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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
195/915

        伍


仲達と入れ替わり前に出て来たのは子揚。

仲達の時と同様に一目見て俺の顔を見詰めた。

まあ、仲達の前例が有る為何かしら特殊なのだろうと理解はしている様だが。

それでも武器の固定観念が有る事には変わらない。

しかし、仲達と異なる点は目の前の物を一度たりとも見た事が無いという事。

唯一、華琳だけは一目見て信じられない様に瞬きして確認した後、正気を疑った様な視線を向けて来た。

その気持ちはよく判る。

俺が華琳の立場だとしても似た様な反応をした筈。

“それ”には、それだけの影響力が有るからだ。


その子揚の武器はというと時代的には存在しない筈の兵器と呼べる代物。



「あの…子和様、これらは一体何なのでしょうか?」


「これは銃という武器だ」



それは大小二丁の銃。

何方らも実在する拳銃ではコルト・ガバメント45、デザートイーグル風。

一丁は銃身長が100mm、全長が210mmの拳銃。

50口径になっている。

白を基調とし赤のラインと薔薇の装飾が施してある。

一丁は銃身長が190mm、全長が310mmの拳銃。

此方は75口径。

黒を基調とし青のラインと炎の装飾が施してある。

前者は兎も角、後者の方は“お姫様”の子揚の手には似つかわしくない。



「火薬は知ってるよな?」


「はい、稀少な物ですが、戦争に使われたりする事も有る危険な物だと…

もしかして、この銃という武器は火薬を用いて?」



火薬と聞いて直ぐ銃の持つ危険性に考え至った辺りに成長を感じられるな。

まだ大砲も無い時代だから世の中に出したくない存在だから慎重になるが。



「本来はそうだ」


「“本来は…”という事は氣を火薬の代わりに?」


「そういう事だな」



言いながら右手に大型銃、左手に小型銃を持つ。

先程、突槍の実演に使った岩石に向け大型銃を撃つ。

ドギャンッ!、と音を立て岩石に穴が空く。

続いて小型銃を撃つ。

ドチュンッ!、と音を立て同様に岩石を穿った。



「とまあ、こんな風に氣を銃弾として撃ち出したり、氣を結晶化した銃弾を撃ち出したり出来る

銃弾の生成は任意だから、混ぜて撃つ事も可能だ

本来の銃は鉄や鉛の銃弾を火薬を使って撃ち出すが、これらは氣を用いる分だけ高性能だと言える

とは言え、氣の総量の多い子揚だから使える仕様だ

でないと、あっと言う間に氣が枯渇して終わる」



それを聞いて、子揚も皆も苦笑を浮かべた。

ある意味弾数制限が無い分此奴等は大食いなんだよ。




俺の持つ銃を見詰めながら少し考え込んでいた子揚が顔を上げて俺を見る。



「子和様は火薬を使う銃を造れるのですよね?」


「ああ、造れるな

まあ、此奴等は氣を使う分構造とかは違うけどな」



氣を用いる銃は宅以外では扱えないだろうが。

絶対に、とは言えない。

可能性は少なからず有る。



「では、子和様は将来的に火薬式の銃を量産しようと御考えなのでしょうか?」



真っ直ぐに見詰めて訊ねる子揚の眼差しに驚く。

それは今まで見た事が無い“皇女”としての物。

銃が大量殺戮が可能な事を理解し、危惧している。

国の、民の、世の秩序を。



「安心しろ

少なくとも、俺は他の銃を造る気は無いし、世の中に広めようとは思わない」



フッ…と笑みを浮かべて、子揚にそう告げる。

他の二人がどうするのかは判らないが、個人としては無い方が良い。

まあ、時代が進めば嫌でも世に出て来るだろうが。



「お前が考えている通りだ

銃は不特定多数の者が扱え簡単に命を奪える兵器…

狩猟等に用いれば弓よりも効率良く成果を出せるが、戦争に用いたり、犯罪者が手にすれば傷付くのは弱い民に他ならない」


「では…どうして子和様はその兵器を私に?」


「その恐ろしさを理解し、安易に使う事をしない

犠牲となる命が有る事を、誰よりも忌む事が出来ると知っているからだ」


「…狡い言い方です」



言葉とは裏腹に嬉しそうに子揚は笑顔を見せる。



「で、この銃の機能だが、連結機能が付いている」



そう言いながら、小型銃を横向きにして前方に構えて銃身を繋ぐ様にし大型銃を連結させる。

その状態で岩石に向かってトリガーを引く。


──ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!!!!


