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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
192/915

        弐



「既に気付いている事とは思うが、此処に並ぶ品々はお前達専用の武具だ

一人ずつ順に呼んで実演と説明をしながら渡すから、前に出て来てくれ

先ずは──公明」


「はいっ!」



良い返事をして俺の前へと歩み出て来る公明。

トップ指名だからか何処か嬉しそうだな。

特に他意は無いんだが…

言わぬが華か。

態々水を差す必要も無いし黙っておこう。


並び立つ二十一の武具から一つを氣で浮かせ、傍らに運んで来る。

同時に公明も正面に立つ。



「武具は全て形が異なり、二つとして同じ物は無い

これは俺が見立てた個々の適性や資質を考慮した上で最も相応しいと思う形状に仕立てている

一応防具類も有るが此方は造りとしては共通だ

装飾や色彩は違うがな

…で、公明、これがお前の新たな武器だ」



そう言いながら、白い布に右手を掛け──取り外す。


露になったのは──大剣。

深緑を基調とした色彩に、白と橙の蔦や花の装飾。

パッと見に大樹をイメージさせてくれる。

傍らにマネキン風の木型に取り付けられている防具も有るんだが…公明の視線は大剣に注がれている。

小さく苦笑を漏らしながら右手で大剣の柄を掴み取り鞘から引き抜く。

シャンッ…と澄んだ刃音は戦場でも息を飲みそうな程美しく、静かだった。

現れたのは両刃の剣。

只一点の曇りも無い白銀の輝きは実に素晴らしい。

…自画自賛じゃないよ?

