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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
163/915

       参



「だけど雷華、その場合に“王”の認識の反映は必要有るのかしら?

“天の御遣い”の存在さえ肯定出来れば後は“王”の認識次第…自由でしょ?」


「まぁな…ただ華琳自身の体験を加えるとどうしてもそれが必要になるだろ?」


「それは…そうだけど…」



腑に落ちないという表情で此方を見詰める華琳。

ちょっと拗ねてるからか、少し頬が膨らんでいる。

本人は無意識なんだろうが──可愛いな。



「それに街の民や警備兵、侍女達、隠密衆に聞いても全員が否定派だった…

加えて全員が噂──予言を一字一句間違えずに言える事も異常だからな

曹家の領内は識字率が高いとは言ってもだ」


「確率的に一人位居る方が自然でしょうしね」


「それに、時代的に民心が弱ってるから予言に縋って希望を持ちたいって感じでだろうけどな

曹家の領内では無縁な事と言えるが」


「貴男が立て直したものね

曹家の民として」



得意気に、誇らしそうに、笑みを浮かべる華琳を見て俺の方は苦笑する。

柄じゃないんだけどな。



「術の効果としては貴男の仮説に納得出来るけど…

目的の方はどうなの?

確かに“歴史”的な流れや未来の知識・技術は大きな価値が有ると思うけれど、貴男の様に擦り合わせての運用は簡単には出来無いと思うのだけど?」


「それは現時点での回答は難しい問題だな…

実際に見てみない事には、何とも言えない」


「三國の王の一人が私なら貴男には残る二人が誰かも判っているのよね?」


「そうだな…

教えても良い頃合いか」



そう言うと華琳の目が強く輝きを増した。

今まで隠してきたしな。

よく我慢したと思うよ。



「二つの内、片方は孫家が興す事になる」


「それは蓮華の姉の孫策の事で良いのかしら?」


「“歴史”的には孫文台は存命中で、乱世の中で命を落とす事になり、その後は孫策を当主として今の様に袁術の客将になる…

だが、孫策は志半ばで倒れ孫権が後を継ぎ──建国を果たす事になる」


「…蓮華が?

でも、あの娘の傍には…」


「前にも言ったろ?

“歴史”的には、だ

この世界は似て非なる物…

“彼方”を基準に考えれば“此方”が外史だが…

“此方”を基準に考えれば“彼方”が外史になる

正直、俺にも“何方ら”が基準なのか判らない

何方らが正しいのかもな

ただ、それでも──」


「──私達は此処に在る

それが全て、だったわね」


「そういう事だ」



今一度、意志を確固とした華琳と見詰め、頷き合う。





「孫家はどうなると貴男は見ているの?」


「“歴史”では孫策・孫権共に男兄弟で、他に弟妹も居たとされている

“此方”では三姉妹だが、孫策が居て後を妹が継いで国を興すなら末妹の孫尚香でも代役にはなる筈だ

まあ、孫策が生存する方に運びたいとは思うが…」


「蓮華の為かしら?」



真面目な雰囲気を無視してニヤニヤと笑みを浮かべて訊いてくる華琳。

揶揄う気満々だな。

…まさか仲謀とのキスの件知ってるのか?

いや、それはないか。

仲謀の性格的にも中途半端なままではな。



「それも有るが…

孫家の興す国には共存して貰いたいからな

曹家の敵役としてではなく良き隣人として、な」


「貴男が蓮華を娶れば縁戚関係になるしね?」



“ね?”じゃねえよ。

其方の問題を持ち出すな。

俺には其方の方が面倒だ。



「貴男には国取りよりも、“嫁取り”の方が段違いに難しいみたいね?」



放っとけ。

心底愉快そうなのが癪だが可愛いからなぁ…

可愛いは正義、か。



「まあ取り敢えず、孫策が孫家の“王”の第一候補、外れたら妹の方を当たって見ればいいだけだしな」


「まあそうね──で?

私を“悪役”に追い遣った最後の国の“王”とは一体何処の誰なのかしら?」



“冷たい”笑顔を浮かべて華琳が訊いてくる。

薄ら寒い殺気を纏って。

何時ぞやの袁紹の時程では無いにしても濃いな。



「まだ根に持ってたのか」


「当たり前でしょ!

