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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
126/915

       参


御義母様から得た情報。

それを一つ一つ整理しつつこれまでの情報と関連付け照らし合わせて行く。


個人的な意見だが血筋とか正直気にするのは止めた。

逆に判り難いし。

まあ、全く無視出来るって事ではないが。


劉虞と田躊の縁。

それが華琳と子揚の縁にも繋がっているのか。

“運命の赤い糸”みたいに見える訳も無い。

いや、其方も見えないが。


劉虞に関しては基本的には“歴史”に近い背景なのは子揚達も含め確認済み。

決定的な違いは皇后だって事だろうな。


田躊に関しては御義母様に訊くしかなかった。

多少は調べられたけれど、肝心の部分は謎。

それが実際に訊いてみればビックリ箱だな。

此処に来て、最後の対器の手掛かりが出るとは。

しかも、華琳の適性に対しドンピシャと来た。

曹家に代々伝わってたのも偶然とは言い難いか。



(…しかし、田躊の亡骸も宝剣も行方知れず、か…)



其処が引っ掛かる。

勿論、その対器が消失した可能性は有るだろう。

ただ、限り無く低い。

何より華琳という担い手が直ぐ側に居たのだから。



(…華琳が見限られるのは考え難いしなぁ…)



だとすれば、今現在も剣は田躊の元に有る。

そう考えるべきか。



(仮に、そうだとすると…

何故、戻って来ない?)



妻子を残したまま放浪する人物には思えない。

かと言って記憶喪失とかになっていても対器が導いて帰って来れるだろうし。



(そうすると必然的に残る可能性は限られるな…)



多分、御義母様の感じてる通りに田躊の死亡は確定と言っても良い。

抑、この世界では俺の様な専門家が不在。

過去や他国は判らないが。

ただ、現時点では氣を使う者ですら華佗の一派くらいしか知らない。

御義母様が氣を扱えない事から見ても、田躊は使い手ではなかっただろう。

なら、十全に対器の能力を使えた可能性は低い。

それでも起きたてならば、“澱”を倒す可能性は多少有るだろう。

…命を代償にする可能性が高くなるが。

故に、死亡は濃厚。


では、田躊の死後、対器はどうしたのか。

此処が焦点だろう。

倒した後──例えば田躊の亡骸を結界を張って身内が見付けるのを待つ。

或いは、元々張って有った結界内に残された。



(…低いだろうな)



