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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
121/915

27 彩色の青花 壱


寿春で一泊し翌日。

仲謀を舒へ送り届けた後、再び寿春へと戻った。


次の標的──ではないが、寿春には元々“若手”組を集めている。

…念の為に言って置くが、年齢の意では無いから。



「お、おおおっ、おまっ、お待たせ致しましたっ!」



カミカミで動揺度200%越え状態なのは令明。

字だけだと間違えそうだが鳳徳ではなく顔良。

因みに、公用ではないので彼女は私服。

白のワンピースに、上から薄紅色の衫を重ねている。

素朴な中に清楚さが窺えて中々に好印象だな。


ただ、スカートの丈が短い事に関しては触れない。

…何故、宅の武官連中には“蹴ったら見える”という概念と羞恥心が無いのか。

大抵一回は遣るな。

…態とか?…いや、違う。

基本的に失念してるだけと言う事だろうな。

後は、そんな余裕を持った相手とは戦った事が無い、かだろう。



「慌てなくても良いよ

それより似合ってるな

普段、武張ってるからか、新鮮な感じだし…

何より、可愛らしいな」


「か、かわっ!?」



ボンッ!、とアニメとかで効果音が付きそうな感じで令明の顔が瞬間沸騰。

うむ、初々しい反応だ。

お兄さん、嬉しいな。

最近の宅の連中は雌豹かと思う位に逞しいし。

主に華琳と漢升達の影響でなんだがな。

母親組も面白がって色々と要らない知識を与えるし。

本気半分、悪戯半分で。

──で、此処で“山”とか返すと空気が読めない男に認定されます。

ドン引きされます。

良い子は真似するなー。



「今日は気楽にな」



身がカチカチになっている令明の頭を右手で撫でて、緊張を解す様に、穏やかな声音で笑い掛ける。



「っ!?、は、はいっ!」



解れ──掛けて元に戻る。

むぅ…中々に手強い。

まあ、別に支障は無いから構わないんだが。



「じゃあ、行くか」



右手を令明に差し出して、進む事を促す。



「ふ、不束者ですが…

よ、宜しく御願いします」



そう言って恥ずかしそうに右手を左手で取り、左腕を絡ませながら、然り気無く身体を寄せて来る令明。

…着痩せするタイプだな。

──って、違う違う。

いや、違ってないけど。

でも違うから。



「そ──」


「──そ?」



言い掛けた瞬間、悟る。

これは“罠”だと。

此処で“それは嫁入りの”などと言おうものなら敵に隙を与える事になる。

現に見ろ。

令明の期待の籠った視線。



「そんなに甘くない」



そう返すと、結構あっさり諦めて一息吐いた。

令明…恐ろしい娘。




 顔良side──


上手く行きそうだな…って思ったのに…むぅ〜…

本当に手強いですね。



「取り敢えず、向こうから行ってみるかな」


「そうですね」



子和様と腕を組み歩く。

チラッ…と横顔を窺うが、別段此方を意識していたり照れている様子は無い。


華琳様から“不意打ち”は意外に有効だと聞いたのに平然と躱されたし。

自慢、という程の代物ではないですけど、そこそこは有る方だと思います。

比較はしませんよ。

恐いですから。

それでも、無反応って。

…私、魅力無いのかな。


容姿では地味だと思う。

というか、曹家の臣下には美女・美少女が多過ぎ。

別に子和様が選り好んでの結果ではないですけど。

才色兼備な方ばかり。

…正直、自分で志願しても後で場違いだと思ったのは言うまでもなくて。


それでも子和様は私の事を軍将とされた。

最初は分不相応だと思って辞退したが、子和様は私を必要な人材だと仰有られ、私の才能や資質等は稀有な物だと説かれた。

そんな風に評価された事は無かったので、気持ち的に舞い上がった部分が有る。

その後の修練は厳しいけど自分の成長を実感出来ると嬉しくなる。

…上手く、乗せられている気がしなくもない。



(それに日に日に惹かれる事が判るんですよね…)



