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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第二章 森林編
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第20話 俺は教えて飯はうまくて

「だから、お前の構えは腰が引けてるんだよ」

「どこがよ、しっかり構えてるじゃない」


 この前、エルザと剣の練習をした次の日。最初はエルザが教えていたのだが使う剣の大きさが違うことなどから、俺とソルドどちらかが教えたほうがいいのではという話になった。俺もソルドも大抵の武器を扱えるが、ソルドの場合は完全な自己流なので、おそらく他の人ではまねできないだろう。結果として残った俺が教えているのだが、シャルのやつ一向に良くならない。

 まず、腰の引けた構えを直せと言っているのに、どう直せばいいのかもわかっていないようだ。当然実際に俺が構えてみせたりもしたが、一向に治る気配がない。そして、今更だが、別にこの程度ならエルザでもよかったのではと思う。


「二人ともおつかれー」


 そう言いながら薪を抱えたエルザが森の中から出てくる。


「あれソルドは?」

「なんだか、魔物見つけて、肉だーとかって叫びながら追いかけて行っちゃった」


 魔物の肉なら、いくらか余っているというのにまだ欲しいのだろうか? 


「なあ、エルザ別に剣の大きさが違ってもお前が教えたほうがいいんじゃないのか? 俺なんて、どの武器も中途半端にしか使えないぞ?」

「私の場合なんとなくできちゃったから、どうやって教えればいいのかわからなくて」

「シャルにもその才能が欲しかったよ、ほんと、ダメすぎて泣けてくる」


 俺が呆れたようにそう言うと、シャルが横から口を挟んでくる。


「どこがよ、ちゃんとしてるじゃない!」

「いやいや、俺の言ったこと何一つできてねぇじゃねぇか」


 とりあえず、腰が引けているのだけでも直せと言うのに。


「ほら、もう一回構えなおして」

「わかったわよ、まずは背筋をまっすぐに」


 うん、ここはいい


「足を動きやすいくらいに開いて」


 よし、それもいい


「バランスをとるために腰を落とす」


 そう言いながらシャルは腰を引く。


「ちょっと、まったー! そこだよ、そこ。シャルの場合は腰を落としてんじゃなくて、腰を引いてんだよ」

「どう違うのよ!」

「まっすぐ落とせ、まっすぐに。後ろに重心動かしてどうするんだよ?」

「それならそうと早く言いなさいよ!」

「もう、何回も言ったっての……」


 今までは、聞いていなかったのだろうか? 俺の時間を返してほしい。

 シャルは俺に言われた通りに少しずつ構えを直していき、なんとかまともに構えれるようになるまで、それからものの数分とかからなかった。ほんとに俺の時間返してくれないかな?


「何よ、こんなの簡単じゃない」

「なら、最初からやっておけよ……」

「だって、カインの言葉ってなんだか記憶に残らないのよねぇー、地味っていうかなんというか」

「うるせー、文句言うならもう教えないぞ!」

「ああ、ごめんごめん。それで、この後は?」

「ただ、剣を振り上げて振り下ろすそれだけ」

 

 全く、ここまで来ればあとは反復練習をするだ……


「って、お前はなぜ振り下ろす時に姿勢を崩す!」


 びっくりした、そのまま振り下ろせと言ったはずなのに、姿勢を崩しやがった。また、腰はひけてるし、背中は丸まるし。ここからまた、頑張って直してしていかないといけないのか……


 俺はため息をついてうなだれる。


「カイン、頑張ってねー」

「エルザ、俺もうやめたい、だってシャルって……」

「ちょっと、何? 私が悪いって言うの?」

「うん」


 あいつ、物覚え悪い上にろくに言うこと聞きやしない。一体どうやってこんなやつに戦い方を教えろというのか?

 そんなことに悩む俺の耳に、どこぞのお気楽なお馬鹿さんの声が飛び込んできた。


「おーい、カイン。肉だぞー」

「ソルド、今はそんなこと……って、でか!」


 ソルドは、馬鹿みたいにでかい猪のような魔物を引きずりながらこちらへと歩いてくる。


「いやー、この魔物の肉だったら結構うまいんじゃないかと思って必死で追いかけたんだが、なかなかに足が速くて大変だったぜ」


 確かに猪みたいだし、それなりに上手いかもしれないが。だからってわざわざ追いかけてまで捕まえなくても。


「シャル、今日はもうやめにして続きはまた明日な」

「しょうがないわね」


 でも、明日になったらこの森も抜けるだろうな。この先でこんな風に安全に練習できる場所なんてあるのだろうか?


「シャル、ちょっと待てくれ」

「なによ?」

「時間もないから、やっぱり今日の夜に練習しよう」

「わかったわ」


 シャルの了承をとると俺は早速魔物の解体作業のためにナイフを取り出す。

 さて、久しぶりにいい肉が食えそうだな。


 その後、魔物の肉をいくらか切り取り、日が暮れるまで歩き続ける。


「さぁ、できたぞ」


 今日の晩飯は最近食べていた狼型の魔物の肉と違い、しっかりと脂ものっており料理をするこちらとしても作り甲斐があった。

 木を切り倒して作った即席のテーブルの上に、果物で作ったソースのかかった焼かれた魔物の肉と野生の芋のソテーが乗った皿と、魔物のすね肉と骨からだしを取ったスープ、更に買い込んでおいた乾パンがテーブルに並ぶ。今更だが少し頑張りすぎた気がする。これからの旅のことも考えたら、芋は添えずにとっておいたほうが良かったかもしれない。


 皆、口々に旨いだのなんだのと料理をほめながら食べすすめ、すぐに皆の皿の上から料理は無くなった。


 皿は木を使って作ったものなのでこのままにしていても何ら問題はないが鍋などは洗わないといけない。水に関しては魔石を使っていくらでも出せるので問題はない。


 俺は洗い物を終えたところでシャルに話しかける。


「じゃあ、練習するか」


 俺がそう言うとシャルはうなずいて立ち上がる。 


「がんばれー」

「じゃあ、俺は寝てくるわ」


 そう言いながらソルドはテントへと向かい、エルザは少し離れた木の下で俺たちのことを見学し始める。

 とにかく直しては練習を繰り返し、なんとかまともに剣を振れるようになったころには二時間以上が経過していた。まだ移動してからの動きとかそう言うのは教えていないが、これで少しは自分の身を守れるだろう。


「おし、じゃあ今日はここまで」

「まだ、私なら大丈夫よ?」

「今日が大丈夫でも明日がダメになるから、今日はもう休んどけ」


 いつの間にか、エルザも木に寄りかかって寝てしまっている。今日は一人で夜通し見張りかー、あ、そうだソルドでも起こして後で交替してもらうかな。

 そんなことを思っていると、エルザを抱えてテントへと向かうシャルがこちらを向いて口を開く。


「おやすみ、カイン」

「ああ、おやすみ」

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