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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
183/915

        参


石碑に関する話は終えて、華琳と共に扉を開いた。


その中には全く別の空間と登りの階段が有った。

華琳が思わず、扉の周囲を確認していた。

初めて体験すると不思議に思って当然だな。

俺はその辺は既に麻痺した状態だから“そういう物”だと考えられるが。

華琳じゃなかったら此処で説明を求める所だな。

“彼処”で過ごした経験が華琳に割り切らせる意味で役に立ったらしい。


扉の中へ入り階段を進む。

遺跡の中を思い出すけど、華琳は判らないしな。

下手に振って口を滑らせて詰問されたくもないし。



「…何処まで続くの?」


「次の場所までだろうな」


「意味が有るのかしら?

私には只の嫌がらせにしか思えないのだけど?」


「精神的に揺さ振ったり、疲労させて苛立たせたりと対象者に仕掛ける場合には地味に効果が有るな」



そう返すと正に今の自分がそうだと気付いて黙る。


冷静さを奪うという意図は有効な方法。

特に一見して害が無い様な遣り方は本人に油断を生み気付かせずに出来る。


華琳が黙ったまま繋いでる手の指を動かし愚痴る様な抗議の意思を示すが敢えて反応はせず好きにさせる。

“聞いて欲しいだけ”だと判っているから。

それだけでも違うものだ。


そんな風にしながら十分程歩き続けると、視界の先に白い扉が現れた。

少しだけ、華琳の足が早くなったのは無意識。

まあ、全く変化の無い中を歩き続けるのは意外に苦痛だったりするからな。

気持ちは判る。


扉を抜けた先に有ったのは先程の広場と殆んどが同じ造りの空間。

違うのは石碑の所に何故かモアイが居る事。

何故、モアイ…しかも白。



「…これも氣で?」


「近付いてみて反応が無い場合は絡繰りだろうな」



普通のモアイを知ってるとちょっと近付きたくないと思ってしまうが。

そういう偏見の無い華琳は繋いでいた手を離して進み白モアイへと近付いて──白モアイの双眸が青緑色に輝きを放つ。

その様子に華琳は俺の方に飛び退いて警戒体勢に。

…吃驚した仔猫が重なって見えたのは内緒だな。



「ヨク来タ、資格ヲ掴ミシ心強キ者達ヨ…

コレヨリ汝等ニ最後トナル試練ヲ我等ハ与エヨウ…」



そう白モアイが言うと共に両脇へと大きな姿見の様な物体が出現する。

見た目には鏡の様に此方を映してはいるが普通の物で有る筈はないだろう。

そして、全く無意味な形の筈もない。

これは試練に関係してくるヒントだろうな。





「此ヨリ先ハ孤高ノ旅路…

頼レル者ハ無ク、己ノミガ全テトナル険シキ歩ミ…

知リテ尚、臆サヌノナラバ選ビテ進ムガ良イ…」



言うだけ言って白モアイは姿だけでなく存在その物が薄れてゆき──消滅した。



「…幽霊という事?」


「いや、単に役目を終えて消えただけ…

術で創られた偶像だ」


「…実際に見ると想像より出来が良いのね」



妙な感心の仕方をするが、変にパニクるよりは増し。

幽霊を怖がったりしないし何か怖い物有るのかね。

…今度皆で肝試し大会でも遣ってみるか。



「まあ、良いわ…

それで、此処からは別々に進めという事よね?

それとも引っ掛け?」


「別々に、だろうな

最初に“二人で一緒に”と思わせて置いて別々に進む事を態と強制し、心理的に追い詰める…

急に離れ離れにされれば、何方らにとっても不安感を煽れるからな」



付け加えるなら何方らにも自立を強要するって事。

各々の持つ判断力・決断力・行動力の向上辺りが目的なんだろう。



「…“私達”に合わせて、という訳ではないわね

抑、どの組が来るのか──いえ、どんな者が来るのか判らないでしょうし…

だとすれば、この何方らを選んでも関係無い

何方らを選ぶかで揉めたり仲違いをさせたりする事、或いは色々と想像をさせて不安を掻き立てる事が狙いという所かしら…」


「だろうな」



御愁傷様と言うか、華琳もあっさり見抜いたな。

まあ、中身は各々の意識を反映するタイプの可能性が高いだろうけど。

此処まで冷静に対応される事は想像してないだろう。



「鏡、という事は私自身を“写す”と暗示し、内容は弱点を突いてくる様な類いなのでしょうね…」


「其処まで判れば十分…

というか、施行者が哀れに感じるな」


「自業自得でしょ

それに私達を舐め過ぎよ

高々一時の別離が何?

