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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第二章 森林編
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第18話 あいつは頑張って結局無理して

もう、森の中を進むこと三日目。時々出てくる魔物たちとの戦闘にもエルザは慣れたようだが、シャルは…

 そんなことを考えながらナイフを構えて魔物と戦っていた俺の顔の横を、矢がかすめて行き、頬に赤い線が走る。


「おい、シャル。お前はもう矢を撃つなって言ってるだろ。俺たちを殺す気か!?」

「そ、そんなわけないでしょ。私だって役に立とうと思って」


 そう言って、もう一度弓をシャルが構え、放たれた矢は、まっすぐソルドに向かっていく。


「ソルド、伏せろ」

「え!?」


 ソルドは俺の言葉に反応して、とっさに伏せてなんとか矢を避ける。


「シャル、お前は俺を殺す気か」

「そんなわけないでしょ」


 そう言って、シャルは再び弦を引く。


「おい、シャル」


 俺の制止の言葉と同時に、矢が放たれ、エルザの方へとまっすぐに飛んでいく。むしろ、狙っているんじゃないかと思うほどだ


「エルザ、後ろ」


 俺がそう叫ぶと、エルザは予想していたのか、背後に大剣を回し、大剣の腹で矢を弾く。


「ご、ごめんエルザ」


 いきなり謝るとは、俺たち二人には謝りもしなかったくせに。


「シャル、少しおとなしくしててね」

「うん……」


 エルザの一言に、シャルはしゅんとしてしまい。その後は、後方からの支援という名の攻撃も来ず、楽々と魔物たちを倒すことができた。


 そもそも、ここで出てくる魔物なんてほとんどが、よく見かける狼型の魔物なのだからシャルは何もしなくても問題ないというのに。初日に気合を入れてからは、頑張って戦闘に参加してきてくれようとしてくれるのはいいのだが。一番危険なのが、魔物よりもシャルだというのが現状である。


 そろそろ森を抜けて、魔物の強さも上がってくる。いつまでもこんな調子ではいられないだろうな。でもせっかく頑張っているのを邪魔するのもなんか気が引けるし……

 森の中を進みながらそんなことを考えていると、エルザが口を開く。


「ねぇ、シャル」

「なに、エルザ?」

「頑張ってくれているのは分かるんだけど、無理はしなくてもいいんだよ?」


 一瞬、シャルが戦闘に参加することを言っているのかと思ったが、シャルの様子を見てすぐにその考えが間違いだったと気づく。

 シャルの歩き方からは疲労が見て取れ、それでも必死に俺たちの遅れをとらぬようにとしていたのだろう、動悸が若干荒くなっている。シャルはすぐに姿勢を正し、まだ元気だとアピールするが、明らかに空元気である。


「休憩にするか」

「ちょっと待ってよ、私ならまだ大丈夫よ」


 俺の提案に対して、シャルが即座に反応し、それに対して俺が説得しようとした時、ソルドが口を開く。


「いやー、悪い。さっきの戦闘で疲れちまって。少し休ませてくれ」

「嘘つかないでよ、さっきまであんなに元気そうだったじゃない」


 確かに、さっきまでソルドは勝手に木に登って、木の実を採ったりしていたほど元気である


「頑張ってくれてるのは分かった。だけど、無茶はしないでくれ」

「そうだよ、シャル。無理して後に響いたら意味ないよ?」


 俺とエルザの言葉に、シャルは少し時間を空けて答えた。


「ごめん」

「何、謝ってんだ。むしろ、俺の方が謝らないといけないってのに。この前はちょっと言い過ぎた、すまん」


 そう言って俺は、頭を下げる。


「謝らないでよ、カインは別に間違ったことは言ってないんだから」

「でも、無理させた原因は俺にあるし」

「私がそう思ったから頑張ったんだもの、カインに責任はないわよ」


 シャルが俺に対して優しい、これは夢か?


