第22話 馬鹿と天才は紙一重で、俺たちはやばくて
ソルドは周りにもう生きている魔物がいないことを確認する。次の瞬間、ソルドを中心として広がっていた火と、ソルドを包んでいた火が弾けるようにして消える。
それを確認して、俺はソルドのもとへと歩きだし、シャルとエルザも俺に続く。
「ソルド、お前はもう少し気をつけて歩けよ。もし、強い魔物が飛び出してきたらどうする気だよ」
「良いだろ、別に大丈夫だったんだし」
そう言って、ソルドは笑っている。全くもう少し緊張感もってくれよ。
俺が心の中で、叶わぬ願いへと想いを馳せていると、エルザが口を開く。
「ねえ、今の炎って魔法だよね?」
「おう、そうだぞ」
ソルドは胸を張って、なんだかすごい自慢げな顔をしている。
そんなソルドに向かって、今度はシャルが口を開く。
「なんだか、カインの魔法に比べると派手ね」
「おい、シャル少し待て。俺の魔法だってすごいんだぞ?」
あの魔法かなり難しいんだからな、特に位置の指定とか力の加減とか。
「カイン、そう拗ねるなよ。俺の魔法の方が凄いからって」
「なんだと、もういっぺん言ってみろ!」
「何度だって言ってやるぜ」
自分の方が凄いのだ、という態度をとるソルドに対して俺は食ってかかる。そんな俺たちの間にシャルが口を挟んでくる。
「別にソルドの方が凄いなんて一言も言ってないわよ? そもそも、どっちも使ったことないから判断できないもの。まあ、私の使う魔法が一番すごいけど」
そんなことを言うシャルに対して、俺とソルドは呆れ顔を向けることしかできなかった。
凄くても発動が遅かったらいみないだろ。
「ちょっと、なによその反応」
シャルは怒ったような顔をしながら、そう言う。
俺とソルドは、お互いの顔を見て頷き、再びシャルの方に向き直り、口を開く。
「いや、別に」
俺とソルドの声が綺麗に重なった。
その直後、シャルの顔が怒りの色に染まり始める。しかし、シャルが何かを言おうとする前に、エルザが口を開いた。
「ソルドもカインもふざけてないで、ちゃんとしてよ」
「すみませんでしたー」
俺たちは適当に謝って、歩きはじめる。シャルは俺たちのことをしばらく睨んではいたが、エルザがなだめてくれたこともあって、それからすぐに怒りは収まったようだ。
それからしばらくして、ふっと思い出したようにエルザが喋り出す。
「そう言えば、さっきソルドが使ってた魔法って何? 自分が燃える魔法なんて聞いたことがないけど。自分で作ったの?」
「ああ、これのことか?」
そう言って、ソルドが手を自分の顔と同じぐらいの高さまで上げると、次の瞬間にソルドの手が燃え始める。
「そう、それ? 燃えてるみたいだけど、熱くないの?」
「うーん、燃えてるというかこれ属性付加だからなー」
「えっ、自分の体に属性付加なんてできるの!?」
エルザが驚くのも無理はない、普通は自分の体に属性付加なんてことをする様な、奴はいないだろう。そもそも、できる奴自体がほとんどいないと思う。
「へー、でもどんな術式を組んだらそんなことができるの?」
「術式は分からないけど、なんとなくやったら出来た」
それを聞いて、エルザとシャルが固まる。
まあ、そうなるよな。普通なら、その状況に合わせて物理法則に干渉するための術式を考え、魔力を使ってその術式を組み立てることによって初めて魔法が起動するというのに、それを“なんとなく”なんて言葉で済ませられたら、誰だって驚く。
「だから言っただろ、ソルドは火の魔法に関しては“天才的”だって」
俺は、こめかみの辺りを押さえながらそう口にする。俺なんて術式は考えれても、それを魔力で組もうとすると必要な属性の魔力が俺の魔力からはほとんど作れないから、結局使えないというのに。
ソルドといると、いろんな意味で頭が痛くなる。
二人とも開いた口がふさがらないといた様子である。俺だって最初聞いたときは同じような反応をした記憶がある。
そんな二人の様子を見て、すごい自慢げにソルドは微笑む。
俺はそんなソルドの横でつぶやく。
「火属性以外の魔法は、ほとんど出来ないくせに……」
「おい、カイン。それを言うのは、無しだろ? それに、転送魔法ならできるぞ」
「それだけな……」
まあ、火属性で、攻撃から回復までこなせるから別に他の属性の魔法をいらないんだろうけど。普通なら火属性の回復魔法とか誰も使わないだろうに。
「そ、そんなこと言ったらカインは属性の必要な魔法、使えないじゃねえか」
「あ、お前。それこそ言っちゃ駄目だろ」
「えっ!? カイン、属性の必要な魔法つかえないの?」
ほら、馬鹿にしたような目でシャルが俺のこと見てるよ。
俺が、どう説明しようかと考えていたとき、エルザが声を上げる。
「あれって、魔物じゃない?」
そう言ってエルザが指差した方向に、全員が真剣な視線を向ける。
その方向には、確かに魔物の群れらしき影が見える。こちらに向かっている様子はないので、おそらくこちらには気づいていないか、もしくは危険じゃない魔物だろう。
「どうする?」
エルザが俺に対して質問してくるが、迂回しようにも魔物との距離がありすぎて、どう動くのが正しいのかも判断できない。
「とりあえずは、様子を見ながらこのまま進む。もしも、魔物が襲いかかってきた場合は、シャルとソルドは広い範囲に攻撃できる魔法の準備を、俺とエルザは先行して攻撃を仕掛けてくる魔物がいると思うから、それの処理をする」
俺の指示に皆がうなずく。普通ならじっとしているのが一番いいのだが、魔物が見えるたびにじっとしていたらいつまでも進めない。
それから数分歩いて、なんとか魔物たちが確認できるようになる。魔物は面倒くさいことに肉食の魔物で、大きなトカゲのような魔物である。数は、40かそこらと言った所であろうか。
「厄介な奴らだな」
俺が呟いたのに対してエルザが反応する。
「あの、魔物知ってるの?」
「ああ、本に載っていたが結構な速さで走るらしい」
だからといって、このまま進まない、というのもどうかと思う。ここは、迂回して進んだ方がいいか? でも、こんな草原で迂回するって言ったらかなりの遠回りになるな。
俺は辺りを見渡すが、時々ぽつんと木が生えている程度で、それ以外は見渡す限りの平原、隠れながら進むという事もできそうにない。
一旦、その場にしゃがみこんで俺とエルザでどうするかを話し合い始める。正面突破するか、迂回するか、40程度なら倒せなくもないだろうが、もしもということもある。
真面目に俺たちが話していると、ソルドが気の抜けたような声で俺のことを呼んだ。
「カインー」
俺は、それに対してソルドの方を向かずに対応する。
「なんだ、少し考えてるから静かにしてくれ」
「でも、別の方向から魔物が来るぞ?」
「え!?」
俺を含むソルド以外の三人は、思わず驚きの声を上げてしまった。