考えてはみたが…弱い。

あまりに都合が良いしな。


一人胸中で愚痴っていると華琳に声を掛けられた。

知っているが故に可能性に気付いた様だ。

…仕方が無いか。




俺の執務室に到着。

応接室に寝台が有る感じの部屋なので仕事向きだとは誰も思ってないが。


揃って寝台に座る。

俺の左側は華琳の定位置。

勿論、人払いは忘れずに。



「さて、何から話すか…」



華琳の読みには参った。

多分、“澱”の事も存在は察しているだろうな。

というか、其方関係でしか説明が付かないし。



「取り敢えず、親父さんに関してからだが…

“歴史”的には劉虞に仕え殆ど表舞台に出ない」


「そうなの?」


「ああ、その劉虞の死後は山に引き隠ったからな

“曹操”とは後に一度だけ縁が有るが…その程度だ」



詳しい説明は省く。

公孫賛との因縁とか実際は不明だしな。

というか、公孫賛って確か華琳達寄りの世代だったと情報に有った筈だ。

勿論、“此方”の世界での公孫賛の事だ。



「私と結は生まれる前から繋がっていた訳ね…」


「“歴史”に関係無くな」



意外な縁に先程は出さずに居た感慨深気な表情で呟く華琳に言うと意味を察し、クスッ…と笑む。

このまま話を流したいが…不可能だろうな。



「御父様の失踪…

亡骸が見付かっていない事にも理由が有るのね?」



…ほらな。

幾ら俺の──小鳥遊の事を知ってるとは言っても話を関連付けるのは中々出来る事ではない。

華琳は“此方”側ではなく一般人の部類だ。

それでも現に思い至るのは華琳の才覚。

後は──“女の勘”か。

実に厄介な物だ。



「まあ、な…

ただ、判ってるだろうけど関与はするなよ?」


「…私には無理?」


「少なくとも今の力量では拙い所の話じゃない

戦場に布を一枚だけ巻いて立つ様な物だ」


「………そう…」



小さく溜め息を吐く華琳。

実際には多少増しだろうが大差は無い。

“澱”相手には無理だ。


華琳としては漸く受け入れ向き合えた父親の行方を、真実を自らの手で探し出し解き明かしたいのだろうが許可・容認は出来無い。



「…仕方無いわね

これで私に何か有ったら、御父様は悔やんでも悔やみ切れないでしょうから」



それでも引き際をしっかり理解している。

感情に流されての判断が、如何に危険かも。



「そういう事だ

後は俺に任せて置け」


「ええ、お願いね…」



そっと左手で抱き寄せると身体を預けて来る華琳。

暫しの間、気持ちの整理が終わるまで待った。




 曹操side──


餅は餅屋、だったかしら。

判っては居ても残念なのは仕方無い事よね。

任せる相手が雷華だから、私も素直に引けるけれど。


それに予想通り。

“其方ら”方面なら尚更に私は手を出すべきではない事を知っている。

下手に感情に任せて動けば私は雷華の邪魔になる。

それは妻としての沽券にも関わって来る。

御父様と御母様には大変に申し訳の無い事だけれど、個人的には其方の方が重大なのよね。

其処は譲れないのよ。



「差し当たり場所としては御母様の言っていた山中が怪しいのよね?」


「まあ、そうなるな…」



雷華の胸に抱き付いたまま顔だけを上げて訊く。

…離れるのが勿体無くても良いじゃない。

私達しか居ないのだし。



「御母様達の見た夢って、一体何なの?

私達の物とは全く違う事は判るのだけど…」


「いや、俺達の夢は二つと事例の無い事だって

アレは文字通りの神秘だ

俺も未だに原理は判らない状態だからな…」



雷華が其処まで断言する程不可解なのね。

…それだけ特別な繋がりが私達には有るのね。



「どうした?」


「別に?」



つい、嬉しくて雷華の胸に頬を寄せて甘える。

端から見たら、猫みたいに見えるかもしれない。

でも、気にしない。

気にしたら負けだと色々と私も学んで来たから。



「御義母様達の夢に関して断言出来るとしたら…

特に害は無いって事位か

情報が少ない上に、時間が経ち過ぎてるから正確には把握出来無いしな…」


「特別異常が無いのなら、それだけで十分よ」



これが御母様の命に関わる事だったら流石に大人しく引き下がれない所。

そんな嘘を言う必要が無い以上心配無いでしょうが。



「今後の予定は?」


「取り敢えず数日空ける

流石に皆が戻る頃まで事を長引かせるのは拙い

只でさえ説明し難い話だ

知られる事態は可能な限り避けたいんでな」


「まあ…そうでしょうね」



曾て私に説明した時だって時流が異常な“彼処”故に出来た事だし。

どれだけ時間が掛かるか。

説明をしても理解するのは難しいでしょうしね。

どの道、私達では対処する事も難しい。

下手に教えるより知らない方が手間も省ける。

私が雷華の立場でも同様の結論に至るでしょうね。


尤も、それだけに私だけが知っているという優越感を味わえるのだけれど。

皆が知ったら怒るわね。



──side out



出来れば長くて三、四日で済ませたい所。

それ以上掛かると内政的に多少なりとも支障が出る。



「宝剣は見付かる可能性が十分に有る

もしかしたら、なんだが…亡骸も回収出来るかもな」


「過度な期待はしないわ

既に二十年近い時間が経過しているのだし…

それより貴男が無傷で戻る事の方が大切よ?」


「無傷でって…相変わらず無茶言うな…」


「言ってるでしょ?

貴男の身体は、貴男だけの物ではないのよ?

人相手なら兎も角として、人外相手では特に言いたくなるのも当然でしょう」


「はいはい…」



説教っぽくなりそうなので苦笑しながら流す。

ムッ…とした様子で睨んで来るが可愛いだけです。

体勢的に自然と上目遣いになるからね〜。


俺が全く気にしてない事を察して一息吐く華琳。



「…まあ、良いわ

それより御母様の言ってた宝剣って細剣よね?

