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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第四章 砂漠編
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第41話 そいつは倒して俺はくらって

 胸部を砕かれたゴーレムは、まるで糸が切れた操り人形のように動かなくなった。そんなゴーレムの上で岩を砕いた右手の手首を軽く振り、エルザは次のゴーレムへと駆け出す。

 向かった先のゴーレムは下半身が完全に吹き飛んでおり、両手を足の代わりのようにして進んでいる。そんなゴーレムの目の前に飛び出たエルザは、砂の上にもかかわらず姿勢を崩さず体の回転とともにその拳を突き出す。

 その拳の当たった部分を中心にしてゴーレムの体にひびが入り、そのまま後方に吹き飛ぶ。

 俺は、エルザがそのまま次のゴーレムに向かうと思っていたが、エルザは周りを一度見回すとこちらへと駆け足でやってきた。


「どうした? そのまま倒さないのか?」

「だめだめ、強化が解けちゃったもの。直接魔法で攻撃するんじゃなければ大丈夫だと思ったのに、折角かけた魔法が二体倒したら解けちゃうなんてやってられないよ」


 そう言ってエルザは肩をすくめるが、強化とは一体何のことだかさっぱりだ。なんとなく魔法だという事はわかったが、まさか肉体でも強化するというのだろうか?


「ちょっと、魔法用意しておくからその間はお願いね」


 そう言ってエルザはソルドに爆弾を五つ渡し、そのまま目を閉じて魔法に集中し始める。


「ソルド、頼んだぞ。俺は後ろでのんびりしてるよ」


 そう言って俺はうなだれたまま後ろへ下がっていく。


「しょうがねーなー、じゃあここは俺がなんとかしてやるかー」


 そう言ってソルドは振りかぶり一気に五つとも投げる。俺は一秒ほど無気力な目でそれを眺めていたが、そこではっと気が付く。


「おいソルド、そんないっぺんに投げたらこの後はどうするんだよ!?」

「へ?」


 そんな間抜けな声を上げてこちらに振り向いたソルドの向こうで、五つの爆発が一体のゴーレムを襲う。爆発によって見事に一体のゴーレムが砕け散るが残りの四体はどんどんこちらに近づいてくる。


「おいおい、残りはどうすんだよ?」

「ああ、考えてなかった……」

「これだからお前はバカだと。全く、魔法効かない相手の足止めってどうすりゃいいんだ?」


 あいつ自体に魔法を使わなけりゃいいなら、方法としては足元崩すしかないが、俺の魔法で崩すには少し厳しいものがあるな。

 ソルドに魔法であいつらの足元でも吹き飛ばしてもらうか? 


「ソルド、あいつらの足元を今すぐに吹き飛ばせるか?」

「そーだなー、ちょっと厳しいな。魔法が完成したころには、爆発でお前らまで巻き込む距離だろうし」

「なら、しょうがないな、ちょっと行ってくるわ」


 そう言って俺はゴーレムたちへ向けて歩き出す。


「お前一人で行ってあの数相手できるかよ、俺も行くっての」


 そう言ってソルドが横に並ぶ。


「無茶すんなよ」

「カインの方が心配だけどな」


 そう言って、俺たちは一瞬視線を合わしたのちに左右に分かれ走り出す。

 単純計算で一人二体ずつを相手にしなきゃいけないわけだが、機動性は失われているなんとかなるだろ。

 ゴーレムの近くまで行くと、こちらの狙い通り二体が俺にもう二体がソルドの方へと方向を変え手向かってくる。あまり離れすぎても意味がないのでぎりぎり相手の攻撃が届かない程度の距離で俺は二体の動きを伺うやはり動きは遅いこれなら何の問題もないな、そんなことを思った次の瞬間に俺は自分の目を疑った。

 さっきまではのんびり動いていたように見えたゴーレムのうちの一体が突然地面を両腕で思いっきり叩き、そのまま俺の頭上を越えて後ろに回るというその巨体に見合わぬ行動をしてのけやがった。俺はあまり大きな距離をとっていなかったこともあって見事前後に逃げ場を失ってしまった、いや前後どころか相手の腕の長さと今の動きを考えると左右も逃げ道はなさそうだ。


