表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
200/915

        拾


朝の鍛練を終え、いつもは朝食を摂る時間。

しかし、台所──キッチンダイニングに人影は無し。

何故、誰も居ないのか。

では、何処に居るのか。



「悪いな二人共」


「いえ、こんな事でしたらいつでも御任せ下さい!」


「そうです、私は一人でも大丈夫ですから!」



そう言って俺の両側に位置取っている少女が二人。

バチバチッ!、と交差する視線が火花を散らしている公悟と公佐だ。

ライバル意識は相変わらず白熱中らしい。



「そう言ってくれる事には助かるんだが…

あんまり大きな声で言うと後で説教されるぞ?」


『──え?』



苦笑しながら顎を動かし、“彼方を見てみろ”と促し二人が振り向く。



『──っ!!!!』



──と、一瞬で硬直。

その理由は単純。

華琳を始めとする現在寝台にてグロッキー中の面々の視線だったりする。


あの後、鍛練を開始して、最終的に全員がダウン。

想像以上に疲弊した結果、こういう時の事を想定して作って置いた大部屋に皆を一纏めにして運んだ。

氣を使い過ぎただけだから分け与えて回復させる事は簡単だが、自己の回復力が伸びないので基本はせず、放置する事にしている。

外傷等は手当てするが。


で、結局の所は二十一人中八名が気絶した。

残りは意識は有るが正面に喋る余力も無い状態。

華琳は流石と言えるな。

意地で堪えてる。



「“こんな事”が多々有るなんて屈辱だもんな?」



硬直した二人の頭に各々に手を置き撫でながら言う。

“石化”を解く為なんだが親の仇でも見る様な視線を向けてやるな。

大人気無い。

…あ、ほら見ろ、無駄な事してるから数人落ちた。

なけなしの余力を下らない事に使うからだ。



「まあ、昼食頃まで休めば日常生活に支障無い程には回復するだろうからな

それまで頼むな、二人共」


『はいっ!』



復活した二人は声を揃えて元気に答える。

念の為の付き添い。

まあ、粗寝ているだけだし遣る事は給水の補助程度。

一応、トイレの場合も考え二人に任せた訳だが、多分必要は無いと思う。



「皆、“良い子”にな

駄々を捏ねて二人を困らす様な事はするなよ?」



そう笑顔で言うと、華琳を含む生存者達が声を出せず抗議出来無い事も有って、視線で射殺す様に睨む。

“後で覚えていなさい”や“この屈辱…忘れません”“早く行って下さい!”と意志が籠っている。

流す様にあしらい、部屋を後にする。

十分、元気そうだ。




皆の事を公悟達に任せると先程まで皆が使用していた地下鍛練場に戻る。



「しかしまあ…随分派手に遣ってくれたもんだ…」



見回して見れば原型からは掛け離れた有り様。

深さ5mは有る筈の地面は見事な迄に凸凹に。

本来の地表となる位置から一番高い場所でも1m近く下がっている。



「──って、底の礎甃まで見えてるのか…」



礎甃(そしゅう)は鍛練場の謂わば要となる部分。

私邸・城内の地下鍛練場は巨大な球形の器の中に有り外に影響を及ぼさない様に造ってある。

その器となるのが礎甃。

また同様に外からの影響も受けない為、緊急時の際はシェルター代わりにも使う事が可能だ。

物理的耐久度は桁違い。

加えて、氣または氣を源に発現する力を拡散・吸収し無力化出来る仕組み。

氣を使う者専用の鍛練場と言っても良い。



「…これは設定値を上げた方が良さそうだな…」



溜め息を吐きながら呟く。


鍛練場の内部は基本的には何も無い平地。

ただ、踏み固めた様な土が剥き出しのまま広がる。

しかし、実は内部の構造は変更可能になっている。

中に誰も居ない事が前提でなんて当たり前な訳だが、入場する前に平地・森林・海岸・湖畔・岩山・砂漠・雪原・遺跡・市街の九つの場所と、朝・昼・夕・夜の四つの時間帯、更に晴れ・曇り・雨・豪雨・雪・霧・変化の七つの気候、無風・微風・中風・強風・暴風・変化の六つの風量…

