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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
107/915

24 好奇心故に… 壱


一夜が明け、洛陽に残った目的の為に動く。

向かう場所は皇帝の居城。

その“地下”だ。


華琳達には秘密にしてるが皇帝には一部説明済み。

その理由は簡単。

目的地への道が皇族にしか開けられないから。


コツッ、コツッ、コツッ…

自分の靴音だけが響く。


普段、人が近寄る事すらも無いから蜘蛛の巣が大量に張り巡らされている。

埃は積もり、空気は淀んで黴臭さが漂う。

地下へと向かう石段を下りながら進むと、深い暗闇が行く先に広がる。

右の掌に氣を収束させると球形状にし、裸電球の様に発光させる。

氣による発火や発光の術を開発しといて良かった。

勿論、人目が有れば松明を装う方法を取るが。

幸いにも誰も居ないので、気にする必要は無い。



「しかし、面倒な…

皇族の…しかも“正統”な現皇帝の血を持ってしか、開かないって…

どんな仕組みなんだか…」



DNA鑑定でも現皇帝位が正統かどうかなんて明確に判らないだろうが。

まあ、だからこそ何かしら術的な物なんだろうけど。



「普通に考えると生まれて直ぐに登録された場合か、継承の儀に伴う洗礼辺りが妥当なんだが…」



皇帝に確認した限りでは、前者に関しては不明。


抑、劉宏は直系では有るが完全な嫡子ではない。

四代目・和帝は四男。

五代目・殤帝に子は無く、従兄弟の安帝が六代目に、少帝懿が七代目となったがまた子が無く、安帝の子が八代目・順帝となる。

その子が九代目・冲帝。

しかし、また子が居らず、十代目からの三代に渡って質帝・桓帝、そして当代と非嫡子が継いでいる。

つまり、嫡子が正統だとは限らない事になる。


その点で言えば洗礼路線が濃厚なのだが…



「嫡子の子揚に対しても、長男の劉辯にも洗礼の儀の類いはしていない、か…」



まあ、まだ皇帝が健在故に子揚達では無意味。

というか、劉宏で無理なら次代でも不可能だろう。

満たす要素が無いし。



「…血が鍵でありながら、血を選別する要素が不明で手掛かりも無し…

どんな無理ゲーだよ…」



劉宏で開けなきゃ実力行使しかない訳だが、出来れば避けたいのが本音。

どんな余波が有るのか全く判らないし。



「…今回で無理なら次回は当分先になるな…」



洛陽の民を全て別の場所に移して周辺の安全を確保の上での力ずく。

そうするしか無くなる。

其処までする価値が有るか確信は得られない。

ただ、遣るだろう事だけは自覚出来る。




氣の照明によって視認する事が出来る景色はゲームのダンジョン宛ら。

若しくは中世洋風建築式の城や砦の様だ。

つまり、煉瓦造りっぽい。



「ゲームの方が比喩として近いかな…」



何しろ、入り口自体が既に“隠し通路”仕様だ。

しかも御丁寧に氣の使用が通過の絶対条件。

簡単に説明すると…

地下の広間の壁画の一角に装飾に紛れて存在している丸く磨かれた石に触れて、自分の氣を流すと壁面上に氣の入り口が出来る。

其処を潜れるのは同じ氣の者だけなので、一人でしか通れない仕組み。

使えれば誰でも通れるとも言えるけど。



「しっかし、長いなぁ…

同じ景色で見飽きたし…」



入ってから約一時間。

俺の体感的には高層ビルの二百階分位だろうか。

方向が下りだとは言っても探りながらだからペースは遅い方だな。

ただ、マッピングしたり、行き止まりは無い。

ずっと、一本道だから。



「幻覚、でもないしな…」



マーキングしたりしてみてループしてない事は確かめ進んでいると確信はした。

しかし、此処が空間的には異常なのは確か。

石段の道は螺旋階段状だが感覚としては地表から既に数百mは下がった感じだ。


氣を用いれば造れ無くないだろうが、誰が何の目的で造ったのか。

根本的な問題でも有る。



「それを知る為だが…」



まだ道は長い様だ。

