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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
18/907

16 命の行く末 壱


色々有った夜が明けた。


真名の件は三人共納得し、三人の事は甘寧を除いては字で呼ぶ事に。

因みにだが…

字は公的に用いられる名と思われるが、それは姓字を一緒に呼ぶ場合のみ。

字だけを呼ぶのは明らかに格上の相手か主従、或いは親しい関係に限られる。


“女三人寄れば姦しい”と言うが、昨夜は三人で話が盛り上がっていた様だ。


朝には真名で呼び合う様になっていた。

その際に一つ注意。

真名を呼ぶのは構わないが所構わずは頂けないと。

“他者”に聞かせる事すら神聖さを汚す──とまでは言わないが…

公に真名を口にする事は、不特定多数に知られる事になるのだから忌避して然るべきだと。

飽く迄、持論として言ったつもりだったが…三人共に深く頷かれた。

真名の価値は大丈夫か?と不安になったのは余談。



宿を後にし、船着き場へ。

予想通り雨は降ったが特に被害は無かった。

船は予定通り出るそうで、一安心した。


出航までに、仕入れていた商品を捌きに行った。

店を出た後、同行していた儁乂に感嘆された。

漢升から永安の件を聞いていたらしい。

つい、苦笑してしまう。


今回の成果は千六百両。

一部を手元に残していて、元値より高い理由は永安の商人の時と同じ。

ただ、今回は値の叩き幅が大きかった分、売値を釣り上げてやったが。


その後は興覇・漢升と合流して街を散策。

興覇・儁乂にスカート系を勧めて揶揄ったり…

評判だと云う菓子を探して食べてみたり…

儁乂の旅用品を揃えたりとのんびりと過ごした。


そして、出航の時間。

西の空は赤く染まり始めているが、正しいらしい。


次の江陵までは凡そ半日。

つまり、明日の朝到着する事になるそうだ。


夜行は珍しいがこの辺りは江賊や盗賊が少ないらしく心配は要らないとの事。

三人に聞いてみても同様の回答だった。


船内で何か有るでもなく、前回とは違い、静かな夜を過ごす船旅だった。



夜明け前、寝ている三人を置いて客室を出る。

通路を抜け、甲板へ。


まだ星の見える空。

白むまでは時間が有る。


大きく背伸びをして肺から空気を吐き出す。


“この世界”へ来た時には戸惑う事も有った。

しかし、何処であれ結局は自分が自分で在る限り何も違いはしない。


命有る限り、生きる。

ただ、それだけ。


空を見上げて微笑み──



現在(ここ)より永遠に」



“夜明け”を言祝ぐ。




━━江陵


着いたは良いが…困った。

良い風が吹いたとかで予定よりも早く到着。

まだ、朝靄が船着き場には立ち込めている状態だ。



「…どうしますか?」



漢升も苦笑しながら訊くが選択肢は限られる。



「取り敢えず、宿を探そう

部屋を取れれば休息しつつ待てば良いし」


「…そう言えば、飛影様

此処からの予定は?」



儁乂が訊ねる。

まだ、言って無かった事を思い出す。



「北上して洛陽へ、かな」


「また曖昧な…」



呆れ気味な興覇。

だが、理由は有る。



「洛陽を目指して行くけど道中に何が有るか判らないからな

場合によって変更も、な」



そう答えると納得して頷く興覇の頭を撫でる。

背の関係上、丁度良い高さだったりする。



「という訳で、漢升

宿と皆を頼むね」


「それは構いませんが…

飛影様は何方らへ?」


「狩り♪」



そう笑顔で答えると漢升は呆然とするが直ぐに理解し苦笑、興覇は深く溜め息を吐き、儁乂は小首を傾げて考えいた。



「程々にして下さいね」


「判ってる

昼食までには戻るよ」


「お気を付けて」



三人に見送られて朝靄の中へと消えて行った。






江陵の東に広がる湿地。

湿原と違って、森林の中に底無し沼が有ると言う方が判り易いだろうか。


茂みに入れば、運が悪いと足を捕られてしまう。



「た、助けてくれっ!」



目の前で、胸元まで沈んだ男の様に。

それを木の枝に腰掛けて、両肘を膝に着き両掌に顎を乗せて見下ろす。



「た、頼むっ!