その間、僅かに五秒。

穴が三つ空いていたけど、大して壊れてはいなかった岩石だが今はボロボロ。

砕け飛んだ多くの破片が、無惨に散乱している。



「これが連射銃型と言って一分間に千発撃てる

その分、消費するけどな」



言いながら連結を解除して今度は前後を入れ換えて、何方らも正位置で連結。

すると小型銃の後ろ側からスコープが展開する。



「此方は狙撃銃型と言って飛距離を強化した型だ

大体5km先まで届く

一応、照準器は有るんだが自分の視力も強化した方が精度は上がるからな」



そう言うと目の前で苦笑を浮かべた子揚。

やっぱり、抵抗は有るか。

仕方が無いな。





「首飾り…でしょうか?」



そう訊ねるのは文挙。

現在、俺の右手に有る物は直径3cm程の真っ黒な珠が幾つも連なった数珠の様な環状の物。

それを真っ直ぐに伸ばせば全長は1mになる。



「…環のまま、という事は無いでしょうから伸ばして使う訳ですね?」


「御名答」



笑顔を浮かべて言いながら環状になっている黒い珠を切り離して見せる。



「この分離部分は何処でも可能になってる

最長で100mになる

で、機能の一つは伸縮だが単に伸びる訳じゃない

一緒に珠も分裂・増加する

また伸ばす際には密着する珠を離す事も出来る

珠と珠との間に鋼糸が有り最大で1m離せる」


「流琉ちゃんの鉄球の様な使い方ですか?」


「この珠は巨大化はしない

ただ、伸ばして当てる点は似てるけどな

その前にもう一つ

珠の連結・分離は自由で、棍の様に真っ直ぐに出来て分離と併用すれば多節棍の様に出来る」



棍の様に真っ直ぐした後、バラバラの長さに分離させヌンチャクの様に扱う。

“ホァッチャーッ!”とかついつい叫びたくなる。

…何か、妙にテンションが高い様な気がするな。

ちょっと落ち着こうか。



「もう一つの機能は触れた相手から強制的に氣を奪い蓄積または主に変換・供給する事が出来る

蓄積して置けるのは丸一日

蓄積後二十四時間を過ぎた場合には自動的に排出され無力化される」


「氣を奪う…ですか

その程度は何れ位です?」


「接触時間にも因るが…

一瞬当たっただけでも軽い弛緩や立ち眩みを覚える

割合的には一〜二割程度の範疇だが、誰しも急に氣を奪われれば異常を来す

蓄積するだけの空き容量が有れば、絶命するまで氣を奪う事も出来る

遣り方によっては昏倒させ無力化も可能だな」



俺の説明を聞き静かに頷き理解を示す。

頭の中では色々と想定して模索しているのだろう。



「氣の供給は私と子和様に限る事でしょうか?」


「いや、誰にでも可能だ

勿論、使い手に同調させる技量が求められるけどな」


「…成る程

司氣を扱える私にとっては氣が尽きる事態を避けられ味方の回復役も出来ますし敵を生け捕りに出来る

汎用性が有りますね」



そう言って微笑む文挙。

実際、この武器一つ有れば無血制圧も簡単に出来る。

どう活かしてくれるのか、楽しみだな。





「既に遅いのでしょうが、私は控えめが希望です」


「第一声が“それ”なのもどうなんだか…」



苦笑しながら返した相手は呆れ気味の公瑾。

非常識に慣れたといっても自分の中の価値観は有る。

それを斜め上に突き抜けた事態には呆れるしかないのかもしれないな。



「まあ、軍師陣の中でなら大人しめになるか…

お前は軍師の中でも元々の身体能力が高いからな」



布を取り、露になったのは淡い橙色をした鞭。

旅をしていた時にも公瑾が使用していた武器。

十分に使い慣れている。



「長さ的には…柄を除けば3m程でしょうか

直径は2cm程…

機能の一つも伸縮が有ると見るのが妥当ですね」



それだけに分析も冷静。

輪にして束ねている状態で的確に言い当てる。

まあ、武器の特性を活かす機能が一つは有るからな。

此処までの事を見ていたら予想も出来るか。

