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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
157/915

         参


一頻り笑って、甘舟さんが淹れてくれた御茶を頂く。

…うん、良い茶葉だ。

ただ、普通に五感が有ると過去夢だという事を忘れてしまいそうになるな。



「甘舟さん、飽く迄も興味本意の事なので可否は全て貴女に任せます

“龍族”に関しては一部を知っているに過ぎないので明確な事は判りませんが、彼等は人間との間に交流を持っているのですか?」



これは質問で有り試問。

人間との交流が有る事なら既に彼女達の存在が証明をしてくれている。

それなのに態々改めて問う理由は甘舟さんに俺に対し語る意思が有るかどうかを見極める為の物。

並の文官程度なら其処まで理解出来無いだろう。

だが、甘舟さんなら意図を理解してくれる筈だ。

彼女にはそれだけの知性と判断力が有るのだから。



「…意外と意地悪だねぇ」


「よく言われます」


「…はぁ…まぁ、アンタは信じられるみたいだしねぇ

何が聞きたいんだい?」



一見すると、先程の問いの答えとしては繋がらないと思えるが、それも此方側の意図を理解しているから。



「“飛龍の里”と言うのは此処から彼等の住まう地に向かう事、或いは此処へと彼等が訪れる事等から名が付いているのでしょう

ですが、“巡礼の選定者”という事は貴女が彼方へと行く資格が有るか否か…

それを見定めているのなら“何”を基準にされているのでしょうか?」



普通に考えれば氣の有無が筆頭に上がるだろう。

しかし、そうすると物事の“順序”が逆になる。

何故ならば、氣は龍族から人間に伝えられた技術。

選定の条件としては門戸が狭過ぎる。



「そうだねぇ…基準って程ではないけどアタシの見て感じた印象・人間性かねぇ

彼等に合わせても大丈夫、世に害を成す事は無いって所だろうね」



妥当過ぎる気はするけど、嘘では無いだろう。

それだけ甘舟さんの眼鏡は厳しいのだろうしな。



「では、現時点で龍族との関係を持つ者…

或いは“力”を与えられた存在は何れ位居ますか?」


「…一体、そんな事聞いてどうするんだい?」


「備え、というと変ですが当事者が如何に人格者でも受け継ぐ者まで同様だとは限らないですし、見る目が有るとも限らない…

場合によっては“排除”も世の安寧の為、と個人的に思っただけです」


「思っただけ、ねぇ…

アタシには“そんな事態を赦さない為”って聞こえた気がするんだがねぇ…」



面白そうに笑みを浮かべる甘舟さんだが、言葉の裏に隠された意志に気付いたと思って良いのだろう。

眼差しが一際鋭くなった。




一息吐き、甘舟さんは立ち上がって部屋の隅に置いて有る戸棚へ向かう。

一つの引き戸を開け奥から木箱を取り出して戻る。



「…アタシは選定者であり“記録者”でも有る…

アンタが言った様な場合に同じ人間の手で“始末”を着ける為に…」



木箱を開けて中から一冊の紺色の書を取り出し此方に差し出してくる。

それを両手で受け取ると、ゆっくりと捲っていく。

別に速読・瞬間記憶してもいいのだが雰囲気的に急ぐ必要性は無いしな。

じっくりと見る事にする。


最初の方に有った姓名には朱墨で×印が付いている。

これは死亡の意味か。

また家系図の様に続いてる先にも付いている。

一族・師弟・流派の全ての名に×印が有るのは完全に断絶した事の証だろう。


最初からの十頁位は全てが断絶していた。

その後は少しずつ続き今も残っている様だ。

しかし、その中には途中で姓名と姓名を結ぶ線の上に×印が付いている事も。

恐らくは技術的・知識的な意味で継承・伝承が途絶え失われたという事だろう。


──と、一つの名を見付け思わず手が止まった。

“華佗”──そう記された名前は二代目から代々続く風習の様で、括弧書きにて個人の名が刻まれている。

一子相伝なのも一度として変わっていない。



(この時代で既に十代目…

何れだけ長いんだか…)



