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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
176/915

         参


 Extra side──

  /小野寺


反射的に、と言える行動。

それでも後悔は無い。

いや、後悔したくないから自ら動いた。



「ゆ、祐哉さ〜ん!

もう少しゆっくり〜って〜

其方じゃないですよ〜!?」


「早く言ってっ!?」



慌てて急ブレーキ。

近くの木の幹を右手で掴み勢いを殺しつつ方向転換。

実際に強引な方法なのだが自分で思ってる以上に早く走っていた様で右腕の筋が軽く軋み、痛んだ。

それでも気にしている暇は無いので穏の指差している方へ向かって走る。



「こっから先はっ?!」


「真っ直ぐに行ってから、斜め左前へと向かった後で暫く行って右真横に〜」


「目印無いのっ!?」


「あ〜…無いですね〜」



取り敢えず訊いてみたけどやっぱり無いよな。

というか、よく只の森林で方向感覚狂わないな。

俺なんてもう、東西南北が何方かすら判らないのに。

これが軍師の能力か。



「多分、違いますよ〜」


「読心術っ!?」


「何と無くです〜」



ある意味の“御約束”的な会話ではあるが、俺にしてみれば吃驚する事だ。

人外染みた第六感の雪蓮や経験豊富な祭さん相手なら読まれても仕方無い。

というか、納得出来る。

だがしかしっ!

穏にまで読まれるとは。



「……祐哉さ〜ん?

何だかと〜っても失礼な事考えてませんか〜?」


「イイエ、ソンナ事ハ全ク無イデスヨ?」


「む〜…本当ですか〜?

可笑しいですねぇ〜…」



誤魔化し切れたかどうかは現状では追及出来無い。

寧ろ、しないで下さい。

出来れば帰ってからも。



「其処の岩の手前を左側に行って下さ〜い」


「判った!」



さっき俺が間違えたからか一足早く教えてくれる穏。

流石と言うべきか同じ様なミスはしない。

口調が乱れていない事から判る様に穏の体力は意外に有ったりする。

普段は疲れた振りをして、運動したがらないけど。

それに自慢じゃないが俺も走るだけなら自信は有る。

例えそれが森の中でも。

その俺と5m以上遅れずに追走している事だけ見ても運動能力は低くない。

只、彼是考え過ぎてる時の穏がドジをするだけ。

後、あの胸の大きさで何故多節棍を使うのか。

その辺が理解出来無い。

…まあ、その、なんだ。

この世界は巨乳の弓使いが三人も居るから理屈だけの話じゃないんだけどさ。



「祐哉さ〜ん、その大きな木の手前を右ですよ〜」


「了解っ!」



そう言って生い茂る草木を突っ切って走り抜けた。




──瞬間だった。

突然、地面が消えた。


ジェットコースターとか、フリーフォールとか乗ると感じる“あの”感覚。

そう、無重力の浮遊感。


それを感じ取った時身体が宙に放り出された事に漸く気付く訳だが…

時既に遅し。

行き場を失った両足が宙を彷徨う様に暴れる。

視界の先に切り立った崖が見えている。

どうやら谷にでも踏み込み落下して行くらしい。



「ぁああぁあぁ──うぇ?うおあぁああぁーっ!!??」



短い人生、終わったな──とか考えてた次の瞬間に、宙をバタついていた右足が何かを蹴った。

次いで左、また右、左──今まで以上の早さを出して両足が回転する。



「さ、坂ぁあぁぁあああぁああぁぁあーーーっ!!??」



足場を捕らえた反動で頭が進行方向──崖下へと向き自分が今斜面を下っている事を認識する。


車は急には止まれないし、人も急には止まれない。

しかも、中々に急勾配。

雪が降ってたら橇に乗ればかなりスピード出して滑降出来るだろうな。



「──とか、考えてる場合じゃねえぇええーーっ!!」



今自分が向かっている──正確には突っ込む事になる場所では二つの勢力が睨み合って戦っている。

片方は孫家の兵の人達。

もう片方が多分、敵。

で、俺の進路上に居るのは敵さんの方。

しかも二十人位が密集したヤバめの場所。

進行方向の修正?

