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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第四章 砂漠編
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第30話 こいつは追いかけてきて俺は逃げて

 照りつける太陽を見上げながら俺は歩き続ける。あまりの暑さに体中から汗がとめどなくあふれてくる。俺は額の汗を手で拭い水を一口飲む。


 皆の顔を見てみるとシャルはかなり辛そうにしているが、エルザは多少の疲れが顔色から見て取れるがまだまだ平気そうだ。ソルドに至ってはなぜか楽しそうな顔をして鼻歌まで歌っている。こいつには暑いという感覚はないのだろうか?

 そんな調子で進んでいた俺たちだが、ついにシャルが限界を迎えたようだ。シャルは疲れたと言いながらも頑張って歩いていたが、砂丘を上っている途中で砂に足を取られ前のめりに転び短い悲鳴を上げた。

 俺たちがその声に立ち止り、後ろを振り向くと顔を勢いよくあげてシャルが叫ぶ。


「もぉー、なんなのよ。暑いし、歩きにくいし砂漠なんて大っ嫌い」


 いかにも不満だと言わんばかりの顔でそう叫ぶシャルを見て、俺はため息をつき困ったようにつぶやく。これだけ叫ぶ元気があれば、とりあえずは大丈夫そうだが、このまま歩き続けるのは得策ではないだろうな。


「文句言うなよ、ここ通るのが一番楽なんだからしょうがないだろ。とりあえず、砂丘を登り切ったら休憩にするからそれまで頑張ってくれ」


 この言葉に偽りはない。砂漠には魔物が少ないので襲われる可能性が低く、この後進む場所や制限時間などを考えるとここを進むことが最も良いと俺は考えた上で砂漠を通ることにした。

 砂に足をとられて歩くのはつらいし、気候条件なども苛酷だが、それはほかの場所にも言えことだ。とは、いってもシャルの体力のなさは理解しているつもりだ。あの日から余裕があれば行っている訓練も疲れの一因だろうが、それでもがんばってもらうしかない。


 明らかに疲れた顔のシャルは、エルザに手を引かれてなんとか砂丘を登りきり、そこで座り込む。わかってはいたことだが、こんな調子だとこの先きついかもしれないな。

 砂丘の上から周囲を見渡すが、どこまで行っても砂ばかり、オアシスなどはこの砂漠にはないのだろうか? 魔物が見当たらないのが唯一の救いだが、砂の中に潜んでいる可能性も否定できない。常に細心の注意を払いながら進むべきなのだが、恐らくソルドは俺が注意したところで数分後には忘れてしまうだろう。

 俺がシャルの体力的な問題やソルドの自由奔放さに悩んでいると、そんな俺の様子に気づいてかエルザが声をかけてきた。


「どうしたの、難しそうな顔して?」

「ん、ちょっとな」


 そう言った俺のことをエルザがじっと見つめてくる。何かおかしな事でもいってしまっただろうか? 


「シャルなら私が補助するから大丈夫だよ」


 どうやら俺の悩みの種はエルザも理解していたようだ。


「それじゃあ、エルザの負担が増えるだろ?」


 ただでさえ体力を消費しやすい場所だというのに、シャルのことまでやっていたらエルザが持たないのではないだろうか?


「大丈夫、大丈夫いつもこんな重い剣持ってるんだよ? シャルの一人くらいおんぶしても問題ないよ」


 俺はそれを聞いて小さな子供が大人をおんぶするような図を思い浮かべて、思わず吹き出してしまった。


「ちょっと、何で笑うの!?」

「いや、悪い悪い。じゃあ、頼んでもいいか? 俺もできるだけ手伝うからさ」

「任せといて」


 エルザはそう言って腕を曲げ、拳を掲げて力強さをアピールする。まあ、これ以上悩んでもどうしようもないしな。そう思った瞬間にソルドの声が聞こえてくる。


「カイン、蛇捕まえたぞー」


 そう言いながら、ソルドは全長一メートル以上はあるであろう蛇を生きたまま振り回してこちらへやってくる。俺はそんな様子を見て、俯いて首を横に振りながらため息を吐く。噛まれるかもしれないというのにあいつには危機感はないのだろうか?

 そんな俺の様子を見てエルザも苦笑いしかできないといった様子だ。


「あの馬鹿は俺がなんとかするよ……」

「あはは、大変だね……」


 俺は、近づいてくるソルドに蛇にとどめを刺すように言うが、ソルドのやつは俺の言うことなど聞かずに蛇の顔をこちらに向けて近寄ってくる。


「ほら、カイン蛇だぞー」

「ちょっ、お前こっちに来るな」


 俺は危険を感じ取り、ソルドに背中を向けて走り出す。

 この馬鹿は一体何を考えてるんだ!?


「毒とか持ってたら危ないから、やめろって!」

「大丈夫だ、俺がちゃんと解毒もしてやるよ」

「そうゆう問題じゃないんだよ!」


 それから、俺とソルドの鬼ごっこは数分続いたが、俺が体力の限界を迎えるという形で幕を閉じた。


「なんだよカイン、体力落ちたんじゃないのか?」

「うるせー、お前みたいにずっと最前線で戦ってたわけじゃないんだよ」


 どちらかというと魔王軍では俺はいつも後方で支援ばかりしていた。最前線にいつも突っ込んでいった方が金はもうかるが死んでは意味がない、その点ソルドは毎回最前線で戦い無事に帰還してくる。こいつの強さと運の良さは、もはや疑うまでもないだろう。

 よく蛇を見てみれば、ソルドがずっと首をつかんでいたので窒息死している。ここまで必死になって逃げることもなかったのではないだろうか?


「あーあ、蛇死んじまったよ。とりあえず焼けば食えるかな?」


 ソルドがそんなことを言った時、近くの砂が突然盛り上がる。俺とソルドはそこから現れたものを、口を開けて呆然と眺めるしか出来なかった。


 太さも長さもソルドが捕まえた蛇の数十倍はあろう大蛇がそこにはいた。ソルドの手の中にいる蛇はその子供といったところであろうか? とりあえず明らかにご立腹だということは分かる。


「ソルド、どうやらお前の掴んでいる者のせいでこちらのお方は怒っていられるようだぞ?」

「そうだな、これはやらなきゃやられるといった状況だな」

 

 そう言いながら、それぞれ槍と盾を手元に呼び出す。俺たちが動こうとした次の瞬間、何かが飛んできて蛇の体が横に吹き飛ぶ。蛇は突然の飛来物によって貫かれ、その生涯を閉じた。

 蛇の体を貫いたものは大剣、そして剣が飛んできた方向を見るとそこには何かを投げた格好をしているエルザがいた。


「もう、二人とも。もう少し緊張感持ってよ」


 あれだけ重いものを投げ飛ばすだけでなく高速で飛ばしなおかつ命中させる技術に俺は頼もしさとともに多少の恐怖を覚えた。小さいとか言った時にもあんなものが飛んでくるのだろうか?


 そんな恐怖をソルドも感じたのか、俺とソルドは顔を見合わせ、同時に同じ言葉を放つことしかできなかった。


「「すみませんでした!」」

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