これって偶然?」



そう訊かれて悩む。

正直に話しても良いんだが簡潔には出来無い。

対器の説明をすると必然と“澱”の存在を疑われる。

知られたら絶対に説教だ。

そうなると、適当に暈して説明するしかないか。



「偶然か必然かで言うなら必然だろうな…

父娘なんだから適性が似て居ても不思議は無いし」


「それは…そうだけど…」



平静を装い尤もらしい事を言って誤魔化す。

しかし、華琳は納得出来ず思案顔をする。

…もう一押しか。



「“向こう”で倚天青紅は“曹操”が命じて造らせたとされる雌雄剣だ

ただ、実在したかどうかは不確かでな

創作の中の物という見方も少なくはない

尤も、“此方”では細剣と違ってる訳だが…」



華琳が確認不可能な情報を与えて納得させる。

倚天青紅自体明確な記述は少ない存在だし、嘘を吐き騙してる訳ではない。



「…嘘ではないでしょうね

でも、肝心な部分を巧妙に隠しているでしょ?」



射抜く様な視線。

ただ、詰問する類いよりも“私にも言えないの?”と言外に伝わるのが痛い。

一つ溜め息を吐く。

睨み合っても結局は根負けするだろうし。



「必然なのは確かだ…

先代の担い手とその子供…

仲謀や孟起の母親の形見の槍と同類の存在だ」


「…はぁ〜…」



何故に溜め息を吐く。

ちゃんと説明したのに。



「決まってるでしょ

非常識な貴男の秘密主義に呆れてるからよ」



そう断言する華琳。

失礼な。

そして、読むな。

もう慣れたけどさ。





「曹家の宝剣とあの娘達の形見の槍が同類の物なら、どう説明する気なの?」


「どうもこうも無い

少なくとも、孫堅・馬騰と田躊とでは状況が違う

二槍の方は先代の死に対し人外は無関係だ

態々説明する必要は無い」


「断言する根拠は?」



そう切り返され、一瞬だけ言葉に詰まる。

“打てば響く”関係だが、今は響くと墓穴を掘る。

冷静になれ、俺。

これは華琳の罠だ。



「知る必要の無い事だ」


「…可愛くないわね…」



ボソッ…と愚痴る華琳。

…やっぱりか。

危ない、危ない。

あと、俺は男だからな。

可愛くなくて結構です。



「…はぁ、もういいわ

こうなったら貴男は絶対に口を滑らさないし…」


「…此処は読んでても無視するんだな…」


「だから一つだけ訊くわ」



うわ〜…完全にスルー。

せめて、一思いに容赦無く斬り捨てて欲しい。



「今後も同じ事態が起こる可能性は有るの?」


「…今回次第だな」



真面目な華琳の視線を受け思考を切り替える。

対器は最後の一つ。

残っている“澱”も一体が最大数になる。

或いは、全滅かだ。



「抑、“此方”側の人外の詳細な情報は少ない

飽く迄も、宝剣と同じ様な事態は、と言う限りでだ」


「…そう

将来的に私達が対処出来る様に成る可能性は?」



…痛い所を突くな。

だが、“澱”自体は全滅し脅威は消えても、他に似た存在が無いとは言えない。

それに備える事は必要だ。

俺とて身一つの人間。

万能な存在ではない。



「…正直に言えば此方には関わらせたくはない…

だが、遣らずに後悔だけはしたくないからな

折を見て説明・指導する」


「それならいいわ」



納得した──というよりも言質を取った、という様に不敵に笑う華琳。

“妻”としてのプライドか或いは、好奇心か。

好奇心も無くはないけど、動機にはしないな。

好奇心で学んで良い事ではないと知っているし。


それに“私達”と言ってはいるが、実際は華琳自身の希望と思っていいだろう。

人一倍──いや、超が付く“負けず嫌い”だから。

だから、華琳は──



「待ってなさい

必ず追い付いて見せるわ」


「それはどうかな?

簡単には追い付かせないさ

男の意地でな」



そう言って二人で笑む。

一人ではない。

その事を深く心に刻み。




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