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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
22/913

18 万象在然


江陵を発って一夜が明け、身体の方も粗回復。

多少、氣の流れが鈍いが、それは仕方無い。

謂わば筋肉痛の様な物だ。


人が増えた為、馬車を引く栗花達に負担が掛かる──事はなかった。

公瑾の愛馬であり、二人と共に旅をしていた栃栗毛の牝馬・茶紋(さもん)が増え寧ろ楽になった様子。

今の面子では栗花が最古参だが一番年下。

二頭に甘える姿を見ると、ほのぼのする。


しかし、人側はほのぼのとさせてはくれない。



「…これが、氣…」


「…光とは違いますね」


「実際に見ると…こう何と言うか…不思議です…」



五人の目の前で掌に氣塊を作って見せる。

氣について彼是と聞かれたから予想してはいたが…

俺は病み上がりだぞ。

少しは敬え。

一応は、主なんだから。



「氣の特性は説明した通り出来る事は多々あるが…

全ては資質に因る

資質が無ければ不可能

そして資質だけは努力でもどうしようもない」



これは、武術や知識の様に“努力で!”とはいかず、天賦が全てだ。

向き不向き・得手不得手の問題ですらない。

非情なまでの完全な有無。



「私達でも使う事が?」


「ああ、俺の見立てでは、全員資質は有る

勿論、適性は異なるが」



公瑾の問いに答える。

義封は非接触だが、四人は確実に使える。

義封も多分大丈夫だろう。



「その適性ですが…」


「それは追々だ

先ずは基本・基礎から

これは誰しも共通だ

ただ、同時に蔑ろにしたら後で自分が痛い目に遭うと肝に命じて置け」



“脅し”ではなく事実。

それを理解して全員が息を飲み、真剣な表情で頷く。



「さて、それじゃあ手順を説明する

──とは言っても粗受け身での事だからな

心構えみたいな物だ」



そう言って苦笑を浮かべ、肩を竦める。

五人の表情から緊張が解れ肩の力が抜ける。



「“未知”に対し緊張する気持ちは判るが、自然体で居る方が氣は理解し易い

その理由…判るか?」



五人は互いに顔を見合わせ考える。



「………在るが侭…

…だから、でしょうか?」



そう答えたのは興覇。

ある意味、必然か。

或いは一番長く一緒に居た影響か。



「そうだ

氣は全ての生命の根幹…

故に自然な状態の方が氣を感じ易い

逆に変に緊張したり、力み過ぎると感じ難くなる

それは鍛練の上でも同じだ

万象在りて然り、在るが侭故に理を真に知る…

覚えて置くと良い」




かつて自身が華佗から氣を教授した時同様、氣を流し引き上げる事で眠っている氣を呼び起こす。


全員の覚醒を促し終えて、一息吐く。

今は各々、自分の氣を引き出す感覚を覚え様と静かに集中している。

端から見ると集団瞑想。

何処ぞの宗教団体だ。


誰も見ていないから良いがつい苦笑してしまう。



「当面は丹田で氣を練り、慣れる事だ

その後、氣を全身へ巡らす事をしていく訳だが…

一つ、言って置く」



そう言うと全員が目を開け此方に注目。



「氣が通る道、血管の様な物だが“勁道”と言う

“勁道”は最初から開いている事はなく少しずつ拡げ慣らしていく必要が有る

ただ、公瑾だけは例外的な状態に在る」


「…私だけ?」


「……もしかして、それは治療と関係が?」



首を傾げている公瑾の隣で漢升が何か思い付いた様で訊いてきた。

それに笑みを浮かべ首肯。



「氣を用いた治療法には、大きく二通り有る

一つは外部からの氣を用い治療する方法

