第2話 Exchanging
出会いは、1年半前に遡る。私は子どもの頃から、地元の図書館に通い詰めていた。
ある日私は、目当ての本をようやく見つけた。でもその本は、棚のいちばん上の段にあった。そもそも体が小さいから、手を伸ばしても届かない。踏み台も見当たらないし、こんな時に限って司書の人もいない。
どうしよう……と思っていたその時だ。
視界の隅から不意に出てきた手が、件の本をいとも簡単に取った。そして2秒後、その本は私の目の前に差し出されていた。
「はい」
「……あ…ありがとうございます…」
「どういたしまして」
その人はスポーツ刈りにした茶髪で、自然な笑顔を浮かべていた。
忘れもしない、その人の顔――それは今、割と近くにある。
――――――――――――――――――――――――――――――
そして、現在。私のブラウスの胸ポケットには、昨日買ってもらったばかりの真新しい携帯電話が入っている。
せっかくだから、あの人のアドレスも欲しい……
おっと、噂をすれば影、本人が目の前にいる。何か考え込んでいるようだけど……まぁ、大丈夫かな。
「……登くん…?」
振り返ったのは、スポーツ刈りにした茶髪の背の高い好青年。両頬には若さの証であるニキビが少し浮き出ている。
そう、彼こそがあの時の人だ。
「……あ…あのっ!! …えっと…その……」
躊躇うな。切り出したんだからちゃんと最後まで言うんだ。がんばれ私!!
「……メ……メールアドレスとか電話番号とか交換しませんかっ!?」
言った……言い切った……さて、どんな返答が来ることやら……
「えっ!? あ、うん、いいよ!」
慌てながら携帯電話を取り出す登くんを見て、私も携帯電話を取り出す。赤外線ポートを平行に向き合わせ、赤外線の送受信を行う。
ただそれだけの事なのに、何でこんなに緊張するんだろう。
「……ありがとうございます…」
「あ、えっと…どういたしまして」
私はお辞儀してから走り去った。そういえば登くん、赤面してたな。……もしかして……まさかね……
何はともあれ、一つ目の試練は突破できた。さて、次は……
次回以降、話の展開上絵文字が登場せざるを得ないのですが、対応できないかもしれないので普通の文字で書きます。すみませんでした。