な、何でもするっ!

だから、助けてくれっ!」



じわじわと感じる“死”に冷静さを失ったか。

この男は忘れている。

“何故”自分が現状の様に至ったのか。



「だ・か・ら〜

“逃げ切れたら”見逃してあげるって言ったよ〜?」



態と子供っぽく言う。

そうする事で油断を誘い、力関係を誤認させる。

後は、ゆっくりと追い詰め狩って行くだけ。

で、この男が最後。

仲間は既に黄泉路へ。



「大体ね〜

そう言った人達に対して、貴男達はどうしてたの〜?

“助けて”と言う人達に、何て言ったのかな〜?」


「そ、それ、は…」



“あ〜あ…”と落胆。

自分の業すら背負えない、小物が残っていた様だ。

せめて、平然と虚言を吐き意地汚く生き延び様とする位はして欲しかった。


興醒めし、溜め息を吐くと共に、その命を狩った。




湿地に巣食っていた賊徒を狩り終え、屍等の後始末をしていた際──発見した。


六番目と七番目を。


一つは矛槍。

翼槍と同じく、自ら錆びを身に纏っていた。

しかも沼の底で。

“引き篭り”も大概だ。

露になった姿は深い水底を思わせた。

深い紺色に、然り気無いが上品な銀の装飾紋。

刃の形は西洋剣の先端部を切り取った様な感じ。

翼槍に比べ無骨に見えるが身幅の広さは切れ味と共に“面”での受けも可能だ。


もう一つは杖。

“花杖”とでも言おうか。

此方は古木の根本に埋まり蔦を絡ませていた。

木製の様では有るが普通の木材とは質が違う。

木製に見せた軽量金属製と思える位だ。

実際は木製だが。

赤茶色に白の装飾紋。

先端には水晶の様な結晶で作られた透明な花の蕾。

ダイヤとも違う様だ。


能力試しは次の機会。

“影”に入れ戻るか──と思った時だった。



「…此方だな…」



定めた方へと進む。

沼に気を付けながら茂みを掻き分けて行くと…



「…自然の摂理、か…」



其処には二羽の鷹の屍。

辺りに散乱した羽根と血。

争った痕跡と見るのが妥当だろう。


屍を“診て”見れば雌雄で有る事に気付く。

そして、敵意──否、警戒している気配にも。


視線を向けると一羽の雛。

体長は10cm程。

もこもこの灰色の羽毛。

藍色の瞳が此方を睨む。


怯えながらも、生きる為に“威嚇”して身を守ろうと必死なのが判る。


その雛の前に歩いて行き、顔を覗き込む様に屈む。



「お前の両親は死んだ

その事実は変わらない

だが、お前は生きている

お前の両親が命懸けで守り抜いた結果だ」



普通なら言葉を理解させる事は困難だ。

しかし、氣を雛に同調させ直接、意志疎通を図る事で可能にする。



「ただ、今のお前は一人で生きて行く事は不可能…

このまま他の者の餌になるのが目に見えている」



まだ雛と言えど、自然界に生きているから判る。

人間の子供とは違う。



「だから、俺がお前の親に代わって守ってやる

お前が自分の翼で、意志で飛び立つ、その時まで」



そう言って、雛へと笑顔で右手を差し出す。



「一緒に来るか?」



逡巡する雛。

しかし、意を決し、小さな身体を動かしながら掌へと乗ってくる。


雛を左腕で胸元に抱えると親鳥を埋葬。

湿地を後にした。




 other side──


━━江陵


昨日の雨には参った。

本当なら今頃は舒に向かう船に乗っている筈だった。


ところが、一昨日の夜から降り始めた雨が今朝になるまで止まず、風も強かった為に船が出なかった。

加えて、この先で崖崩れが起きそうだとの事で数日は様子を見るらしい。



「…ふぅ…私が気にしても仕方無いですね…」



溜め息と共に呟く。

せめて気晴らしになればと思って街に出た訳だ。

暗くなってしまっては元も子もない。

兎に角今は何か楽しい事を見付け気持ちを切り替える事が大切。



「…よしっ」



胸元で両手を小さく握り、気合いを入れる。



「それでは、何処に──」



そう言って“隣”を見ると居る筈の人が居ない。

空虚になった左側に思わず瞬きし、目を右手で擦って確認した。


しかし、現実は無情。

其処には“誰も”居ない。



「………」



胸に去来する切なさ。

ちょっとだけ、涙が出そうになる。



「と、取り敢えず!