ただ、珍しいとすれば刃の中央──腹に当たる部分が日本刀の峰の様に黒く平らだという事だろう。



「柄が45cm、刃は1m、全長は鞘中で1m60cm、抜き身で1m55cmだ」



兵達等には尺や寸で言うが皆にはメートル法でも話が通じるから楽だな。

まあ、長さ関連以外は極力此方に合わせてるけどさ。



「…重いんですか?」


「いや、持ち主に対しては羽根の様に軽い」



そう言って公明に手渡すと掲げたり振ったりしてみて確認している。



「凄っ…滅茶苦茶軽い!」


「軽いが攻撃まで軽くなる事はないし、主たる公明と造り手の俺以外には重さは変わらない

“身内”に限り、持ち運ぶ事が出来る程度にはなるが“他人”には持ち上げる事すら困難になる

これは武器だけではなく、防具にも言える事だ

盗難防止の為の機能だが、己の武具を大切に出来無い用なら扱う資格は無い

絶対に忘れるな」



そう言うと公明だけでなく全員がしっかりと頷く。

まあ、信じているけどな。




公明に対し右手を差し出し一旦大剣を受け取る。

機能の説明の為だ。



「この大剣は勿論として、全武具は氣の浸透通過率や効果還元率を高くしてある

しかし、それだけではなく特別な機能も備えている

この大剣には二つ有る

先ず、一つ目は──」



そう言い大剣を軽く振り、同時に氣を与えて発動。

すると大剣が伸びて行き、全長が2m50cmを越える長さになる。



「柄が伸びた…」


「基本となるのは45cm、最長で3mまで伸びる

今の状態で半分だな」


「刃も伸びるんですか?」


「いや、刃の方は伸びない

その代わりに──」



軽く頭上に掲げ、一振り。

ヒュヒュッ…と風を切ってズガォンッ!、と鍛練場の地面を突き抉った。

──10mも先の地面を。



『……ぇ?、ええーっ!?』



僅かな沈黙の後、皆が声を揃えて驚く。

実際には声を上げずに口を開いて唖然としている者が三分の一は居るけどな。



「とまあ、こんな風に刃は伸びないが、分裂して刃に内蔵されている鋼帯が現れ伸縮する様になっている

氣が起動する為の鍵であり氣を使っての操作も可能になっている

刃は10cmずつ10分割、或いは5cmずつ20分割の二種類に有り、鋼帯一つの長さは最大で1mだ」


「って事は最長で、え〜と……に、21m?」


「柄を含めると約24m

長いだろ?」



元々計算等が苦手な所為か自信無さそうにするが別に出来無い訳ではない。

ちゃんと勉強し、復習して成長している。

まあ、仲達からの指摘とか駄目出しが厳しいから中々自信を持てないんだが。

慢心されるよりは増しだし放って置こう。

成長を阻害しそうだしな。

その公明は刺さったままの刃を見ている。



「…蛇のお腹みたい」


「良い勘してるな

こういう形状を蛇腹剣って呼んだりするんだ

中には鋼帯の部分まで刃で出来てる物も有るな」



そう言いながら元に戻して鞘へと納める。


“此方”じゃあ先ず見ない物だろう。

それに癖が強く扱い難い。

時間さえ掛ければ誰にでもある程度は扱える。

だが、その先は天賦の域。

持たぬ者には踏み込めない遥かなる高み。

公明には天賦が有る。

だから、与える。



「まあ、考え過ぎず考えて理解する様にな」


「えぇー…何方なの…っ!?

が、頑張りますっ!」



苦笑しながら大剣を両手で受け取ると、防具も持って公明は元の位置へと戻る。

仲達の殺気と怒気にビビり反応してたのは御約束か。





「次、義封」


「はい!」



普段のマイペースとは違うハキハキとした返事をして前に出て来る。

いつもこうしてたら後ろで溜め息を吐いてる公瑾から説教されないだろうに。



「それはそれですよ

冥琳との触れ合いです♪」



“私は遠慮したいが?”と睨んでるからな。

まあ、コミュニケーションではあるんだろうが。

そんな事を考えながらも、傍らに義封の武具を運んで来て包みを取る。

出て来たのは──



「二振りの剣…これって、対剣ですか?」


「ああ、そうだ」



其処に有るのは黒を基調に青と銀の波風の装飾をした二振りの剣。

柄尻の部分に有る太極図が刻まれている白黒の晶珠が目を引く。

義封の言う様に対剣だが、雌雄剣ではない。

言うなら──双生の剣。


両手で各々の柄を掴み取り鞘から引き抜く。

外気に晒されて白む吐息を思わせる様な儚げな白刃。

それ故に基調とする黒とのコントラストは際立つ。



「柄は20cm、刃は60cm

全長は鞘内でも85cm

直剣としては短い方だな」


「…柄も両手で持つ場合にギリギリ位ですね」



両手を縦に連ねて握る様にしながら呟く義封。

本当、皆良い勘してるな。



「備える機能は二つ

一つは刃の伸縮」



そう言って右手の剣を振り刃を伸ばして見せる。

同じ伸縮でも形態が違う為皆の驚きも普通に起きる。



「基本的には60cmだが、最長で1m、最短で30cmまで伸縮が出来る」


「おぉ〜…って…あれ?

…あの〜、子和様?

最短30cmなのにどうして基本の方が長いんですか?