貴男にだったら主役の座を渡してもヒロイン役でなら我慢出来るけど…

訳の判らない何処ぞの輩に主役の座を奪われて黙って要られる訳が無いわっ!」



右手の強く握り締めながら笑顔の額に青筋を浮かべる我が奥様。

本当、負けず嫌いだな。



「はぁ…言っとくが下手に詮索したり接触しようとはするなよ?」


「善処するわ」



躊躇無く暈したな。

どう考えても何かしら遣るつもりだな。

小さく溜め息を吐きながら華琳に近付いて真正面から寝台へと押し倒す。

別段素早く、という訳ではなかったので抵抗をすれば十分に出来たが無抵抗。



「まだ話の途中よ?」


「約束出来無いのなら話は此処で終わりだ」



そう言うと眉根を顰めて、小さく唇を尖らせて拗ねて睨み付けてくる。



「………はぁ…判ったわ

貴男に従うわよ」



渋々だが了承した華琳。

返事の代わりに拗ねた唇を啄む様にキスをする。


少しだけ脱線したのは──余談である。





「──それで?」



仕切り直す様にキリッ!と表情を引き締める華琳。

でも、寝台に腰を下ろした俺の太股の上に跨がって、両手は俺の首の後ろで組み向き合ってる状態な分だけシリアス感はマイナスだと気付いてますか。

イチャイチャ感は倍増しで出てますけど。

──とか、考えたら視線に出てたらしくムッ…とした表情で顔を首筋に近付けて甘噛みされた。



「最後の国の王…三人目の姓名は劉備、字は玄徳

伝承では中山靖王・劉勝の庶子・劉貞の末裔とされる血筋なんだが…

確たる証拠が有るという訳じゃあないから、自称説も存在している」


「そうかもしれないわね

劉勝と言えば子や孫の数が百二十人以上だと云われているもの…

出自に“箔”を付ける為に名乗るには丁度良い物ね」


「まあ、劉備の血筋の真偽なんてどうでもいいけどな

宅は前後両漢の正統血統の後継者が居るし」


「それもそうね」



血族を、正統性を言うなら勝手に遣ればいい。

此方には正真正銘の本物が臣下に居るのだから。

何時でも“鍍金”を剥がす事が出来る。



「──で、その劉備の国が貴男の提唱する“敵役”…

曹家と私達の国にとっては欠かせない、“必要悪”を担う存在なのね?」



そう言う華琳に口角を上げ肯定の意を示す。

判っていて訊いてくる辺り飽く迄も確認作業だろう。



「“三國志演義”の中では“曹操”が悪役らしいけど逆から見れば、劉備もまた悪役になる…

己の正義は誰かの悪であり己の悪は誰かの正義…

そういう事でしょ?」


「孫策は一時的に対立する可能性は有るが最終的には此方の希望通りの関係へと落ち着くだろうからな

意図的に敵対しない限りは“似た者同士”だろう

対して、劉備は直に本人を見てみない事には現時点で断定は出来無いが…

“歴史”や物語等の通り、或いは近い感じの人物なら正に適役なんだがな」


「そればっかりは貴男でも見通せないわよね」


「もし“遠見”が使えたら宅の隠密衆は大幅に仕事が減るだろうよ」


「…有るには有るのね」



自分から振っといて驚いて引くのは止めてくれ。

俺が非常識みたいだろ。

華琳達からしたら術者自体非常識かもしれないが。

大体、此方じゃ出来る事は限られてるんだけど…

言っても仕方無いよな。





「二人──二国の王の事は判ったけれど、肝心となる“天の御遣い”の件がまだ有るのよね?

可能性としては貴男だけか含めて三人かしら?」



的確な質問だな。

得た僅かな情報から導いた推測も流石と言える。

いや、寧ろ直感的な部分が強いかもしれないな。

“英傑”としての本能。

そして、宿命がそうさせるのかもな。



「多分、三人だろうな」


「そう言い切る根拠は?」


「少なくとも術者は二つの術を使う必要が有る

“天の御遣い”を認識させ肯定する為の術と…

この世界に導く召喚術を

そして、行う順番としては強制認識が先になる」


「どうして?

