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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第四章 砂漠編
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第35話 あいつは怯えて俺は耐えて

 エルザが倒れた日から二日が経過し、周囲の景色はほとんど砂しかなかった物から、赤褐色の岩が多数見受けられるものへと変わっていた。そんな岩の中には、見上げるほどの大きさのものもあり、今現在俺たちはその岩陰で休憩をしている。


「それにしても、突然岩が増えてきたわね」


 そう言いながらシャルが岩を見上げる。たしかに突然といってもいいほどに岩が増えてきた、その中には明らかに手が加えられたものもあり、ここにかつては誰かがいたことを表している。もっとも、今となっては人がいる気配などは微塵も感じられないので、人が住んでいたとしてもかなり昔の話であろう。


「そうだな、昔はこの辺りにも誰かが住んでいたんだろうな。多分、採石場でもこの近くにあるんじゃないか?」


 これだけの量の岩を長距離運ぶのはかなりつらいはずだが、周りを見渡しても採石場が見当たらない。一体どうやって岩を運んできたのだろうか?


 休憩を終え、そこから進むにつれてその辺りにある岩の数は増え、中には綺麗に建物の形を保ったものまで出てきはじめた。


 数時間進んだ所で、視線の端のはるか遠くに赤褐色の岩の壁が見えてきた。ここから行っても一時間はかかるであろう場所にあり、とてもじゃないが先ほどの位置まで岩を運ぶことなどできそうにもない。まあ、魔法を使えば不可能じゃないだろうが、それでもかなりの労力を必要とするだろう。何か便利な方法があったのだろうか?


 そんなことを考え、赤い岩の壁に視線を送りながら俺は歩き続ける。


 俺の持っている地図なんて大まかな地形が描いてあるだけで街などのものは大きなもの以外何も書かれていない、おかげでこんな廃墟があるということ自体を予想していなかった。だけど、これはうれしい誤算だ、今日はテントではなく廃墟のうちのどれか綺麗なものを野営の場所として使えそうだな。


 それから歩き続けること約一時間、今まで見てきた建物と比べても立派で、見た目損傷も少ない建物の前に俺たちはいた。


「ほんとにこんなところに泊まるの?」


 いかにも嫌そうにシャルがそう言ってくるが、俺は意見をかえるつもりはない。


「なんの問題があるんだ? 魔物の侵入を防ぐ扉までついてる上に雨風も防げる、完璧だろ?」


 俺がそう言うが、シャルは納得のいっていないようで、視線を逸らしながらなんだかそわそわしている。それから数秒の間をおいてやっとシャルが口を開く。


「だって、何か出そうじゃない?」

「は?」


 一体、何が出るっていうんだ? 魔物がどこかから出てきそうということだろうか?

 シャルは俺の反応がどうも気に入らなかったようで、次第に怒りで体を震わせだす。直後、堰を切ったように言葉を吐き出した。


「だから、お化けとか出てきそうじゃない!」


 俺はその言葉を聞いて首を傾げて口を開いた。


「なんだ、“おばけ”って?」


 そんな名前の魔物がいるのだろうか? 少なくとも俺の記憶にはないが、もしかしたら人間達の間では有名な魔物なのかもしれない。


 首を傾げている俺のことをまるで信じられないといったような具合にシャルが見つめていた。


――「そんなことがあり得る訳がないだろ!」


 お化けという物の話しを聞いて最初に出た言葉がこれであった。死んだ人間の残留思念が形を成すなどという、荒唐無稽な話に俺はそう反応するしかなかった。


「嘘じゃないわよ、見たっていう人もたくさんいるんだから!」

「信じられない、少なくとも俺は見たことがないしな。そもそもこの中で誰か見たことがあるやつはいるのか、その“おばけ”ってやつを?」


 俺はそう言って、全員に視線を送るが俺同様に“おばけ”などというものを知りもしなかったソルドは当然ながら、エルザも首を横に振って否定する。


「シャルもどうせ見たことないんだろ?」

「そりゃ、ないけど……」


 そう言ってシャルは俯く、なぜか少し泣きそうな声だ。

 そんなシャルを励ますようにエルザが口を開く。


「ほら、シャルきっと大丈夫だから、ね?」


 なんだか、しらんがすごく悪いことをしたような気分になってくる。


「おい、ソルド俺が悪いのか?」

「うーん、わかんねーけど、そうなんじゃね?」


 俺はそれを聞いてため息を軽く吐いて、口を開く。


「なら、いつも通りテントにするか?」

「それはそれで、なんだかいやよ。折角あるんだから使わないと損じゃない」


 俺はこの怒りをどこにぶつければいいのだろうか? 怒りでこめかみが震えるのを感じながら暴言を吐かなかった俺を自分で褒めてやりたい、よくぞ耐えた俺。


「じゃあ、結局この建物を使わせてもらうけど文句はないな」

「しょうがないわね、いいわよ」


 耐えるんだ俺、今までだってこんなこと何度もあっただろ、今更気にしても始まらないぞ。

 そんなことを考えながら、俺は建物の扉に手をかける。よく考えれば木造の扉がほぼ完ぺきな状態で残っている、ということに違和感を覚えるべきだったのかもしれない。


 扉を引くと同時に建物の暗闇の中から飛び出してくる銀の輝き、あまりに突然な出来事に俺は動くことが出来なかった。

 眼前に迫る鋭利な切っ先、それを阻むように横からもう一つの銀色が視界に移る。響く金属音、砂の上に落ちる金属の矢じり。


「おい、出てこいよ」


 ソルドは矢じりを弾いた槍をそのまま暗闇の中に向けそう言い放つ。屋内からは、人の気配どころか生き物の気配すら感じられない。何かがいるのならば呼吸音を含めた何か音がしてもおかしくないのだが、それが全く聞こえてこない。さっきのはただの罠だったのだろうか?


 ソルドが炎の球を放ち部屋の中を漂わせる。明るく照らされた部屋の中に見えたものは、人の形をした何かであった。

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