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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第三章 草原編
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第27話 敵はすごくて俺たちは本気で

 シャルが魔法の準備を始めてから十分程が経った。すでにシャル以外は準備が終わっておりいつでも魔法がつかえる状態である。

 

 一つ良かったことを挙げるとすれば、ワイバーンの食事時間が予想よりも長いことだろう。ドラゴンにしては体が小さめなこともあってか、食事をとる速度はさほど速くはないようだ。

 このままいつまでも食べててくれればいいのになどと、ありえないことを願った瞬間にワイバーンが飛び立つ。そのままワイバーンは旋回しながら上昇していく。俺は、シャルの方を軽く見るがまだ準備は終わっていないようだ。

 

「なぁ、カイン今見つかったらやばいかな」

「かなりやばいな」

 

 そう言いながら、俺は冷や汗を流す、まだ時間は十分ちょっとしか経っていない。確か大規模魔法の発動までに十五分くらいかかるとか言っていたはずだからこのまま見つかると中々に厄介なことになる。


 そもそも、ワイバーンを倒せるような魔法など、俺は使えないしソルドやエルザも同じだろう。だとすると、シャルの魔法に頼るしかないのだが、その魔法が発動するまでの間、俺たちはシャルのことを守りきらないといけない。

 シャルが走りながら術式を組むことができればいいのだが、シャルにそんなことを望むのは無理だな。今だって何かほかのことする余裕なさそうだし、多分ワイバーンが飛んだことにすら気づいてない。その集中力があるというのに、術式を組むのが遅いというのは何とも悲しいことだ。


 そんなことを考えているうちにワイバーンは旋回をやめて俺たちの方へと向かってくる。他に何かいい獲物でも見つけてくれればよかったのに、と落ち込みながらも戦う準備をする。まあ、出来ることなら魔法だけで仕留めたいところだ。


 そんなことを思っていると、ワイバーンはすごい速度でこちらへと向かって来た。もう少しゆっくりしてくれればいいのに。

 

「じゃあ、最初は私が行くよ」


 そう言って、エルザが剣を構える。腰を落とし、剣を引きながらも剣先を敵へと向けたその姿勢は、突きを放つということが明らかである。

 それから、しばらくすると風切り音が辺りに響きはじめ、それと同時にエルザの持った剣がゆがんで見え始める。この二つの要素だけでどれほど強力な風であるかが、容易に想像できる。

 

「はぁぁっ!!」


 エルザの気合の入った掛け声と同時に剣は突き出され、そこから放たれた突風は一直線に目標へと迫っていく。

 だが、ワイバーンはそれを難なく回避する。確かにかなりの距離はあったものの、到底避けられるような速度ではないと思ったのだが、どうやら、ワイバーンの速さと小回りの良さは、俺だけでなくエルザにとっても想像以上だったようだ。


「じゃあ、次は俺が行こうかな」


 そう言ってソルドは肩を回す。別に肩を回したところで何かが変わるわけではないだろうが、多分気分の問題だろう。

 そんなことを考えている間にもソルドは両手を目の前へと突き出す。

 はっきり言って、ソルドの強さは俺もよく知らない、そもそもソルドが本気を出すことなど、今までなかったのではないだろうか? そう思い、俺がソルドへと期待の視線を向けるとソルドの前方にいくつも赤い光で描かれた魔方陣が現れる。


 普通、魔法を使う際に魔方陣が出る魔法など、上級魔法の中でも特別なものだけである。まさか、ソルドが上級魔法を使えたとは、知りもしなかった。


 俺が驚いている間にもソルドの目の前の魔方陣はどんどん数を増やしていく、魔方陣自体の大きさは直径五十センチほどだがその数はすでに二十を超えている。

 

「いっけえぇぇ!!」


 その掛け声と同時に魔方陣一つ一つから炎の玉が放たれ、赤い尾を引きながらワイバーンへと迫っていく。

 ワイバーンはそれを見て横に避けようとするが、それを炎の玉も追いかけていく。それを見たワイバーンは更に旋回や急浮上急降下を繰り返し、避けようとするが、炎の玉はどこまでもついていく。