逆でも構わないと思うのは私だけかしら?」


「皆も話だけ聞いたら同じ様に思うだろうな

でもな、“天の御遣い”は異世界から来る訳だ

時代や国、年齢や職業等は全く判らないが…

いきなり見知らぬ世界へと放り出されたら普通は軽い混乱状態に陥る

その上、“天の御遣い”と認識されなければ賊徒等の格好の獲物になる

当然、そうなれば生存率は大きく下がる」


「…成る程ね

確かにそれなら貴男の言う通りでなければ無駄死にになるだけね」



俺みたいな経歴を持つとは限らないしな。

一般的な現代人なら大半が路頭に迷って死ぬだろう。

術者は異世界から来る事の危険性を考慮している。



「でだ、本来なら後で行う召喚術で“天の御遣い”は遣って来る訳だが…

此処に例外が存在する」


「…貴男は違うと?」


「いや、多分、本来は俺も“天の御遣い”として同じタイミングで此方に出現をする筈だったと思う

しかし、俺は既に華琳との“繋がり”を持っていた

その事も有り出現の時期がズレた可能性が高い

俺が術者だからか、或いは絳鷹の影響の可能性も無い訳じゃないしな」


「まあ、先程の仮説通りに考えるとそうよね…

ただ、貴男が違う可能性も否定出来無いわよ?」



確かにな。

でも、低いとは思う。



「仮にだ“天の御遣い”が一人だと仮定すると施行のリスクが高過ぎる

もしも、術者が自分の下に或いは任意の指定場所へと召喚出来るのなら強制認識させる必要は無い

その事から召喚は出来ても何処に出るかは不確定だと考えられる

そうすると召喚する対象が一人だけだと何か遇ったら折角の術も水の泡だ

よって、複数名を召喚する可能性が高くなる訳だ」






「“天の御遣い”が複数名という理由は判るわ

三人と断定する理由は?」


「異世界からの召喚なんて正面には難し過ぎる

術者は命懸けで施行したと俺は思ってる

そうなると“天の御遣い”には此方での協力者が必要不可欠になる

それは同時に此方へと導く為の“呼び水”となる」


「それが“三國の王”──私達という訳ね

でも、私達の理由は?

“歴史”として時代的にも共通する存在だから?」


「尤もな質問だな

その可能性は無くは無い

時代的に突出した存在故に“標”として十分だしな

ただ、それだけかどうかは調べてみない事には何とも言えないが…

この手の召喚術の場合だと何れだけ強い意志を持つかどうかが要だろう

そういう意味で何か遇った心当たりはないか?」



そう訊くと華琳が瞼を閉じ記憶の中を探す。



「…随分前になるけれど、露店商が“願い石”という胡散臭い物を売っていたわ

一つ一朱だったから戯れに買ったのよ

その半年後位だったわ

貴男と出逢うのは」



…初耳なんですが。

と言うか、その時にお前は“何を”願ったんだ。



「聞かれなかったからよ

それに願ったというよりも覇王と成る意志を込めたと言うべきだったもの

その頃は仙術や妖術なんて全く信じてなかったし」



開き直られてもなぁ。

でもまあ、華琳に術関連の知識を与えたのは俺だからよく知ってるんだが。



「…なあ、華琳

あの頃一人で全てを背負う気だったよな?」


「…ええ、そうね

貴男に出逢い、諭される迄そうだったわ」


「…これは華琳だけにしか判らない事なんだが…

当時、自分の伴侶として、或いは半身となる者としてどんな者を望んだ?」


「私より全てに於いて優れ博識であり、容姿も美しく媚びる事の無い強さを持ち私自身を高められる者ね」



即答するのは良いが難易度高過ぎだろ。

しかも、サラッと面食いな条件入ってるし。



「その“願い石”は此方に“天の御遣い”を召喚する“標”になる者を選定し、同時に対の存在──異性の好みや条件を潜在的な物も含めて汲み取り、異世界の存在の中から該当する者を“天の御遣い”として選び召喚する術の媒体だろう」


「…それは…つまり…」


「まあ、そういう事だな」



顔を真っ赤にして口籠った華琳を見詰めて微笑む。

二人の出逢いは必然で──華琳が望んだ事。




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