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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
171/915

         参


 曹操side──


半日──というより昼まで一緒に過ごして見て意外に三人とも人間関係が円滑な事が判った。


葵は雷華関連だと食い付き積極的に会話に参加するがそれ以外では無口という訳でもない。

単に興味の無い事に対して反応が薄過ぎるだけ。


彩音は会話的には普通。

本当に出不精なだけね。

ただ、誘われたりすれば、以外にあっさりと出掛けるみたいだから取り敢えずは良しとしましょう。


螢は私が思うより精神的に臆病な部分は無かった。

只単に会話・自己表現力が未熟なだけみたいね。

通りで雷華が桂花みたいに注意したりしない筈ね。

この娘に必要なのは経験。

ただ、それだけね。



「──で?、何にするのか決まったかしら?」



私の目の前では葵と彩音が対峙している。

昼食で何を食べるか互いに譲れないらしい。

まあ、十分時間は有るので好きにさせている現状。

泥沼化するなら私が権限で決めてしまうけど。

因みに、螢は食事の最後に甘味が一品食べられるなら何でも良いようね。

私の隣で二人の事の行方を静かに見てるだけだし。



「──っし!」


「──くっ…」



白熱した猜拳勝負の結末は拳を掲げた葵に軍配。

膝から崩れ落ちた彩音。

こんな子供染みた事なのに本気で一喜一憂する姿には呆れを通り越して感心してしまう。

だけどまあ、今回の方策の結果としては十分──



(──いえ、待ちなさい

あの雷華がそれだけの為に私達を引き離すかしら?)



一緒に行動するだけならば潁川郡内でも事足りる。

此処まで各郡に分散させる必要は無い筈。

だとしたら、其処には何か意味と意図が有る。

それも私達に感付かれると“面白味”が減る類い。



「…ったく、相変もわらず何を考えてるのか…」



思わず呟いたのを聞いてか螢が小首を傾げる。

意味が判らず不思議そうな表情をしている頭を右手で撫でて誤魔化す様に笑う。

この娘って、妙に撫でたい衝動を与えるのよね。

身長的には私より少しだけ低いだけなのだけど。

年下なのも一因かしら。


雷華の“撫で癖”は昔から私もよく知っているけど、私達は違う。

そういう癖は無い。

…“雷華に撫でられたい”という気持ちや欲求とかは有るのだけれど…ね。

まあ、悪い気はしないから構わない事よね。



「さ、漸く決まった事だし昼食にしましょう」


「はい」



そう促して、無駄に健闘を讃え合っている二人の元に歩いて行った。




食事を終えて、懐中時計を右手で取り出して見ると、もう直ぐ午後1時。


隣では螢が杏仁豆腐を実に幸せそうに食べている。

宅は甘党が多いわね。

尤も、甘い物が嫌いな女性自体少ないでしょうけど。

事実、葵・彩音も別腹だと頼んだ甘味を美味しそうに食べているし。

私はそんな気にはなれないのだけれど。

だって、雷華が何時・何を仕掛けて来るか判らない。

醜態は晒せないもの。



《──あーあー、テステス

ん…青巻き紙、赤巻き紙、黄巻き紙、生麦生米生卵、本日は晴天なり〜》


『──っ!?』



突然の頭に響く声。

声色と内容から直ぐに私は事の正体に気付く。

しかし、一緒に居る三人は訳が判らず右往左往。

明らかに挙動不審。

螢なんて匙を加えたままで固まっている始末。

それに首謀者は態と沈黙し反応を窺っている様子。

質の悪い確信犯だわ。

この様子だと、他の娘達も似た様な状態でしょうね。

それに私だけは繋がってるみたいだし。



《皆、落ち着きなさい

これは紛れも無い現実よ

詳しい説明は“実行犯”がしてくれるわ》



そう、声を送ると目の前の三人も驚きつつも冷静さを取り戻した。



《実行犯は酷くね?