十年…十年私は待ち続けて耐え抜いたのよ

其処らの小娘風情の想いと私の想いを一緒にされては堪らないわ」



“俺は五年だけどな”とか言ったら怒られるな。

そういう事に関する知識も手段も無かった華琳。

その胸の内の本当の部分は俺にさえ判らない。



「雷華、こんなくだらない茶番はさっさと終わらせて新年を迎えるわよ」


「了解」



だからこそ、想う。

誰よりも幸せにしたいと。

誰よりも笑って居てと。


誰よりも──愛している。




 曹操side──


雷華と各々正面に有る鏡に触れると水面の様に波打ち中に入れるのだと理解して身体を進めた。


トプンッ…と本当に水中に潜った様な音が響く。

同時に身体を浮遊感が包み一時的に自由を奪われた。

視界は真っ暗で黒一色。

黒と一口に言っても実際は色彩としては多彩。

それでも今私が感じている黒は一番深いのではないかとさえ思わせる。


上下左右全方位が不明。

“重力”さえ感じない。

手足を動かすのも無駄。

多分、此処から出る方法は私自身には無い。

つまり、待つしかない。



(…成る程ね、あの階段と同様に既に始まっている、という事ね…)



なら、答えは簡単。

心を静めれば良い。

只、それだけの事。


──コポボッ…と、水中で息を吐いた時の泡立つ様な音が響き渡る。

次いで、身体に感じたのは引っ張られる様な感覚。


──と、足の裏に確とした踏み締める感触。

刹那──黒が白へと染まり反射的に瞼を閉じた。


──サァッ…と頬を撫でて髪と衣服を揺らす。


その感覚に促される様に、ゆっくりと瞼を開く。



「……とんでもないわね」



思わず出た言葉。

雷華という非常識の化身を伴侶に持ちながらも普段は“想像出来無い”様な事は遣らないから。

だから、目の前の光景には素直に驚くしかない。


眼前──否、眼下に広がる景色は正に絶景。

自分が生きてきた世界では見た事の無い景色。


大地を染める深緑。

それを抱く様に蒼天の下に広がる白の雲海。

そして、視界の中央に在る美しい青を湛えた湖。

ちょっとだけ、二人きりで旅行に来たいなんて思う。

それ位に綺麗な場所。



「それに比べて…いきなり立っている場所が山の頂きなのはどうなのよ…」



小さく溜め息を吐く。

もし、氣を扱えなかったら私は槍の鋒みたいな岩肌を真っ逆さまに滑り落ちるか滑走している所だわ。

それに冷静で居られるのも日々の鍛練の賜。

本当、継続は力なり、ね。



「さて…観光気分はこれ位にして行きましょうか」



私が目指すべき地は眼下に見える湖──その真ん中に小さく見えている建物。


昔、雷華が“彼処”で私に再現して見せてくれた事が有った建築物。

確か──“ピラミッド”と言っていた筈。


漢王朝の領土では見た事は一度も無い存在。

そして、眼下の景色の中で唯一の“人工物”となれば必然的に目的地は其処しかなくなってくる。





「──其処っ!」



右手を振り抜き、掌に持つ小石を投擲。

木々の枝葉と草や蔦の間を糸を通す様に飛び抜け──



「──ギギャアッ!?」



標的へと命中する。

氣?、使ってないわよ。

雑魚相手に使う程依存する鍛練は受けてないもの。

この程度は素で出来るわ。


地面へと落下した標的へと枝を足場代わりにしながら跳び移って近付く。

少しだけ、草も無く地肌が剥き出しの場所に転がった標的の側へ降り立つ。



「これは…猿…かしら?」



パッと見には猿。

頭、胴、手足、尾、身体を被う体毛…と有る。

小石が命中して貫いた為、頭から真っ赤な血を流して絶命してはいるが。

姿も概ね、私の知る猿。


しかし、決定的に違うのは目が額にも有る三つ目で、頭頂部に円錐形の巻き角、口には大きく尖った牙が、何より腕が四本も有る。



「……はぁ…どう考えても只の猿じゃないわよね…」



