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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
13/907

11 旅は道連れ


二人と別れて客室へ。

視線に“期待感”を感じ、避難した。



(…ん?、何だ?)



通路で“ソレ”を発見。

デジャヴだ。



(……“また”空腹か?)



胸中で溜め息を吐きながら倒れている者に近寄る。

氣の感じから診ると意識は有る様だし、瀕死とかでもなさそうだ。



「どうされました?

大丈夫ですか?」



声を掛け、肩を揺する。

すると両手の指先が動く。



「…──…──…」


「……は?」



発せられた声が、言葉が、理解出来ずに不意に思考が止まった。






「いや〜、助かったよ

他の人は私を無視して通り過ぎて行くし…

言葉は通じないし…

本っ………当にっ!

ありがとうっ!」


「いえ、お気になさらずに

大事無くて良かったです」



笑顔で“船酔い”から解放された男が答える。

どうやら、この手の症状は氣に現れ難い様だ。


で、問題の男だが…

伸び放題の黒髪と無精髭、特有の色黒の肌。

そして、今、会話に用いる“アーリア語”。

つまり“大宛”の出身だ。



「“フェルガナ”の方と、お見受けしますが…

何故、この国に?

此方の言葉に不慣れだと、一人では大変ですよね?」



通路脇の物置き場に移動し男に訊ねる。

男は悲し気に俯く。



「…私は商人として国内を回っていました

この国の言葉を話せる友と一緒に…

ですが、十日前、友が病に倒れ、そのまま…

私は祖国に帰ろうと思い、“涼州”を目指し、この船に乗りました」



思わず目眩がした。

事情は判ったが、生き倒れ確定な行動だ。



「この船は“東”に向かい進んでいます

その先は“揚州”…つまり真逆になります」


「…………本当ですか?」



目が点になる男に訊ねられ首肯すると頭を抱えた。



「わ、私はどうしたら…」



男に見られない様に苦笑。

甘寧の言う様に“厄介事”とは縁が有る様だ。



「先ず、次の夷陵で降りて永安に戻りましょう

降りる時は一緒ですから、大丈夫ですよ

その後の事は竹簡に書いてあげます

見せれば“西域”まで行く道を教えて貰える様に」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ、本当です

だから、元気を出して国を目指して下さい」


「あ、ありがとう!

ありがとうございます!!」



希望を得て、泣き笑いする男を見て思う。


誰しも“独り”は辛い。

だから、縋れる“何か”を求めるのだと。



男から“御礼がしたい”と言われて彼の部屋へ。

其処には、一人で運ぶには多過ぎる量の物が。



「此処に有る物は全て商品として手に入れたけど…

私一人では、商談する事も出来無くて…

だから、好きなだけ持って言ってくれて構わない

今の私に出来る御礼は此れ位だからね」



商人として通じない以上、確かに無意味な荷物だ。

しかし、良く見れば品質は悪くない。

種類も豊富。

反物・絵皿・陶器・鉄器・掛け軸・書画・装飾品…

宝石の原石まで有る。



(今の相場で見ると…

大体、千二百両って所か)



これ位なら大丈夫。

問題無い。



「それでは、此れ等を──締めて千二百両で」


「…え?、ええっ!?

いえ、代金は──」



断る男の言葉を右手を挙げ止める。



「本職では有りませんが、商いの経験は有ります

それに此れは貴方の最後の“商談”ではなく、最初になるという事です」


「──っ!!」



理解してくれた様だ。

男は深々と頭を下げる。



右手を外套に入れ代金を懐──“影”から取り出し、男に手渡す。


買った荷を整理する中…

ふと、目に止まる。

商品とは関係無いのか隅に積まれた木箱。



「此方の箱は?」


「それは買い取ったりした粗悪品…と言うか…

その…ガラクタです」



妙に男が歯切れが悪いので小首を傾げて見せる。

男は小さく呻く。



「…この国の人に言うのは気が咎めますが…

生活に困っていた人達から買い取った物で…

中には“何も無いけど”と貰った物も有って…

流石に捨てる気には…ね」



居心地が悪そうに頭を掻き苦笑する男。


だが、此方の評価は上昇。


商人としては甘い。

相手の足元を見て毟り取る位でなければ潰される。


しかし、商人も人だ。

人としての道を踏み外せば只の外道。

故に彼には好感が持てる。


それに言い淀んだのは暗に“国の批判”を含む為。

“祖国”を愛しているから言い難かったのだろう。



(“外”から見ても貧困が痛ましいか…

“歴史”の上からは現実は見えないからな…)