まあ、否定は出来無いが…

皆、暫く話せる状態に──あ〜…悪い、10分程後で改めて話の続きをするから聞ける状態で居てくれ》



そう言って一旦“接続”が切られた事を感じる。



「……誰か、何か有ったのでしょうか?」


「状況的に“お花摘み”に行っていたのかもね」


『あぁ〜…』



自分がその状況に置かれた時を想像したのだろう。

葵と彩音は同情をする様な苦笑を浮かべて納得して、螢は顔を赤くして俯く。

誰かは判らないけど何とも間が悪い娘ね。

不運──いえ、寧ろ幸運と言えるのかしら。

上手く交渉さえすれば雷華相手に利を引き出す材料になるでしょうね。



「華琳様は先程起きた件が何なのか御存知で?」



そう訊ねたのは葵。

即座に冷静になり、状況の把握に入る辺りは流石。

古参の一人でも有り、長く雷華に師事しているだけは有るわね。



「…そうね、知っていると言えば知っているし…

知らないと言えば知らないとも言えるわ」


「…それは…華琳様の知る事とは…似て非なる物と…言う事ですか?」



私の言葉で直ぐに理解して切り返したのは螢。

その確かな才器の成長と、未完の事実に喜びを感じて首肯しながら右手で彼女の頭を撫でた。




宣言通り10分後。

再び“接続”を感じる。

今回は予め意識していた為自覚出来た。



《さて、改めて説明するが今聴こえている声は各々の頭に直接声を届けている

“以心伝心”を具現化した状況に近い物だ

しかし、そうは言っても、飽く迄も限定的にだ

流石に思考や心慮の全てを伝える訳じゃない

でないと、この時点で皆の全てを無断で読み取ってる事になるからな》



そう雷華に言われて三人が納得する様に頷く。

私は知っているから三人の様子を冷静に見られるけど客観的に見たら無言のまま頷いてるのは異様よね。

変な噂が流れない様に後で雷華には言って置かないといけないわね。



《で、何でこんな事が急に起きているかと言うとだ

お前達が持つ懐中時計──“纉葉(さんよう)”の持つ時間の完全同調の仕組みを利用した機能だ

これは持ち主同士、つまり俺とお前達だけの心を繋ぎ意志疎通出来る

尤も、今はまだ俺からしか接続出来無いんだけどな

氣の修練が進めば、孰れは全員が自分の意志で任意の相手と接続可能になる》



そう言い、一旦間を置く。

何か他にも有るだろうとは貰った時に思っていたけど雷華もとんでもない機能を付けていたものね。

でも、まだ有りそうよね。



《でだ、さっき華琳が声を発していた事が気になった者も居ると思う

この伝心は氣を媒介として生身でも出来る技術でな

華琳には以前に何度か試す際に付き合って貰ってた

だから、接続する感覚とか話し方も理解してる訳だ》



その声を聞きながら普段の視線での意志疎通と同様に自分の番だと察する。

経験から来る“流れ”だと判っているから。



《今雷華が言っていた様に一応は私も話せるわ

ただ、この接続自体は雷華任せなのだけどね》


《まあ、そんな訳だ

それでだ、この伝心機能は各々の纉葉が媒介の要だが纉葉だけだと大体五里位が最大範囲になる》



五里──約20kmね。

雷華の話だと、この辺りの一里は400〜560mが“彼方”認識らしいけど、何故か雷華の国の約4kmが此方の認識みたい。

というよりは“彼方”での文化や風習が混在しているそうなのだけれど。

擦り合わせ中に戸惑ったと愚痴っていたものね。

…話が逸れたわね。

まあ、生身だと雷華でさえ5kmが精々らしいから十分凄い事だと言える。




でも、それだと今の私達の状況は説明出来無い。


泱州の各地に散って居り、百里近くは離れている組も有るのが現状。

仮に雷華が中心点に居ても片側凡そ五十里。

軽く見積もっても十倍もの距離が存在している。

他にも要因が有るわね。



《今までの話で中には既に気付いている者も居るとは思うが纉葉だけでは現状の説明は難しい

因みに俺が居るのは許昌だ

私邸の縁側に座ってる》



そう言った雷華に対して、皆が呆れた様に苦笑したり溜め息を吐いている様子が手に取る様に頭に浮かぶ。

これも経験の成せる事ね。



《伝心機能の有効範囲域が拡大している理由は州内に設けた中継機が有る為だ

