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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
28/913

24 歩みの先に


二人との主従の儀を終え、一息吐く。


いつも通り──と言うのも妙な感じだが…

呼び名や真名の件に関して説明もした。


急いで襄陽を発つ必要性も無くなった以上、既に用意された部屋にて一泊して、明日発つ事になった。



「それはそうと…

随分と大胆な手に出たな

この遣り方は逆効果だとは思わなかったのか?」


「そう思わなかった訳では有りません

ただ“ああ”すれば貴男は確実に此方の意図に気付き乗ってきてくれると…

今にして思えば根拠らしい根拠では有りませんが…」



そう言って苦笑する仲達。

確かに確実性には欠ける。



「先に仕掛けたのは皆から話を聞いていた結果によるだろうが…

敢えて、一度別れたのは?

あのまま臣下の礼を取る事も出来た筈だろ?」


「…怒らないで下さいね?

私自身は勿論、灯璃の心も既に決まっていました

ただ、あのままの流れでの臣従ですと…その…

皆さんの時の話に比べて、“盛り上がり”に欠けると思いまして…」


「“盛り上がり”って…

その為に態々危険を冒してまでする事か?」



怒ると言うより呆れる理由だろうが。



「し、仕方が無いじゃないですか!

皆其々に感動的な話が有り臣従した訳ですが…

私達──いえ、私自身には“これ”と言った出来事が無かった訳ですし…

羨ましかったんです…」



尻窄みに声が小さくなり、しゅん…と俯く仲達。

照れと拗ね、反省も混じり複雑な心境だろう。

端から見ると、思わず抱き締めたくなる可愛さだが。



「それは、俺には解らない事だな…

で?、お前的には満足行く結果だったのか?」


「取り敢えずは、ですが…

こんな事になるなら家督を譲らなければと思います

そうすればもっと感動的な展開に出来たのに…」



“どんな事を期待した?”とは思っても訊かない。

訊いたら長くなる。

絶対に。



「少し気になったが…

家督を譲って、という事は今は当主じゃないのか?」


「お義母さんが亡くなり、その身辺整理の為に家から離れる際に異母弟に…

元々、私は家督を継ぐ事に拘りは有りませんでしたし必要とも思いませんので

既に譲っていますから戻る必要が無くて助かります」



何とも、あっさりしている回答だが…多分、俺が同じ立場でもそうだろう。

そう言う意味では、意外と似た者同士なのだろう。


その方が将来の家督問題が無くて良い。


そう考えると一人、胸中で苦笑した。




気になった点と言えば他に訊く事が有った。



「あの遣り方にした理由は解ったが、どう読んだ?

少なからず、氣に付いての知識が必要だった筈だ」


「氣その物は貴男が使った所を見たのが初めてです

知識と言える程知っている訳でも有りません

ただ、武の達人ともなれば気配を察すると言います

それなら、氣にも同じ事が言えるのでは…と

貴男なら、それも可能ではないかと思って…」


「俺が実力者な事が前提の判断だな…

外れる可能性は考慮したんだろうな?」



そう訊ねると仲達は無言で顔を逸らす。



「…はぁ…公瑾と良い…

軍師として決め付けるのはどうかと思うぞ?」


「大丈夫です

貴男以外には適用しません

貴男だからこそです」


「全く以て同意だな」



自分の名が出たからか…

公瑾も会話に加わる。

というか、そういう問題と違うだろうが。



「二つ、御訊きしても?」


「何だ?」


「その…ですね…

その…皆さんとはやはり…

“そういう”…関係で?

先程の…二人を抱き寄せた感じが自然だったので…」



もじもじと訊き難そうに。

けれど、興味津々な様子で顔を赤くしながら訊く。

“あれ”は予め二人に話し仕込んでいただけだ。



「真名は呼んでないだろ?

それが答えだ

というか、質問の一つ目がそれなのはどうなんだ?」


「大切な事です!