どれだけ“歴史”を学び、研究したとしても…

本当に“現実”を知る事は出来はしない。


其処に“生きる者”だけが真実を知る事が出来る。

そういう物だから。



(そして“内”に居るから気付かない、か…)



“染められた”故に疑問に思いもしない。

皮肉な物だと思った。




箱の中身がどういう物かは判ったが…妙に気になる。

翼槍を見付けた時の感覚に似ている。



「開けて見ても?」


「それは構いませんが…

本当に、大した物は何一つとして入ってませんよ?」


「興味本位です

それから…

“価値”は人其々ですよ」



不思議そうに言う男に笑顔で答えると箱を手に取る。

積まれた箱は全部で八つ。

大小有るが、小物から見て行く事にする。


一つ目。

家庭で使っていたと思しき食器類が約三十点。


二つ目。

壊れた装飾品が乱雑に詰め込まれていた。

どれも鉄製の様だ。


三つ目。

余ったと思しき生地の山。

継ぎ接ぎにすれば使えそうではあるが…


四つ目。

よく判らない仮面が数点。

狩猟民族っぽいのは判るが天狗や般若が何故か有る。

思わず凝視した。



(これで半分…

本当に碌な物が無かったが此処からだな)



期待を込め、大物に。


五つ目。

中身は日用品。

歯の欠けた櫛や破れた扇、鍋や小箱等。

その中に埋もれた黒ずんだ小箱を見付け、取り出す。



「それは扇です

ただ、開かないんですよ

妙に重たいですし…」



男の説明を聞きながら蓋を開けると二本の扇。

恐らくは対で作られた物。

それも鉄扇の類い。


片方を手にした──瞬間、理解する。

この子も“同じ”だと。


だが、まだ気配がする。

鉄扇を置き、次の箱へ。


六つ目。

“石”の一言。

軽石の山だ。

珍しいかも知れないが。


七つ目。

“何”とは形容し難い。

黒い塊が幾つも入っていて少し不気味だ。

よく見ると墨汁塗れの服が固まった物や、焼け焦げた石だった。

そんな中、隅に有った塊を手に取る。

軽い──それもそうだ。

この子も、だ。

緩みそうな口元を堪えつつ鉄扇の横に置く。


そして、最後…八つ目。

縦長の箱。

唯一外見から、ある程度は中身が想像出来る。

恐らくは刀剣類。

近くて折れた槍。

そう有って欲しいと願い、箱を開ける。

中には五本の刀剣。

だが、その内の四本は既に“死んでいる”と判る。

残った一振り──日本刀に酷似した其れを手に取る。



「あ、それは錆び付いてて抜けないんです」



男はそう言うが…当然だ。

この子が“主”以外に己を許していないからだ。



「この三つを貰っても?」


「それは構いませんが…」


「ありがとうございます」



男に礼を言い、荷を持って部屋を後にした。




自分達の客室に戻る。

買い取った荷は一部を除き部屋の角に邪魔にならない様に固めて置く。

男の手間、持っていないと不自然になる。

甘寧と黄忠にも事情を話す為には有る方が良い。



「どうせ夷陵で捌くしな」



手元に残す必要も無いなら早い方が良い。


因みに、荷の一部──

反物と原石だけは“影”に仕舞って置く。

使い道が有るから。


“影”に収納出来る量には限界が有るが今は大丈夫。

収納可能な物は種・卵類を除く“非生命”。

中は時間軸から外れるので助かる。



「さてと…」



簡素な造りの寝台に座り、傍らに三つを置く。


先ずは対の鉄扇。

氣を与えると汚れが消え、本来の姿を現す。

深緑の地に白の装飾紋様が施された親骨。

長さは約30cm。

幅は先端で約2cm、末端で約1cm。

規格としては大きい。

其々、右開きと左開き。

扇面は下が金、上が青。

大きく描かれた稲穂。

蒼天と金穂群だろう。


次に、妙に軽い黒い塊。

先程と同様に氣を与えると淡く輝き始める。