先代も長生きだったな。

代々そういう質なのか。

真偽は判らないが現代まで続いていく事は確かだ。


それから大体三十分程して背表紙を閉じた。



「得る物は有ったかね?」


「ええ、まあ…」



そう言いながら甘舟さんへ書を手渡す。


判った事の中で、俺に──曹家に関係する内容が手に入ったのは僥倖。

中でも“涅邪族”に関する情報は大きな収穫だ。



(やはり起源は龍族か…)



ただ、予想していた混血の可能性は無くなった。

涅邪族の“龍瞳”は龍族に教わった氣の技術が影響で体質が変異・変質し現れた特異体質らしい。

一人目は龍族からの技術を得て四代目の時代。

その後は極めて稀に一族に現れている様だ。

因みに今は二十六代目。

かなり長いが現代では全て失われている事から考えて戦争等の影響か。

血筋的には直系の末裔なら覚醒する可能性は高いが、飽く迄も可能性らしい。

レア物も段違いだな。

流石に能力等の全容までは記されていないが、色々と判っただけでも十分。

伯道の手助けになるな。




書を返した後は甘舟さんと他愛の無い話をしただけ。

飛龍の里や巡礼の選定者の起源を聞いても特に意味は無いだろうし。

また甘瑩さんの旦那さんの凌乾さんと六歳の娘さんの甘酉ちゃんに会った。

甘と凌の姓を聞いて何とも思わない方が変だよな。

本当に無関係か言い切れる自信は無くなりましたよ。

甘舟さんの一家に混じって夕飯を御馳走になり布団も貸してもらった。

甘酉ちゃんに懐かれた為、一緒に寝る事になった。

“姉妹”みたいだと笑って言われたが、甘酉ちゃんは判ってる様な気がした。

興覇は生まれ変わりだとか覚醒遺伝──恋する遺伝子とかじゃあないよね。

…止めよう。

考えちゃいけない気がして仕方が無い。


ああ、それから余談だけど甘舟さん達は氣は使えないみたいだ。

てっきり皆が使える物だと思っていたが考えてみれば必ずしも使える必要は無いだろうしな。

寧ろ、使えない方が下手な先入観が無くて良い。

それに外部に関係がバレる可能性も低く成るし無闇に敵意や脅威を向けられたりしなくて済む。

此処は飽く迄も普通の村。

山奥に有る村に過ぎない。










「──って、流れを無視でこう来るんですか…」



確かに甘舟さんの家の中で甘酉ちゃんに抱き付かれて眠っていた筈なのに。

目が覚めて起きて見ると、全く見知らぬ場所に一人で寝転がってるって、どんな状況ですか。

身体を起こして見回せば、何故だか“また”原っぱのど真ん中に居た。

…え〜と、まさかまさかの無限ループっすか?