「ああ、前後左右逃げ場なしか、ソルドの奴もこうなってないといいんだが」


 そんな独り言を言っている俺のことなどお構いなしに二体のゴーレムは腕を広げ、そのまま両側から俺のことを虫か何かをつぶすかのように腕を振るう。


「まあ、上に逃げ場があるんだけどな」


 俺はそんな一言を発して地を蹴り上空へと跳び出すと同時に岩同士が衝突する轟音が響く、眼下に手を叩いたまま上を見上げているゴーレムたちをとらえる。

 一旦距離を置いて立て直すかそう思った時、ゴーレムたちの不思議な行動が目に入ってくる。お互いの手のひらを合わせて上下に重ねて顔をこちらに向けている。なんだかいやな予感がするな。

 

 その嫌な予感は見事に的中する、一体は腕で自分のことを押し上げ、もう一体が下からその手伝いとなるように腕を振り上げ、岩の体は砲弾のごとく俺へと向かってくる。


「そんなのありかよ!?」


 俺は必死に魔法で体を押し、なんとかその射線から体をずらすが、残念なことにその砲弾は自分の意志を持って動きやがる。体が当たらないと判断したゴーレムは腕を伸ばして俺を逃しはしない、もはや回避は不可能だと判断した俺は盾を下に構え魔法で上へと体を押し上げる。

 腕を通じて全身に響く衝撃、吹き飛ぶ体、衝撃で一瞬視界が真っ暗になりどちらが上でどちらが下かもわからない状態の俺の目に最初に飛び込んできたのは妙に眩しい白い円だった。


 混濁する意識の中をなんとか体勢を立て直さなければという考えが走る。とりあえず現状の把握だ、いま見えているのが太陽だとしたら、今は仰向けで飛んでいるわけだな、とりあえず姿勢を整えないと。あれ? こういう時はどうやって力かけるんだっけ? ああ、まだ意識がはっきりしない、落ち着け俺、このまま落ちたら死んじまうぞ。

 一度目をつぶり、心を落ち着かせる。今はどうやらもう落ち始めてるみたいだ、なら背中側から力をかけて、次に体を垂直にするために上半身にかける力を強く、よしとりあえずここまでやるか。

 少しずつさっきの考えを行動に移していく、魔法自体は使い慣れたものだったおかげか、混乱した頭でも難なく扱えた。なんとか体勢を立て直してから、周りを見回すと、また下でゴーレムが先ほどの姿勢をとっている。


「そう何度もくらうかよ」


 今度はさっきの様にならないように事前に魔法の準備をする、少しの時間さえあればあの程度避けれないわけじゃない。

 再び岩の砲弾が俺に向かって飛んでくる、それを俺は空を蹴って躱す、今度は腕が伸びてきても明らかに届かない距離まで避けることが出来ゴーレムは俺の更に上へと飛んでいく。あの軌道から行って俺のところには落ちてこないだろうけど、魔法で攻撃することもできないあたりが何とも歯がゆい。


 そんなことを思っていると足元で岩と岩がぶつかったようなそんな音が響く。


「もう、カイン危なっかしすぎるよ」


 そう言って、俺を見上げるエルザの横には、ただの岩と化したゴーレムが倒れていた。


「助かったよ。そう言えば、ソルドはどうなってるんだ?」

「見ればわかるよ」


 そう言ってエルザが指差した方へと視線を向ける。


「どういうことだよ、あれ」


 俺の目がとらえた状況は一体のゴーレムは動かなくなっており、もう一体のゴーレムも片腕が無くなっているという信じられないものであった。そんな確認をしている間にも背後から着地音と破壊音が聞こえてくる。多分またエルザが一体倒したのだろう。


「どうもこうも見たまま、あれ倒しちゃったんだよ」


 無事着地した俺のそばに来てエルザがそんなことを言い始める。


「いや、倒しちゃったっていっても、そんなに時間経ってないしあいつどうやって?」

「強化使ったんじゃないのかな?」


 その強化とは何だか知らないのだが、まあ後で聞くとするか。

 そんなことを考えている間に、ソルドの槍がゴーレムの胸を貫いた。

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