 

 まさか、ソルドが追尾式の魔法をつかえるとは、本当にこいつはそこが見えない

 

 このままなら、振り切ることは不可能だと思った次の瞬間、ワイバーンは再び急降下を開始する。先ほどまでは上空で避けようとしていたのだが今度は、ワイバーンは地面すれすれまで降下したところで減速し、そのまま地面すれすれを飛行し始める。

 それに付いて来た炎の玉は、減速をうまくできずに地面に衝突した一つの火の玉の起こした爆発によって連鎖的にすべて爆発してしまった。


「ああ、くっそ!」


 ソルドは悔しそうに地面を踏む。俺もワイバーンの予想以上の賢さに驚いたが、驚いている暇などない。


 ワイバーンはあまり低い位置を飛びたくないのか、わざわざ旋回をして上昇する。地面すれすれにいてくれたらそのまま地面に叩き落とせたかもしれないが、上昇されては邪魔をするのが関の山だ。


 俺は周りの様子を確認して冷や汗を流す。三人とも魔法の準備をしており、今魔法で戦えるのは俺だけだが、俺の魔法がそれほど効果があるとも思えない。


 そんなことを考えていると、さっきの攻撃で怒ったのか上空でワイバーンは咆哮を上げる。その鳴き声は、まだかなりの距離があるというのに、肌で感じられるほどの大きさであった。思わず、俺は恐怖ですくんでしまった。

 それは他のみんなも同じだったようで皆体が震えている。今まで何度も戦場に立ってきたが、戦場とはまた違う、圧倒的な力を持つ者に対する恐怖それを覚え俺の体は固まってしまう。


 だが、このまま動かずにいたら俺たちはやられてしまう。こんなところで身をすくませている暇なんてない。


 俺は気合を入れなおすために、両手で顔を両側から叩き気合を入れなおす。体の震えは止まったものの恐怖心が消えたわけではない。


 そんな俺たちに迫ってくるワイバーン。上空から少しずつ落ちるようにして迫ってくるその速度はさっきよりもさらに速い。そんなワイバーンの首を絞めるように俺は力をかける。

 さすがのワイバーンも首への突然の圧迫感に驚いたのか、首回りの何かをとるような動きをしながら空中で停止する。だが、俺もかなりの強さを掛けて首を絞めているせいで急速に魔力を失っていく。


 俺はワイバーンが空中で停止したのを確認すると、魔法を解く。

 普通の人にさっきの力を加えれば首がちぎれるほどの力だっただろうが、跡すら残っている様子がない。

 

 ワイバーンは首への圧迫感が消えた事により再びこちらへと向き直る。だが、それは同時に攻撃の好機でもあった鱗のない腹部をこちらに向けている今ならば攻撃が通りやすい。さらに、敵は今止まっているのだ、これ以上の好機があろうか?


 次の瞬間、ソルドがワイバーンに向かって槍を投げつける。その速度は先ほどの魔法よりもさらに早く、ワイバーンの腹に見事に突き刺さる。それと同時にワイバーンは天を見上げ、痛みによりうなり声を上げる。

 俺は次の瞬間ワイバーンへ向けて飛び出していた。魔法によって空を蹴り、声を上げ天を見上げたワイバーンへと迫る。あと少しで首を斬ることができる距離まで迫り、俺はナイフを構える。だが、次の瞬間ワイバーンは明らかに起こっている様子の顔をこちらに向け睨みつけるとほぼ同時に、空中で前方に回転する。

 俺が上を見ると日光は遮られ、頭上から鱗に覆われた太い尻尾が迫ってくる。こんなものを食らってしまえば、たとえ盾で防いだとしても腕が折れるだろう。


 俺は体を魔法で横に押し盾で尻尾を下に受け流すように構える。その直後に腕へと伝わる衝撃、それは受け流したとは思えないほどの強さであった。

 

「くっそがぁぁぁっ!!」


 俺は痺れる左腕を垂らしながらも空を蹴り、怒号とともにワイバーンの腹へとナイフを突き立て、それと同時に再びワイバーンのうなり声が響いた。

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