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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
27/907

23 裏も表も…


日が経つのは早い。

あれから三日。


興覇と徐晃は勿論として、司馬懿を含め関係は良好。

徐晃も正面から打ち合って色々と感じた様子。

儁乂とも、きちんと謝罪をして遺恨は無い。


…義封?

まだ御預け中だ。


なので、今一番、襄陽へと向かう意欲が高い。

食欲って凄いよね。




そんなこんなで──


━━襄陽


交通・交易の要所。

漢水を挟んで北には樊城を見る事が出来る。


要所故に、一度戦乱の世に成れば被害は大きい。

常に奪い奪われる可能性に晒され続ける。


“歴史”の上でも、何度も領主や所属が変わった地の一つだろう。



(それでも尚、衰退せずに栄えたのは“人”の執念に因るんだろうな…)



雑草魂ではないが…

踏まれても、踏まれても…

どれだけ戦火に呑まれ様と棄てず、挫けず、諦めずに在り続けたが故の必然。



(“礎”の鑑だな…

尤も“現在”はまだ要所の一つに過ぎないけど…)



肯定と否定を一人でしては苦笑を浮かべる。

ある意味、いつも通り。



「どうなさいますか?」



そう訊いてきたのは公瑾。


周りには他に興覇達四人。

司馬懿と徐晃は居ない。


それも当然、二人とは街に入った時点で別れた。

元々、襄陽までの話。

伸ばす理由は無い。

…断る理由も無いが。


現在は茶屋にて休憩を装い方針の相談中。


常に氣の位置を感知。

勿論、司馬懿達の。



「一泊位しても良いけど…

時間を置くとなぁー…」



公瑾と──隣の席に甘味や菓子を並べて至福の表情を浮かべる義封を見る。

お前は中毒者か。



「仕方有りませんよ

女性にとって甘味や菓子は“魅惑的”ですので」



そう笑顔で言う漢升。

“女の子”でなく“女性”なのが巧みな点だ。

あと、思考を読むな。



「飛影様の事ですから♪」


「…さいですか」



右手を赤くした頬に当てて小首を傾げる漢升。

…可愛いじゃないですか。

流れに乗ったら危険だが。



「必要な物品だけ買って、さっさと発つのが吉か…

二人には公瑾達の時の経緯なんかは話してないしな」


「………あの、飛影様…」



非常に言い難そうな公瑾。

序でに、興覇・儁乂は顔を逸らし漢升は苦笑。



「…はぁー…」



大きく溜め息を吐く。

どうやら暴露してる様だ。

というか、惚気たか。



「愛、故に」


「誤魔化されるか」



キリッ…と顔を作って言う儁乂にデコピンをした。




 司馬懿side──


私は司馬家の次子として、生を受けた。

父は京兆尹の司馬防。

名士の血筋、子供だ。


しかし、母は妾。

私は庶子だった。


私が三歳の時、流行り病に掛かり母は他界。

その後、叔母──父の妹の司馬徽に引き取られた。

幼かった私にとって母との思い出は多くはない。

ただ…家の中では、あまり良い目で見られていないと子供ながらに感じていた。


叔母に引き取られた私は、徐庶と名を改めた。

姓は母と同じなので異議は無かったが、母がくれた名を変える事には抵抗が無い訳ではなかった。

しかし、拒否出来無い事は理解していた。


叔母──お義母さんが書家だった事も有り、私は幼少から書物・書簡に囲まれて育った。

私にとって書物の中こそが“世界”だった。


軈て、お義母さんが私塾を開く事になった。

学ぶのが女性だけだった為“女学院”と呼ばれた。

学んでいた人は皆、私より歳上という事も有り時間が開けば相手をしてくれた。

人と触れ合う、会話をするという事は新鮮で…

私の“世界”を変えた。


暫くすると私塾の中で私は“深謀遠慮の才”と称され持て囃された。

けれど、一部の女性達から向けられる視線。

嫉妬と嫌悪の眼差し。

幼い日の記憶を甦らせる、“それ”が嫌だった。


何時しか、私は目立つ事を嫌い、平静を望む様に。


そんな日々の中──

一年前の事だ。


長子の異母兄が亡くなり、家督を継ぐ為に司馬家へと呼び戻された。

姓も名も戻し、字も新たに与えられた。


何故、自分なのか。


それを父に訊ねた時だ。

異母兄は正妻の唯一の子、そして異母弟が六人も居る事を知った。


複雑では有ったが、母から貰った本来の名に戻る事は嬉しかった。

新しい字はお義母さんから貰った。


半年後、母方の従妹である徐晃と出会う事に。

異母弟達とは表立った争いこそ無いが、険悪な関係の徐晃を心配した。


そして、一ヶ月前の事。

お義母さんが死去。

その報せを聞き身の回りを片付ける為に向かった。


その帰り道、私達の運命を変える出逢いが有る事など知らなかった。






「泉里、私、彼女達と共に行きたいの…

行っても、良い?」



目の前で申し訳なさそうに訪ねる灯璃。

しかし、瞳には決意。

答えは出ている。



「私の答えは一つ…

一人では、行かせません」


「え?…それって…」



呆然とする灯璃に微笑む。

後は“成功”させるだけ。



──side out



司馬懿達の接触を避けると決めて方針を考える。

此方の情報が漏れた事にも配慮が必要だ。



(さて、どうするか…)