それは照明電球が点灯し、暗闇を掻き消すが如く。

そして、蛹が孵化する様に本来の姿を現す。

薄い桜色で、虹色の輝きを纏う羽衣。

ふわり、戯れる様に舞う。


そして、最後に刀。

先の二つ、翼槍は主を待ち姿を隠していた。

曲剣は己の能力に因るのか今は判らない。

だが、この子は違う。

一目で判る程に自ら堂々と存在している。

鞘は黒塗りに金の装飾紋が施されている。

柄は立鼓、黒の柄糸で菱巻、目貫は狼の金細工。

鍔は無し。

柄長は約30cm、推測だが刃長は約1m。

大太刀或いは野太刀と呼ぶ“日本刀”だ。



(この時代、しかも後漢に存在してるとは…

何とも奇妙な感じだな…)



苦笑しながら、右手を柄に掛け、鞘から引き抜く。

露になった刀身は黒。

片刃ではあるが、峰も刃も漆黒に染まっている。

思わず見惚れてしまう。



「…我が道は、常在戦場

刃は血に飢えて死に彷徨う

狂い喰らいて渇きは癒えず

ただただ、修羅の道…か」



口から零れたのは“師”の口癖だった言葉。


礑と気付いて苦笑。

“感傷”に浸る程に郷愁を懐いたつもりはない。

単に耳に蛸が出来るくらい聞かされた為だ。


刃を鞘に納めると、鉄扇と共に“影”の中へ。

羽衣は腰に帯の様に巻く。


翼槍、曲剣を主軸に戦うが機会が有れば優先的に使い試そうと思った。




片付けを終え、寝台に横になって天井を見詰める。


まだ甘寧と黄忠は甲板。

氣に動く気配は見られないので暫くは戻らない様だ。


特に用事もない。

練氣をしながら、のんびりしようとする。


丹田で氣を錬生、勁道へと流し四肢を循環させる。

慣れていると言っても氣を使い始めてから間がない。

日々の鍛練を無くして強くする事は不可能だ。


瞑想とまでは言わないが、自然体で行う。


暫くして、ふと思った。


氣を扱える者は限られる。

それは術者にも言えた。


だが、体系化された“術”でさえ使用者は限定され、より多くの者が使える様に生み出された物が…

“呪具”等だ。



「…それなら、この子達は“何の為”に能力を持って生み出されたんだ?」



恐らくは“世界”が閉じる以前の時代だ。

だがそれは人が扱える力が氣だけだと言う事に…



(…いや、氣を糧に能力を発現する物だけ残ったとも考えられるか…)



物証も確証も無い。

それに、此処で重要な点は其処ではない。


この子達を残す必要性だ。


本来なら、あの少女の様に存在する事は不可能。

もしくは能力を失う。

しかし、存在する以上は、何かしらの理由が有る。


“穢れ”に関わる理由か、“何か”と戦う為。


この二つが妥当だろう。

後者に関しては対象範囲が広いが。


それと、もう一つ。

既に五つが俺の手元に──一ヶ所に在る事。



(氣を扱えるから俺の下に集まっているのか?

それとも単に気に入られたからか?

翼槍を皮切りに、引き寄せ合っているとか?)



氣を扱えるだけなら華佗が一つ位持っていたとしても可笑しくない。

まあ、戦いに身を置いてはいないが。


気に入られたかは別として“主”に認められた事には間違いない。


引き寄せ合うというのも、否定する事は出来無い。


今は明確な答えは無い。

孰れ判る時が来るのかも。



(これも“縁”か…)



そう考え思い浮かべたのは彼女達の姿。


甘寧・黄忠という呉と蜀の中核を担う存在が“歴史”とは異なる道を進む。

その可能性は自分によって作られた事なのか。

それは判らない。


だが、彼女達が生きている事は確かだ。

ならば“歴史”は彼女達が綴る物。

自分の知る“歴史”なんて関係無い。


彼女達が生き、その果てに“未来”は“過去”として“歴史”へ至る。


全ては“現在”より。




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