表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第三章 草原編
26/47

第26話 何か飛んでいて俺たちはうろたえて

 草原に入ってから早三日、何度か魔物との戦闘もあったが、順調にここまで進んで来ることができた。シャルも初日の失敗でだいぶ落ち込んでいたが、今ではみんなに気にするなと言われたこともあってか、だいぶ持ち直したようだ。まあ、未だに魔法を使う時に気にしている節はあるが、たいして問題があるわけじゃないから大丈夫だろう。


 そんなことを考えつつ、今はソルドと一緒に見張りの最中……のはずなのだが、ソルドのやつ居眠りをはじめやがった。別に俺が起きてれば問題ないんだけど、なんとなくいらつくな。幸せそうな顔して眠りやがって、叩き起こしてやろうか?


 そんなことを考えている間にも、東の空は白み始める。

先にテントでも片づけておくか、と思い立ち上がったところで、テントの布がこすれる音と足音が聞こえてきた。


「おはよう」


 俺はその声を聴いて驚き、すぐに振り向くとそこには、目を擦って眠そうな顔をしたシャルが立っていた。


「どうした、シャルが早起きするなんて!?」


 今日は雪でも降ってくるんじゃないか?


「私が、早く起きたらいけないの?」

「いや、悪くはないけど、珍しいなと」

「目が覚めちゃったんだからしょうがないでしょ」


 そう言って、シャルは少し不機嫌そうな顔をする。このまま怒らせると面倒なことになると思い、俺は笑ってごまかしながらテントを片付けに向かう。


 その後すぐ、エルザも起きてきたので、俺はソルドを叩き起こし、適当に食事を食べ出発した。特に雪が降ってくるということもなく、魔物が現われるでもなく昼を過ぎる。


 今日もこのまま無事に終わるのかなー、と思っていたところで、俺の視界におかしなものが入ってくる。それは空を旋回しながら飛んでいるかと思うと、急降下して見えなくなった。再びそれが空へと舞い戻った時、その二本の鉤爪のついた足には、何らかの生き物らしき物体がぶら下がっていた。


「なあ、あれって……」


 ソルドも気が付いたようでその空を飛ぶ魔物を指さしながらこちらを見てくる。どことなくその顔から恐怖が読み取れる。


「うん、多分……」


 俺はそれに対して歯切れの悪い言葉を返す。俺たちの様子に気付いたエルザも固まっている。そんな中シャルだけが俺たちの顔を見て不思議そうにしていた。


「みんな、どうしたの? あの空を飛んでるのはなんなのよ?」

「えーっと、あれはだな……」


 俺はそこで言葉を濁す、絶望的な事実を口に出したくもなかった。


「もう、なんなのよ?」

「ワイバーンだ」


 その言葉を聞いてシャルも固まった。

 ワイバーンとは二枚の巨大な翼と、緑色の鱗をもった二本足のトカゲのような生き物なのだが、その大きさは翼を広げれば六メートルにも及ぶ。火こそ吐きはしないがドラゴンの一種であり、飛行速度だけで言えば一般的に有名なレッドドラゴンよりも速く、その強さは今まで戦ってきた魔物とは比べ物にもならないだろう。


「ど、どうするのよ!?」

「どうするって、言われても……どうしようもないよ」

「ああ、カイン俺もっと人生楽しみたかった」

「ちょっとソルド、諦めないでよー」


 うろたえる俺たち四人のことなど気にせず、ワイバーンは再びどこかに着地し、とらえた獲物を食い始める。

 その様子を見てソルドが口を開いた。


「なあ、俺たちまだ気づかれてないよな」

「多分、気付かれてないな。だけど気づかれたらすぐにここまで飛んでくるぞ」

「だったら、気づかれる前に倒しちまえばいいじゃんか」


 なんだかソルドは自信たっぷりな顔である。


「あのな、気付かれもしないような距離から倒すって、いったいどんな魔法使うんだよ?」

「えっ、うーん……無理か?」


 考えていなかったのかソルドは困ったような顔をする。それを見て俺は呆れ顔で口を開く。


「よっぽどの魔法じゃない限り無理だな、それこそ上級よりもさらに上……あっ!」


 そこまで話したところで俺とソルドは気が付きシャルへと顔を向ける。


「えっ、私!?」


 驚いているシャルに向かって、俺たちは同時に頷く。


「確か、大規模魔法を使えるって言ってたよな?」

「そりゃ使えるけど、時間かかるわよ?」

「大丈夫だ、ワイバーンは今食事に夢中だ」

「でも、そんな簡単に……」


 俺とソルドはうろたえるシャルの肩に手を置き同時に口を開く。


「良いからやってくれ」


 俺たち二人の迫力に気圧されてかシャルは一歩後ずさる。そんな、俺たちの様子を見てエルザがため息を吐く。


「ほら、二人とも、シャルが怯えちゃってるから」


 そう言いながらエルザはシャルと俺たちの間に割って入ってくる。そしてエルザはシャルの方へと振り返る。


「シャルお願いできる?」

「うん、頑張ってみる」


 何で、こうも俺たちとエルザだと反応が違うのだろうか? などと無駄なことを考えながらワイバーンの観察を始める。まだワイバーンは食事に夢中なようでこちらに気付く気配もない。気付かれればここにたどり着くまでに二分と掛からないだろう、それどころか一分以内にたどり着くのではないだろうか? そもそも、こんなところにワイバーンなんて魔物がいること自体が異常なのだが、そんなことを嘆いたところでどうしようもない。


 このまま、シャルの魔法が発動するまで食事でもしててくれればいいんだがそうもいかないだろうな。そんなことにはエルザとソルドも気付いているのだろう二人も無口になり魔法を発動準備を始める。それからしばらくの間、全員が魔法の準備をしているため無言のまま時間が流れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