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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
193/915

        参


次に呼んだのは伯寧。

布を取り、姿を見せたのは今までの中では最も小型。

水色を基調として白い雲が装飾が施された晴天を模す二等辺三角形の鞘。

柄は15cm程、全長でさえ鞘内でも50cm未満。

それが二つ存在する。



「随分と小型ですね」


「さっき長短が云々言ったばかりだからな

疑問に思うのも当然だ」


「別に疑問には…」


「全く、全然、微塵も?」



そう切り返して遣ると少し眉間に皺を寄せ黙り込み、ぷくっ…と頬を膨らませて拗ねた様に見てくる伯寧。

図星を突かれ、誤魔化せず揶揄われた為に少し機嫌を損ねたらしい。

日常的な遣り取りの範疇の程度だけどな。



「…意地悪です」


「ははっ、今更だな」



そう言いながら右手を頭に伸ばして撫でる。

伯寧の後ろで“あーっ!?”とか叫んでるのが居るが、気にしない。

気にしたら負けだ。


右手を退けて、片方の柄を掴んで鞘から引き抜く。

現れた姿は、この場に居る誰にも想像し得なかった事だと思う形状をしていた。

それには刃と呼べる部分は見当たらず、刀剣の類いと称するのは躊躇われる。



「…刺突武器、ですか?」


「ああ、三叉尖刀と言って刺突が主体の武器だ」



右手に持った三叉尖刀とは“山”の字の形をしており三本の円錐形の刀身を持つ奇形の十手の様な物。

中央の先端部分に向かって両側は内向きで線を引くと二等辺三角形になる。



「先端部分は細いから浅く切り付ける事は可能だ

また両脇の又に相手の剣や槍の刃等を受け、捻る事で楽に圧し折れる」


「…乱戦や密集地で素早く動く為の小型なのですね」



笑みを浮かべて首肯。

正しく理解出来るのは既に武器の特性を掴んでいる証だと言える。



「備える機能は二つ

一つは中央の刀身の伸縮

最短は基本の30cmになり最長は1mだ」



言いながら実際に伸ばし、縮めて見せる。

既に伸縮でも驚きが薄く、リアクションが少ないのはギャラリーとして寂しいと感じるのは俺だけか。



「もう一つは形態変化だ」



クルッ…と右手の中で回し三叉尖刀から三叉槍へ。

変化に伴い此方は中央部が平らな刃へと変わる。

長さも変わり刃は45cm、柄は1m30cm程になる。



「この三叉槍形態の時にも刃の伸縮は可能だ

最長は同じだけどな

此方は斬撃も出来る

二振り共同じ機能で別々に変化させて使っても良い

色々と試してくれ」


「判りました」





伯寧と入れ替わりに前へと出たのは士載。

今までの面々の中では一番緊張している様子が一目で判る位に固いな。

というか他の面子が堂々とし過ぎているのか。



「これがお前の武器だ!」


「わあっ♪、御鍋に包丁・御玉に俎板まで有ります!