無理無理。

両足折って転がって凹凹にされるのが目に見えてる。

ギャグじゃないから確実に死ねるだろうな。

寧ろ、その状態で助かると後が大変だと思う。

助かる可能性無いけど。


となれば、今の俺に出来る選択は一つしかない。

あの敵さんをクッションに勢いを殺し、反対側に居る味方の方に転がる。

かなりリスクが高いが今はそれ以外にはない。

そうと決まれば減速しても意味は無い。

寧ろ加速有るのみ。



「うおおぉおぉーーっ!!」


「な、何だっ!?」


「新手かっ!?」


「丸腰のガキが一人だっ!

気にするなっ!」



おおっ、ラッキー!

声に反応して見付かったが意外に冷静に此方の状態を観察していた奴が居た様でそう指示を出した。



「いや待てっ!、捕まえて人質に使えっ!」


「そうかっ!」



──ちぃっ!、余計な事を指示したのは誰だっ!?

彼奴かっ!、あの髭かっ!

Target Lock ONっ!!

絶っ…………対ぇにお前はぶっ飛ばすからなっ!!




前傾姿勢に成って一直線に一人を目掛け加速・加速・加速・加速っ!!


斜面の終わり際から3m程手前で踏み切り、空中にて身体を斜め後ろにして少し横に捻り右足を突き出して左足を曲げた跳び蹴り──所謂、元祖仮面戦士さんの必殺技を繰り出す。



「死に晒せやゴラァアアァアアァアァーーーッ!!!!」


「何だ──どぅべらっ!?」



人生初の逆ギレ。

だって、向こうからしたらこの場から生き残る為には人質でも何でも出来る事を遣るしかない。

そういう意味ではお互い様なんだけどさ。

取り敢えず、自分の生死が懸かった状況で曾て無い程テンションはMAX。

後悔?、知らないね。


俺の右足は標的の顔面へとどストライク。

ビリヤードの球が弾け飛ぶ様子と同じ様に俺の勢いを全て“髭”が吸収。

綺麗に吹っ飛ぶ。

序でに近くに固まっていた連中を巻き込む。

スタッ…とアクション物の主人公のワンシーンばりの華麗な着地を決めて悠然と佇み、その余韻に浸る──みたいな真似はせず即座に味方の方にダッシュ。

だって俺丸腰だもん!



『お、小野寺様ぁっ!?』



かなりの予想外な人物──俺の登場に対しては孫家の兵の人達も吃驚している。

半分以上は声が裏返ってるみたいだし。

…そんなに意外かな。

………うん、意外だな。

俺が皆の立場でも同じ様に考える事だろうし。

だって“戦力”に数えれる実力無い訳だし。



「隙だらけっ!

倒れてるのから優先っ!

怪我人は下がってっ!」


「──はっ、はいっ!」


「総員!、反撃っ!」


『雄おおぉーっ!!』



咄嗟に出した指示に対して兵の人達が即座に反応。

動揺している敵の隙を突き残存していた内の1/3が一気に減った。



「小野寺様は此方へ」



俺の護衛、という事なのか傍に来た女性の兵士の人に案内されて数人の負傷者が集まっている所へ行く。

見た感じ重傷者は居ない。

とは言っても腕や太股等を斬られたり、貫かれたり、矢が刺さったりしている為今回はもう無理だろう。



「逃がすかあーっ!!」


「──っ!?」


「──きゃあっ!?」



背後から聞こえた声に対し反射的に隣に居た女性兵を押し退けたが、左腕に鋭い痛みが走った。

左目の視界の端で赤が散り少し遅れて自分が斬られた事を認識した。



「死ねやぁーっ!」



咄嗟の行動で体勢が崩れて右膝を着き、女性兵を庇う格好に成った所へ声を上げ剣を振り上げた敵が迫る。




──殺られるっ!


そう感じた瞬間、敵の姿がスローモーションになり、世界が緩やかに流れる。


死の瞬間だからだろうか。

それにしては未だ走馬灯が見えて来ないな。

そんな風に意外な程冷静に考えている自分が居る。


同時に頭を過る考え。

このまま大人しく殺されて死を受け入れるのか。

次いで脳裏に浮かんだのは雪蓮、祭さん、穏…

彼女達の泣き顔。


──見たくないっ!


悲しませたくない。

失いたくない。

離れたくない。


まだ──死にたくないっ!



