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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第一章 発端編
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第14話 旅は準備が終わって鎧は最高で

「カインー、お茶ー」


 そう言って、ソルドはテーブルに伏せている。


「わかったから黙ってろ、エルザこれ運んでくれ」


 俺はそう言って、皿に盛ったクッキーを手渡し、自分は四人分の紅茶を運ぶ。


「ほらシャルも、こっちで一緒にお茶飲もうよ」


 エルザがシャルに話しかけると、シャルはベッドの上から動き、椅子に座る。この五日間で、すっかり俺のベッドはシャルのものになってしまったようだ。


 いつもなら、紅茶飲んでだらだらするのだが、今日は鎧の受け取りにもいかないといけない、一応金はかなり用意したので大丈夫だろう。


 俺は空になったティーカップを置き、立ち上がる。


「それじゃあ、少し出かけてくる」


 そう言って、出口の方へと向かう俺にシャルが声をかける。


「買い物?」


 こいつは忘れてしまったのだろうか?


「今日、装備の受取日だって言っただろ?」


 俺がそういうとシャルはそうだっけと言って、クッキーに手を伸ばす。

 こいつは本当に真王様の城まで行く気があるのだろうか? なんだか不安になってきた。


 とりあえず俺は家を出て、親方の工房へと歩きはじめる。


「ちょっと待てよー」


 ソルドのやつが何か言いながら、追いかけてくるが俺は無視して歩き続けた。


「親方ー、カインです受け取りに来ました」


 扉の前で返事を待ってみるが、返事が来ない。


「あれ、いないのかな?」


 ドアノブを引いてみると、鍵はかかっておらず、すんなりと扉は開いた。中の様子を伺ってみると、どうやら人の居そうな気配がする。


「おじゃましまーす」

「ちょい、ソルド勝手に入るなって」


 何も考えていないのであろうソルドは、ずかずかと進んでいく。とりあえず俺は扉を閉めてソルドの後をついていく。


「お、親方いるじゃん」


 そう言ってソルドが顔を向けた先を見ると、親方が座ったまま寝ていた。


「親方、起きろよ、起きないと悪戯するぞ」


 ソルドがそう言った瞬間に、親方の手は動き近くにあった刃渡り20センチほどのナイフをソルドの顔面に向けて突きだす。

 予想外の攻撃ではあったが、普段の慣れからかソルドは間一髪で、それを避ける。


「あぶねぇーだろうが」


 ソルドが叫ぶと、親方の瞼が動き、親方が目を開ける。


「なんじゃ、お前ら来ておったのか? ん、なんでわしはナイフを突き出しとるんじゃ?」


 そう言いながら、自分が突きだしているナイフを見て不思議そうな顔をしている。まさか、無意識のうちに攻撃してきていたとは、親方もなかなかやるな。


「それで頼んでおいたものは、出来ましたか?」


 俺が問うと、親方は不敵な笑みを浮かべる。


「当然じゃ、ほれこのナイフがその一つじゃ」


 そう言って、さっきソルドに向かって突き出していたナイフをよこす。俺はそれを手に取ってみるが、どこからどう見ても、安いそこら辺のナイフと同じようにしか見えない。せいぜい違いがあるとしたら軽い、といったことくらいであろう。


「これが、親方の最高傑作ですか? 俺には普通のナイフにしか見えませんが」


 そういうと、親方がため息を吐く。


「これだから素人は、いいかそいつはな、デビルフォレストの長老と呼ばれておる大木の枝を使った柄に、わしが長年研究して作り出した八種類の魔鉱石を混合した合金の刃で出来ておっての、刃こぼれなんぞよっぽどのことが起こらなければしない最高級品でな……」

「親方、分かりました、他に頼んでおいたものはどうなりましたか?」

「ん、そうだったのほれそこに掛かっておる盾と鎧がそうじゃ」


 なんとか、親方の装備談義を抜け出すことができたと思いながら、親方の指差す方向を見ると、長方形の盾に、胸当てとガントレットに腰鎧とブーツ、まさに俺が望んでいたような装備がそこにはあった。


「おお、親方これですよこれ、俺が欲しかったのはまさにこれです」

「気に入ってくれたのなら、何よりじゃこれも金属はすべてさっき言っていた合金、繋ぎの皮にはキングウルフのものを使いほかにも……」

「お、親方」

「ん、なんじゃ?」


 やばい、とりあえず止めようと思ってみたはいいが、その先を考えてなかった。


「とりあえず、着けてみたらー」

「ナイスだ、ソルド。親方さっそく着けてみたいです」

「ん、そうか」


 そういうと、親方は鎧を持ち上げて俺に取り付けはじめる。


「あれ、ピッタリだ?」


 確か、採寸はしていなかったはずだが、なぜここまでピッタリになるんだろうか。


「当然じゃろ、わしほどの職人になれば一目見れば、相手の体格ぐらい把握できるわい」


 そんなもんなのだろうか? それにしても、これほどのものともなると、気になるのは


「ちなみに、値段って」


 俺が聞くと、親方が一枚の紙を渡してくる。

 そこに書いてあった数字は、俺の年間の生活費などとうに超えた金額だった。


「お前さんに払えるのかい?」


 普段の俺ならばとても払えるような金額でないが、今の俺に金に困るという言葉はない。


「ほら、親方こいつでいいだろ」


 俺はそう言って大量の紙幣を、カバンの中から取り出し、親方の目の前に置く。


「カイン、お前一体こんな金、一体どうやって?」


 親方は俺は払えないと思っていたようで、目を丸くして驚いている。


「まあ、ちょっとな」


 人間がらみだなんてことを話したら、どうなるか分かったもんじゃない。


「まあ、いい、用が澄んだのならさっさと出て行け、わしはもう寝る。5日間も寝ずに働いておって疲れておるのじゃ」

「じゃあ、失礼させてもらうよ」


 俺が扉を開けて、出て行こうとすると、親方は帰れ帰れと、手で払うようなしぐさをする。


「それにしても、親方もすごいもん作ったな」


 そう言いながら、ソルドが俺の着ている鎧を手で叩いてくる。


「最高傑作って頼んだら、本当に最高傑作よこしてきたな」


 俺も自分の着ている鎧を眺めてみるが、見た目は特に変わったところはないが、親方の話が本当ならばかなりの強度を持っていることになる。


 先行きが不安な、旅ではあるが頼もしい装備のおかげで少しだけ希望が見えてきたような気がした。

 ちなみに、この装備を買うだけで魔石の半分以上を売ってしまったのだが、そのことはみんなには黙っておこう。

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