第40話 俺は怯えてそいつは怒って
岩の鎧にその身を包んだゴーレムたちの動きは決して速いわけではない、どちらかというと鈍重という言葉がピッタリであろう、スティナのように機敏な動きをする事の方が例外なのであろうか。だが、動きが遅くてもその巨大な体躯のせいで一歩ごとに進む距離は大きく、恐らく攻撃の破壊力もすさまじいものとなるだろう。
魔法は効果がない上に体は岩、一体どうやって倒せばいいというのか? 考えられる手段は魔法でゴーレム以外のものに影響を与えるという方法だが、あいにく砂以外に使えそうなものはない。
幸いにも、敵までに結構な距離はあるので考えるだけの時間はある。
「だれか、良い考えがあるやついるか?」
「魔法、効かないんだよね?」
「半端な魔法はほぼ確実に聞かないらしい、上級魔法でもほぼ吸収してしまうらしい。考えられる可能性はシャルぐらいだな」
「わかった、とりあえず準備しておくわ」
かといってそんな何分も待ってくれる訳もなければ、そう何分も止められるような相手でもない。まず間違いなくシャルを頼るのは無理だ、そもそもワイバーンの時は運が良かっただけであってあんなに上手くいくことなどそうありはしない。
「ソルド、わかってると思うが――」
「突撃はしねえよ、俺だって今の状況のやばさぐらいわかってる」
「後ろに下がって体勢を立て直すのはどう?」
後ろに下がってもあるのはさっきの岩の壁に挟まれた狭い道、戦闘で落石が起きる可能性がある上に逃げ道も一方向に絞られる。
「今の状況で、下がるのは得策じゃないな」
だからと言って、作戦は思いつきもしない。何か使えるものはないか、そう考えてふとあるものが思い出された。
俺はカバンの中を漁り一つの丸い石を取り出す。
「それって、町でる時に買わされた爆弾か?」
「ああ、威力を試してなかったが、もしかしたら使えるかなって」
とりあえず一つに魔力を注ぎ込んで、ゴーレムの方へと投げてみる。きれいな放物線を描いて飛んでいった爆弾を魔法で軌道修正しつつ飛ばし、ゴーレムの頭へ当てる。
乾いた炸裂音が響いた、だがその音はあまりにもか細くそして弱い、爆発と呼ぶにはふさわしくないそうまるで……
「おもちゃ、じゃないか」
とてもじゃないが戦闘で使えるようなものではない、せいぜい誰かに投げて驚かせるのが関の山だろう。本当にあいつはろくなものを売ってなかったんだな、もし今度であったら文句言ってやらねばならんな。
「なんだよこれ、役にたたねーのかよ、もう魔力こめちまったぞ」
そう言ってソルドが爆弾もといおもちゃを適当にゴーレムの方へと投げる。それは一体のゴーレムの足元に落ち数秒後、まさに爆音という言葉がふさわしい、体の芯に響くような音が響いた。
爆発の衝撃によって、ゴーレムの片足は崩れて後方にぐらつき、そのまま仰向けに倒れる。
「へ?」
思はず間抜けな声が口を突いて出る。
先ほどのおもちゃのような爆発とは打って変わって、完全に爆弾という名の兵器が放つ爆音と衝撃が起こったのだから驚くのもしょうがないと思う、ソルドも口を開けたまま固まっている。
「なんだ、さっきのはただの不良品かよ」
そう言って俺は新しい爆弾に魔力を込め先ほど倒れたのとは別のゴーレムへと投げつける。ゴーレムの足元に向けてきれいな放物線を描いて飛んで行き、砂上に落ちて一秒も経たぬうちにせいぜい虫を殺すのが精いっぱいな程度の爆発が起こる。
その爆発の音が響いた一瞬の沈黙の後にソルドの笑い声が乾いた空に響く。よこを見るとソルドが腹を抱えて笑い転げている。今ならこいつを蹴り飛ばしてもいい気がする。
「おい、ソルド今蹴っ飛ばしてやるからそこ動くなよ」
「悪い悪い、それにしても、なんでだろうな?」
そう言いながらソルドは立ち上がる。
それにしても、二つとも不良品という事はないだろうし、俺とソルドとで何が違うんだろうか?
「もしかして、属性とか?」
そんなソルドの一言に思考が停止する。
そのまま爆弾を持った腕を掲げ、思いっきり振り下ろし地面に爆弾を投げつける。
「また属性が必要なのかよ!!」
地面に転がる爆弾をソルドが屈んで拾い上げる。
「まあまあ、そう怒るなって」
そう言いながら、ソルドは手の上で3つほどの爆弾をもてあそぶ。
「ねえ、いつまで遊んでる気?」
そう言いながら眉間に皺を寄せながら、なぜか大剣を振りかぶってエルザがこちらを睨んでいる。
「待て、エルザ誤解だ、遊んでたわけじゃない! 真面目にあいつらを倒す方法をだな……」
「カイン、いつまでも喋ってると怒るよ?」
続けて話そうとしていた弁明の言葉はそのまま腹の奥底へと引っ込んでいき、俺の体は動かなくなる。
「さてじゃあ、ソルドあれ全部爆弾で転ばして」
「はい」
なんだか妙に背筋が真っ直ぐなソルドが爆弾を次々とゴーレムへと投げて行き、ゴーレムを転ばしていく。
七体の転んだゴーレムは腕を使って進もうとするが、なかなかうまく進めていない。
「じゃあ、あれ片付けてくるから」
そう言って、エルザは大剣を砂に突き刺し倒れたゴーレムたちへと向かっていく。
「おい、エルザ魔法は効かないぞ」
そんな俺の忠告など聞きもせず、エルザはゴーレムの胸の部分へと拳をたたき込む。巨大な者同士が衝突したような音と共にゴーレムの体が砕ける。
拳ひとつで岩を砕くエルザの姿に頼もしさよりも恐怖を覚え、冷や汗が頬を流れて行った。