それらを組み合わせる事で様々な条件下の戦闘訓練を可能にしている。

それらは氣を源とする為に通常だと礎甃の効果により消されてしまう。

だから、直接接触する事が無い様に特殊な膜を張って形成している。

花杖の能力の応用みたいな物だけどな。

その膜にも耐久度が有り、それの設定値を上げる事が必要だという訳。

今はまだ心配無い事だが、皆が成長したら一点集中の攻撃で壊されそうだ。

一応、安全装置として膜が一部でも消失した場合には機能を停止する仕組みだが絶対に安全とは言えない。

緻密に管理・機能させて、初めて安全を唱える。

そう俺は考えている。



「…アレは士載か…」



見上げた場所──空を映す天井部分に出来た凹み。

青空が罅割れてるのなんて普通は見れない光景だ。

…破れたスクリーンに空が投影されてる感じが近いのかもしれないな。

まあ、どうでもいいか。




不慣れ、とは言ってみても皆の順応力の高さには俺も相変わらず驚かされる。

流石に“真名”を知るには至らなかったが。



「一通りは大丈夫だな」



思い返してみても普段通り動けていたし、全く新しい戦い方を覚えている面子も問題は無かった。

怖い位に順調だ。



「…まあ、まだ最初だから加減が難しいのは仕方無い事だけどな…」



普段──今までの鍛練でも打ち身や青痣は当たり前、運が悪いと骨折も有る。

擦り傷・切り傷もだ。

勿論、傷痕が残る様な事は絶対に無い。

俺が責任を持って治療しているからな。

普段、仲間内の、鍛練でも互いに“殺す気”で闘い、切磋琢磨している。


身内だから、と言って刃を鈍らせるのは論外。

それは甘さでも優しさでも弱さですらない。

自分が可愛いだけの逃げ。

自分が傷付く事を何よりも嫌っただけだ。

故に曹家に属す全ての者は刃を持つ覚悟を一番最初に教え込まれる。

戦いに於いて如何なる時も刃を鈍らさぬ様に。

鈍らさせた場合の具体的な可能性の話を交え、誰もが理解出来る様に教える。


主君も、将師も、家臣も、全員が同じ覚悟で臨む。

それが曹家の戦だ。



「…偶に他愛ない喧嘩から発展してる事も有るが…

それは御愛嬌か…」



口喧嘩や御菓子の取り合いなんかが主な原因。

確かに若い面子だろうが、それはそれでどうなんだと言いたくなる。

言ったら巻き込まれるから放って置くけどな。



「…来る“災厄”か」



来なくて良い、と言っても無駄なんだろうな。

次代や後世に、不安要素を残す必要は無いし俺の代で片付けられる事は一通りは片付けるつもりだから別に構わないんだが。

面倒臭い事は変わらない。



「出来れば“天の御遣い”には頑張って貰いたいのが本音なんだが…」



過度な期待はしない。

ただ、俺達にとって都合が良い結果を招く“呼び水”にはなって欲しい所だ。



「…破滅、か…」



スッ…と前に翳す左手。

氣を集め、意識を集中させ炎を生み出す。

しかし、それは普段用いる氣炎とは全てを異にする。

深く、暗い──漆黒。

炎としての性質を感じない形容としての例え。

深淵なる真闇。

それは全てを悉く無と化す純然たる破滅。

絶望より生まれた消滅。

しかし、愛により託された開闢と希望の灯火。

宿業や運命すらも喰らいて往く道を照らし出す。

父母の想いの結晶。

“黒焔”が其処に在った。




ユラユラと揺れる姿からは嘗ての恐怖は感じない。


力は所詮は力。

道具と同じ。

全ては扱う者次第で善くも悪くもなる。

人間を、龍族を、世界を、全てを憎み、嫌った黒龍と自分とでは違って当然。

しかし、だからと言っても力の本質は変わらない。



「これを使えば相手が何で有ったとしても問答無用に消滅させられるだろうな」



はっきり言ってチート。

チート・オブ・チート。

バグとか最強モードとかのレベルじゃない。

七段階変身するラスボスが1ターンキル。

倒されて変身!──の筈が変身出来ずに消滅。

パワーバランス無視なのも大概にしろ、と非難囂囂。

そういう話。



「切り札としては有りとは思うんだけど…なぁ…」



遣り過ぎ感が凄まじい。

いや、それはまあ?

愛の為に“世界”に対して喧嘩売った両親の力だし、俺と華琳も似た様な感じの意志を持ってるから強くは否定出来無いですよ?

