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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
142/915

1 予習と復習は基本


月が替わり、心機一転──とはならない。

まあ、それも当然だろう。

特別な変化や切っ掛け等が無ければ、然う日常という物は変わらない。

だからこそ、日常だ。



「…ぅっ…ふわぁ〜…」



自然と漏れる欠伸。

今日は自室にて休暇中。

…誰か“お前は年中休暇中だろう”って言ったか?

…気のせいか。


寝台に仰向けに寝転んで、ぼんやりと天井を眺める。

今月に入ってからの動きを思い返してみる。




十一月一日。

汝南郡の組が帰還。

一組増えただけでも城内が賑やかになった。

…余談だが、俺の顔を見た子揚が一目散に抱き着いて来たのには困った。

他の面子が拗ねるわ、便乗しようとするわで。

華琳は笑ってるだけで一切関わらないし。

…ええ、そうですよ。

自業自得なのは認めます。

だから助けて下さい。



十一月二日。

昨日の妥協案と言う事で、時間を作って皆とデート。

全員で、じゃなくて数人を数組で、だから。

曹家の主力が団体で街中を歩いてたら何事かと民から注目されるからな。

そうでなくても美人揃いで目を引くんだし。

…俺は入れないでな。



十一月三日〜五日。

平常運転。

特に変わった事も無し。



十一月六日。

廬江郡・淮南郡の組が戻り主力が許昌に揃った。

母親組も含めて、だ。

報告を聞いた後、先日したデートの一件で睨まれた。

やむを得ず皆ともする事で決着した。

…何気に結託してるな。



十一月七日。

約束通りのデートで一日が終了しました。

つか、漢升さん“まだ夜が残っていますよ?”って、迫らないで下さい。

精神的に疲弊してるって事判ってて遣ってるし。

…いっその事、一思いに…いや、駄目だ駄目だ。

それは俺的に駄目。

…さっさと寝よう、と考え思考を放棄した。



十一月八日。

何事も無く平常運転。

まあ、久々に義封が公瑾に説教されていたり、公明が仲達に説教されていたり、見馴れた風景が戻った事に“平和だな…”と思う。



「私達は平和じゃないから助けて下さいっ!!」


「そうですよーっ!!」



俺の所へ逃げて来るな。

それに、お前達が悪いのは判ってるから大人しく説教されてこい。

俺に飛び火するだろうが。



『そんなあ──』



以後、二人の声を聞く事は一度も無かった。


尤も、大人しくしてるのは一日位だろうが。

一晩経てば元通りだ。

その程度で改心してるなら説教は要らないしな。

多分だけど、これも一種のコミュニケーションだとは思うしな。

…そう、だよな。




十一月九日。

漸く、というか二つの箱を開ける時が来た。

素直に楽しみだった。


先ずは、遺跡で手に入れた黒い箱から開ける。

此方は仕掛けが無いから、安心して開封出来るから。

安全第一だよね。

──って事で開けてみると入っていたのは本が三冊に小さな小箱が一つ。

取り敢えず、本から内容を確認してみた。


一冊目は藍色の表装の本。

内容は氣を基軸に組まれた封印・結界の術式。

一応、解析して転用出来る所まで来ているので今更な感じもしたが、無いよりは参考になるので良いか。


二冊目は緋色の表装の本。

内容は“龍族”の技術。

特に加工・生成の。

氣に関連する技術も多く、中には完全に兵器運用前提の物も有った。

普通、こんなの遺すか。

…いや、抑止の為だな。

“彼を知り〜”って意味で受け取って良いんだろう。

表には絶対に出せないな。


三冊目は黒色の表装の本。

それは意外な物だった。

簡単に言えば目録だ。

但し、記されている内容は全てが“負の遺産”となる存在に関しての物。

そして、先の二冊とは違いこの本は龍族が作成をした物ではない事。

これは“世界”が作成した一種のブラックリスト。

この世界にて“現存”する存在だけが記されている。

勿論、全てが“前世界”の遺物だろう。

何故、そんな事が判るか。

それは簡単。

記されている内容が完全に氣だけでは不可能だから。

少なくとも、この世界では有り得ない存在故に。

