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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第四章 砂漠編
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第36話 人形は動いて俺は防いで

 俺の方に右腕を向けた姿勢で動かない、その人形らしきもの以外には屋内に特に何も見当たらない。あれがさっきの矢じりを放ったのだろうか?

 人形は紫色の髪と瞳をしており、髪はまっすぐで肩にかかるくらいの長さ、瞳は釣り目気味である。服は黒と白のエプロンドレスらしきものを着ており、大きさは160センチほどであろうか。一瞬人間なのではと見まがうほどに精巧な作りのそれから、生気が感じられないことに一瞬違和感すら覚えてしまう。

 人形型の罠だという可能性も捨てきれないが、あんなわかりやすい形のものを罠として使うだろうか?

 そんな疑問を持ちながらも、俺は盾を装着して警戒しつつ部屋の中に一歩、踏み入る。次の瞬間、人形の左腕が動き、俺へと向けられる。


「シンニュウシャ……ハイジョ」


 そんな掠れた声とともに人形の左手首の辺りから放たれる矢じり。だが、俺も馬鹿ではない、盾で難なく矢じりを防ぎ、人形へと再び視線を向ける。

 さっきまでは全く動かなかった人形は、俺を仕留め損ねたことを確認するや否や、どこかから二振りの直剣を取り出し、俺へと突撃してくる。

 あれが何であるかなどは知らないが、黙ってやられるつもりなど毛頭ない。

 俺はナイフを抜き攻撃に備えるが、突如として体勢を低くした人形の動きに一瞬、剣を見失ってしまう。

 左右の足元から迫る刺突、左の剣を防いだとしても右は防げないだろう、つまり避けるしか生き残る道はない。

 俺は即座に魔法で体を後ろに弾き、なんとか剣を避けるものの当然のごとく、背中から地面に倒れる結果となる。いつも戦場で死にかけてきた経験がこういう時には役に立つ、もっとも守ることしかできないのだが。


「あっぶないなって、まだ終わってないよな」


 倒れている俺に向けて、人形は二振りの剣先を向ける。だが、その剣が俺を仕留めることはなかった。

 空を裂く音と共に二つの影が視界の端に走る。直後に響く金属音、人形の手から剣は弾き飛ばされ、その喉元には銀色に輝く大剣と槍が向けられていた。


「動くなよ」


 殺気を込めたソルドの声が、その場に響く。明らかにただの脅しではなく、動けば間違いなく首をはねる気であろう。


 緊迫した空気の中、場に幼い少年のもののような声が響く。


「上が騒がしいと思ったら、ずいぶん物騒なことになってるみたいだね」


 声のした方を向くと、一人の少年が佇んでいた。髪と瞳の色は茶色く、まっすぐな髪は長い間切っていないのか、前髪が口元に達するくらいに伸びており、背が小さいというのに、古くなって傷んだ大きめのローブを着ているせいで、裾は地面についてしまっている。

 俺は、人がいたことに驚きながらも立ち上がり、軽く頭を下げる。


「申し訳ありません、まさか人が住んでいるとは思わず」

「確かに、こんなところに人が住んでるなんて普通は思わないよね、僕も人が来るなんて思ってなかったし。とりあえず、そこの二人は武器を収めてもらえないかな?」


 そう言って、少年はソルドとエルザのことを指さす。それに反応してか、まずはエルザが剣を収め、渋々といった具合でソルドがそれに続く。


「スティナ、ちょっと下がってて」

「ワカリマシタ」


 スティナと呼ばれた人形は弾かれた剣を拾うと、少年の後ろに控えたままこちらの様子を伺う。後ろでソルドも相手のことを睨んでいるができることならやめてもらいたい。


「とりあえず、君たちが何でこんなところにいるのか、人間も一緒にいることも含めて説明してもらえるかな?あ、ちなみに僕はラッセ、後にいるのはスティナだよ」


 言っていいものなのかはわからないが、ここは話しても問題ないのだろうか。俺は一瞬、ソルドへと視線を送る。ソルドはそれに気づくと軽く首を縦に振ってくれた。


「わかりました、お話します」


 俺は咳払いを一つし、旅の経緯を離し始める。ラッセは終始真面目な顔で話を聞いていた。


 ようやく話を終えるとラッセが口を開く。


「大体のことは分かったよ、君たちの言い分もわからなくはない。真王様も随分と大胆なことをしたものだね。これはついでだけど、敬語はいらないよ」

「わかった、そうさせてもらう。こっちからも質問していいか?」

「ん、なんだい?」


 俺はラッセから視線を上へずらし、スティナへと一度視線を移す、相変わらずの無表情ではあるが警戒されているように感じる。俺は再びラッセへ視線を戻して口を開いた。


「後ろにいるそのスティナっていうのは何者なんだ? 呼吸すらしていないようだし」


 俺の言葉にラッセが小さく眉を動かして反応を示す。しかし、ラッセはすぐに口元に手を当てて少しの間何か考え事をしているような表情になる。


「君たちも教えてくれたんだし、僕も少しくらい教えてもいいかな。スティナは僕の最高傑作さ」


 ラッセの言葉に俺は何も反応を示すことができなかった。最高傑作と言われても何の最高傑作なのかわからなければ、意味がない。


「悪いが結局スティナは何なんだ?」

「ああ、そっか、魔道人形は有名じゃなかったね、スティナは魔道人形。うーんと、わかりやすく説明するとゴーレムが一番近いかな」


 俺はそれを聞いたとき驚きで開いた口がふさがらなかった。ゴーレムの生成は失われた魔法技術のうちの一つである。それを年端もいかない子供がやってのけたなどと言われたのだ、驚くのも無理はない。

 俺が次に続ける言葉に困って、言葉にならない声を出していると何かを察したのかラッセが口を開く。


「こんな子供がとかって思ってるでしょ?」


 おれは言葉に詰まりながらも校庭の返事を返す、だがその返事を聞いてラッセの口からこぼれ出たのはため息だった。


「悪いけどお兄さん、僕はこう見えても八十三歳。見た目が子どもなのはそう言う種族だからだよ。なんでも見た目で判断するのはよくないよ?」


 その言葉に俺は開いた口をふさぐことどころかその方法すら忘れてしまった。


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