──って、ええぇーっ!?」



むぅ…実に惜しい。

リアクションとして見れば十分なんだが、出来るならツッコミを入れて欲しい所だったんだがな。



「…流琉ちゃん、転職?」


「其方らでも十分に活躍が出来るとは思いますが…」


「螢も結も真に受けないの

そんな訳無いでしょう

雷華、貴男も遊んでないで真面目にしなさい」



純真な二軍師の天然ぶりに華琳が溜め息を吐きながら違うと訂正する。

後、此方に矛先を向けるが一応真面目だからな。



「まあ、意味は違うけど、戦地や戦時下等に於いては食事が要になる事は皆にも判っている事だろう

その中で一番多く料理する機会が有るのは士載だ

其処で、行軍時に使用する調理器具を実際に料理して使って貰って、使い勝手や耐久性等の試験…

また意見を聞きたくてな

因みに華琳を基準にすると一般的な人が使うには技量なんかが追い付かないし、拘り過ぎるから却下な」



“そういう事なら何で先に私に言わないのよ?”的な視線を俺に向けてきたので理由を説明する。

納得しつつ、納得出来無い様子で睨んでくる華琳。



「飽く迄も消耗品の範疇を出ない物品だからな

お前達専用に造る器具とは違うんだよ」


「それなら私達専用の物も造れる訳よね?」



…しまった。

迂闊な事を言ったな。

華琳だけでなく士載や他の料理好きの面子が揃って、目を輝かせてる。



「…時間が有る時にな」


「楽しみにしてるわよ」



“良い笑顔”で言う華琳の一言に対し士載達が同意し何度も頷いて見せる。

…こりゃ誤魔化すのは無理だろうな。

諦めて頑張ろ。


小さく溜め息を吐きながら“影”に調理器具を仕舞い本来の士載の武具を出し、改めて布を取る。



「……鉄の…球?」



茫然としながら呟く士載。

視線の先に有るのは直径が30cm程の球体。

普通のバスケットボールの1.5倍の大きさの球体は“無骨”と言うのが似合う濃い黒灰色をしている。

その一ヵ所から伸びている長さが20cm位の柄。

深紅を基調として白と銀の装飾が施されている。

今まで一番地味と言っても良い位だった。




右手で柄を掴み持ち上げて見せるが、士載を含め皆の反応は薄い。

というか、“可哀想に…”的な視線や雰囲気を出して見ている。

見て驚けよ。



「これは球鎚と言う物でな

所謂鉄鎚と鉄球を合わせた物だと思えばいい」


「鉄鎚という事は…その…至近距離の打撃ですか?」



“あんまり”な武器。

そういう認識の為か士載の質問する態度も奥歯に物が挟まった様な感じだ。

なので、ちょっと意地悪。

自慢気な笑顔を作る。



「威力有りそうだろ?」


「え、えぇ〜と…その〜…そ、そう思いますよ?」


「何故疑問文なのかな?」


「ひゃいっ!?」



スススー…と、目が泳いだ士載の頭を左手で鷲掴みし同じ視線まで屈み込んで、笑顔のまま目を合わせる。

怒っていると勘違いしてかビクッ!と涙目の士載。

流石に可哀想になったのでグリグリと左手で少しだけ乱暴に頭を撫でて離す。



「この球鎚の機能は三つ

一つ目は柄の伸縮で最長は1m50cmになる

二つ目は球鎚部の巨大化で最大は直径1m

巨大化は10cm毎だ」



そう言いながら柄を伸ばし球鎚を巨大化させる。

とは言え、これ位だとまだ驚きとしては薄い。

今までの事から予想出来る範疇だからな。



「で、これが三つ目──」



右手に持つ球鎚を振り上げ──勢い良く振り下ろす。

ヒュビュギュギュンッ──ドッグォンッ!!



『……………………は?』



物理的に可笑しな速度にて柄から離れて飛んで行った鉄鎚──鉄球が地面を砕き巨大なクレーターを作り、破片を撒き散らした。

それを見た皆の反応を見て少しだけ溜飲が下がる。



「どうだ?、見た目よりも“凄い”だろ?」


「……え、あ、は、はい…

凄い…ですけど…」



茫然としていた士載だが、俺と鉄球を何度も見ながら困った様にしている。

訳が判らず小首を傾げたら何故か顔を赤くした。

…何故なんだ。



「え〜と、ですね…

子和様が灯璃さんの時にも仰有っていた様に、とても軽いんですよね?

その、私が使う時には…」


「勿論」


「当然、氣で強化する事も抜きで、ですよね?」


「うむ、氣の強化も使えばまだまだ上がるな」


『どんな破壊力ですかっ!!