“世界”を相手に戦うって言い換えたら“世界”から“全権の奪取”って事でも有るからね。

否定する“世界”を倒して自分達が肯定する訳だから誇張じゃないんだよ。


尤も、もし仮に、現時点で使おうものなら暴走して、“世界”を丸ごと消滅させ兼ねない。

だって、まだ未制御だし。

今の掌サイズ程度だったら問題無いけど、“災厄”をどうこうは出来無い。



「左腕が元に戻っただけで上積みは無いからな…

黒焔の完全制御は課題…

俺もまだまだ未熟だ

偉そうには言えないな」



そう言って苦笑。

──と、奇妙な感じ。

謙遜じゃあないが、何故か“それでっ!?”と言われた気がした。

…気のせいだよな。

ああ、華琳達なら言うか。

そう考えたら納得。

げに恐ろしきは女の勘か。



「…さて、さっさと直して烈紅達の所に行くか」



左の掌の黒焔を握り消し、鍛練場の出入口へ向かうと扉を潜り、閉じる。

その脇に有る操作パネルの一番下の青い結晶に右手を重ねて氣を注ぐ。

鍛練場の修復は内部変更と同じ様に氣を用いて行う。

普段は基本的に自動補修で備え付けてある“洸晶”の氣を使って行われる。

勿論、全員退出後に。

この“洸晶”は“洸珠”の貯蓄補充型。

基本的に俺が補充するが、華琳や子揚なら総量も有り可能になっている。

まあ、平地以外を勝手には使わせない為消費量自体は然程多くない。

三〜四日は補充無しで十分使える位だ。

一応、毎日補充するけど。

今回は足りないので直接。

…結構、食うなぁ。




烈紅達に新年の挨拶をして華琳達のダウンを説明。

御年玉代わりの自家栽培の特製人参を贈呈。

大好評でした。

その後は皆を湯で洗って、少し戯れて終了。

流石に華琳達放って置いて遠乗りとか行けないし。


次に昼食作り。

正月だし折角だから雑煮を作りたかったのだが生憎と餅が無い。

いや、正確には“日本人の考える餅”は普及してないと言うべき。

先ず、糯米じゃない。

臼と杵でつく習慣も無い。

有るのは練り餅に分類する菓子風の餅。

一応、“影”の中に糯米の種籾は有る。

他にも野菜やら種や肥料と世界の壁を抜けた物は以外にも多かったりする。

とまあ、そんな訳なので、来年は雑煮を作る。

今年は雑炊で我慢しよう。



「──は?」


「だから、私達の希望者に貴男が食べさせて頂戴

勿論、一人三〜四回程度で構わないわ

一人一人完食させていたら順番を待ってる者が空腹で倒れてしまうもの」



雑炊が出来たから、何処で食べるか様子を見に来たら華琳は開口一番。

“食べさせて頂戴”だ。

一瞬“デレたっ!?”と考え即座に否定した。

だって目が笑ってたし。

そしたら、これだもん。

通りで大人しい筈だ。

全員は無理でも三分の一は十分動けるまで回復してる筈なんだからな。

誰も手伝いに来ないなんて怪しいのに…何で疑わずに近寄ったかなぁ、俺は。



「…その希望者は?」



ズビシッ!、と垂直に手を上げる半数。

後半数は笑顔で示す。



「…要は全員か」



と言うか、“大丈夫か”と訊きたい者が数人。

主に文若・奉孝・孟起に…ああ、伯約は意外と甘えただったな。

こんな事で決死の挑戦とかするなよな。



「で、どうなの?」


「…はぁ…仕方無い

今日だけだからな…」



俺の承諾に歓声が上がり、各々にハイタッチをしたり抱き合ったり…と言うか、全員動けたのか。

…華琳に嵌められたな。



「今更気付いても無効には出来無いわよ?」


「判ってるって…」



そう言うと満足そうに笑う華琳に一計を案じる。



「じゃ、お前達最後以外の順番を決めて置けよ」



“最後以外?”と勢揃いで首を傾げる皆に良い笑みを浮かべて言う。



「最後は華琳だからな」


「──なっ!?」



予想外だったらしく華琳は珍しく慌てる。

一人だけ逃がすか。

一蓮托生だ、悶え死のう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