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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第四章 砂漠編
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第42話 まさかの事態でまさかの救援で

「いやー、思ったより早いんだなこいつら。最初のんびりしてたのは油断させる罠か何かだったのかもなー」


 そんなことを言って笑いながらソルドがこちらへとやってくる。


「お前、何で倒せてんだよ!?」

「何でってほら、こう、槍でざくっとな」


 さも当然のように言いやがるが、岩を槍で貫くってそもそも槍が壊れるだろ、見たところ傷一つ付いてないけどさ。こんな頑丈な武器を、親方は一体どうやって作ったんだか、もしかして俺のもこれぐらいできるのか?


「まったく、相変わらず訳が解らないなお前は」

「訳が解らないってどういうこ――」


 俺の不平に対するソルドの文句は、突如として起こった地響きによって中断された。目の前にあった砂丘がまるで生きているかのように上に伸び、砂が滝を作り上げる。


 大量の砂が落ちて行き、そこに現れたそいつはは前足を上げた状態で両翼を広げ俺たちのことを威嚇しているかのように睨みつけてくる。


 翼は左右に広げられて、おおよそ幅は二十メートル程、尾から頭までの長さは目測だが三十メートル弱といったところであろう。四本の太い四肢にはそれぞれ巨大な爪を携え、背には巨大な翼、その顎は砕けぬものなどないとでも物語っているかのように見えるほどである。


 その姿はまるで――


「ドラゴンじゃないか……」


 だが、ドラゴンとは明らかに違いもあるその体は鱗でおおわれているのではなく、岩によって作られており、鳴き声どころか呼吸音などの生物が持つべき音をが感じられない。


「こいつもゴーレムなのか?」


 そんな俺が口から吐いた自問自答の独り言にエルザが反応する。


「きっとそうだね、まだシャルが魔法の準備続けてくれてて助かったよ、さすがにこんなの私たちじゃ倒せないもの」


 そう言ってゴーレムを睨みつけるエルザの頬を一筋の汗が流れる。それが暑さからくるものかどうかはは分から無いが、緊張していることは確かであろう。


「時間稼ぎか、シャルが魔法使っても倒せるかは知らないだろうが、黙ってこのまま殺される訳にもいかないだろ」


 ソルドもそう言ってゴーレムを睨みつけるがその顔には焦りなどよりも強者と戦える喜びがなんとなく浮かび上がっているように見える。


「全力で支援はするが、無茶はするなよ、俺の魔力はそんなに多くないぞ」


 俺がそう言った次の瞬間、ゴーレムが飛びかかるように右前足を振り下ろしてくるのを合図に俺たちは駆け出す。これほどの巨体なのだから近くにいたほうが攻撃が当たりにくいであろう、そう思って足もとへと駆け出そうとしたのだが、残念なことにこの三人の中で一番遅い俺はゴーレムの右前足が作り出した風圧によって前方へと飛ばされ砂の上を転がる。


 口の中に入った砂を吐き出し、すぐに体勢をたてなおして再び駆け出すと同時に事前に用意していた魔法によって背中を押して加速する。

右側から回り込むように移動するエルザと、左から回り込むように進み既に足もとにまで移動しているソルドが視界の端に移ったが、二人のことを気にしている暇など与えられはしなかった。

 ゴーレムは体を回転させ、遠心力を用いて尾を振り回す。ソルドは既に足もとにいたおかげで何とかよけることが出来たが、俺はどうも間に合いそうにない。迫ってくる尾は地面を這い俺へと迫ってくる。砂を巻き上げる轟音と共に迫りくる岩の尾。


 逃げようにも間に合うわけがないほどの速度で迫るそれに死を予感しながら盾を構えて目をつぶり体を丸める。固い物同士がぶつかり合った時に聞こえる重低音が響く。

 だが体が吹き飛ぶでもなければ、意識が飛ぶでもない。一体何事かと思い目を開けると目の前には最近見かけた紫色の綺麗な髪が瞳に映った。


「オケガハアリマセンカ……」


 この機械的な声がこんなにも心強く思えるとは思ってもみなかった。なんといっても目の前で太い岩の尾を両手で止めている状況が頼もしすぎる。その細腕に一体どれほどの力が込められているのであろうか?