自重して下さいっ!!』



士載を含む皆からまさかの総ツッコミを受けた。

華琳だけは呆れた様に俯き溜め息を吐いていた。

何故、伝わらない。

ハンマーは“漢のロマン”だと言うのに。

……ああ、女性だからか。

それは仕方無いな。




士載は武具を受け取り元の位置へと戻った。

因みに、鉄球は分離してはいないから。

柄の先端部から固定された鋼綱が鉄球内部のリールに繋がっていて伸びる仕組みになっている。

最大で10m。

鋼綱も頑丈なので攻撃にも応用出来るんだな。

また、鉄球は横に回転する分には制限は無い。

自分の動きで回転させるか氣で操る必要は有るが。

縦回転は鉄球の鋼綱が有る部分の10cm程を除いて、両側部分がヨーヨーの様に回転する仕組み。

此方は任意での可動なので通常はロックされている。



「普通ので御願いします」


「誰の普通だ」


「…諦めが肝心ですか」



そう言い溜め息を吐くのは子義だったりする。

というか、俺と士載に対し失礼だと思わないのか。



「はぁ…まあいい

これがお前の武具だ」



一息吐いて布を取ると姿を現したのは戦斧。

藍色を基調として黒と銀の装飾が施されている。

と言っても、正確に言えばハルバード──所謂、斧槍と呼ばれる部類の物。

だが、本来は斧・槍・鉤と三つの要素を持つがこれは鉤の部分が無い。

柄のみで1m80cm有り、全長は2mを越える。

左右の刃は銀杏の葉の様な形をした斧の部分。

刃幅は最長部分で50cmと幅広い大きさ。

槍の部分は根元は斧同様の銀杏型で其所から中心部が長く尖っている。



「…重さの事は別としてもかなり大きいですね

手数よりも威力重視…

役割としては露払い辺りになるのでしょうか」


「それは状況次第だな

戦況に応じ臨機応変にだ

抑、武器で役割を決める事なんて宅の軍師陣がすると思うのか?」


「そうでしたね」



迷い無く、即答する子義。

その答えに笑みを浮かべて戦斧を右手に掴む。



「備える機能は二つ

一つは分離と連結だ」



そう言って左手で柄の中程から下を掴み、切り離す。

右手に手斧サイズの戦斧、左手には柄だけ。

だが、柄の先端──石突き部分から50cm程の直刀が飛び出してくる。



「此方は仕込みになってる

正確には変形だけどな」



肩を竦めながら元に戻し、今度は戦斧を左右に分離。

二本の片刃の斧槍になる。



「こんな風にしたり──」



更に片方を上下に逆にし、そのまま連結させる。

すると風車の様に回転する方向に刃を持つ双頭型に。



「こんな風にも出来る

意外と面白いだろ」



そう言うと子義は苦笑。

武器に面白味を求めるのも可笑しな話だからな。




コホンッ…と一つ咳払いし緩んだ雰囲気を引き締めて真面目に話をしようとする子義が目の前に居る。



「それで子和様、もう一つ有る機能とは?」



キリッ!、とした表情だがお前の後ろで落ち着き無くそわそわして公瑾と仲達に拳骨貰ってる義封と公明が台無しにしてるからな。

俺から見たらコントにしか見えない光景だぞ。

気にしない様にするけど。



「今から見せる」



双頭型の状態の戦斧を軽く一振りする。

すると地面に千本手裏剣の様な形の物体が幾つも突き刺さった。



「これは…晶矢と同じ?」


「晶矢に比べると耐久性や持続性が劣るけどな

氣を糧として生み出すのは全長20cm・直径1cm程の両先端の大針だ

一応、識別の為に“晶針”と名付けている

射程としては10m程だが戦斧を振るう軌道上に生み放つ事が出来るから一瞬で複数の相手を攻撃出来る」



そう説明している間に先程放った晶針は消失。

実体化時間は十秒程だ。

尤も、使う氣の量によって上下するけど。


言いながら戦斧を分離し、元の形へと戻す。

形態変化とは違う分だけ、時間を必要とするが其処は御愛嬌という事で。

正確には材料の関係だけど流石に言えないしな。



「見ての通り、証拠自体が残らないからな

晶矢もそうだが、見られた場合には色々と面倒だから使い時は限られる」



滅多に使えない機能。

そう聞いて、子義が小さく一つ息を吐いた。



「…普通に巨大化や伸縮の方が良かったのでは?」


「まあ、言いたい事は判る

ただ──その“普通”って“誰”の基準なんだ?」



意趣返し──という程の事ではないが、揶揄い半分で笑みを浮かべて言う。

子義は俺の意図に気付くと小さく眉根を顰める。



「…負けず嫌いですね」


「お前達には負けるがな」


「そうとは思えませんが…

そういう事にして置きます

後が閊えていますから」



そう言って、戦斧と防具を受け取って元の位置へ。


表情はポーカーフェイスを貫いていたが雰囲気は別。

何だかんだ言ってはいたが楽しそうな感じはしたし、“嫉妬”特有の不機嫌さも混じっていた。

説明の話だけではなくて、他愛ない別の話をした。

それだけで機嫌は戻るし、悪くもなる。

女心は難しい物だな。




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