足を止める事はしないが、一つ溜め息を吐く。



「…こんなの見付けなきゃ来なかったんだけどな…」



愚痴るかの様に呟きながら左手で“影”から取り出す一冊の古書。

その造りは近代製本技術と大差が無い。

パッと見には古本屋の棚に並んでいる感じ。

濃茶色の地に、金糸を使い表にあしらわれた月桂冠が目を引く装丁。

羊皮のルリユール式。

明らかに可笑しいだろ。



「しかも普通に本屋の棚に並んでるって…

誰かツッコミ入れろよ…

ってか、気付けよ」



気付いた俺が購入したが、店主は“存在しない”様に気にもしなかった。

理由は“人払い”の術等に近い認識阻害の術式が本に組み込まれていたから。

だから、色々仕方無いとは思うんだけどね。

少しは言いたいんだよ。



「これが“彼方”から来た漂流物とかだったら大して問題無かったのになぁ…」



だが、“此処”でもなく、“彼方”でもない…

全く別の“何処か”になる異世界から来た可能性。

それも捨て切れない。

故に厄介だ。




この本についてだが…

その正体は可能性は二つに絞り込んでいる。


先ず、“彼方”では無い事だけは確かだ。

氣の技術は思想的な考えで実在はしなかった。

現在にも、過去にも。

未来という点では断言する事は出来無いが、実現する可能性は限り無く低い。


次に“彼方”以外の異世界から来た可能性。

ただ、高くは無い。

理由としては此処に来れば一度術式が解ける。

世界に存在する以上逆らう事は出来無いルール。

そして、その内容。

寧ろ、此処に来た何者かが本を製作した、と言う方が納得は出来る。


最後にこの世界の何者かが製作した可能性。

これが現状で一番高いが、普通の人間ではなく…

“龍族”の様な特別な者の可能性が高い。



「その特別な存在や種族が彼方此方に無数に居るとは思えないが…

龍族だけとは限らないし、確証も無いけどな」



居たら居たで色々と複雑な状況に成るだろうが。

正直、好奇心と面倒臭さが半々と言った所だな。


それで、肝心の内容だが…

漢文で綴られた物語。

所々に漢詩の様な表現等も取り入れられており中々に面白かった。

華琳達も喜ぶのではないかという位の出来。


しかし、問題は場面毎──各章毎に区切る為に用いた頁に有った。

挿し絵とまでは言わないが各章の内容を象徴した様な簡素な絵が描かれている。

その絵の枠としてリボンの様に帯状に模様や柄に扮し綴られた“英語”の文章。

明らかに場違い。

それに“歴史”的に見れば未だに世に存在しない筈。

有り得ない事だ。


しかし、現に存在しており正しく読む事が出来る。

文脈・文法上に問題らしい部分も見当たらない。


この事から考えられるのは異世界からの来訪者による製作の可能性。


そして、もう一つ。

この世界が“再生”したと証明する物だと言う事。

“澱”の件で再生後だとは知る事が出来た。

だが、再生前の世界の文化水準や技術・学術的な事を示す物は無かった。

龍族は存在が不明だし。


其処に出て来たのが今回の本の存在だ。

これがもし、龍族の記した書だとするなら、前世界は“彼方”の時代背景に近い文化・文明が有っただろう可能性を示唆する。


勿論、只の偶然の可能性や言語的な部分だけの類似の可能性も有るが。

それでも、この世界の事を知る手掛かりにはなる。


延いては俺が、この世界に喚ばれた理由にも。




英語で記されていた文章は詩の様になっていた。

直接的ではない点を見ると“誰か”に解読される事を危惧してだろうか。

そうなると前世界の遺物の可能性が高い。

異世界からの来訪者なら、危惧する可能性も低い。

まあ、“歴史”的類似点が有る事が前提条件だが。


秘匿する以上、それ相応の価値が有るのだろう。

そして、良くも悪くも強い影響力を伴う事も。

それだけに期待も少なくはないのが本音。


その本の内容だが、簡単に言えば次の通り。


皇帝の都、その城の地には大いなる秘密が眠る。

壁に刻まれた古き英雄達が始まりの扉となる。

深淵へと続く遥かなる道を開くは正しき血のみ。


…薄い内容だよな。

