第31話 夜は寒くてあいつは転んで
砂漠では日が落ちると昼の熱気は嘘のように消えてなくなり、寒さに身を震わせるほどに冷える。森にいたときに集めておいた大量の薪もだいぶ無くなってきたが、せめて砂漠を超えるまでは持ってほしい。
たき火にあたりながら座っていると先に休憩に入ったソルドの代わりにシャルがやってきた。寒そうに自分の両腕を抱きながら、たき火を挟んで俺の対面に座る。
「何で夜になるとこんなに寒いのよ、昼はあんなに暑いくせに」
「砂漠っていうのはそう言うもんなんだよ。ほらこれでも飲んで温まってろ」
そう言って俺はお茶の入った金属製のカップを渡す。シャルはそれを受け取って熱いだのなんだの言いながら少しずつ飲んでいく。よくもまあ、こんなに次から次へと文句が出てくるものだ。
見晴らしはよく、風邪が今は吹いてないこともあってか空気も澄んでいるので、魔物が砂の中を進んでくるのでなければだいぶ見つけやすいだろう。砂嵐の心配も今のところはなさそうだしな。俺はとりあえず周囲を見渡し、危険がないことを確認してから立ち上がる。
「このままでいても寒いだけだし、少し体でも動かして温まらないか?」
俺はそう言って鞘を付けたままのナイフを逆手に持ち、シャルから距離をとる。
その様子を見て何が言いたいのかわかったのだろう、シャルも立ち上がって剣を抜く。
「そうね、そろそろカインくらい倒してあげようかしら」
「寝言は寝てから言え」
最近では、シャル相手に試合形式の訓練をしている。当然手は抜いているが、最近ではシャルも大分いい動きをするようになってきた。
「そうやって余裕でいられるのも今のうちよ!」
そう言って駆け出すシャルだが、やはり砂に足をとられてあまり速くは走れていない。そのまま俺に向かって横から薙ぐように振られた剣を俺は軽くナイフで防ぐ。シャルは防がれることを分かっていたのかすぐに剣を引いて突きを放つ。
無駄な動作も無かったしいい動きだな、などと考えながら半身になりつつナイフで突きの軌道を逸らす。
俺は突きをして隙のできたシャルの剣をナイフで弾き、そのままシャルの首に向けてナイフを振るう。
シャルはそれを避けるために横に転がろうとしたが、踏ん張りが利かずに顔から転んでしまった。
「大丈夫か?」
俺がそう言ってシャルのことを上から覗き込んだ、次の瞬間シャルは横に転がり俺の顔めがけて剣を突き出してきた。突然のことに驚いたが、なんとか上体を逸らして回避する。こいつは本気で俺のことを殺す気なのだろうか?
「不意打ちはせこいだろ!?」
「戦いにせこいも何もないでしょ」
いや、確かにそうだがこれ訓練だし、お前使ってるの真剣だし。まあ、狙いとしては間違ってないけど。
「とりあえず、不意打ちは禁止だ。俺が死にかねない」
「わかったわよ。うー、砂が口の中に入った」
そう言いながらシャルは先ほどの金属製のカップに水を汲みうがいを始める。
「砂の上なんだから今までどおりに動いてたんじゃだめだぞ?」
シャルは水を吐き捨ててこちらを振り向く。
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「うーん、慣れるしかないかな」
俺も砂上での動きなど知るはずもなく、とりあえず適当に言ってみたが実際はこの一言だろう。普通の走り方をしても駄目なことは確かだがどうすればいいかなど自分で覚えるしかないと思う。
「随分と適当ね」
そう言ってシャルは眉間にしわを寄せる。
「とにかく練習あるのみってことだ」
「しょうがないわね、私の才能見せてあげるわ」
一体こいつに戦闘に関しての才能があるのかは疑問だが、やる気があるだけまだましだな。
それからも訓練を続けて俺はなんとなくだが砂の上での動き方を身に着けることができたが、シャルは大して進歩がなかったようだ。そんなことをしているうちにも時間は過ぎて、俺が休憩に入る時間となりその日の訓練はお開きとなった。
次の日の朝、太陽も登り切っていない時間に俺は金属同士のぶつかり合う甲高い音で目を覚ました。テントから出てみるとエルザとソルドが昨晩の俺とシャルと同じように模擬選を行っていた。
どうやら俺には気づいていないようだったので、俺はすでに消えた焚火跡の近くに座り水を一杯胃に流し込み、再びたき火に火を灯して朝食の準備を始める。
ちょうど食事の支度が終わるころになってエルザとソルドはお互いの獲物を収めて俺の方へとやってきた。軽く挨拶をして二人に水を渡し、俺は食事の準備を続けた。
エルザはそのままシャルを起こしに行き、俺はつまみ食いをしようとするソルド相手に格闘をしていた。
朝食は昨日の蛇を香辛料をつけ、串に刺して直火焼きしたものに乾パンだけ、という何ともさびしいものだが、何も食わないよりはよっぽどましだ。
エルザに起こされたシャルはいつも通り眠そうにあくびをしながら適当に焚火のそばに座る。目がほとんど開いていないが、こいつは本当に起きているのだろうか?
そのあと食事を終えるとすぐに出発する準備をして俺たちは再び進みだす。俺は東の空に昇り始めた太陽を見て、今日もまた暑くなるのだろうな、などとどうしようもないことを考えた。