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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第5章 密林編
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第47話 こいつは頭痛で俺も頭痛で

 夕食を終え、明日以降の簡単な確認を済ませる。あまり見られずに町を抜けたいと言うこともあり、明るくなるには宿を出てまた塀を越えて町を抜け出す予定である。簡単にそう説明すると、大方予想はできていたがシャルが若干嫌そうな顔をして口を開く。


「折角の宿なのにゆっくりできないのね」

「気持ちはわかるが、面倒なことは出来るだけ避けたいからな」


 俺だって、出来ることならゆっくりしたいが、そんな事を言えるような状況でもない。人間の、しかも勇者が魔人の町に潜んでいるなんてことが知れれば騒ぎになるのは確実だ。まあ、文句は言うが反抗はしないあたりシャルも危険であるという自覚はあるのだろう。


 この辺りの魔物の対策などの話もしたいが、正直今回のルートなら俺とソルド二人だけでもどうにかはなる、道すがら話していけばよいだろう。


「じゃあ今日はこの辺で、ゆっくり休んでくれ」


 いつもならば、今日仕入れた物の確認作業や装備の手入れなどを行うのだが、安心して寝れる機会など次の町まではないならばここはゆっくり休むべきだろう。

 部屋に戻ってすぐに、明日の準備を簡単に終え横になる。久々のベッドなこともあってか、安心からかは解らないが眠りに落ちるまでにそれほど時間はかからなかった。


――――


 燦々と照らす太陽の中、天へと延びる青々とした葉と色取り取りの野菜たち。その向こうには愛しき我が家が身に入る。

 野菜の様子を確認し良さそうなものを選び籠へと入れていく、今日の夕食は何を作ろうか。そんなことを考えていると気の軋むような音を立てて家の扉が開き、一人の女性がこちらへ歩いてくる。俺のは微笑み声を掛けようと口を開き……


 床の軋む音で目を覚ました。それにしても今の夢に出て来たのって……

 そんな事を考えながら。音のした方を見れば、ソルドが一人部屋を出ようとしている様子が目に入った。


「どこか行くのはいいが、明日は早いぞ」


 俺が声をかけるとソルドの動きが固まる。ばれずに抜け出せるとでも思っていたのだろうが、気付いた以上は一言かけておかないと安心できない。こいつの場合、シャルとはまた違った意味で心配になる。


「なんだよ起きちまったのか、大丈夫だって。少し飲んでくるだけだしよ」


 ソルドは戦場では前線に居たのだから寝ずに交戦していたこともあるのは知っている、今日一晩寝ないぐらいなら問題ないだろう。


「あまり羽目を外すなよ」

「わかってるって、なんならカインも来るか?」

「久しぶりにゆっくり休みたいんでな、悪いが一人で行ってくれ」


 俺は手を軽く上げひらりと振って見せる。それに対して、少し残念そうに返事をするとソルドは部屋を出て行った。それを見送ってすぐ俺は再び眠りにつく。


――――


 爽やかな朝と呼ぶには少々暗すぎる、空は少し明るくなっただろうかという時間。エルザとシャルの部屋の扉をノックする。数秒して部屋の中から足音が聞こえ、扉を開けてエルザが顔を覗かせる。流石というかもう支度も済んでいるいるようだ。


「おはよう、そろそろ行くが準備できてるか」

「私はもう大丈夫なんだけど、シャルがもう少しかなー。準備で来たらそっちに行くよ」

「わかった、じゃあ向こうで待ってる」


 そう告げると俺は踵を返し自分の部屋へと戻る。厄介ごとを片付けるために


「おい、さっさと準備しろ」


 若干の苛立ちを感じながら、ベッドの上で倒れこんでいるソルドへ語りかける。


「無理、頭痛い」


 こいつ、昨日と注意されたにも関わらず朝まで飲み続け。さっき帰って来たかと思えば、今度はベッドの上から動かなくなりやがった。酒の飲みすぎなのが一目見てわかる、と言うよりも酒臭くて見なくてもわかる。この状況にむしろこっちの方が頭が痛くなる。


「いいから、さっさと動け」


 動くのを拒否するソルドと格闘すること15分、準備を終えやって来たエルザの脅しの様なお願いにより、体調不良と恐怖で青ざめたソルドは準備を始めることになる。

 エルザの怒りがこちらまで飛び火することを恐れた俺はこっそりと部屋を抜け出した。


 部屋からようやく出てきたソルドは、今にも倒れそうな顔をして槍を杖代わりにして歩いている。羽目を外すなと言ったのに人の言うことを聞かないからこうなるのだ。

 その後直ぐ、宿の主人に鍵を渡し軽く礼を言い宿を後にした。


 宿から、路地裏を進み昨日の入った時の塀のあたりへと進む、流石にこんな時間なので人は見かけない、もし、見かけるとすればあまり褒められた生活をしていない人ぐらいであろう。等と、考えていた矢先に目の前にそう言う類の人が集まっているのを見つける。

 見たところ、男三人で一人の女の子を囲んでいるようだが。普段なら助けてやらないこともないが俺らも急ぐ身だ、ここは無視しようと、別の道へ行くため引き返そうとする。その時、女の子と目が合ってしまった。


「助けて!」


 男どもに俺たちを意識させるにはその一言だけで十分だった。ついでに、エルザとシャルの視線を俺に向けさせるのにも十分であった。そんなゴミを見るような視線を俺に向けないでほしい。ため息を一つ吐き口を開く。


「昨日のところ先行っててくれ」


 何とも嫌そうな顔でそういうと、別の道を指差し道を示す。


「うん、わかった気を付けてね」


 エルザはまるで心配などしてないかの様にシャルの手を引き別の道へと進む。ソルドはよろよろと今にも倒れそうになりながら必死でついて行ったのを確認し。俺はもう一つ大きなため息とともに面倒事へと向き直る。どうしてこうも面倒ごとに巻き込まれるのだろうか、頭が痛い。

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