もう一つは患者自身の氣を使って治療する方法だ

前者は華佗の流派が用いる根幹を成す技法だ

施術者自身の氣を用いる為扱い易くはある

但し、本来は異なる存在の氣は猛毒と同じ…

当然、相応の危険を伴う

逆に後者は患者への負担は限り無く低い

しかし、その反面、患者が氣を扱えない場合には量が足りない

大抵の患者が問題点として抱える事になるな

加えて自分の氣ではない為操作・制御が困難だ

結局、何方らも良し悪しが有る訳だけどな」



一端区切り、一息吐く。



「それでだ

公瑾の治療をした際に外部からの活性化だけでは限界だった為、一部だけ勁道を開拓し公瑾の自己治癒力を活性化させた

だから公瑾の勁道には俺が開拓した部分が有る

尤も、公瑾の丹田から氣を引き出した訳ではないし、直接繋がっている部分ではないから今は使えない」



地面に簡単に図を書いて、解り易く説明を加える。



「丹田を湖に、勁道を川に例えると解り易い

普通は湖から水が流れ出し川になる…

これが正常な勁道の開拓と思っていい

公瑾の場合、先に川だけが存在していて、水が流れていないって事

其処まで繋げれば、皆より少しだけ早く勁道の循環が出来る様になるよ」



公瑾が納得したので終了。

練氣を再開させる。


その後“それなら意図的に開拓が出来るのでは?”と訊かれた。

“死ぬ程の激痛を伴う”と言ったら引かれた。

事実だから仕方無いだろ。




江陵を発って四日。

旅は特に大きな問題も無く順調に進んでいる。

尤も順調“過ぎる”事なら有るのだけれど。


俺が言うのも何だが…

彼女達は“チート”だ。



(俺の場合は氣が畑違いなだけで技術等は流用してる部分が多いけど…

僅か三日で循環が可能って

華佗が聞いたら泣くぞ?)



そう、彼女達は拙いながら既に勁道が確立している。

勿論、運用するには総量や生成速度が未熟だが。

ただ、それを差し引いても驚異的な上達だ。



(華佗は練氣で一ヶ月…

勁道の開拓に半年を要したと言ったからなあ…

これはあれか?

彼女達が“偉人”としての資質を持つからか?)



自分で考えて置きながら、“馬鹿な事を…”と思う。


自分の知識上の“歴史”と彼女達は無関係だと自分が一番理解しているのに。


ただ、そんな風に考えでもしないと遣ってられない。



(彼女達の努力を否定するつもりは無いけど…

遣る瀬ないよなぁ…)



思えば、自分が当時必死になって修得した技術。

それをあっさり会得された日には落ち込む。


俺も華佗から技術を盗んだ手前偉そうには言えないが当人の前ではしなかった。

其処は気を遣うよ普通。



(そりゃあ…今の状況から考えると違うけどさ…

愚痴りたくもなるのよね)



飛雲を頭に乗せて川に入り栗花達を洗ってやりながら一人胸中で思う。


…口には出せないでしょ。

男女比五倍だし。


因みに、五人は瞑想姿勢で練氣の修練の真っ最中。

ちゃんと気配は逐一感知し危険が無い様にしている。


まあ、現状を言うと…

興覇は丹田での練氣が苦手なのか量が少ない。

ただ、勁道の流れは静か。

安定している。


漢升は量はそれなりだが、勁道の流れ方が速い。

御しきれていない証拠だ。


儁乂は何方らも中々。

ただ、時々集中が乱れる為氣も乱れてしまう。

先ず、精神修養か。


公瑾は俺が開拓した部分に違和感が有るらしく慣れるのに時間が掛かるか。

それ以外は順調だ。


最後に義封だが…うん。

非常に危なっかしい。

循環した直後に練り過ぎて暴発し掛けた。

資質が高い証拠だけど。

今は“楔”を打ち込んで、量を抑えている状態。



(逸そ、バグキャラにまで育てて見るか?)



なんて、下らない事を考え苦笑する。



(…っと、本当に居たよ)