これによって今の最大域は泱州の州境から全方位外に五里までになる

それに、皆の纉葉自体でも中継役は可能だから最大で繋ぐと更に拡がるな

直線的にだけどさ》



オチを付ける様に言うけどそんな気になれないわよ。

一体何がしたいのよ。

その無駄に高い性能は。



《あと、それからもう一つ

皆の纉葉は位置確認の為の目印にも成ってる

会議室の装置でも捕捉して把握出来る仕組みだ

将来的には戦術的な運用も有るかもしれないから一応言って置くな》


《…一応というか、確実に有り得るでしょう…》



私が皆の言葉を代弁する。

用いない理由が無いもの。

そんな物が有れば誰だって戦術・戦略的な運用をして当然でしょうからね。



《便利だとは思うけどな、それを前提条件にしてだと戦術・戦略の発展が滞る

特に軍師陣の成長を妨げる可能性が高い…

そんな訳だから基本的には運用しないつもりだ

人間、楽を覚えると成長・進歩が終わるからな》



雑談する様な口調だけど、言っている事は厳格。

要は楽して勝てる戦いなら軍師は不要、とも取れる。

そして、楽な戦いになれば雷華の戦いに対する教えは意味を無くす。

穢されるとさえ言える。

それが判るから私は言葉を返す事は出来無い。

私自身の意志に反する事と理解してしまったから。


同時に、恥じ入る。

多分、皆も同じだろう。

戦いに勝つ事は重大だ。

しかし、それだけに固執し見失ってはならない。

私達が雷華から学んだ事は勝つ為の物ではない。

慣れてしまってはならず、その事を常に心して歩む。

それが私達の道。

そう、改めて認識する。



《とまあ、そんな感じだ

実際には当面使う事は無いだろうけどな

じゃあ皆、気を付けてな》



そう言って接続は切れる。


期せずして大切な事を心に刻み込む事が出来た。

それが何よりの収穫ね。



──side out



伝心を終え、一息吐く。

縁側の柱に背を預け左足は伸ばして右膝を立てている格好で日向ぼっこ中。

仕事?、今してたでしょ。


まあ、それはさて置き──纉葉の運用は現代社会での軍事問題に繋がる。

人間性の欠如と喪失。

“戦争ゲーム”になっては全てが無意味に成る。

戦いで散る命は無駄という事ではない。

痛みが、悲しみが、傷が、怒りが、憎しみが…

時として必要となる。

次の世界を育む糧として、人の心を変える標として。



「………重い…」



真面目な話が、ではない。

物理的に、だ。

ピュィーっ!!、と抗議する様に文字通り頭の上に乗り翼を広げて鳴くのは飛雲。

順調に成長し、もう巣立ち出来る筈なのだが…

人に慣れ過ぎたのか俺達の側から離れたがらない。

普通以上に飛べているし、狩りも上手、美鳥(?)だし自然界に戻れば引く手数多だと思うんだけどなぁ。


そう思いながら、御手製の杏のドライフルーツを口に運ぶと頭上から飛び下り、右膝の上に着地する飛雲。

噛み千切って右手に残った分を差し出すと嬉しそうに食み取って膝から縁側へと降りて食べ出す。



(…甘やかしたかなぁ…)



いやいや、一鳥(?)前には育て上げたし、人間に対し無警戒という事も無い。

寧ろ“お前は猟犬か?”と訊きたくなる位に賢い。

下手な人間よりも見る目が有るだろう。



「…恩返し、か…」



右手で杏を啄む飛雲の頭を撫でながら思い出す。


自力で生きて行ける様にと育てて来たし、約束した。

なので、これからの生涯はこの子自身の自由。

それに対し、返った答えは“自分も役に立ちたい!”という物だった。

“自分も”の部分は皆との比較ではなく、栗花達への羨望だろう。

人馬一体という表現が有る程に人間と馬は長い歴史の関係だからな。



「…まあ、そうしたいと、お前が思うなら構わないがちゃんと“婿”は見付けて来るんだぞ?」



そう言うと、ちょっとだけ拗ねる様に鳴く飛雲。

まだ、花より団子。

年齢的にも仕方が無いか。

時期が来れば、自然と番う相手を見付けるだろう。


…一足早く、娘を嫁に出す立場になるのかねぇ。




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