第2話 俺は家主であいつは偉そうで
さて、シャルを俺の家につれてきたわけだが、なぜか我が物顔で椅子に座って足を組んでいやがる、なぜこいつはこんなに偉そうなのだろう、もっとこう、部屋の隅で体育座りでもしているのがふさわしいような状況だというのに。
「ちょっと、あんたの名前聞いてなかったわね、おしえなさいよ」
なぜ、こんなに高圧的なんだこのダメ勇者は?
「カインだよ」
「そう、じゃあカイン、お茶出して」
なぜ、俺が命令されているのだろうか、確かに客人を招いたのだから茶の一つや二つ出すが、まあいいや、とりあえず出しておこう。
「はい、どうぞ」
シャルの目の前にティーカップに入れた紅茶を置くと、シャルは早速一口飲んですぐにカップを置いた。
「なにこれ?」
ん? 虫でも入っていたのだろうか? いやまさか俺に限ってそんなへまをやらかすわけがない。
「こんなまずい紅茶、初めて飲んだわ」
「馬鹿言うな、家で一番高い紅茶だぞ」
なんてこった、客人用に置いてある、うちで一番高いとはいっても、もう二種類しかないうちの一つだけど、とりあえずこれがまずいだと。
俺はティーポットから自分のカップに注ぎ一口飲んでみる。
うん、うまい。若干茶葉が古いのは置いておくとして茶葉の量、お湯の温度共に最適だったのがよくわかる。これがまずいのだったら、こいつはいったい今までどんな紅茶を飲んできたんだ?
「もういいわ、さっきので汗かいちゃったからお風呂貸して」
「そこの、扉の奥が風呂だ、お湯は沸かしてやるよ」
ここまで、言われても優しくする俺って寛大だな、いやほんと。
シャルは俺の指差した扉を開け、すぐに閉めた。
「何よ、あの狭くて汚いお風呂は!?」
「いや、普通だろ……」
「あれが普通だっていうの? 見るからに貧乏そうな格好してると思ったら本当に貧乏人なのね、もういいから昼食の用意して」
さすがの寛大な俺もさすがにこれには頭に来たよ、もう怒った。
俺はシャルの襟をつかんで家の外に放り投げてやった。
「ちょっとなにするのよ!?」
「こんな貧乏人にかまわず、どうぞさっさとお帰りください。ほら、荷物」
そういって俺はシャルの荷物を投げて扉を閉めた。
「ちょっと入れなさいよ!」
そういいながらシャルが扉をたたいてくるが、俺は無視を決め込む。このまま、夜の森で魔物にでも食われてしまえ。
それからしばらくの間、扉をたたきながらシャルはギャーギャーわめいていたが、諦めたのか扉をたたく音も声も聞こえなくなった。少しばかり罪悪感はあるが、あんなことを言われてまで面倒を見てやるような理由などない、大体あいつは勇者なのだから、そこらで死んでもあいつの責任だ。
それでも非情になりきれないのが俺ってやつで、少し心配になって扉を開けて外の様子を伺ってみる。家の前にはいないようだがいったいどこに行ったのだろうか?
とりあえず、俺は家を出て森の中へと歩きだした、決してシャルが心配だからじゃないぞ、食材探しだからな、間違うなよ! 俺はそう自分に言い聞かせながら歩く。
森を歩くこと数分、適当に木の実を集めながら歩いていると、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。こっそりと近寄り見てみると、予想通りシャルが木の下で体育座りをして泣いていた。
「うぅ……ひっく……かえれないよ……」
もう反省しただろうから、そろそろ許してやるか。
「おい、シャル」
俺が話しかけると、シャルはあわてて涙をぬぐい赤くなった目で睨んできた。
「なによ、カインは敵なんだから話しかけないでよ」
面倒くさいやつだなこいつは。
「そうかいそうかい、俺は敵だから話しかけるなと。せっかく、許してやろうと思って迎えに来たのに、とんだ無駄骨だったな、じゃあな」
そういって、俺が振り返り、家に帰るフリをするとシャルが慌て出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんだ? 敵の俺に用か?」
なんだかいじめるのが楽しくなってきた、もうしばらくいじめるとするか。
「いや、その」
「なんもないなら帰るぞ」
「ちょっと待ってって言ってるでしょ!」
「ならなんだよ?」
このままじゃ埒があかなそうだな、しょうがないからもうやめてやるか。
「あ、あんた私の仲間になりなさい!」
「は!?」
今こいつなんて言った? もしかして俺の耳がおかしくなったのか?
「仲間なら何の問題もないから、仲間になれって言ってるのよ」
またこいつはぶっ飛んだ発想を、開いた口がふさがらねぇよ。
「勇者の仲間に魔人なんて聞いたことがねぇぞ?」
「それは今までの勇者、私はそんな奴らとは違うの」
その弱さは、確かのほかのやつらとは違うな。
「それで、仲間になるの? ならないの?」
ここでならないって言ったらまた面倒なことになるよな。
「はいはい、仲間になりますよ」
「ほ、ほんと?」
いいって言われると思ってなかったのかこいつは?
「へーへー、ほんとです」
「じゃ、じゃあカインの家に行ってもいいの?」
だんだん目が輝いてきたなこいつ。
「仲間なんだからいんじゃないの?」
「そ、そうよね仲間だもんね」
「あ、でもあんまりわがままだったら、仲間やめるから」
「わ、わかったわ、気をつける」
こうして結局シャルは俺の家に帰ってきたわけだ。
「風呂入るか?」
「うん」
実に素直でよろしい。
「そうか、そこのタオル使っていいぞ」
「のぞかないでよ」
「のぞかねぇから早く行け」
まったく、そこまで俺は落ちぶれちゃいねぇっての、さて、今のうちに買い物済ませてくるか。
買い物から帰ってきたがまだ、風呂から上がって来てはないみたいだ。俺は脱衣所の扉をノックする。
「なによ?」
「脱衣所に適当な着替えおいとくから」
「わかったわ」
俺は女の服などわからないから、適当に店で見繕ってもらったが、大丈夫だろうか。とりあえず今のうちに飯でも作っておこう。
しばらくして、風呂から出てきたシャルは俺の置いておいた、青を基調としたワンピースを着て出てきた、特に文句は言わないからよかったんだとしておこう。
「ほれ、かなり遅いが昼飯だ」
「ありがとう」
そう言って、パンとさっきの魔物の肉を焼いたものに果物で作ったソースをかけた料理を渡したら一切文句を言わずに食べた。さすがに、魔物の肉は文句言うと思ったんだがな。
夜になり、寝る場所が俺の使っていたベッド以外にないことに気付き、さすがにシャルを床で寝させるわけにもいかないので、ベッドをシャルにやって俺は床の上で毛布にくるまって寝た。
次の日の朝、体がすごい痛かったが、自分で招いた結果なのだからと我慢するとしよう。