最初は純粋に主として仕え従うつもりだった。

結婚とかは…将来的には、したいなって程度。

相手も居なかったし。


でも、日々の中で子和様を意識する自分に気付く。


それは本当に何気無い事で不意に訪れた。

その瞬間は、先程子和様に褒めて頂いた時の様に顔が熱くなってしまい自分でも真っ赤になっているのだと気付いた。

気付いて──逃亡した。

幸いにも鍛練中や仕事中、子和様と一緒の時ではなく空き時間だった。


その切っ掛け、というのが偶々聞いた侍女達の恋愛の雑談だった。

其処から自分の恋愛の事を想像した時、自然に浮かぶ子和様の姿に自覚した。

胸が高鳴り、温かくなり、締め付けられて…

そんな自分に該当する事は一つしか思い浮かばない。

私は“恋”をした、と。

それが自覚した瞬間。


逃げ込んだ自室で一晩。

次の日が偶々仕事が休みで良かったと思う。

お陰で気持ちを整理して、覚悟も出来た。


尤も、華琳様を始めとして皆には丸判り。

多分、子和様にも。

恥ずかしくは有ったけれど開き直る事も出来た。




そして、今回の御話。

子和様の御手伝いで視察に御同行する事に。

これは絶好の機会だと思い服装にも拘った。


余り派手なのは自分らしくないと思うし、似合わないとも思った。

でも、地味過ぎても駄目と寝台の上に持っている服を並べて考えた。

悩んでいる所へ李珀様とか泉里さんとかが来て色々と相談にも乗ってくれた。

流石に服を借りたりとかはしなかったけれど。

それでも、一生懸命選んだ甲斐が有って、子和様から服も褒められた。



「まだ統治の移行直後にも拘わらず平穏なものだな」


「そうですね…」



そう仰有る子和様。

口調こそ呆れた様子だが、実際には嬉しそうに笑みを浮かべられている。

民の間に混乱や反意が無く新体制への移行は順調。

それは曹家の誇る組織力と人脈が有ってこそ。


現在の“害悪”を排しても次なる芽が混じっていては元も子もない。

しかし、今の御時世の中で実現するのは困難。

人々の抱く欲望に限りなど有りはしないのだから。

常に“火種”は有る。

それが人間の社会なのだと子和様から学んだ。

故に、必要なのは対処より内包してしまう事。

下手に刺激したり意識する状況を作るよりも、端から肯定してしまう。

それを“罪悪”だと万人が認識する社会構造の構築。

全員に共通する“悪”だと公言する事によって発生を摘み取る。

それが子和様の御考え。


勿論、簡単ではない。

しかし、曹家の統制力なら可能性は有る。

何故なら、臣下団──単に一部の高位の者達に限らず下の者まで行き届いている意識統一。

曹家の思想・理念を全員が理解している事。

詳細な政策の方針・内容は知らずとも、根底に有って揺るぎ無い信念。

それを理解している。

だから、私達は御二人に、迷わず付いて行ける。

その先の“未来”を信じ、実現する為に。



「この平穏がより良い物に成る様に、ですね」


「俺個人は、そういう風な思想は無いんだがな…」



私の決意というか意気込み的な言葉に子和様は小さく愚痴る様に呟く。

まあ、華琳様や軍師陣から“野心や大望が有れば…”とはよく聞くし、私達でも時々思う事。

それでも、そういう盲信・固執する“何か”が無い分広く、公正に、有りの侭に物事を捉えられるのだと、華琳様は仰有る。


在るが侭にて染まらず。

然れど、影と成り響く。


其は日輪にして非ず。

其は月輪にして非ず。

其は正に、天そのもの也。




子和様と視察を始めてから凡そ一刻程が経った。

小休止、という事でお茶屋へと入った。


一旦、席に案内された後、子和様がお土産用の商品が並んだ棚の有る店内の一角へと立たれた。

並んでいるのが茶葉なので私は席で待つ。

現在、勉強中では有るけど家柄等が出てしまうのは、仕方が無い。

頑張れば良いのだから。


子和様は孤児だと仰有っていたけれど…

何処で、様々な知識を身に付けられたのか。

華琳様とは共に幼少の頃に出逢われたとか。

その時点で既に其処ら辺の大人よりも博識だったとの華琳様の御話。

本当に、凄い方です。



「お嬢ちゃん、素敵な人を掴まえたね〜」


