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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
196/915

        陸


先ず呼んだのは興覇。

華琳を除けば最古参。

“此方”に来てからならば華琳よりも長い。

そんな興覇に渡すのは──



「──っ、これは子和様の常用されている…」


「そう、曲剣だ

柳葉刀とも言うな」



姿を現したのは“対器”の内の一つ。

既に“澱”は存在しないし“災厄”に備えるのなら、この子達程適任は居ない。

その中でも特別な子。

翼槍と共に“此方”に来た俺を支えてくれた相棒。

それ故に託す者は興覇以外考えられない。

…皆の前で口にする真似はしないけどな。

まあ、興覇が言った様に、俺が常用してるのは周知。

それを与えられる事に何も意味を感じない訳が無い。

突っ突かれて、墓穴を掘る前に話を進める。

曲剣を右手に掴む。



「元々、この子達には氣を糧に発現する能力が有る

この子の場合は“幻霧”」



そう言いながら興覇や皆の視界を邪魔しない様にして霧を発生させる。



「深い霧ですね…」


「この霧は特別でな

普通に晴れる事はない

まあ、特別だとは言っても霧自体に殺傷力は皆無だ

この霧の特徴は幻惑…

姿だけではなく音も気配も匂いさえも覆い隠す

そして──幻を生み出す」



唐突に霧の中から歩き出て来たのは二人の俺。

各々が別々の表情・行動をしている。

それに驚き興覇が目の前の三人の姿を見比べる。

まあ、見極めるのは困難。

氣を使えても真偽を完全に見抜く為には、一定以上の技量や対峙経験が必要。

いや、経験が増えると更に嵌められる可能性も出る。

それ位に厄介な能力。



「気分はどうだ?」


「なっ…」



そう言って霧から俺の隣に現れたのは二人の興覇。

その片方が揶揄う様に笑いながら声を掛けた。

予想外の事に驚きに思わず絶句している。



「生み出す幻は自分の姿に限らない

自分が理解し、想像出来る物なら何でも可能だ

但し、実体は無いからな」



俺の言葉を確認させる様に右手を差し出す幻の興覇。

本物の興覇が握手する様に掴もうとしたが、伸ばした右手は通り抜ける。



「また直ぐには難しいが、相手の思考や心理を投影し幻を生む事も出来る

それと霧が隠す対象の方も自分だけじゃないからな」


「かなりの多様性が有ると言えますね

全ては私次第ですが…」


「そういう事だな」



俺自身は其処まで使用する機会は無かったが多様性は理解している。

とは言え、それをそのまま教えたりはしない。

それは興覇自身が見出し、手にすべき物だからな。





「幻霧は元々の能力…

此処からが改良点、つまり新たに加えた機能になる」



そう言って左手に掴むのは曲剣とは別に置いて有った濃鼠色を基調として朱銀の蔓草紋様が装飾された鞘。



「この子は元々は抜き身で鞘は無かった

俺が使っていた時は適当な鞘を作って納めていたが、この機に新しく誂えた

其処で氣を刃に留めつつ、それを外に漏らさない様に隠蔽効果を付けた」


「…つまり予め氣で強化し初撃に備えられる、と」



興覇の言葉に首肯し曲剣に氣を纏わせて鞘に納める。

すると確かに纏わせた筈の氣の気配が消える。

その事は興覇も皆も感じて感心している。

氣の感知から逃れる方法は限られているからな。



「また纏った氣を五秒毎に倍にしていく為僅かな量で高い効果を得られる

但し、最大で十度まで

込める量によっては効果は生じなくなる

鞘中の最大持続は一時間、勿論任意に解除出来る

あと、鞘に納めた状態でも氣を纏わせ効果を発動する事は可能だからな」



言いながら柄尻の方を上に上げて見せる。



「それと柄尻の輪に下がる装飾紐は伸縮する

最大で10mになる

輪と連結する部分の円環は“纉葉”の留め具と同じで氣を使って取り外しする

反対側に付いている薄紫の晶珠は防具の手甲の手首の内側の晶珠と融合する様になっている

両方の手甲に有る」



説明を終えて曲剣を興覇に差し出すと一瞬の躊躇。

色々と考えたり、思う事も有るだろうしな。

それでも一つ深呼吸すると両手でしっかりと受け取り胸元へと抱く。



「子和様の意を穢さぬ様に精進致します」


「お前らしくな」



畏まった物言いに心の中で苦笑しながら右手で興覇の頭を撫でて声を掛ける。

気負い過ぎは良くないし。



「次は儁乂」


「はい」



興覇が下がって一息吐いた事を確認して儁乂を呼ぶ。

進み出るのに合わせ傍らに武具を移動させ、覆い隠す白い布を取り去る。



「…変わった形の剣ですね

曲剣の類いですか?」



そう訊ねるのも当然。

発祥地は隣の日本であり、時代もまだまだ先の事。

刀剣としての概念が既製の品々とは異なる存在。

刀剣に於いて強い影響力を持った物──日本刀。



「これは太刀と言う物だ」



厳密には日本刀とは日本で造られた物を指す。

それ以外の他国に技法等が伝わったりして造られた、類似品の事を総じて和刀・倭刀と称する事も有る。

形状のみ見て日本刀とする場合も少なくないけど。




左手に取って、右手で柄を掴み引き抜く。

現れる漆黒の刀身。

その姿に儁乂も皆も思わず息を飲み、見詰める。



「太刀の中でも一定以上の長さの物を大太刀と呼ぶ

鍔の無い物を野太刀と言う場合も有る

大太刀という認識でなら、間違いは無い」



説明しながら大太刀を軽く一振りして見せる。

すると、リィ…ン…と響く鈴の様な音色。



「今聞こえた音はこの子の能力に因る物…

氣を糧にし音波と衝撃波を生み出す事が出来る」


「…音、ですか?」



“役に立つのだろうか?”という表情の儁乂。

皆の大半も同様の反応だ。



「耳許で大声を出されたり大きな音を聞くと一時的に聴覚は麻痺するな?