注文した胡麻団子を口へと入れた──時だった。



「あっ!、居たーっ!」



店内に響く元気な声。

聞く限りでは女の子か。


其方らへ視線を動かすと、女の子と目が合う。


視線を戻す。

対面には公瑾と興覇。

自分の隣は儁乂。

隣の卓は漢升と義封。

後は──“壁”。


ツゥー…と冷や汗が背筋を伝っていく。



「飛影“お姉ちゃん”?」



自分の隣まで来た女の子が上目遣いで訊いてくる。


“違う!”と否定したいが純粋な眼差しに白旗を掲げ胸中で溜め息を吐く。



「もしかして、司馬懿さんから頼まれたのかな?」


「うん!

宅の宿屋に居るから呼んで来て欲しいって♪」



良い笑顔だ。

この娘に罪は無い。



「そう…それじゃあ宿まで案内してくれる?」


「うん!」



そう答える女の子の頭に、右手を置き撫でる。

同時に皆へ目配せ。

四人は苦笑、一人は号泣。


泣く程の事か。

持ち帰れば良いだろうが。

菓子くらい。



女の子を先頭に店を出て、宿へ向かって歩く。

“忠犬トリオ”を女の子の後ろに続かせ自分達は更に後ろに位置取る。



「やられましたね…」


「全くだ…」



溜め息混じりに呟く漢升と公瑾だが、自分の事を棚に上げるなと言いたい。



「まあ、事前情報から推測すれば好手だな

俺が彼女の立場でも同系の仕掛けをしただろう」


「…子供を利用したと?」


「俺達から見たら悪質だと思えるが、あの娘は純粋に家の手伝い感覚…

司馬懿の頼みも“伝言”と認識されるだけだ

非と呼べる事じゃない」


「確かにそうですが…

あの娘の気持ちを利用している事も事実では?」


「否定はしない

だが、この一件で“悪人”になるのは…誰だ?」


「それは…」


「…私達、ですか」



考え込む漢升の隣で公瑾が確信した様に答える。



「断れば、大人気無い…

無視する訳にもいかず…

人違いと言えば、あの娘は他の“俺達”を探し回る

問い詰めるとか、虚言だと言うのは論外だ

後手に回った時点で詰み

彼女の優勢だ」


「…優勢、ですか」



フッ…と公瑾が笑う。



「そう、まだ優勢だ

“本番”は…此処からだ」



彼女も思っている筈。

この程度で終わらないと。




 司馬懿side──


灯璃の決意を聞くより前。

宿屋を取る際“七人”分の部屋を取った。

そして、宿屋に十歳以下の子供が居る事も確認して、此処に決めた。


彼女達から聞いた経緯。

其処から私は彼女の性格を考察、最も有効な“策”を導き出し、実行した。



「中々の好手でしたよ」


「ありがとうございます」



目の前で微笑む彼女に私は一礼して返す。

“策”は成功し、彼女達を“交渉”の席に着ける事が出来た。



「既に、知ってる事だとは思いますが…

これで三度目ですからね

率直に訊きます

貴女達は…何故、私に?」



スッ…と雰囲気が変わる。

笑顔なのに、抜き身の刃を突き付けられている様だ。



「私は自分の才が嫌いです

それは単純に優劣に限らず“普通”とは違うから…

違う事で、勝手に比較され嫉妬や怨恨を抱かれる…

そんな事に嫌気がさして、“普通”で在る事を心掛け生きてきました

ですが、貴女に出逢い私は知りました

“違い”は可能性だと

私は貴女の下で、傍で己の可能性を試したい

他の誰でもない…

貴女に仕えたいのです」



真っ直ぐに彼女を見詰め、私の想いを、決意を示す。



「貴女は?」


「私は、泉里みたいに頭は良くないから、難しい事は解らない…

だから、答えは単純…

私が貴女に惹かれたから!

それだけです!」



思わず、我が目と耳を疑いたくなってしまう。

もう少し言葉を選んでから言いなさいと言いたい。


彼女も呆れて居る──かと思えば笑っていた。



「くっ…くくっ…

いや、何とも勢いに溢れた“告白”だな

勘違いしてる様だが…

俺は、男だからな?」


『………え?』



今度は私達が驚く。

その目の前で、傍に控える黄忠と周瑜が“彼”の腕に抱かれると身を委ねる。



「“こういう事”も覚悟の上と思っていいんだな?」



ニヤリと嗤う彼。

正直、今までの印象が全て崩れていく。



「も、勿論よっ!

