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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第二章 森林編
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第16話 あいつは気合を入れて、こいつは酔っぱらって

 俺たちは、森の中をひたすら歩き進んでいた。木々の間からは木洩れ日が差し込んでおり、時々何かしらの鳴き声が聞こえてくる。今までに二回魔物と出会ったが、どちらも大したことはなかった。


「ねー、休憩にしましょうよ」


 明らかに一人だけ、後方を歩いていたシャルが、そう言いながら立ち止まる。


 この役立たずわがまま勇者は、たった三時間しか歩いてない上に、魔物との戦闘でも何もしていないくせに、言う事だけは一人前だな。


「シャル、良いものを見せてやる」


 俺はシャルの方へと歩いて行ってから、地図を取り出し、シャルにも見える用に広げる。


「いいか、ここがさっきまで俺たちがいた町だ、それでこの森がここで、真王様の城がここ」

「それでどうしたっていうのよ?」

「まあ、見てもらったらわかると思うが地図の端から端まで移動するようなもんだ、当然かなりの距離もあるし、ここは砂漠、こっちは訳分からないくらい高い山脈、このあたりが湿地帯で、ここは光もほとんど届かない樹海だ」

 俺は次々と城までの間に通る、場所を指し示していく。


「さて、ここで問題だ、いまおれたちはどれくらい進んだでしょうか?」


 俺はそう言ってシャルに地図を渡すと、シャルは迷いながらもこの森を約八割進んだ位置を指差した。


「このくらいかしら?」

「残念、このあたりだ」

 そう言って俺は森を約一割ほど進んだ位置を指差す。

 

「全然進んでないじゃない!」

「ああ、そうだ。休む暇なんてあると思うか?」


 俺が、そういうとシャルは黙って俯いてしまい、沈黙が空間を支配した。シャルの様子を見てみると、呼吸も若干乱れているところから見ても結構疲れているのだろう。


「わかった、もう少し開けた場所に出たら休憩にしよう」


 俺が言い終えるとほぼ同時に、エルザが剣を構えて茂みへと飛び込み、何かの断末魔が聞こえてくる。どうやら魔物がいたらしい

 相変わらず、馬鹿でかい大剣を持ってるくせして、いい動きをするな。


「カイン、こっちに良い場所があるよ」


 そういうエルザの声が聞こえると同時に、木の薙ぎ倒される音が次々に聞こえてくる。


 俺は木の倒れる音が止むのを待ってから茂みを越えていくと、そこには顔に軽く汗を掻き、荒い息遣いのエルザがおり、周りには切り倒されたのであろう木々と、それらが立っていたであろう場所に切り株が残っていた。切り株の数からして、十数本も木がなぎ倒されたのだろう。

 俺は後ろからやってきた、シャルに軽く笑いながら話しかける。


「お前の親友は優しいな」

「もう、カインったら、褒めたってなにも出ないよー」


 どうやら聞こえていたようで、エルザの方が反応する。

 ここまでされたのでは、その努力を無碍にもできない。


「とりあえず休憩にするか」


 俺は休憩しながら考える、このままのペースで行って間に合うのだろうか? そもそもこの程度の人数で、ドラゴンとかがこの先に待ち構えているのに、城までたどり着けるのだろうか? 俺の頭をよぎるのは不安ばかりで、この先明るい未来が待っているとはとても思えない。


「さあ、いくわよ」


 俺が不安に頭を悩ませていると、シャルがそんなことを言って立ち上がる。


「まだ、十分くらいしか経ってないけどいいのか?」

「いつまでも、止まってられないでしょ」


 まだ、疲れがとれてなさそうなのにシャルは、そう言って歩き出す。おそらく、シャルはシャルなりに頑張ろうとしているのだろう。

 確かに、不安もあるしどうなるのかも分からない。でも、目の前に頑張ろうとしている奴がいるのだから、俺も少し頑張って見るか。

「おい、シャル」

「なによ?」


 やる気を出したところで突然呼び止められたせいか、シャルは明らかに煩わしそうな顔をする。

 だが、これだけは伝えておかないといけない。


「そっちは帰り道だぞ?」

「し、知ってるわよ!」


 シャルは慌てて方向転換して、それを見ていた俺たち三人は笑い出す。


 その後も、日が暮れるまで何度か休憩を入れながらも俺たちは、歩き続けた。


 夜の闇の中で、たき火の光があたりを照らし、その周りには二つのテントが張られている。


 俺は、たき火に薪をくべながら、一人で近くの地面に座っていた。周りに響くたき火と虫の鳴き声、時々別の動物の鳴き声が聞こえてくる。


 今のところ、特に異常はないが、いつ魔物がやってくるともわからないので、こうやって

誰かが見張りをしていないといけない。


「ふぁ~~」


 俺は大きな欠伸を一つして、また一本、薪をくべると、後ろの方からテントの布がこすれる音がして足音が近づいてくる。


「カイン、一杯どうだ?」


 俺が振り向くと、そこにはソルドがウィスキーの瓶とカップを二つを持っていた。


「いいな、ちょうど暇だなって思ってたとこだ」


 グラスに、ウィスキーを注ぎお互いにカップをぶつけて音を鳴らす。


「乾杯」


 そう言って、いきなりグラスを飲み干す。昔から一緒に飲むことは時々あった。大抵はソルドのやつがふられたとかそんな理由だったせいか、かなりの量を速いペースで飲むのがいつものことだった。


「こうやって飲むのは、いつぶりだ?」

「ソルドが雑貨屋の娘に振られた時以来だろ」

「ああ、そんなこともあったな」


 そう言ってソルドは笑う。こいつも黙っていればイケメンなのにな。


 その後も、話は弾み、もう5杯は飲んだだろう。ソルドは顔も赤くなり、もう結構酒がまわっているようだ。ソルドのやつはさっきから呂律も回らず、何を言っているのかも分からないし、もうすぐ寝そうだ。

 それにしても、こいつともずいぶん長い付き合いになるな、確か7歳の時だったな……

 

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