それと“現存する存在”と断定出来る理由だが、本に“澱”の事が一切記されていないからだ。

初めから記されてはいないなんて不自然過ぎる。

“澱”は最重要の脅威だ。

ならば、記されていない、ではなく“消え去った”と考えれば判り易い。

全ての“澱”が消えた為か個別毎かは既に判らないが“存在しなくなった”為に記載項目──リスト上から抹消された。

そして、そんな真似が高が“管理者”に出来るとは、到底思えない。

故に“世界”が作成したと考えられる。

同時に“前世界”から遺る存在が対象だと。


あと、付け加えるのなら、記された対象の存在の数が計二十にも満たない事も、消えていると推測するには十分な要因だった。


この本は龍族が管理者たる役目の象徴の様な物だとも言えるかもしれない。

ちょっと面倒な代物を受け取ったかもな。




気を取り直して、伯約から譲り受けた木箱を開ける。

仕掛け自体は単純な物だがそれだけに慎重になる。

シンプル・イズ・ベスト。

罠では特に安定した効果を期待する事が出来る。


そんな訳で仕掛けを解除しいよいよ御開帳。

──してみたら、これまた意外な感じの中身。

其処に在ったのは真っ白な一枚の紙だった。

警戒しながら慎重に右手で取って裏返してみる。

──が、此方も真っ白。

まあ、普通の物ではないと思うし何かしらの仕掛けが有るのだろう。

無難な所では氣か。


その前に、もう少し詳しく調べてみる。

大きさは木箱と粗同じで、縦35cm・横25cm。

手触りや質感は羊皮紙。

飽く迄も例えれば、だが。

現実──より正確に言えば一般的な世間の物流上では絶対に目にはしないだろう物質なのは確かだ。

何しろ、加工する事自体が至難なのだから。


一旦、紙は置いておく。

仕掛けや保護の為に肉厚な造りをしている。

木箱の深さは約10cm。

それを木箱自体の厚みから差し引いても凡そ6cm近い嵩が有る。

これだけとは思えないので木箱を改めて調べてみた。


すると、どうだろう。

隅の一角に針の穴程だが、隙間が有った。

まるで接続面等無い一刀彫仕上げの様な造りの中では明らかに異質。

側面に接いだ跡は無い。

普通に考えて二重底。

但し、内開きではない。

底開き式だろう。

その隙間から氣を流し込み内部を探ってみる。

真っ直ぐ3cm程下がった。

隙間──角から中央に向け真っ直ぐに伸びた針幅程の細い一本路。

その先には開けた空間。

其処に氣を満たしてみれば縦横10cm程の正方形。

確認すると同時に、殆んど無かった厚みが増したのが判った。

氣に反応して無効化になる接着剤でも使っていた様で分離したらしい。

ゆっくりと木箱を上に持ち上げると、高さが5cm程の小箱が現れた。

木箱を脇に置く。

何故、気付かなかったのか考えてみたが──ただ単に見落としだろう。

仕掛けの方を警戒し過ぎて表面側だけで満足した為。

皆が居なくて良かった。


小箱を手に取る。

造り自体は木箱と同じ。

仕掛けは無さそうだ。

そっと開いて見ると中にはルーペ──否、モノクルと思しきレンズが有った。

藍色の縁の一点から装飾と思われる紐が伸びており、1cm程の水晶玉が繋がる。


眼鏡が普通に有る時代故に今更な感じだが…

時代の背景等と技術水準が無茶苦茶なバランスだなと改めて思った。




そんな感じで時は経つ。

で、本日──十一月十日。


一見、暇を持て余している様に見えるだろう。

…実際に暇ではあるが。

泱州の新設に伴う曹家への注目を“的”である自分に向ける為に広めた流言にも信憑性を持たせない事には効果が薄まる。

その為の事実作りで最近は“散歩”も控えている。



本当なら“負の遺産”とか“聖地”を探しに彼方此方飛び回りたい。

その他にも伯約からの譲り受けた木箱から出た紙。

あれは氣を流すと表面上に地図が浮かび上がった。

其処は予想の範疇。

で、面白いのがモノクルを着けて覗くと──地図上に地名や道筋、印等が幾つも記されて見えた。

勿論、モノクルの方も氣を流す必要が有るが。

一言で言えば“宝の地図”みたいな物だろう。

早く真偽を確かめたくて、ウズウズしている。

華琳達には絶対言えないんだけどな。



(バレたら、同行するって言って聞かないだろうし…

特に華琳と軍師陣は…)