し、しろって言われれば、何でもするわよっ!」



売り言葉に、買い言葉。

灯璃は即座に答えた。

自分の浅慮が切っ掛けで、揉めた事を忘れたのか。



「成る程な

連れは“こう”言ってるがどうする?」



彼の目を見る。

其処で感じ取る。

これは“試し”だと。



「私と…勝負して下さい」



そう、彼に返した。



──side out



やはり、乗ってきたか。

それが率直な感想。



「…勝負、か

何で勝負する?

武か?、知か?…それとも“閨”の中か?」



敢えて、司馬懿の胸元へと視線を向ける。

自覚は有るのか両腕を前に出して隠す。



「何か提案は有りますか?

私は遊戯等には疎いので」



冷静を装って返してくるが紅潮した頬や耳は隠す事は出来無い。



「遊戯か、そうだな…」



暫し、考える振り。

実際には決めている。


財布から一両銭を取り出し彼女に見せる。



「“これ”はどうだ?」


「…裏表、ですか?」


「遣り方は単純だ

弾く、或いは投げるのは、お前がする

俺はそれを両手で掴む

そして、左右何方らの手に入っているのか…

それをお前が当てる

勝負は一回きり

敗者は勝者に従う…

判り易いだろ?」


「…判りました

それで、お願いします」



決心した彼女の手に一両銭を渡すと、念入りに確かめ小さく頷く。

残念だが“種”は其処には無い。



「…すぅ……行きます!」



大きく息を吸って気合いと共に彼女は一両銭を放る。


天井付近まで上がり…

折り返して落下。


一瞬の筈が、長く感じる事だろう。


彼女の視線よりも僅かに、高い位置で握り込む。

左手を上、右手を下にして右手の中に。

彼女に見える様に。



「…さあ、何方だ?」



ボクシングの構えの様に、両の拳を彼女に見せる。


──逡巡。


それは必然。

自分達の未来が懸かった為──ではない。

あまりにも自然だった故に感じる不自然さ。

虚実の判断の為。



「…………………右です」


「…良いんだな?」



彼女はしっかりと頷く。

それを確認し右手を開く。



「……ぁ…」



司馬懿が漏らす幽かな声。

右手は空っぽだった。


左手を彼女の両手の真上き差し出す。

受け手を作ったのを確認し左手を開くと…

一両銭が現れる。



「世の中、目に見える事が全てではない

よく、覚えて置け」



そう言って司馬懿の右手で頭を撫でてやる。


直ぐに我に返り悟ると礼を取って頭を下げる。

徐晃も司馬懿に倣う。



「姓名は司馬懿、字は仲達

真名は泉里…」


「姓名は徐晃、字は公明

真名は灯璃…」


『我が生涯を捧げ、貴男にお仕え致します!』



こうして新たな仲間が増え賑やかになる。


本当に退屈しない旅だ。





姓名字:司馬 懿 仲達

真名:泉里(せんり)

年齢:19歳(登場時)

身長:161cm

愛馬:景雅(けいが)

   青薄墨毛/牝/五歳

髪:赤紫、腰までの長さ

  ツインテール

眼:藍色

性格:

物静かで目立つ事を嫌う。

芯は強く、意外に頑固。

毒舌ではないが、無遠慮にきっぱり物を言う。


備考:

旧姓名字は徐 庶 元直。

父・司馬防は京兆尹。

異母兄弟が七人居る。

また徐晃は母方の従妹。

母は三歳の時に病死。

庶子だった為、母の死後は叔母の司馬徽(水鏡)の元に預けられ育つ。

同門に諸葛亮・鳳統。

一年前、異母兄が亡くなり家督を継ぐ為、司馬家へと呼び戻され改名した。

知謀に長け、兄弟の中でも姉妹弟子の中でも群を抜く才覚を持つが、それを恃頼する事を嫌う為、周囲には認知されていない。

身体能力は低くないが突出してもいない。

体術も護身術程度。

家事は得意で、料理の腕は特に素晴らしい。


◆参考容姿

原村和【咲-Saki-】




姓名字:徐 晃 公明

真名:灯璃(あかり)

年齢:18歳(登場時)

身長:166cm

愛馬:壬芥(みけ)

   駁青鹿毛/牝/五歳

髪:薄橙色、腰元に届く位

  三つ編み&ポニー

眼:緑色

性格:

明るく前向きで努力家。

大雑把だが図太くはない。

少し浅慮…というか短絡的なのが玉に瑕。


備考:

司馬懿の従妹。

極普通の庶民の出身。

父が二年前に盗賊に殺され賊の類いを忌み憎む。

半年前、母が亡くなり従姉である司馬懿を頼って身を寄せた。

彼女の異母弟達とは喧嘩や口論こそないが険悪。

大剣を軽々と振り回すが、荒削りは否めない。

指揮経験は無く、根性論な思考は改善の余地有り。

天性の嗅覚と直感には目を見張る物が有る。

家事技能は平均的。


◆参考容姿

神楽坂明日菜【ネギま】




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