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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第5章 密林編
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第46話 こいつは寝て俺は買って

 町の人混みの中に飛び込んで数分、宿はいくつか見つかったがなかなかいい立地の物がない。もしもの時、逃げだせるように、出来るだけ町の外周に近くてあまり目立たない宿がいいのだが。そんな位置に宿など立てても、客が集まりにくいのだろう。それはわかっているが、一軒ぐらいそう言うのがあってもよくはないだろうか。などと、思いながら更に歩くこと約十分ようやく良さそうな宿を見つけ、二部屋を確保してからシャルたちのもとへと戻る。

 何事もなく待っていてくれたらいいのだがなー。せめて、補給を済ませるまでは街にいたいし。

 次を曲れば先ほどの場所だな、と思いながら曲がり角へと近づいていくと、次第に話し声が聞こえてくる。


「カインは戦場行ってもこそこそしてただけだったしなー」


 なんだか、俺の悪口な気がする。


「そうなの? 結構魔法とかうまく使えてるし前線はなくてもある程度は戦ってるのかと思ってた」

「あえて言うなら、逃げることと防ぐことに関しては俺より上だろうな、普段は攻撃に魔法を使ってなかったし」


 曲がり角まで来て俺は立ち止まる、盗み聞きをしようというわけでもないのだがなんだか出て行きづらい。


「それじゃあ、私と変わらないじゃない」


 いや、待てシャル、お前は戦場にもたどり着けていない。


「うーん、まあ昔は俺があっちこっち連れまわしたからそれなりには戦えると思うけどな、魔物の大群とかも昔は頑張って倒したもんだ」

「へー、じゃあこの前言ってた本気とかっていうのも期待していいのかなー?」


 そんなに期待されても困るがある程度は役に立つかなー。


「まあ、少しは期待できるかもしれないけど見た目凄い地味だぞ」

「なにそれ、私の魔法みたいに派手な奴じゃないの?」


 地味っていうのはひどすぎやしないか? それとシャルはお前の魔法を基準にするな、派手とかそう言う次元のものじゃないからあれは。


「そっかー、じゃあ、ある程度は期待しておこうかな」


 エルザさんや、今まで期待してなかったの? ちょっと俺悲しいよ?


「まあ、カインはともかくとしてソルドはどうなのよ? 私としては、結構強いと思って見てたんだけど」


 シャルめ俺のは地味だからもう用はないと? まあ、いいやこれ以上ボロボロなりたくないし。


「俺か? 自分で言うのもなんだけど本気出したら強いぞ。ちゃんと魔法さえ当たれば大抵の魔物どもは倒せるしな」


 こいつはまた自慢げに、実際強いから何も言い返せないで腹立つが。多分ワイバーンも魔法さえ当たれば倒せてたのかもなー、当たらないとどうしようもないけど。


「エルザこそ、ちゃんと本気で戦ってるのか?」

「私は一応旅の途中だし、よっぽどじゃない限りは力押さえてるよ。もともと魔法が苦手だからそんなに派手に変わるわけじゃないけど、魔力使い切ってもいいならそれなりには戦えるはずだよ。一応、これでも戦場じゃ結構前線にいたしねー」


 つまり前線組二名に後方支援一名、あとは迷子が一人と。まあ、迷子よりは俺の方が上だな。

 さて、そろそろ行くか。


「おーい、宿見つけたぞ」


 そう言いながら曲がり角から姿を現していくと、シャルが不機嫌そうな顔をこちらへ向ける。


「遅かったじゃない、待ちくたびれたわよ」

「これでも急いだ方だ勘弁しろ」


 当然のように飛び出してくるシャルの文句を流しつつ、俺は三人を率いて先ほどの宿まで行く。一階は食堂、兼酒場になっているようで数名が食事をしており、まだ日も沈んでないというのに酒を飲んでいるのまでいる。ほんと、どこにでもこういうやつらはいるんだな。

 二階に上がりエルザに鍵を渡し、出来るだけ外には出ないように伝え俺は自分たちの部屋へと入りソルドとほぼ同時にベッドに倒れ込む。


「カイン、風呂にお湯張って来て」

「自分で行けよ」

「いや、もう俺ベッドに寝転んじゃったし」

「俺も寝転んでるんだが?」


 そんな無駄な言い争いを経て、結局俺がお湯を張り、先にソルドに風呂に入られるという何とも腑に落ちない結果となった。


「あー、湯が体に染みわたるわー」


 ソルドが風呂から上がり、今度は俺が風呂へと入る。お湯を入れすぎたせいで俺が入った時に多少こぼれてしまったが、そんなのはこの際どうでもいい。旅なんかしてるとせいぜい水で体を流すのが限度なおかげか、風呂の居心地がすごくいい。思わず鼻歌まで歌ってしまいそうだ。


 風呂から上がって見るとソルドのやつは眠っており、叩いてみても起きる気配がない。

 買い出しに行かねばならないが、ソルドは起きないしシャルとエルザはあまり歩き回らせたくない。しょうがないかと俺はため息を一つ吐き部屋を出た。


 通りは結構活気があり、店の数も多い。俺の村よりは物もそろっていそうだ。乾パンと干し肉以外にも保存食が手に入ればうれしいのだが。


 小一時間ほど町を歩いて燻製肉や塩漬けにした魚など俺の村では売ってなかったようなものまで買うことが出来た。店の数が多いせいもあって時間がかかったが、少しだけ今後の食事が豪華になることに胸を躍らせながら帰路へとつく。

 宿に入ると、一人の客のテーブルの上にある川魚の香草焼きが目にとまった。

 どうせだし、何か注文していくか。

 俺はウエイターに声をかけ、適当に食事を注文し俺の部屋へ持ってきてもらうように頼み、部屋へと戻る。いまだにソルドのやつは寝ているが食事が来たら、どうせ飛び起きるのだろうから放っておいてもいいな。とりあえず買ってきたものを整理して鞄にしまい、料理が来るまで地図を見て今後の旅路の確認をしたり、ナイフの手入れをしながら待った。

 

 しばらくして、運ばれてきた料理の香りに飛び起きたソルドから料理を守るために魔法で防ぎつつ、シャルたちの部屋へとたどり着き、軽く拳で扉を叩く。確かにうまそうな香りだがすぐに食べれるのだから少しくらい待ってもらいたい。


「食事もってきたんだが、今大丈夫か?」

「あ、今開けるねー」


 中からエルザの声がすると、すぐにドアノブが動き扉が開けられる。風呂に入っていたようでなんとなくエルザの髪が湿っている。

 エルザは俺の持っている盆の上の食事を見ると「おいしそー」と言いながら、俺の後ろからつまみ食いをしようとするソルドの手を弾く。

 部屋の中に入るとシャルは旅の疲れもあってか眠っていたが、エルザが声をかけるとすぐに目を覚まし食事に目を輝かせた。

 その後、部屋の中の小さなテーブルで、食事をとる。久しぶりのまともな食事という事も相まってか、想像以上のうまさに感動しながら綺麗に平らげた。特にカモ肉のパイ包み焼きは、頬が落ちるとはこういう事かと思うほどだった。パイに染み込んだカモの肉汁と程よい香草の香り、旅が終わったら自分でも作ってみようかな。

 そんなことを思いながら、のどかな時間が流れて行った。

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