右手で鞭を掴み取る。



「この子の特徴は多彩姓

複数の姿で幻惑・翻弄し、敵を手玉に取る」


「正に軍師の業ですね」



公瑾の言葉に口角を上げ、右手の鞭を一振り。

パシィンッ!、と地を叩き伸びた鞭。

其処に氣を与えると撓りを放棄して真っ直ぐな棍へと変化する。



「靭やかなる事蔓の如く、軽柔なる事竹の如く──」



手首を返して棍を振り回しまた氣を与えると棍の先が長さ10cm程の丸い分銅に変わりジャラシャラと音を鳴らして棍が鎖に変化。

残っている岩石を砕く。

その状態からうねらす様に振り操り、変化させる。

鎖は平たい刃の様に変わり蛇の様に動きながら岩石を斬り裂いた。



「重硬なる事鉄鋼の如く、狡猾なる事蛇の如く──」



岩石を舐める様に振るうと変化した鞭が削り取る。

一見して最初の鞭と同じに見えるが全体が鑢状。

撓る事で威力を増す。

再び真っ直ぐに変化すると両端が30cm程の円錐形の突槍に変わり岩石を穿つ。



「饕り喰らう事蟻の如く、穿つ事水雫の如く──」



大きく一回転させ上段から真っ直ぐ振り下ろす。

岩石を綺麗に斬り裂いて、姿を見せたのは薙刀。



「断ち斬る事疾風の如し」


「………台詞に意味は?」



全く有りません。

ただのノリで言っただけの気紛れです。

だって、皆が口上言えとか普段から煩いし。



「口上は別物です」



きっぱりと言う公瑾。

ですよね〜。





「とまあ、七つの型に変化する訳なんだが…

その内の棍・双突槍・薙刀に関しては伸縮が使えず、基本の2mのみだ

他の三つは最長10mまで伸ばす事が出来る」



言いながら鞭に戻すと軽く振り上げる。

そして岩石に向かって振り叩き付けた。

──ドボォンッ!、と音を上げて爆発が起きる。



「これが三つ目の機能

氣を糧に爆発を起こす

爆発するのは触れている所だけだけど、自分の近くで爆発させたら巻き添えだし気を付けてな

爆発の威力は使う氣の量で五段階有るから後で自分で試してみてくれ」



そう言って鞭を公瑾に向け差し出すと、何故か深々と溜め息を吐かれた。



「一度じっくりと子和様の基準について話したいのは私だけでしょうか…」


「安心しなさい冥琳

私も今日改めて思ったわ

いつも非常識だ非常識だと言っていたけれど…

それがどれだけ浅かったか思い知ったわ」


「では、次の議題に」


「ええ、決まりね」



公瑾の言葉に華琳が同意、さらっと文挙が方針を言い華琳が決定させる。

というか、無視か。

俺が当事者じゃないのか。

サボるぞ。



「はぁ…まあいいか

取り敢えず、先に進めるが一つ言っておく事が有る」



気を取り直して話を戻すとピタッ…と雑談を止めて、全員が此方に注目する。



「これまで皆に渡してきた武具は全て俺の手製だ

皆の防具も全てな

だが、これから渡す武具は全て既存の物になる

正確には、俺が手を加えて改良した物だ」



そう言うと残る八名の内、華琳・仲謀・孟起の三人の表情が驚きに変わる。

自分達が渡されるであろう武具を想像して。

そして、それは正しい。

特に仲謀・孟起に関しては他の皆も周知の事。

故に自然と視線が集まる。


一方で華琳だけは俺の事をじっと静かに見詰める。

その眼差しが俺に問う。

“私は至ったの?”と。

答える事は簡単だ。

しかし、俺は敢えて笑顔の仮面を被り、感情と意思を隠す事にする。

それを見て動揺する華琳。

表情や態度には出ないから皆は気付いていない。

しかし、確かに揺れた。

珍しい姿なので眼福だし、得をした気分になるが。


華琳には悪いが、一人だけ抜け駆けはさせない。

お前達三人にとって今から始まるのは大きな試練。

ある意味では曹家の大望を凌ぐ程に重要な事。

気を引き締めて挑め。




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