主に今後の為にですが…」



きっぱりと言う仲達。

後半は小声だったので聞き取れなかった。

聞こえなかったよ、うん。



「…で?、二つ目は?」


「あ、はい

あの勝負の事ですが…

先の言葉からも判りますが欺罔ですよね?」


「その事は私も訊きたいと思っていました

あれは一体、如何様に?」



仲達だけでなく公瑾も気になっていたらしい。

まあ、当然か。



「そうだな……秘密だ♪」


「…え?」


「…むぅ…」


『ぇ…ええええーーーっ!?

どうしてですかーーっ!?』



仲達と公瑾が不服な反応をするのは判るが…

以外な方向から非難の声が上がったな。



「落ち着け…

種明かしをするのは簡単だ

しかし、それではお前達の為にならないからな

単に教わるだけではなく、見抜ける目と思考を養え

その為の宿題だ

暇潰しにはなるだろ?」


「暇潰し、ですか…」


「絶対に解いて見せます」


「頑張れ♪」



呆れる公瑾と意気込む仲達の頭を撫でて笑う。

簡単には解けないだろうが楽しみだ。




 張任side──


珀花が思春の事を暴露して徐晃──灯璃と一触即発の状態になってから三日。


今に至るには色々と有った訳だが…

それは私にも言える事。




飛影様に対する侮辱発言は謝罪を受け入れ和解。

──はしたが、根に持っていない訳ではなかった。

飛影様は“気にするな”と言われたが、家臣としては簡単には水に流せない。


しかも、その癖に飛影様に仕えたいなどと…

巫山戯ているのかと怒鳴り付けたい所だ。

司馬懿に関しては特に異議はないが。


しかし、彼女の想いが本物なのは判る。


最終的には飛影様次第では有るので私の個人としての感情は置いておくが。



「忠誠が有るのは良いが、忠誠を間違うなよ?」


「…どういう事ですか?」



それは思春達の決闘の後、移動の準備をしていた時に飛影様に声を掛けられた。



「己が主が侮辱されれば、腹が立つ、赦せないという気持ちは判る

だが、主が居る場に於ては主が気にしなければ家臣は沈黙すべきだ

何故だか判るか?」


「…その場を乱さない為、でしょうか?」



私は自信無く答えた。



「三割と言った所だな

主が居る場で、家臣が声を荒げて相手を怒鳴る…

珍しくはないし、忠臣だと思うだろうな

だが、一方で己の家臣すら統制できない主…

主の評価に泥を塗る事にも為りかねかい

主が気にせず、家臣は黙し不動で控える…

この場合はどうだ?」



そう問われ想像する。

場の雰囲気は損なわれず、場に変化は無い。

相手に見下される可能性は有るだろうが。



「ですが、そうする必要が有るのでしょうか?

無礼な輩なら処罰して然るべきでは有りませんか?」


「不敬罪は有る

だが、それは判断の基準や線引きがあやふやだ

それにな、そんな事をする者の評判は悪い

恐怖政治・支配政治をする馬鹿の典型だ

何より、主が相手に与える印象を意図的に作っているとしたら…どうする?」


「…ぁ…成る程…」



私が声を漏らすと飛影様は笑い私の頭を撫でる。



「主の印象や評価は家臣の立ち振舞いに左右される事は少なくない…

だからこそ、“他人”から何を言われ様が、気にする必要はない

主が居る場では、な」



そう仰られた。


思春や灯璃が心を見詰める一方で、私も学んだ。

忠誠とは主により在り方が違うのだと。



──side out



 朱然side──


ついうっかり、私が思春の字を呼んだ事に端を発した一連の出来事。


確かに私に責任が有る。



(でも、甜点心抜きは酷くないですか?)



結果として、二人の成長の切っ掛けになった。

勿論、飛影様のお考えが、有ってこそですが。



(それで甜点心抜きとは、どうなのでしょう?)



せめて、良くも悪くも事の発端という事で相殺しても良いのでは?

とは口が裂けても言えないですけど。


だって、冥琳が怒るし。



(それに襄陽まで三日!

三日も抜きって…

飛影様の…鬼ぃーーっ!!」



ゴンッ!、と頭に鈍い音と共に衝撃が生じた。

私は思わず、痛む頭を抱え蹲ってしまう。



「途中から声に出ていたぞ馬鹿者が…

大体、お前自身の情報管理意識に問題が有ったから、あんな事になるんだ

それを飛影様の所為にするとは聞き捨てならん

ちょっと此方へ来い」


「ひぃっ!?