「シャル、どうした? お前がまともなことを言うなんて。熱でもあるのか? それとも、疲れ過ぎておかしくなったか?」

「何? 私がまともなこと言っちゃ悪いわけ?」


 さっきまで少し申し訳なさそうにしていたシャルだが、どうやら俺の発言に腹を立てたようで表情からも怒りが見て取れる。


「いや、悪くはないが意外だった」

「何よそれ? それじゃあまるで、私がいつもまともじゃないことを言ってるみたいじゃない」


 結構な確率でその通りなんだが、ここでそれを言うとまた面倒くさいことになるな。

 俺は、この話を切り上げようと思い、エルザに目配せをする。エルザは理解したのか、ため息を一つ吐いてこちらへと歩いてきた。


「ほらほら、そこまで。あと、カインはもう少し言葉を選ぶように」

「これからは気をつけるよ」


 俺はそう言うと、シャルをエルザに任せてソルドの方へと向かう。


「カイン、なに怒られてんだよ、だせーなー」

「うっせ」


 ソルドは馬鹿にしたように笑いながら話しかけてくる。そんなソルドに軽く言い返して、地面に座った。

 

「じゃあ、俺は少しそのあたり歩いてくるな」

「おう、気をつけろよ」

「はいよ」


 手上げて軽く返事をしたソルドの姿はすぐに、森の中へと消えていった。


 それからしばらくして、ナイフの手入れをしている俺のもとへ、エルザがやってきた。


「カイン、少し相手してくれない?」


 そう言って、エルザは背中の大剣に手をかける。おそらくは剣の練習といったところだろう。


「ああ、いいぞ」


 俺は手入れしていたナイフを仕舞い立ち上がる。


「シャルー、ちゃんと見ておくんだよー」

「わかった」


 エルザは後ろにいるシャルに振り向きそう言うと、再びこちらに向き直る。


「なるほど、シャルに戦い方を教えようってわけか」

「うん、今はシャルもやる気みたいだし」


 俺はそう言いながら、転送魔法で手元に盾を呼び出す。


「そういえば、ソルドもやってたけど。どうやって武器を出してるの?」

「ああ、もしかして人間はこれ知らないのか?」

「うん、知らない」


 道理で重そうな大剣をいつも背負ってたわけだ。


「こいつは、転送魔法って言って、事前に術式を施しておいたものをいつでも手元に呼び出せるんだよ」

「へー、便利だねー。でも、それなら荷物全部そうすればよかったんじゃないの?」

「うーん、よっぽどの魔術師じゃないと、指定できる物の数なんて一つか二つ程度なんだよ。それにこれを元の場所に帰す術式も合わせると、一番邪魔なもの一つが俺の限界なんだよ」


 ソルドは確か二つまでできるとかって言ってたが、槍以外に何を指定してるんだろう?


「やっぱり、魔法は才能がないと難しいよねー」

「そうだな、俺も二つに挑戦してみたことはあるんだけど、呼び出してみたら別のだったり変なとこに行ったりでろくなことにならなかった」


 俺はそう言って肩をすくめる。


「じゃあ、私には無理かなー」

「なんだ、エルザは魔法苦手なのか?」


 エルザなら魔法も得意なものだと思っていたのだが。


「一応、使えはするんだけど得意ではないなー。よく使う魔法はすぐに発動できるようになったけど、それ以外は遅すぎて全然だめ」

「ああ、わかる。よく使う魔法ってだんだん慣れてきてすぐ使えるようになるよな」

「うんうん」


 俺たちがそんな魔法談議に花を咲かせ始めたところで、シャルが遠くから口を挟んでくる。


「ねえ、まだやらないの?」


 俺とエルザは、はっとした表情をする。


「じゃあ、やりますか」

「よろしくねー」

 

 俺は距離をとると、左手に盾を右手にナイフを持ち構え、それに対してエルザは大剣を両手でしっかり持ち構える。

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