「そ、そうですか?」



お茶屋の店主の奥さんに、そう言われて口元が緩まり掛けるのを堪える。

華琳様や皆さんには悪いと思いますが…嬉しいです。

ああ、でも、ちょっとだけ困りもしますね。

子和様に言われたら反応が難しいですし。

卓に置かれた御茶に右手を伸ばして誤魔化す様にして口へ運ぶ。



「あ、ちょっ──」


「──っ!?、熱つっ!?」



気が急いていたから熱さを失念して傾けたので口内が火傷しそうになる。

故に反射的に手を茶杯から離してしまう。

“しまったっ!?”と思った時には遅い。



「──っと」



だが、いつの間にか戻った子和様が茶杯を捕獲。

何事も無かったかの様に、然り気無く茶杯を卓に置き私を見る。



「火傷は?」


「だ、大丈夫、です…」


「なら良かった」



そう言って私の頭を右手でサラッ…と撫でる。

み、見られていたと思うと恥ずかしくて仕方無い。



「すみません、連れの者が御心配を御掛けして…」


「そんな、寧ろ此方の方が悪かったのよ…

御免なさいね」


「い、いえいえっ!

私の不注意ですからっ!

私の方こそ、お騒がせして申し訳有りません!」



子和様に続き、奥さんまで謝る事態に焦る。

というか、完全に私一人の失態が原因ですし。



「美男美女でお似合いね」


「えっ!?」


「有難う御座います

自分には勿体無い位です」



“え…ええっ!?”──と、反射的に出そうに成る声をグッ…と飲み込む。


サラッ…と言う奥さんも、笑顔で答える子和様も実は態とじゃないですか?

二人して揶揄ってません?



「ごゆっくり、どうぞ」



そう言い残し笑顔で下がる奥さんの言外の“気遣い”には顔が熱くなった。



──side out



茶屋での休息を挟んだ後、視察に戻り予定通り終了。

現在は寿春の城への帰路。



「今日はどうだった?」


「色々と有りましたけど…楽しかったです

それに…もっと頑張ろう

この人達の笑顔が消えない様にしたい…

そう、強く思います」



まあ、個人の部分の感想はそんな所だろうな。

俺に対して言うのは。

後半、曹家の家臣としての立場での言葉は上々。

その眼差しからも真摯さが窺い知れる。

再認識させる意図は達成と思って良いな。

ただ、少しだけ追加補習が必要な様だが。



「宅の面子は家柄や血筋・経歴が特殊…というか凄い面々が揃ってる

その中に居れば、極普通な平民の出身となると気後れしたりもするだろうな」


「………はい…」



言い逃れは出来無いなと、察して認める令明。

俯き加減なのは自信の無さ故の葛藤からだ。

時代的にも今はまだ家柄・血筋が重要視される傾向が強いから仕方無い。

曹家は実力主義だが。



「だがな、“普通”だから他より深く理解出来る事や見える事も有る

どんなに博識でも実体験が伴わない理屈は笊だ

何処か、見落としが出る」



これは方便。

勿論、事実でも有るが。

絶対的な事では無い。

ただ、今の令明には意図を伝える為の切っ掛け程度に成れば十分。



「それにな、俺は華琳にもお前達にも“同じ”である事を求めはしない」



技量・力量の“域”という意味では違うが、在り方は違っていて然り。

十人十色・千差万別。

だからこそ、意味が有り、価値が有る。



「大切なのは各々が自ら、どう在りたいかだ

なあ、令明…

お前は華琳や皆と同じ様な自分に成りたいか?」


「…憧れは、有ります」



そう答える令明。

だが、ちゃんと言いたいと思った事は伝わった。

その証拠に、顔を上げ俺を見詰める双眸に光が宿る。

強い、意志の光が。



「でも、私は私です

だから、私は顔令明として出来る事を遣ります

後悔しない様に…

御指導、御願いします!」


「当然だ、この程度で満足されても困るからな」


「…お、お手柔らかに…」



遣る気を見せた令明だが、ニヤッ…と笑みを浮かべて言うと顔を引き吊らす。

くくっ…安心しろ。

耐えられない事はしない。

出来無い事もな。




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