第8話 街は攻められて色々やばくて
「何が起こったの!?」
そう言ってエルザは布団から手を放す。俺は布団の隙間からエルザが、窓を開け外を見ていることを確認し、マントを拾いフードを被る。
どうやら外で何かあったようだが、さっきの爆発音、どうも穏やかな感じではなさそうだな。
ソルドもベッドから起き上がり、窓から外を見ている。
「3人とも大丈夫!?」
シャルが慌てて、部屋の中に入ってくる。どうやら、シャルも状況を理解してはいないようだ。
「私たちは、大丈夫だけど……」
エルザの顔色を見た限り状況は、かなり芳しくなさそうだな。
とりあえず俺も窓から外の様子を見てみると、街の入り口にあった鉄製の門がなくなっっており、かわりにその周辺には瓦礫が転がっている。周囲には土煙が舞い、一面火の海と化している。
「一体、何が……?」
そう言った瞬間に、土煙と火の海が吹き飛ばされるように消え去る。そして、そこを黒い目と髪を持った魔人を先頭に魔人の軍隊がゆっくりと進んでくる。
軍隊が掲げる軍旗は黒一色、これを見て俺はその先頭の人物が誰なのかを理解する。
「おい、カイン」
「ああ、だがなんで……」
なんで、あの方が人間の街に?
「どうかしたの?」
エルザが聞いてくるが、あの方のことを知っているなどといえるわけがない。
「いや、ちょっとな」
エルザとシャルがこちらに疑いの目を向けてくるが、話す訳にはいかない。
「魔人めが、殺してくれる!」
窓の外から聞こえてきた声に、シャルたちの視線は再び窓の外へと向けられる。
どうやら、勇者のうちの一人が、あの方へ剣を向けているようだ、そんなことをしたら……
「なんだ貴様は? そこをどけ」
「どかせるものならどかしてみろ!」
勇者はそう言って、駆け出す。確かに動きはいい、そこら辺の魔人ならで仕留められただろうが、今回は相手が悪すぎる。
「邪魔だ」
あの方がその一言と共に、軽く手を振り上げると勇者の体は青い炎に包みこまれ、悲鳴すら上げずに、消し炭となる。
その様子を見たエルザとシャルが口元を手で押さえて驚き、一歩後退りする。
当然だ、まさか、人が一瞬で消し炭になるなんて、普通ならとても考えられない。
他の勇者たちも信じられないといった顔をしながら、後退りする。
「そうだ、そうやって道を開けておけばいい」
その言葉に反応して、プライドがあるのか勇者たちが一斉に駆け出す。
「愚か者どもが」
あの方が手を横に薙ぐと、迫って来ていた勇者たちの上半身と下半身が切り離される。勇者たちは、しばらく苦しみ、のちに沈黙した。
すでに残りの勇者たちは戦意を失い、後退りし、道を開け、そこをあの方が歩いていく。
普通ならここで黙ってみているのが得策だろうが、いったいあの方が、何をしに来たのか確かめたい。
「ソルド、いくぞ」
「おう」
「待って」
走り出そうとする俺達をエルザが呼び止める。
「私も行くわ」
エルザは覚悟を決めた目をしている、連れていったら間違いなくエルザも、あの勇者たちと同じ目に合う。
「ダメだ、そもそも俺たちは様子を見に行くだけだ、二人はここで待っていてくれ」
俺は、それだけを言って部屋を飛び出した。
道に出ると、あの方の姿は、見えるところにはないが、まっすぐ進んだのならば階段を上ったはずだ。俺達は、極力目立たないようにしながら街を登っていき、3段目の中心おそらくはこの国の王がいるであろう城へと向かう。
城の入り口では、門番であったであろう兵士二人が氷の彫像と化していた。俺たちはそれを無視して城の中へと侵入し、凍った兵士を目印に進んでいく。