「──なんて事は無いな

どう見ても場所が違うし」



四季の違い云々は兎も角、山々の形を変える出来事は然う然う無い。

あの黒龍が無差別に暴れて破壊していれば可能だとは思うけどさ。

アレは天災なんてレベルの存在じゃあないしな。

というか、四界龍王の力が有ったとは言え、人の身で──脆弱な器で“世界”を喰い切れたよな。

自分で言うのも何だけど、本当に奇蹟だな。



「まあ、それより現在地を確認しないとな…」



一息吐いて、立ち上がってもう一度辺りを見る。

やはり覚えの無い地形だ。

統治下の泱州の領は勿論、漢王朝の地形は全て一度は直に見て確認している。

街や村には行った事が無い場所も少なからず有るが。



「…消滅した場所?」



何と無く呟いた事だったが可能性は無くはない。

先程俺自身が想像した事が現実に起きていたならば。




取り敢えず、太陽の位置や周囲から得られた情報から大凡の時刻や方位を推測。

南に向かう。

大巴山脈ではないが南方に縁が有りそうだからという単純な理由で。



「しかし、何で態々時間と空間を移動させた?」



あのままだと過去夢の中で見せたい場面に行かないとするのなら最初から此方へ落とせば良い筈。

それを態々“寄り道”までさせるだけの理由。



「…甘舟さん達の存在?」



飛龍の里・巡礼の選定者。

確かに何方らも知るだけの意味と価値が有る。

しかし、粗間違い無く共に現代では失われている。

もし、現存しているのなら“澱”に対して何かしらのリアクションを人間の中で起こす者が出る筈だ。

それは飛龍の里も選定者も龍族の“盟約者”も全てが絶えた事にも繋がる。

だから、在りし日のままを俺に見せた。



「──と、考えられるが…

それならば加えて断絶した理由──場面を見せる方が意味が有ると思うが…」



何方らかと言えば盟約者を記した書の方だろうか。

それ程に数自体は多く無く系譜も繋がり難い。

故に大半は絶えているとは思うが全滅ではない。

伯道の例も有る。



「同時に考えられる理由に可能性が一つ有る…」



あの時点で書へと記された盟約者以外は以後の世界で生まれていないという事。

それならば残存する系譜の当たりは付けられる。

仮に、そうだとするのなら残存した盟約者の末裔には何かしら問題が有るのか。

或いは“力”を悪用したり呑まれたりする可能性か。



「氣自体は善悪はないし、技術が伝わっているのなら世に出てると思うが…」



地に潜るにしては時期的に微妙だとは思う。

寧ろ、俺達の様に今こそが動くべき時だろう。

勿論、手の内を晒す真似は愚行でしかないが。


華佗の様なケースは稀だが野心や野望を持ち表舞台に出て来る可能性は有る。

その場合、自らが表舞台に立つか、有力者・有望者を“御輿”として担ぎ上げて裏で操るかだろう。

ただ、それでも動きが無い事は引っ掛かる。



「宅と同じ事が出来るとは思わないけどなぁ…」



氣というアドバンテージを活かすなら遅い気がする。

尤も、狙いが何かによって動き方は異なる為、一概に決め付ける事は出来無いし可能性も排除出来無い。

今まだ憶測でしかないが。




景色は違っているが前回と同じ様に山中。

中腹位から麓へと向かって下って行くと、小さな村が視界に映った。

丘の上から見ているから、様子が良く判る。


飛龍の里に比べると規模は倍位だろうか。

飛龍の里も時期的に見れば人口も多い方だったが。

因みに三百人程。

民家の数や畑に居る人数を見ただけなら町と言っても良い位だろう。

また、賊の脅威が有るとも思えなかった。

その理由は村の両脇に深い谷が添っていて、此方には山が聳えており反対側には更に低地へ下る大森林。

山と森側には門が設けられ簡易の要塞になっている。

並の賊では厳しいだろう。



「…閉鎖的、か…」



しかし、俺にとって一番の問題点は接触する際の事。

飛龍の里では運が良かっただけで、本当は余所者には厳しいのが普通。

甘舟さんだって善意よりも警戒心と責任感から此方に接触して来たのだし。



「…まあ、兎に角、先ずは村に行ってみてだな」



山を下って此方側の門へと向かって歩いて行く。


門の近くまで来て見ると、上からは見えなかった所に監視用の小窓が有った。

前まで行き、その小窓から見える二十歳程の青年へと顔を向ける。



「あの、すみません…

旅をしている者なんですが門の中へ入れては頂けないでしょうか?」



そう言って見るが青年には聞こえなかったのか此方を見向きもしない。



「…すぅ〜…あのーっ!

すみませぇーんっ!

ちょっと良いですかーっ!?

話だけでも良いので聞いて下さぁーいっ!」



甘舟さんの時ではないが、女性っぽく叫ぶ。

──が、青年は無反応。

…あ、いや──はあっ!?

欠伸しやがったっ!



「…良い度胸だ…」



人の男のプライドを捨てた演技を無視しやがって。

制限されてるとは言っても民兵程度なら楽勝だ。

目に物見せてやろう。


沸々と胸中に漲る怒りから近くを見回して拳大の石を見付けて右手を伸ばす。



「──は?」



しかし、右手は石を掴めず通り抜けてしまう。

もう一度試すが──結果は変わらない。

右手をまじまじと見詰めて近くに有った木の幹へ向け伸ばすが──石と同じ様に通り抜けてしまった。

左手でも試してみるが同じ結果に終わる。

其処で漸く現実を受け入れ冷静になった。




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