探してからですよね!」



誰に言うでもない。

自分に言い聞かせる。

そうしないと挫けそう。


それに…何方らにしても、彼方此方へ街を歩かないと見付からないだろう。



「先ずは………お菓子でも見に行きましょうか」



決して、私が欲しいからと言う訳ではない。

飽く迄も、参考に。







「美味しかったですね…」



まだ舌に残る味。

その余韻に浸ると思わず、頬が緩んでくる。

目を瞑れば、より鮮明に、記憶が甦る。



「おっ、其処を行く可愛いお嬢ちゃん!

もし良かったら、ちょっと見てってくれねえか?」



そう言う男性の声。

つい足を止め目を開け声の方へ視線を向ける。

通りの両脇に並ぶ露店商。

成る程、と納得。



「…こういうのも悪くないかもしれませんね」



そう思って露店を見て回る事にした。


暫く見て回り、髪飾り等の装飾品を扱っている露店の商品に見入っていた。


金と銀に翡翠をあしらった蝶と花の髪飾り。


一目で判る上質な造り。

素材で誤魔化す二級品とは全く違う。

しかし、売り物ではないと言われた。


仕方無く記念にと見ていたのだけれど…



「正直に白状しろっ!」


「違いますっ!」



その露店商と口論に。

回りの目も気になる中──



「どうしました?」



そう言われて振り返ると、綺麗な女性が立っていた。



──side out



江陵に戻ると、三人の氣を探して街を歩いていた時、大声が聞こえた。

怒声の位置を見れば…

露店商らしき中年の男と、雪の様に白い髪の女性。


男を見て直感した。



「どうしました?」



平静を装い声を掛ける。

第三者の介入。

この手の面倒事に自ら首を突っ込む物好きは少ない。

だから、両者共に驚く。



「随分と騒がしいもので…

それで?

何が有ったのでしょうか」


「それが──」


「どうもこうもねえよっ!

この女が俺の大事な商品を盗んだんだっ!」


「ですから!

違うと言っています!」



そのまま言い合う二人。

予想通りの展開だ。



「落ち着きましょう

出来る話も進みません」



二人が黙り頷く。

それを見て先ずは男に。



「盗難の件は兎も角として商品が無くなった…

これは確かですね?」


「ああ、間違いねえよ」



男は“お前が盗った!”と言わんばかりに女性を睨み付ける。



「どの様な物ですか?」


「西で評判の職人が金銀に翡翠をあしらった髪飾りで蝶と花が細工された逸品だ

万が一にも盗まれねえ様に此処に置いといたんだが…

二千両もしたんだぞっ!」



此処ぞとばかりの主張。

正直、耳障りだが我慢。



「貴女も御覧に?」


「はい、確かに…」



分が悪い、そう感じたのか女性は気落ちする。



「無くなった状況は?」


「向こうで騒ぎが有って、それを見た隙にこの女が」


「違うと言っています!

大体、その時は私も騒ぎを見ていました!」


「誰が証明すんだ?

あの時、此処には俺とお前しか居なかったんだ

お前が犯人だろうがっ!」


「だから──っ…」



反論する女性を右手で止め男を見る。



「証明出来無いのは貴男も同じでは有りませんか?」


「な、何だと手前ぇっ!

さては此奴の仲間かっ!?」


「いいえ、初対面ですよ」



きっぱりと返され、小さく男が呻くが気にしない。



「話は判りました

向こうで騒ぎが起きた時、此処に並んでいた髪飾りが無くなった

その時、二人しか居らず…

しかし、盗んだんだ瞬間を見た訳でも、証拠も無い

そうですね?」


「証拠なら此奴を裸にして見れば判るだろうがっ!」


「なっ!?」



男の言葉に女性は反射的に両手で身体を抱き締めた。

やれやれ…と思いながら、詰めに入る。



「では、こうしましょう」




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