現実逃避は止めましょう。

そして現実を見詰める。

それが今、私がすべき事。



「…だとは解っていても、一体何なのかしら…」



雷華的に言えば“妖”とか其方らの類いが濃厚。

しかし、私は実物は未だに見た事が無い。

というか、“此方”に居るなんて話は雷華から聞いた事は殆んど無い。

思い当たるのは倚天青紅と以前の左腕絡み。

如何せん情報不足。

正直、特定は難しい。

ならば、別の方向で考えるべきだろう。



「仮に、これが妖だとして何故“此処”に?」



仮定と疑問を口に出す事で思考を集中させる。


私は勿論、宅の娘達も誰も妖の類いとの戦闘経験など有りはしない。

雷華の話からしても普通は縁の無い生活・人生。

他の二人は当然其方ら。


だとすれば、“災厄”自体或いは間接的に妖が関わる為に準備させるのが目的と考えるべきかしら。



「…でも、そうすると妙な点が有るのよね…」



雷華は備えとして私達にも氣の使い方を教えている。

勿論、まだ十分な域にまで達してはいない。

つまり妖を倒す・殺すには力不足な訳。

それなら当然、只の投擲で妖が死ぬ事は無い。

とすれば、目の前に転がる化け物猿は何なのか。



「……まさか、これが?」



不意に頭を過った可能性。

“正しき命を無くし堕つ”存在ではないか。


普通の生物から妖の類いに変化している段階。

だから“まだ”物理的にも殺せてしまった。

そう考えると納得出来る。




しかし、飽く迄も仮説。

こういう時にも頼りにする雷華の存在は大きい。



「…まあ、此処で考えても仕方無いわね

今は先に進みましょう」



一息吐いて思考を終了。

どの道、情報不足で答えを導き出す事は難しい。

それなら無闇に思考をして注意力や集中力・警戒心を殺ぐ方が危険。


そう考えて先へと進む。


鬱蒼と生い茂る草が邪魔で木の枝を足場に進んだ方が早いとは言え、不意打ちを受けたら拙い。

そんな風に考えていると、大体そうなるのよね。



「──鬱陶しいわねっ!」


「ピガィャアッ!?」



適当な木の枝を手刀で切り落として、氣を使い整えて造った簡易の木剣。

無いよりは増し、と考えて用意していたが実際に役に立つと少しだけ嬉しい。

…ではなくて。



「…はぁ…一体何なの…」



あの化け物猿の後、何度も化け物染みた動物が現れ、行く手を阻んでいる。


頭が二つ有る小柄な虎とか蝙蝠の様な羽が生えた猪、脚が八本も有る二尾の犬、牛の胴体の様な剛腕の熊、蛇の様な身体をした鶏…

先程、斬り殺したばかりの昆虫類の様な甲殻と羽根を持った蜥蜴。


珍しいを通り越して正体をはっきりさせられない事の苛立ちが勝る。

それでも深呼吸して感情を落ち着かせられるのは単に精神修養のお陰。



「…多種多様に用意してるみたいだけど…

もう飽きてきたのよね…」



別に刺激や危機感が欲しい訳ではないのだし。

私としては速やかに試練を終わらせて帰りたい。

というか、雷華に話をして真相を確かめたい。

其方らのモヤモヤとした、はっきりすっきりとしない現状の方が精神的に悪い。



「…兎に角、今は我慢ね」



此処で癇癪を起こしても、誰にも迷惑は掛からないし見られる訳でもない。

憂さ晴らしをするには丁度良い“八つ当たり”相手も居たりする。

実在して居ようが居まいが関係の無い事だし。


ただ、それをしてしまうと駄目な気がする。

これと言った理由は無い。

飽く迄も私の感覚としての問題であるだけ。



「…我ながら染まっているという事かしらね」



“どう”かなんて不粋。

言わずとも一つしかない。

そう感じても不快に思わず寧ろ歓喜や嬉しさを覚える様な事なんて。

だから、まあ…その責任を取って貰う事にしよう。

そう心に決めた。




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