砦に罠や伏兵が有る可能性を考えて先に入って確認してくれた訳よ

後続の私達の為にね

尤も、“賢い”貴女ならば態々言わなくても判ってはいるでしょうけど」


「と、当然ですわっ!」





巧い、と素直に思う。

まあ、袁紹と袁術の扱いは私も理解しているけど。

ただ、会話をする際の間や言葉の選択が巧みだ。

簡単には反論出来無い。

曹操とだけは絶対に舌戦はしたくないと思うわ。



「で?、公孫賛に対しては言う事は無いのかしら?」


「ぐっ…伯珪さん!

御苦労でしたわね!」



半ば自棄になった体で声を掛ける袁紹は実に滑稽。

本人は曹操と張り合おうと──いいえ、張り合えると思っているのでしょうけど絶対に無理よ。

今、この会話だけでも既に両者の“格付け”は決し、それは覆りはしない。

…否、それも違うわね。

連合軍が集まった初日。

あの日の軍議で既に明確な“立場”は決まっていたと言ってもいいでしょう。

悔しいけどね。


まあ、それは置いておいて今の問題はどう遣って次の布陣を決めるか、よね。

一応祐哉達の立ててくれた誘導方法は有るのだけど…

曹操が居る、という一点が最大の不安要素なのよね。

…こうなったら暫く様子を見ましょうか。



「さて、次の虎牢関だけど一番乗りをしたいのなら、貴女が先陣に立つ?

貴女の自慢の精兵であれば虎牢関も苦も無く落とせるのではなくて?」



あら?、曹操は袁紹を前に出して削る気な訳?

…ああ、いや、違うわね。

態とらしい笑みを浮かべて“私は裏が有るわよ?”と袁紹を誘っている。

普通なら“その裏”を読み簡単に食い付きはしない。

でも、相手は袁紹。

その事実を加味すれば実に容易く乗って来る。

“思惑を看破した”と思い得意気な笑みを浮かべて。



「確かにそうですわね

ですが、まだ総大将である私が出陣するには時期尚早でしてよ

そうですわね、私は先陣が崩れた際に備え中軍辺りに居てあげますわ」



はい、釣れたーっ♪

いや〜、本当に楽だわ。

見事な程に思い通りに事を運んでくれるから助かるし私達としても口を挟み易い状況を作ってくれる。

まあ、その分敵に回したくないけどね。



「そう…では誰に虎牢関を任せるつもりかしら?」


「泗水関を一番手で抜けた伯珪さんが適任ですわ」


「わ、私かっ!?」



袁紹の一見して八つ当たりとしか思えない指名。

しかし、此方としては実は望む所でしかない。

だからと言って動揺もせず受けては不審なだけ。

その事を理解しているから公孫賛も演技をする。

袁紹達程度なら問題も無く騙せるでしょうしね。





「あら?、何か問題でも?

“白馬長史”と称えられる伯珪さんですもの

簡単な事ですわよね〜?」


「くっ…」



仕返しとばかりに公孫賛を困らせ様とする袁紹。

判っている事だから特には公孫賛も気にしていないと思うけど…鬱陶しい事には変わらないわよね。

さて、この状況から私達が先陣に加わる為には公孫賛一人では拙いという意思を示さなくてならない。

作戦とは言え、貶める様な形になるのは嫌ね。



「公孫賛が出陣する事には異論は無いのだけど…

虎牢関は華雄だけではなく呂布と張遼も居るのよ?

公孫賛一人では先の劉備の二の舞になるだけだわ」



呆れた様に呟く曹操。

当然演技なんでしょうけど実に然り気無いわね。

既に無関係になった劉備も上手く利用しているし。

勿論事実だから誰も否定は出来無いしね。


現時点で私を指名したり、自ら加わる形は愚策。

けれど、既に布石は打たれ動き出している。

チラッ…と視線を向ければ張勲が袁術に耳打ちをして何かを吹き込んでいる。

内容は袁術自身も中軍へと加わる為の手段ね。

それが曹操の誘導だなんて微塵も思わないでしょう。

逆に言えば幸せよね。

曹操の怖さを知らなくても済むのだから。



「…ふむ、そういう事なら孫策も先陣に加わるのじゃ

公孫賛とならば泗水関でも一緒じゃったのじゃから、特に問題無いじゃろ?」



ほら、思った通り。

私を先陣に置く事を理由に自分が中軍に陣取る口実を正当化するつもりね。

狙いが見え透いているけど今は乗ってあげるわ。

それは此方としても望んだ事だからね。



「…私は構わないわ

けど、貴女はどうするの?