見付けた“それ”に苦笑し川から上がった。




八つ当た…暇つ…ええい、憂さ晴らしの為に探索した結果“獲物”を見付けた。


五人に声を掛け修練を中断させる。



「賊、ですか?」


「多分な

隠れ里や官軍の可能性も、無い訳じゃない

ただ、この辺りは不便だ

そんな所の山中に屯してる時点で怪しいだろ?」


「確かに…」



俺の推測に公瑾が頷く。



「どうしますか?」


「俺と興覇・儁乂で先行し様子を見る

賊ならそのまま…な

漢升・公瑾・義封は馬車で道沿いに移動だ」


「飛影様、私も!」


「駄目だ

万が一を考えると最低でも三人は残る方が良い

それに山中での移動なら、慣れている方が身軽で速いからな」



そう言い興覇と儁乂を見て二人の首肯を確認。

義封も渋々だが納得。



「向き不向きは有るさ」



義封の頭を撫でてやる。

機嫌が直ったので良し。



「俺の氣で一時的に身体を強化して走る

まあ、制御不能な状態にはしないから安心しろ」



興覇達が頷くと氣を流し、五割程強化。

それでも俺に比べたら劣るのは仕方無い。



「行ってくる」


「お気を付けて」



公瑾の言葉を受け、山中へ飛び込む様に地を蹴る。

興覇達も後に続く。


正直、一人の方が速い。

だが、今回は“澱”の気配はしない。


なので、気分転換を兼ねて二人を連れて行く事に。



「飛影様、このまま行けば何れ位で接敵を?」


「四半刻──の半分位か

距離にすると…約三十里といった所だな」



今が大体、時速50km。

それで約15分。

目標は凡そ13km先だ。



「数は判りますか?」


「約三百って所だ」


「…数から見ても小規模な山賊が濃厚か…」


「だな」



興覇の口調が無意識にだが元に戻っている。

やはり、戦闘時は昔からの姿勢になるのだろう。


ふと、興覇の口元に笑みを見付けた。



「嬉しそうだな?」


「…不謹慎ですが…

飛影様の実戦を見られると思うとつい…

これまでは中々見る機会が無かったので…」



言われて見れば確かに。

単独で動いてたからな。



「普段の手合いと違って、端から見られるしな

俺もお前達を見られるのを楽しみにしてるよ

でも、慢心はするな」


「勿論です」


「油断はしません」



二人の返事に笑顔で頷く。


気持ち、二人の走る速度が上がる。


この一戦は“収穫”が期待出来そうだ。




 other side──


何故、こうなったのか。


単に運が無かった。

そう言う他無い。



「…晃、大丈夫?…」



周囲に気取られない様に、限り無く小さな声で言う。


すると、僅かに顔を動かし不適な笑みを浮かべ頷く。

その瞳には強い光。



(この娘は強がって…)



しかし、肉体的には厳しい事に変わりはない。

手足を縛られ、口には布を噛まされた状態で目の前の地面に横たわる彼女。

捕まった際、暴れて抵抗し酷く撲られた。

彼方此方に青痣が出来て、顔も少し腫れている。


殺されなかっただけ増しと考えるべきか…

或いは死んだ方が増しか。



(…何方らにしても私達に碌な未来は無いですね…)



憖、物解りが良いと損だと私は思ってしまう。


しかし、それを羨む人達も居れば、誇る人達も居る。

正直な話、私には縁の無い事だと思っている。

興味も無い。


それに、どうせ無意味。

だが、せめて彼女だけは…



「──ったく、散々派手にやってくれやがって…」



声と共に現れた男達。

もう時間か。



「手前ぇの分まで、此方を可愛がってやるからよ

其処でゆっくり見てな」


「きししししっ!」


「んーっ!、んぅーっ!!

ぅんーっ!?、んんーっ!!」



男達の下卑た声は耳障りなだけだが、必死に叫ぶ声に成らない彼女の呻きが耳に響く。


男達の手が私に伸びる。


冷めていた思考。

決めていた覚悟。

諦めていた未来。


それなのに、沸く嫌悪。

全てが揺らぐ。



「……ぃ………ぃゃ……」



今更になって感じる屈辱。

身体を蝕む恐怖。


震えが止まらない。

声が出ない。



「んなに、怖がんな

直ぐ気持ち良くなるって

それに“安心”しな…

彼奴も一緒なんだからよぉ

くくっ…くくくっ…」



そう言いながら覆い被さる様に男が近付く。


男の姿を見る事にさえ怯え私は固く目を瞑る。


視界が閉ざされ暗闇の中に音だけが響く。

自業自得とは言え、余計に自分を追い詰める。


悲哀、憤怒、嫌悪、怨恨、恐怖、拒絶、後悔、絶望。


それらが身体の奥で混じり“叫び”となり駆け上がり出口へと向かう。



「──はい、其処まで♪」



唐突に響く場違いな明るい声に出掛かった叫びは喉の奥で止まった。



──side out



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