第5話 俺達は歩いて、街までついて
先ほどの戦闘から約1時間、あのあとは魔物に出会うこともなく順調に進んできている。
「ねえ、あれってもしかして出口?」
そう言って、シャルが指し示す先の方では確かに木々が途絶えている。
「たぶん、そうだな」
この森は普段なら歩いて2時間半ほどで抜けれる距離だから普段と比べれば遅いが、鎧をきたシャルがいるからこんなもんだろう。
森を抜けると、そこには見渡す限りの平原が広がっていた。遠くの方には馬車らしきものも見えるのであそこに街道があるのだろう。
「とりあえずは一安心だな、ここからは、道案内頼むぞシャル」
「まかせなさい」
それから、歩くこと1時間、なぜ今、俺たちはさっきの森の前にいるんだ?
「あ、あれぇ? お、おかしいなぁ……」
シャルの声が若干震えているのは気のせい、ではなさそうだな。
「シャルさんや、もしかしてまた迷子かい?」
俺がそういうとシャルは頭を掻きながら、苦笑いする。
「そう、みたい」
「そうかそうか」
よーし、一旦深呼吸だ、吸ってー、吐いてー、もういっちょ、吸ってー、吐いてー。
「どうするんだよ!?」
ソルドなんて、もうめんどくさそうにそこら辺に寝転がっちゃったよ? 全くこのダメ勇者はとことんまでダメ勇者だな。
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない!」
もう呆れて言葉も出ないよ……
「とりあえず、向こうの方に行ったら街道があるんだろうから、そこ行くぞ」
「え、街道があるの?」
こいつはさっき遠くの方で馬車が通っていたのを見てなかったのか? もう本当に不安になってきた。
俺がなぜか先頭を歩き、先ほど馬車の見えたあたりまで行くと本当に街道らしきものがあった。
「ほんとに街道だ! それで、この街道はどこの街につながってるの?」
「それを教えるのは、お前の仕事だろう?」
「街道なんて、どこも同じだからわからないわよ」
俺らが言い合いをしていると、ソルドが口を挟んでくる。
「シャルは地図とか持ってないの?」
このダメ勇者がそんな便利なもの……
「あるわよ」
ほら、あった……
「て、あるのかよ!」
「な、なによ持ってってもいいじゃない」
こいつはなんで、もっと早くそれを出さないんだよ。ていうかこいつよりこいつの道具のほうがよっぽど役に立つんじゃないか?
とりあえず俺はシャルから地図を受け取り広げてみる。なんで俺が見るのかって? シャルに地図読ませるのは多分無理だろ。
「とりあえず、さっきの森がここだから今歩いてきて……よし、どこにいるかは分かったぞ。それでお前の街はどこだよ?」
地図に書いてある文字が読めないからとりあえず、指さしてもらおうと思い、シャルに地図を見せる。
「えーっと、ここよ」
そう言ってシャルが指差した位置は、ここからそれほど遠くはない位置のようだ。もっとも地図上で遠くないだけであって実際の距離はかなりあるはずだが。
「よしじゃあ、行くか」
それから、もう2時間が経つが未だに街は見えてこない。シャルはまた疲れてきたのかさっきから文句ばかり言っている。
「ねえー、もうお昼にしましょうよー」
「俺も腹減ったー」
俺は懐中時計を見て時間を確認する。
時間的にもちょうどいいし、ここなら魔物が来てもすぐに発見できる分、安全か。
「そうだな、じゃあ飯にするか」
俺がそういうと二人の顔色から不満の色が消え、笑顔になる。
俺は、カバンから干し肉とパンを取りだしシャルとソルドに渡す。
「これだけ?」
いかにも不服そうな顔のシャルだが、文句を言われてもこれ以外に出せるものはない。
「旅の間なんてふつうこんなもんしか食えないだろ?」
「わかったわよ」
いかにも、不満たっぷりといった表情でシャルはパンをちぎって口に運ぶ。
「おかわりー」
「そんなもんはない!」
ソルドのやつに自由に食わせてたら、食料がいくらあっても、足りやしない。胃袋が、異次元にでもつながってるんじゃないかと思うほどに食うからな、こいつは。
食事を終え、歩くこと2時間ようやく街の姿が見えてきた。はっきり言って俺も変わり映えのしないただっぴろい草原に飽き飽きしていたところだったので、少しだけ心が躍る。
「シャル、あれがお前の住んでた街か?」
すでに歩き疲れたシャルは剣を杖代わりにしており、俺が話しかけると下に向けていた視線を上げ次第に笑顔になる。
「そうよあれよ! ほら、二人ともあと少しよ!」
さっきまで一番後ろを歩いていたくせに、急に元気になって走り出す。もっとも、それから数分後にはまた、シャルが一番後ろを歩くことになるんだがな。
「何よ、全然近づかないじゃない……」
「そりゃ、まだあんな小さいんだから当分はつかないだろ?」
「もう、いや……」
「お前、よくあの森までこれたな?」
「そ、それは……」
シャルは視線を逸らし明らかに動揺している。何か理由があるのは確かだが、その理由を言いたくなさそうなのも確かだ。
こうゆう時に限って、ソルドは無駄に鋭くなるんだよ。
「もしかして、魔物に追いかけられて逃げてたら、あんなところに着いたとかだったりしてー」
そう言いながら笑うソルドと、それを聞いて一瞬肩を震わせ、目を泳がせるシャル。
ああ、これは図星だな。
「お前ほんと、なんで勇者になったんだ?」
「う、うるさいわね」
「そもそも、勇者ってそんな簡単になれるのかよ?」
「勇者なんて十五歳以上で申請すれば大抵は誰でもなれるわよ。最近じゃ体のいい身分証明書が欲しいからって理由で申請する人もいるぐらいだもの。街への出入りも楽になるし、街中で武器を持ってっても文句は言われないし。まあ、ちまたで勇者って呼ばれるのはその中でも、実際に魔王討伐に行く人だけだけど」
勇者って、もっと国から選ばれた人物とかだと思ってた。まあ、それだったらシャルがなってる時点でおかしいよな。
俺は多少呆れながらも歩き続け、ようやく街にたどり着き、俺は町を見上げる。
街はかなりの高さの石造りの城壁に囲まれており、街は中心に行くにつれて高くなるように段々に作られているようだ。
俺とソルドは初めてこんな大きな街を見たので、見上げたまま固まってしまった。
「何やってんの? 早くいくわよ」
「お、おう」
俺とソルドはフードを深くかぶりシャルについて行く。
シャルの歩いていく方向には鉄製の門があり門番もいる、このままいったらばれるのではないだろうか?
そんなことを気にしていると、門番は俺たちに近づいてくる。
「身分証の提示をお願いします」
門番は随分とだるそうに話しかけてきた、こんなところでずっと待っているのだ、そりゃいやにもなるよな。
「はい、これでいい?」
「えーっと、勇者のシャルロッテ・グレイン・ローゼリアス。ああ、ローゼリアス家の娘さんでしたか、そちらの二人は?」
一瞬、俺は緊張するが、シャルは何事もないかのように平然とした顔で答える。
「私の従者よ」
「なるほど、これはお返ししますね」
「どうも」
そう言って、シャルは歩き出し、俺たちもそれについていく。門が開くのかと、期待していたら門の横の小さな扉を開けて街の中へと入っていき、少しがっかりする。