「──ぁああああっ!!!!」



その一心が突き動かす。

右手を倒れた女性兵の佩く直剣の柄へと伸ばし掴むと強引に身体を左へと捻り、逆手に抜き取った剣を敵に向かって振り抜く。


鈍く、重く、不快な感触と抵抗が手に伝わる。

肉を、命を、人を切り裂く感触に心が戸惑う。

しかし、躊躇えば自分だけではなく女性兵や負傷者の命を危険に晒す事になる。

脳裏に浮かぶ最悪の結末が一時的とは言え、迷う心を消し去った。



「なっ──ぁぐぅ…」



グヂュッ…と嫌な音が耳に入ってくる。

雪蓮と祭さんに言われた。

俺には剣の才能は無い。

漫画やアニメの主人公とは違って、ピンチに都合良く覚醒したりする訳ではなく敵をぶった切る様な真似は出来る筈も無い。

剣の半分位が敵の腹部へと埋まっている。


死に等しい致命傷の痛みに堪えながら敵は振り上げた右腕を振り下ろそうとし、道連れに殺す気だと考えて左手を柄に添えて力任せに剣を押し込む。



「…ぅ…ごぉ…ぁ…」



押し退ける様にすると敵は仰向けに倒れた。

僅かに呻き声を出したが、目と口を開いたまま呼吸が途絶えた。



「…はぁっ…はぁっ…」



無酸素運動をした後の様に全身を疲労が襲う。

呼吸は乱れ、まるで全速で持久走でもした様だ。

視線を右手に落とす。

反動で抜けた直剣の刃には鮮血が滴る。

それを見て、甦る。

俺が“人を殺した”という逃れ様の無い感覚。

胃の中が、腹の奥底から、込み上げてくる感覚。

しかし、まだ戦いの最中と自分自身に言い聞かせて、どうにか堪える。



「油断するなっ!

全員で生きて戻るぞっ!」


『──はいっ!!』



虚を突かれた格好に為って茫然としていた負傷者達も意識を引き締める。


──というか、穏さん!

頼むから早く来てっ!

俺の精神もHPも限界寸前ですからねーっ!?



──side out



 陸遜side──


私より早く走って行く背を見詰めながら考える。


小野寺祐哉さん。

巷で噂の“天の御使い”で私達の“旦那様”候補。

初めて逢った時には孫家の兵士さん達より頼りなくてひ弱に見えた。

でも、罠に嵌まったと知り誰より早く反応した。


いきなり腕を引っ張られて走り出されたので私も吃驚しましたよ〜。

その後は森の中で行き先を間違えたりしましたけど、不思議と以前より頼もしく大きく見えました。


目的の場所──戦場に着く直前の方向転換。

──した直後でした。

先が斜面になっている事をすっかり言い忘れていて、気が付けば祐哉さんは坂を全速力で降っている。

あ〜…ごめんなさい。


──って、よ〜く考えたら祐哉さん丸腰ですよね。

…どうしましょう〜…。


そんな風に考えていると、祐哉さんは何を思ったのか敵のど真ん中に居た一人に全力で跳び蹴りを繰り出し見事に成功。

しかも、蹴ったのって多分此処の敵の指揮官ですよ。

真っ直ぐ狙ってましたから祐哉さんは坂を降りながら戦況を分析して見抜いたのかもしれませんね〜。

ちょ〜っと実戦経験が無いだけで、実は物凄い才能を秘めてるのかも。

これは雪蓮様に報告しないといけませんね〜。


祐哉さんの後を追って私も坂を降り始める。

勿論ゆっくりとですよ〜。

祐哉さんみたいに全速力で降る様な真似は私には絶対出来ませんけどね〜。


祐哉さんの乱入で膠着状態だった戦況が動いた。

指揮官が複数名を巻き込み倒れた事で敵は混乱。

その隙を突き此方は反撃。

一気に戦勢は傾いた。


攻撃した後、直ぐに味方の方に走っていた祐哉さんの判断も間違っていない。

丸腰ですからね〜。


しかし、敵の中にも副官と言える存在が居たようで、前掛かりになっている兵の僅かな隙間を掻い潜って、祐哉さんを狙った。

正確には祐哉さんを後方に案内していた兵士さんを。

だけど、祐哉さんが気付き一瞬早く兵士さんを押して退かして守る。

倒れて窮地に陥った状態で祐哉さんが剣を振り抜き、敵を倒した。


人を殺した事は無い。

そう言っていた祐哉さんを突き動かしたのは己の死に対する恐怖なのか。

或いは“守りたい”という強い想いなのか。

はっきりとは判らないけど格好良かったですよ。



──side out。



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