め、冥琳?、ちょっと落ち着きましょう?

私も悪かったですから…」


「私“も”ではない

お前“が”悪かったんだ

大人しく説教されろ」


「ひ、飛影様っ!

た、助けて下さいーっ!」


「鬼に助けを乞う…

どう思いますか、興覇?」


「馬鹿です」


「酷いですよ思春っ!?」


「喧しい、さっさと来い」


「い、嫌ああぁ──」



私の記憶は其処で途切れ、後の事は覚えていない。

覚えていないんです!。



そんな苦痛に三日も耐え、漸く襄陽に到着。



「まあ、三日間頑張ったし反省もしただろうからな

好きなだけ食べると良い」



茶屋に入り、開口一番。

飛影様からの御言葉。



「私、一生飛影様に尽くしますからっ!」


「……お前は忠誠を誓ったのではなかったのか?」



蟀谷に青筋を浮かべている冥琳も今は眼中に無い。

私は採譜を開き、何にするのか考えなければ。



「まあまあ…

ほら、冥琳も落ち着いて」


「…すまない、紫苑

飛影様、私から謝罪を…」


「ああ、構うな構うな

これ位で苛立ってたら先が持たないぞ?

公瑾も力を抜いてみろ

取り敢えず、何か甘い物を食べて…な?」


「…はぁ…そうですね

一人怒っても馬鹿みたいなだけですので…」


「そうですよ♪」


「お前が言うな

全く、都合の良い耳だな」



そう愚痴る冥琳。

でも、表情は柔らかい。


飛影様…

私は、今の雰囲気が大好きです。


貴男と在る、この温かくて優しい場所が。


だから、私は守ります。

我が全てを賭して。



──side out



後で判った事だが…

仲達が取った部屋の寝台は“七人”分だった。

俺に、興覇・漢升・儁乂・公瑾・義封・仲達・公明で計“八人”だ。

俺が“もう一人分は?”と訊くと仲達は顔を赤くして“お好きな方と…”などと言う始末だった。

結局は、一人部屋を取って決着したが。


皆と別れ、襄陽の街に一人散歩に出た。


元々、仲間意識や組織等に縁の無い生活だった事も、多少は有るだろう。


一緒に居る事は悪くないが自分が“常在戦場”の心を忘れそうになる。

それが酷く──怖い。



(…怖い、か…)



そう思う事は珍しくない。


だが、感情の方向が自分の“変化”に対してなのは、如何な物だろう。



(偉そうに言った割には、自分自身が変化を怖がって足踏みしてる訳だしな…

実に滑稽な話だよ…)



もう自嘲するしかない。


既に七人から忠誠を誓われ“志”を受け取った身。


自分だけでなく、彼女達の将来を考えて然るべき立場になった。



(…まあ、だからと言って下手に仕官したりする事は絶対無いけどな…)



今はまだ、旅を続ける。


恐らく、だが…

洛陽に着く頃には“答え”が見えると思っている。


単なる勘でしかないが…

今までの自分が培ってきた物でも有る。



(異世界、召喚、擬似史、閉鎖世界、遺産、澱…

全てに“意味”が有るから俺が“現在(ここ)”に居る可能性が高い…)



どんなに偶然に思える事も必ず“原因”が有る。

流れが、経緯が、要因が。


完全な偶然など無い。

全て、必然により起こった事象・事実だ。



(今になって“向こう”に戻る気は無いが…

真実を知る必要は有る

知らなければならない…)



それは俺の自己満足だけの話ではない。

この世界に在る理由。

それは必ず“世界”を左右する“何か”だろう。

そして、自分が関わる事を望まれている。

そう感じるからだ。



(何より、はっきりさせて置かないと、他の事に集中出来無いからな…)



“此処”で生きて行く為にけじめは着ける。


それがどんな事であろうと退く事は出来無い。


自分が自分で在る為にも。



(…なんだ

覚悟してるじゃないか…)



ふと、気付いて苦笑。


既に自分も変わっている。

ならば、進もう。


──未来へと。




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