短い方が邪魔にならないと思うんですけど…」


「短剣として造ったとして騎馬戦等で最初から伸ばし敵に見られたら警戒されて伸縮の利点が消えるだろ

それに短過ぎると初撃時に無駄な動作が増える」


「あ…成る程…」



ぽんっ…と胸元で掌を打ち合わせて納得する義封。

…後ろは向くなよ。

死にたくなかったらな。



「で、もう一つが──」



そう言いながら両手に持つ対剣の柄尻同士を重ね──一つに繋げる。

クルリ…と、白黒の晶珠が回転し噛み合う歯車の様に列車の連結部の様に繋がりまるで最初からそうだった様に一体化する。

出来上がったのは双頭剣。

それをバトンを振るう様に振り回し、扱って見せると皆から拍手が出た。

…ちょっと調子に乗った為時間が掛かったのは余談。




対剣を元に戻し、義封へと手渡し、次に呼んだ漢升が前に出て来る。



「それから妙才」


「…はっ」



一瞬、“一人ずつ”と俺が言ったから逡巡してたな。

まあ、お前達の場合だけが特別なんだけど。

妙才が並ぶのを見計らって漢升が口を開いた。



「私達が“弓使い”だからでしょうか?」



意外な程あっさりと意図を見抜かれて思わず苦笑。

妙才も漢升の言葉を聞いて納得していた。



「まあ…そういう訳だ」



両側へと運んで来た包みを取って姿を晒す。

先ず、右側──漢升の前に有るのは、白を基調として薄紫の花と深緑の蔓と葉が装飾された身の丈以上有る美しい大弓。

所謂、和弓型だ。

次に、左側──妙才の前に有るのは、紺を基調として白いラインが入った鳥翼を思わせる形状の弓。

此方は洋弓型。

共通しているのは何方らも弦が無い事だ。



「見て判る様に弦が無い」



そう言って漢升の方の弓を左手に取る。

すると弓の両端から互いに一直線に光の糸が生じて、中央で繋がると光が弾けて半透明な弦が現れた。



「──とまあ、こんな風に持ち主が持ったら自動的に弦が生成される

この弦は任意に解消出来、持ち運びの妨げになる事がない様になってる

打撃武器としても使えるが“弓使い”としては頻繁に遣るなよ?」



そう冗談めかすと二人共に苦笑を浮かべる。

緊急時の対応策だけに頭に浮かんでいたんだろうな。



「これも機能の一つだが、最大の売りはこれだ」



右手を左手──握りの少し上の所に埋め込まれている直径が2cm程の真珠の様な晶珠に重ね、氣を込める。

すると、右手の指先に光が生まれて矢へと変化する。



「氣を糧として“晶矢”を生み出す事が出来る

この矢は強度は勿論だが、その大きさ・長さ・形状を自由に変えられる

限度は有るけどな」


「つまり、私達の氣が有る限りは矢は無限だと思って良いのでしょうか?」


「理論上はな

ただ、普段から使うと癖になるからな

普段は今まで通りの矢で、晶矢の使用は非常時に限定しておいた方が良い」


「…そうですね」


「便利過ぎると腕が鈍ってしまいそうですしね」



俺の言葉に納得して頷いた妙才と、苦笑しながら一言付け足す漢升。

直ぐに真意を理解するのは付き合いの長さか経験か。

何方らにしても託す上では安心出来るな。





「それから晶矢は射出後に複数の矢に分裂させたり、範囲は限られるが意図的に進行方向を操作出来る」


「…何、その性能は?

どういう状況を想定したらそんな武器になるのよ…」



呆れた様に口を挟んだのは華琳だった。

自分の武器じゃあないから黙って聞いてみたいだが、流石に限界らしい。



「分裂は一射で複数の敵を一掃したり出来るだろ?

操作の方も永久的に飛んで追っ掛けたりする訳じゃあないから其処まで異常さは無いと思うけどな」


「飛んで行った矢が自在に曲がったりしている時点で可笑しいでしょ…」


「いや、普通の矢でも氣を纏わせて操作出来るから

そう考えると応用程度だと思えるだろ?」


「……はぁ〜…もういいわ

そう思えた時点で私も既に普通じゃないものね」



想像し、理解出来たらしく華琳が溜め息を吐きながら右手をヒラヒラと振り先に進める様に促す。

…まだ緩い方なんだが。

余計な事は言わないけど。



「さて、各々もう一つずつ機能が存在している

分類的には同じだけどな

先ず、今手にしているのは漢升用の大弓だ

全長2m50cmと巨大だが三分の二は上部になる為、邪魔にはならない

連射速度より一撃の威力を優先している造りだ

対して妙才用の弓は真逆に連射速度を優先している

これは各々の性質を最大限活かす為だ

で、この大弓だが──」



左手を振ると大弓は変化、先端に尖った軍配型の刃を持った蛇矛に成る。



「用意した矢が尽きたり、矢を使えない場面などでも戦える様に別の型の武器に変化する様になってる」


「…だから、私達に特定の武器を扱う鍛練をする様に仰有っていた訳ですね」



笑みを浮かべ肯定する。

妙才も成長しているな。


蛇矛を大弓に戻して漢升に手渡すと妙才の弓を取り、同じ様に変化させる。

それはトンファー型だが、両端には円錐形の突起。

外側は日本刀の様に薄まり鋭い刃になっている。



「剣よりも体術寄りの型、という事ですか?」


「お前は普通に剣を使って戦っても一流だ

ただ、体術を主体に置いた時の方が動きが良い

構えての攻防よりも流れに乗って戦う方が有ってるんだろうな

だから、今後は少々特殊な近接戦闘術を教えていく」


「それは楽しみです」



そう笑顔で言う妙才に元に戻した弓を手渡すと防具を持ち二人が下がった。




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