どんな宝探しだよ。

ヒントでは有るんだろうが肝心の製作者等に関しての情報は皆無。

意図的に隠している作為がまる判りだしな。


それに加えて内容と場所の関係が厄介だ。

実際にこうして洛陽の城、その地下に有った訳だが。



「抑、矛盾点が多過ぎる」



皇帝の都、城って言っても洛陽は後漢に限っての事。

赤眉の乱によって荒廃した長安からの遷都でだ。

それ以前は前漢の成立から長安が都だった。

秦代以前は戦国時代からの継続なので微妙だ。


本の製作時期が後漢時代に入ってからというのならば納得は出来る。

だが、そうだと仮定すると皇帝や臣下に氣の使い手が居ない点が引っ掛かる。

単に製作者の血筋が絶えただけとも言えるが、説明に無理が有る。

力を怖れて殺された、等の可能性も同様だ。

氣の使い手は弱くはない。

病死や毒殺なら別だが。


氣を使えないと本に気付く事さえないし、壁画に扉を生じさせる事も出来無い。


なのに、この本を購入した店は寿春に有った。

その店は秦代から有る事を店主から聞いた。


仮に洛陽から流れたとして一体誰が売ったのか。

皇族に伝えられてきたなら宝物庫の中だろう。

なら、皇族に仕えた家系が受け継いでいたのか。

何方らにしても、見逃した可能性は低い。

氣を扱えないと認識する事さえ出来無いのだから。


後漢は若い皇帝が多い。

傀儡・御輿としての即位が殆んどだが。

もし、皇族に伝えられたと仮定したなら五代目辺りで失われた可能性も有る。


“道”が開くか否か。

それに因って事実へ繋がる糸が見えてくるだろう。



「…進むしかないか…」



結局の所、現状はそれしか選択肢がない。

答えを得る為には。




距離としてはどれ位か。

時間にして凡そ六時間近く下り続けて到着したのは、一つの扉の有る小部屋。


煉瓦風に見える石室の中に堂々と存在する黒い扉。

一見すると鉄製に見えるが触れてみると石──いや、石化した木質だと判る。

取っ手は無く、中央部分に天に向かい口を開けた龍の彫刻が有り、下顎は手前に張り出しており喉の奥には扉の中へ繋がる穴。

恐らくは血を入れると見て良いだろう。

この扉が“道”だと思って間違い無い。



「華琳には数日掛かるって言っといて良かったな…」



そう呟いて、右手で懐から懐中時計を取り出す。

遺跡調査等では時間経過が重要になる事も有るので、それに対する備えだった。


だが、取り出して開くと、時計を見て驚く。



「…全く進んでない?」



針は壁の入り口に踏み込む前に見た時と同じ。

正確には最後に見てからは数秒進んでいるが、それは仕舞ったりした分。

あの階段を進んでいた間の時間は入っていない。


念の為に耳を当てて動作の確認をしてみるが…

一切音がしない。

長く使えば、多少の誤差は出るだろうが永久機構の為止まる事は先ず無い。

壊れない限りは。


勿論、壊れている痕跡等は見当たらない。

考えられる状況は時流から切り離された場所に居る。

その可能性だろう。



「…現状、俺が動けるのは氣を認識されているから…

そういう事か?」



壁画の入り口は氣を使ったセキュリティ。

そして、中での活動可能な存在の認識システムという事だろうか。

どんな仕組み・術式なのか実に興味深い。



「益々、怪しいしな…」



それよりも“此処”は現実世界に存在するのか。

此処が亜空間や結界空間の可能性も出て来た。

時流から外れている事から見ても現実世界とは一線を隔てている場所なのは先ず間違い無い。



「…まさか、封印か?」



“何か”を半永久的に闇に封印している可能性。

だとすると、下手に触れる事は躊躇われる。


しかし、此処まできて何も得ずに帰るのも癪だ。



「…求めよ、然れば、道は開かれん、か…」



右手の懐中時計を“影”に仕舞い、赤い液体の入った小瓶を取り出す。

中身は皇帝の血。

小瓶の栓を抜き、龍の口へ血を注ぐ。



「鬼が出るか蛇が出るか」




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