あまりにも強いと目眩等を伴う場合も有る

音というのは聞こえる物が全てではない

音の高低──音域には人に聞こえない領域が有る

また音波は一種の衝撃波と言う事も出来る

そして、音に対して鍛える事は至難だと言える

さて、聞き取れない音域で岩石を砕く程の衝撃を伴う場合はどうなると思う?」



ゴクッ…と、顔を強張らせ一様に息を飲む。

その脅威を理解したな。



「対処法を知らなければ、それは防御不可能…

また、この子の奏でる音は担い手の任意の対象にしか効果を与えない」


「…つまり、数千の群衆の中に居るたった一人にだけ効果を与える…

そういう事が可能だという事ですね」



恐る恐る、といった表情の儁乂の言葉に首肯。

まあ、催眠関連の音波等は後々説明するとしよう。

音域の話も有るからな。

話が長くなるし。



「細かい話は折を見てだ

で、音衝波が元々の能力

追加した能力は二つ」



言いながら、鞘口を柄尻に当てると鞘が連結。

真っ直ぐな棒状の柄となり薙刀へと変化する。



「それは冥琳の時の…」


「薙刀と言う武器だ

公瑾の物と比べると刀身が倍近い長さだけどな

偃月刀が重量を加えて圧し斬るのに対し、薙刀は速く斬り裂くのが特徴だ

もう一つの方は──」


「その柄尻の飾り紐…

思春の物と同じですね?」



儁乂に先に言われて苦笑。

流石に判るよな。



「興覇の物と違う点として薙刀状態だと、今みたいに途中に繋がってる事だ

一度取り外せば石突き側に付け直す事は出来る」



連結を解き、納刀してから儁乂に手渡す。

気質的にも侍に近いからか似合うんだよな。

今度、新撰組とかの衣装を元にした服でも作るか。




次に呼んだのは奉孝。

彼女に渡す武具は──



「…それは扇子──いえ、鉄扇でしょうか?」


「材質は違うから厳密には鉄扇とは呼べないが…

まあ、用途としては同じと思ってくれていい」



そう言って両手に取るのは一対の扇子──双扇。

先ず右手の方を開く。

描かれている図柄は一緒。

では何を変えたのか。



「この子達は元々は左右の配置が決まっていてな

一方方向にしか開かない

それだと困る事が有るから左右何方らに対しても開く様にしてある

あと、元々は30cm有った大きさを20cmまで小型化している

…特殊ではないけどな」



そう言い苦笑して見せると奉孝も苦笑を浮かべる。

ちょっと期待するもんな。



「この子達の能力だが…

氣を糧に風を生み操る」



言いながら、右手の扇子で一扇ぎするとサァ…と風が吹き抜けて髪と裾を揺らし頬を撫でた。

下から上に吹き上げたりはしないから。


で、肝心の能力説明。

正確には、もう少し細かい能力の部類が有るが長い為簡単に済ませる。

詳細は追々だ。



「それが元々ですか?」


「そうなるな

で、追加した能力は二つ

一つは巨大化だ」



そう言い右手の扇子に氣を与えて変化させる。

20cmの扇子が俺の姿でも楽に隠せる2mに。

しかも、縦の長さでだ。

全開状態は全幅が3.7mにまでなる。



「風を生むには扇子を開く必要が有り、規模や強さは氣の量で変わっていた

其処で面を拡大させる事で規模や強さを強化する様に改良した訳だ