「いやー、ごめんごめん。すっかりこいつのこと忘れてたよー」


 これまた最近聞いた幼い男の子の声が後ろから聞こえてくる。


「ラッセなんでここに?」

「貴重な研究対象予定の人物がむざむざやられるのを放っておけないだろ」


 ああ、そう言えば研究対象になってくれって言ってたな。


「さあさあ、ここにいるとスティナの邪魔になるから下がるよ」


 そう言ってラッセが指を鳴らすと、それと同時に急に体が浮き上がったように感じ、気が付いた時にはシャルのすぐそばまで移動していた。これも魔法ではあるだろうが聞いたことも見たこともない。

 よこを見ると、ソルドとエルザも若干驚いた顔をしてラッセのことを見ている。


「ラッセ、いくらなんでもスティナ一人じゃ」

「言ったでしょ、僕の最高傑作だってあんなデカブツに負けるなんてありえないよ。まあ破壊は厳しいかもしれないけど」

「でも、家じゃ俺たち三人に――」

「家で本気出したら家が吹き飛ぶもの、そんなことさせられないよ。まあ、見てなよ」


 そう自信満々に言われて俺はスティナの方へと視線を移す。俺たちと背丈も変わらない女性がドラゴンに一人で挑む、もはや絶望的状況だ。

 

「スティナ、破壊しようとしなくていい、時間を稼いでー」


 ラッセが大声でそう言うのが聞こえたのであろう、スティナは一度だけ首を縦に振った。


「よく考えてみなよ、あの尻尾を止められるんだよ?」


 ラッセがそんなことを言っている間にもドラゴンの爪がスティナへと迫る。


「他の攻撃だって止めれるに決まってるじゃないか」


 スティナへと迫る爪とそれへ向けられたスティナの腕、普通に考えれば止めれるわけがない。衝突音が轟く、それと同時にスティナを中心に巻き上がる砂埃。

 砂埃が治まったその中心には両手で巨大な爪を掴み止めているスティナが立っていた。


「あれって一体どうなってるんだ?」

「ゴーレムの硬度や運動能力は魔力の供給によって飛躍的に上昇するんだよ、だから大量の魔力を効率よく体内に供給できるゴーレムがより強力なゴーレムになる。あのデカブツはでかい分魔力量は多いけど、スティナの供給効率の方がいいってだけの話」


 ラッセがそんな説明をしてくれてる間に、スティナはドラゴンの腕を駆け上がっていく。ドラゴンは体を揺らしてスティナのことを落とそうとするが、まるで落ちる気配がない。スティナはそのまま肩まで駆け上がり、そこで一気に跳ねる。

 高速でドラゴンの横顔へと迫っていくスティナ、その拳はドラゴンの顎を正確にとらえた。

 ドラゴンの頭が、まるであの小さな体のスティナに殴られたとは思えないほどに横に揺れる。だが、いくら運動能力が上がっているとはいえあの動きは物理的にありえないのではないか?。


「なあ、ラッセ。さすがにあの動きはおかしくないか?普通あんな勢いで殴ったらスティナの方も吹き飛ぶんじゃ?」

「ああ、彼女は魔力を運動能力だけに使ってるわけじゃないからね。彼女は魔法を使うこともできるんだよ。あれは風の魔法で姿勢制御とかをしてるんじゃないかな?」


 そう言ってラッセが笑う、自分の最高傑作の動きの良さが嬉しいのか、はたまた知識の披露が出来てうれしいのかはわからない。だが、ゴーレムなのに魔法まで使えると言うスティナの性能はまさに最高傑作と呼ぶにふさわしいのだろう。


「そろそろ魔法の準備はできたかな?」


 そう言ってラッセがシャルの方を向く。


「ええ、もう終わったわ」


 それを聞いてラッセが一度頷く。


「おーい、スティナ。戻っておいでー」


 そんなラッセの呼びかけに反応したのか、スティナは一気にドラゴンから離れ砂埃を巻き上げながらこちらへとやってくる。

 俺達はそれを見てシャルの後ろに回り、スティナもシャルの後ろまでやってきた。

 だがそれと同時に、当然のごとくドラゴンもこちらへとやってくる。

 ドラゴンへと両腕を向けるシャル。

 二本の前足を振り上げ俺たちのことを潰そうとしたドラゴンであったが、その腕が俺たちに届くことはなかった。

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