3階への階段の途中まで来たときに、あの方の声と慌てた様子のもう一人の男の声が聞こえてきた。
「人間の王よ、今回は貴様らに宣告をしに来た」
「き、貴様は何者だ」
「そうか、名乗っていなかったな。我は魔人の王」
「ま、魔王だと、魔王は確かに打ち取られたはず。なぜ生きている」
「貴様がそのことを知る必要はない」
兵士たちの声が聞こえないあたりもうやられてしまったのだろう。おそらくもう一つの声の主が人間の王だろう。
「人間の王よ、われはここに宣告する。今より100日の後に、我は人間を滅ぼす、それまでせいぜい絶望しているがいい」
「そんなことができるものか!」
「ここに来るまでに我に触れられた者はいなかったが? それでも出来ぬと申すか?」
「ぐっ……」
その時、階段を自分の背丈よりも大きい大剣を持ったエルザが駆け上がってきた。一瞬、俺たちのことを見たが、そのまま無視して階段を上っていく。
「魔人、お前は私が倒す!」
馬鹿、そんなことしたら死ぬぞ。俺はあわてて階段を上りだす。
「また、邪魔者が入ったか」
そう言って、あの方が手を上げる。その瞬間に俺は加圧魔法を横方向から全力でエルザにむけて発動する。
エルザは横に吹き飛び、エルザの居た場所に青い炎が吹き上がる。
エルザは壁に勢いよくぶつかりうめき声をあげた、助けるためとはいえやりすぎたかもしれない。
「まだ、だ……」
まだ立ち上がろうとするエルザを、上からの圧力により、押さえつける。
「ほお、今のはお前がやったのか」
「はい、あのものは私の連れです、どうか今回はお見逃しください」
俺は片膝をつき頭を下げる。
「礼儀をわきまえているではないか、そうだなお前の礼に免じて人間にチャンスをやろう」
「チャンスといいますと?」
「人間と魔人が共存できるということを示せ、我は城で待つ。地図はここに置いておく、まあ、我を倒しに来るのでもかまわないがな」
そう言うと、あの方は俺の横を通り過ぎ、そのまま階段を下っていく。俺は足音が聞こえなくなったのを確認し、エルザにかけていた魔法を解く。
「大丈夫かエルザ?」
俺はエルザに手を差し伸べるが、その手をエルザは払い退ける。
「なんで邪魔したの?」
「お前ではあの方には勝てない」
「そんなのは、やってみないとわからないじゃない!」
「もし、俺が助けなかったら今頃炭になっていたやつが何いってんだよ?」
俺がそれを言うとエルザは悔しそうにうつむく。
「とりあえず、一旦帰ろう」
「ごめんなさい……」
落ち着いたのか、急にエルザはしおらしくなる。
さっきまで隠れていたはずのソルドが、後ろから近づいてきてエルザに向けて言葉を発する。
「まあまあ、そんなに落ち込むなって。それとそこは『ありがとう』だろ?」
「そうだね、カインありがとう」
「どういたしまして」
俺たちが帰ろうとすると、太ったおっさんが俺たちを呼び止める。
「お、おいお前たち、どこに行くつもりだ!?」
こいつが人間の王か、こんな堂々としてないやつが王とは笑えるな。
「帰りますけど?」
「他のものが来るまで、わしを警護しろ!」
俺が呆れて、ため息をつき断ろうとすると、それよりも先にソルドが動く。
ソルドは、走りながら転送魔法を使い、長槍を手元に呼び出し、切っ先をおっさんの首に突き付ける。
「おっさん、俺らはあんたの下僕じゃねぇぞ?」
ソルドの迫力に圧倒されおっさんは口をパクパクさせ、動けないでいる。
ソルドは槍を手元から消し、こちらに振り返り歩き出す。
俺も何も言わずに、階段を下りていく。
エルザは少しオロオロしていたようだが、おっさんに一礼して、後ろから付いて来た。