勿論、扇子の強度も有るし身を隠す盾にも出来る」


「…目立ちませんか?

いえ、図柄も含めて絶対に目立ちますよね?」



そう訊かれ、スッ…と顔を外方へ向ける。

実際には、大気を操る事で光の屈折で隠れられる。

今は教えないけどな。



「で、もう一つは──」


「逃げたわね」


「逃げましたね」



──と外野からの野次。

気にしない、気にしない。

左手の閉じたままの扇子を奉孝の目の前に突き出す。

すると、先端部から剣先の様な刃が飛び出す。

長さは10cm、身幅2cm、両刃の黒い刃。



「…仕込み…いえ、これも氣の結晶化ですね?」


「御名答、“晶刃”だ

切り離して発射出来るし、開いた状態なら同じ大きさなら複数、または一枚形の巨大な刃で生成可能だ」


「…目立たない方が難しいではありませんか…」





呆れた様に振る舞いながら意外と嬉しそうに足取りが軽やかだった奉孝。

誰の目も無ければスキップしていたかもな。


で、奉孝に続くのは伯約。

彼女は“龍族”と縁が深い血筋だが継承者ではない為対器の存在は知らない。

そんな彼女に与える対器は薄い桜色の羽衣。

常時浮いている訳ではない為に今は薄い布地に見えるだろうけどな。



「この子の能力はこれだ」



そう言い氣を与えると宙にふわりと浮き上がる。

──俺を伴って。


跳躍した訳ではないので、全員が目を瞬かせて驚きの眼差しを向けている。

浮いてるって普通に見ると不思議だもんな。



「元々の能力は浮遊だ

加えた一つが重力の操作」


『──っ!!??』



話しながら伯約や皆に対し発動して50cm程浮かすと全員が突然の事に吃驚。

しかし、下手に動くと何が起こるか判らない事も有り意外と冷静。

表情は固いけどな。


また、浮かしはしているが身体に掛かる引力は正常。

そのままだと回転するので足側を重くしてある。



「と、こんな感じで任意に対象を浮かしたり出来る

効果は一定範囲内

担い手の力量次第だ

限界域は有るけどな」



例によって重力に関しては後回しにする。

皆を地面に下ろすと羽衣の片側を右手に絡ませる。



「追加した能力はもう一つ

伸縮と形状変化の複合だ」


「……?」



こてんっ…と小首を傾げて見詰めてくる伯約。

それに胸中で苦笑する。

身内──特に仲が良い者が相手だと、疑問を示す時に仕草だけになる癖が有る。

…可愛いから言い辛い。

直させないといけない程の事でもないから困るな。


疑問に答える様に岩石へと羽衣を伸ばし、同時に刃の様に変化させて斬る。

スシャッ!、と風を鳴らし通り過ぎたら、ゆっくりと斬られた岩石の断面が擦り落ちて行った。



「今みたいに伸縮したり、ある程度形状を変える事は出来るが、全く別の型には出来無い

刃の様に薄く鋭くしたり、盾の様に厚く硬くとかなら問題無く出来るがな

まあ、絞って細くしたり、大きく広げたりする感じの布地で出来る事も可能だ

色々試してみると良い」


「はい」



地面に降りて伯約に羽衣を手渡す。

あまりに軽い事も有ってか不思議そうにしていた。

肌触りも良いぞ。




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