また後軍に居る訳?」



勿論、不機嫌さを滲ませる事は忘れない。

嬉々として引き受けたら、全てを台無しにしてしまい曹操と公孫賛に睨まれる。

愚行でしかない。

故に袁術に対しては皮肉を交えた言葉を返す。



「御主に任せて後ろに居る様な事はしないのじゃ

妾も無責任ではないのでな

中軍に居て何か有れば直ぐ駆け付けるのじゃ」



“無責任ではない”なんてよく言えたわね。

領民が聞いたら即反乱へと繋がるわよ。

まあ、私達としては大歓迎してあげるけど。



「そう、なら安心ね」


「任せるのじゃ!」



袁紹が余計な事を言う前に私と袁術の間で話を纏めて決定させてしまう。

こういう強引さは曹操達を見て学んだ事ね。





「二人を悪く言うつもりは無いのだけど、拙いわね

せめてもう一人…

韓遂、王匡

貴男達の何方らかも先陣に加わったら?」



これまでに完全に傍観者に徹していた両名を名指しで問い掛ける曹操。

勿論、何方らも加わる気が無い事は判っている。

その上で訊ねる事の意味は“言質を取る”為ね。

要するにだ、“此処で前に出ない以上は後で何も言う権利は無いわよ?”という言外の確認。

“後”の為に備えるのか。

或いは此処で危険を承知で賭けに出るのか。

その二択を強要している。


韓遂は静かに目蓋を閉じて僅かに俯いて考える。

王匡も悩む様に腕を組んで“う〜む”と声を出す。

勿論、両者共に“振り”をしているだけ。

実際には答えは出ている。


先に動いたのは韓遂。

まあ、こういう所で意見を言える胆力は王匡には無いでしょうからね。

誰かに乗っかるのが精々の小物なんだし。



「…私の軍では公孫賛殿と同様に騎馬が主体です

騎馬がその真価を発揮する為には広い戦場が必須…

虎牢関の外は泗水関と違い幅が一定ではない

其処へ連携の取れぬままの騎馬の軍が二つも入っては自分達の首を締めるだけ…

互いに取っての長所を潰す事は避けるべきでしょう

なので、私は後軍に控え、万が一の時には我が騎馬の突破力を披露致します」



如何にもな正論ね。

まあ、袁紹・袁術が中軍に陣取る以上は突破力は何の意味も無いのだけれど。

それを判ってて敢えて言う辺りは腹黒い証拠ね。

どうせなら袁紹・袁術へと突撃して欲しいわね。



「王匡、貴男は?」


「…非常に申し上げ難い事では有りますが…

残念ながら私の軍の兵では御二方の足手纏いになってしまうだけかと…

兵数にしても離脱をされた方々に比べても少ない…

賊徒の被害が少なかった為行軍には参加しましたが、今此処に居られる皆様方の精兵には到底敵いませぬ

本来ならば役立たずな以上去るべきでは有りますが、偉業と勇姿を見届けさせて頂きたく存じます」



そう言って深々と頭を下げ自ら“戦力外”と申告。

それもまた事実である以上私達は異を唱えない。

そして、文句を言いそうな約二名はと言えば──



「ええ、構いませんわ

王匡さん、貴男は幸運にも“歴史的の大英雄”となる“私の”活躍を見られるのですからね

おーほっほっほっほっ♪」


「うむうむ、御主はよ〜く判ってるのじゃ

しっかりと“妾の”活躍を見ておくのじゃぞ

はっはっはっはっはっ♪」



満足そうに高笑いする。

本当、扱い易いわね。




馬鹿二人は放って置いて、問題は曹操の参戦ね。

当然だけど“部外者”だと自ら最初に言っている以上簡単には参戦出来無い。

その為には理由が要る。

それは曹操も私達も十分に理解している。



「…成る程ね

つまり、貴男達は先陣には出ない、と…

そうなると、やはり袁紹か袁術の何方らかが先陣へと立つべきね

立場的に考えても総大将の袁紹が妥当かしら?」



困った様な台詞と仕草。

けれど、それも曹操自身が先陣に立つ為の布石。

とは言え、この状況下からどう遣って袁紹に“懇願”させるのかしら。

全く想像が出来無いだけに楽しみで仕方無いわ。



「…は?、何故私が──」


「万が一にも先陣の二人が崩れてしまえれば連合軍はその時点で敗北が決定…

いえ、現状で言えば王匡が戦力外な以上は実質的には“五人”だけね

誰か一人が離脱した時点で勝ち目は無くなるわ」


「何を仰有ってますの?

五人では無く六人──」


「袁紹、忘れないで頂戴

貴女とは既知の間柄だけど私は“魏王”なのよ?

本来は部外者な訳

その私が進んで参戦しては連合軍の意味が無いわ

そんな事は態々言わずとも貴女も判るでしょう?」


「も、勿論ですわ!」



はい、嘘ね。

絶対に判ってないわよ。

この先の展開もね。

あ、張勲は気付いたわね。



「となれば、虎牢関で必ず勝つ為には最低でも三人が必要になるわ

敵の三将と兵数を考えても二人では不可能よ」



呂布抜きなら出来るけど。

…いいえ、寧ろ呂布一人が全てでしょうね。

呂布を倒せなければ絶対に連合軍の勝利は無いわ。

呂布の実力が私の想像通りだとすれば、一人で戦局を覆し、決定付ける。

泗水関に居たら終わってたでしょうね。



「で、でしたら──」


「韓遂は自身で言った様に邪魔になるだけよ

そうすると残るのは貴女達二人だけ…」


「では美羽さんに──」


「妾は麾下の孫策を先陣に出しておるのじゃ

問題は無いじゃろう?」


「ぅぐぐっ…」



別に私が先陣に出てるから袁術が後ろに居て良い理由にはならないけどね。

袁紹は口籠ったけど誰一人肯定はしていないもの。

でも、これで決したわね。




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