知的好奇心・欲求は人間が文化・文明を築き上げる為には必要不可欠な物。

良くも悪くも学術・技術は欲の先に有るのだから。

まあ、“此方”側に関してだけは止めて欲しいが。



(それに…此方の方な)



“影”から右手に取り出し目の前にぶら下げる。

それは黒い箱の方に有った小箱に入っていた。

小箱は縦20cm・横3cm・高さ3cm程の大きさ。

丁度、ネックレスのケース等と同じサイズ。

で、中身も違わず。

粗くカットされただけにも見える真っ黒な結晶。

オニキスでも、黒曜石でも無い事から特殊な鉱物。

それを銀色の金属質な紐で首飾り状にしてある。

しかし、氣を流してみても別段変化は見られず。


単なるアクセサリー品かと一瞬は疑いもした。

だが、その結晶の表面へと刻まれた朱の紋様。

それは黒い箱にも刻まれた何かしらの証。

その存在が有る為に単なるアクセサリー品と言う事は出来無かった。

何か秘密は有る筈だ。

これ自体には何も──否、これ単体では機能しないと考えるべきなのだろう。

そう考えると一つの仮説が脳裏に浮かんだ。

龍族──“聖地”との関連である。

尤も“道案内”してくれる物ではなさそうだ。

其処に入る為の“鍵”か、手掛かりへの繋がりかだと思うけれど。

真っ白な地図と連動するか試してみたが無駄だった。

ちょっと期待が有った分、そんなに都合良くないとは判っていても凹んだが。




そんな感じで考えていると休暇を取る事がもどかしく今直ぐにでも出掛けたいと身体が疼く。



「駄目なんだけどなぁ…」



こういう時、影──分体を使えれば…と思う。

無い物ねだりなんだけど。

誰しもが慣れている事程、知らず知らず依存していて失った時に不便さを改めて知る事になるものだ。

教訓とは後悔と同じ。

先には立たず、後になって理解出来るもの。

故に温故知新は大事だ。

先人の知恵や経験・言葉に学ぶ事は本当に多い。

耳を傾ける価値は有る。

…まあ、愚痴に関しては、何とも言えないが。



「…やっぱ、華琳は勿論、皆にも説明しておかないと後々拙いか…」



出来れば“此方”に関わる事はさせたくない。

幸いにも現在は手に入ったリストの御陰で厄介な物は俺が始末すれば済む。

しかし、龍族が遺した様に“現在の世界”で生まれた脅威は皆無とは言い切れず備えるべきだろう。

程度も判らないしな。



(あの遺跡に封印されてた物質の例も有るし…

楽観視は出来無いな…)



あれはリスト上に載ってはいなかった事から考えても現世の産物だろう。

龍族の技術・術式は世間に広まってはいない。

ただ、華佗──五斗米道の様な例も有る。

恐らく、五斗米道の技術の源流は龍族から伝えられた物だと思われる。

もし、人間の間に技術的に確立されていれば数少ないにしても使い手や流派等が存在している筈だから。

一子相伝や継名もある種の誓いの証かもしれない。


だが、針──“烏紫鋼”に関しては違う様だ。

加工技術が無かったし。

烏紫鋼を針へと用いたのは多分、偶然からだろう。

加工出来無い鉱物の為──正確には氣を用いないでの鍛冶では元々の硬度が嘘の様に脆く崩れてしまう為、無価値だから取り引きも、発掘もされていない。

偶に他に混じっているか、珍品扱いで旅の行商人等が売っている程度だ。

流派の祖先達が見出だして研究した成果だと言っても良いだろう。

龍族には無い技術だ。



「…頃合いでも有るか」



天井を見詰めて呟く。

全員、氣の基礎──下地は十分に出来たと言える。

次の段階──個々の素養に合わせた指導・鍛練に移る事は可能だ。

結局、躊躇う理由は自分が関わらせたくないから。

そして、それが己のエゴと自覚出来るから厄介。

だが、苦笑しながらも心は決まった。




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