第12話 時は流れて、俺は帰ってきて
「ああ、やっと帰ってきた」
俺の目の前には、木造一階建てのなつかしき我が家。たった数日だけだったのにすごく懐かしく感じる。
「ちょっと、何、ぼさっとしてんのよ」
まったく、せっかく人が感慨に浸ってるってのに、空気の読めないやつだな。
「はいはい、どうぞお入りください」
そう言って、俺は入口を開け、3人を我が家の中へ入るよう促す。
「おじゃましまーす」
うん、礼儀がなっていたのはエルザだけだったようだな。
そんなことを考えながら俺も家の中に入り、扉を閉める。
俺がテーブルの方を向くと、すでにシャルとソルドが我が物顔で椅子に座っている。
「カインー、お茶ー」
「ソルド、お前に出すお茶はない。あぁ、お茶は俺が出すからエルザは座ってていいぞ」
そういいながら、俺は台所に向かいお湯を沸かし始める。後ろからは三人の談笑が聞こえてくる中俺は、なにかお茶請けはなかったかと思い、棚をあっちこっち探して、なんとかクッキーを見つけ、それと一緒に4人分の紅茶をお盆に乗せて運ぶ。
「ほら、お茶が入ったぞー」
全員にカップを渡し、俺も席に着き、紅茶に口をつけ、クッキーをつまむ。
「シャルとエルザは、準備できるまで俺の家使ってくれ」
「いいけど、ここに3人は厳しくない?」
「ああ、それなら安心しろ、俺はソルドのとこ行くから。一応聞いとくが、エルザは料理できるだろ?」
「うん、できるよ」
「じゃあ、今から街行って準備とかしてくるから。誰も来ないと思うが、扉は鍵かけてあけるなよ」
そう言って俺は、残りの紅茶を飲み干し立ち上がる。
「おい、ソルド行くぞ」
「おう、わかった」
ソルドは紅茶を飲み干すと、口いっぱいにクッキーを頬張り、立ち上がる。
俺はそのまま家を出て、鍵を閉め街の方へと歩きだす。
「もご、もごご」
「飲み込んでから話せ」
そういうと、ソルドは口の中のクッキーを飲み込む。
「親方になに持ってくんだ?」
「とりあえず高い酒でも持っていけば喜ぶだろ?」
「親方酒好きだもんなぁー」
俺とソルドは街で魔石をいくらか売りその金で酒を買い、街の外れにある工房へと向かう。
とりあえず入口の扉をノックする
「こんな偏屈ジジイのところに来る変わりもんは、一体誰じゃ?」
「ガキの頃、よく悪戯して怒られたソルドと、その連れ添いのカインです」
「なんじゃお前らか、手が離せんから入るなら入れ」
お、どうやら今日は機嫌がいいみたいだな。これなら作ってくれるかもしれないな。
「お邪魔します」
中に入ると、身長120cmほどで、その体躯は逞しく、筋骨隆々と言った表現がピッタリであろうの白髪の老人が、金槌で真っ赤に熱せられた金属を叩いている。
親方は一瞬だけ視線をこちらに向けすぐに、視線を戻し仕事を続ける。
「何の用じゃ? 悪戯なら余所でやってくれ、今は忙しくてかまってやれん」
「いや、今日は悪戯じゃなくて注文に来ました」
一瞬、親方の金槌を振るう腕が止まるが、すぐに再び動き出す。
「お前が注文とは、いったいどういう風の吹き回しだ? いつも、防具も武器も支給品で十分だと言っていたではないか?」
「少し面倒くさいことになって、まともな装備が必要になってしまいまして」
「ほお、お前さんが、まともな装備が必要なことをするとはの」
「色々ありまして」
「とりあえず、こいつを殺しておくか!」
そういって、親方は熱した金属をはさみ状の道具でつかみ、近くで何かをいじっていたソルドに向けて突き出し、ソルドが飛び退く。
「あっぶねー、殺す気かよ?」
「殺す気じゃ」
ソルドのやつ、少しはじっとしてられないのか?
親方はその金属を再び火の中に入れ、熱し始める。
「それでカイン、貴様は何が欲しいんじゃ?」
「軽装の鎧一式と、全身を覆えるくらいの大きさの盾、あとはナイフが2本ほど欲しいです」
「どのくらいの質のものにする?」
「親方の作れる最高傑作を」
再び、火の中から金属を出し叩きはじめる。
「かなりの金額になるが払えるのか?」
「払えます、だからお願いします」
親方はこちらに顔を向け、見定めるかのように俺のことを睨み向きなおる。
「5日後に取りに来い」
「そんなに早く作れるんですか?」
「急いでおるから、わしのところに来たんじゃろ? あと、酒はそこにおいていけ」
「分かりました、では5日後に」
「分かったなら、さっさとそこのバカを連れて出て行け」
俺はソルドを工房内から蹴りだし、自分も工房を出る。
鎧と盾とナイフを5日で作ると言っていたが、一体どうするのだろうか? とりあえず、これで装備のことは問題ないな。
俺はそのあと買い物を終えて家へと戻った。
「ただいま」
「おかえりー」
エルザが出迎えてくれたが、シャルはベッドの上でゴロゴロしている。
「そういえば、ベッドは一つしかないから、二人で話し合えよ」
「私は旅で野宿とかに慣れてるから、毛布だけで大丈夫だよ」
「そうか、まあ、どうせ必要になると思って人数分の寝袋買ってきたから、これでも使ってくれ」
「ありがとう」
それにしても、エルザはいい子だな。
「小さいのにえらいなー、エルザは」
「小さいって言うなー!」
その怒声と同時に、エルザの回し蹴りが目にもとまらぬ速度で俺の腹部に決まり、俺は壁に打ち付けられ、動けなくなる。
小さすぎて子供に見えるくせに、力だけは子供とはかけ離れすぎだ。あと、小さいって言うのはやめよう、俺が死ぬ。
俺がなんとか回復し、晩飯を作り始めるとエルザが手伝ってくれるが、その様子が……
「どう見ても、お手伝いする子供にしか見えないよな……」
聞こえないようにボソッと呟いてみたのだが、どうやら聞こえたようだな。だって今、俺壁際で倒れてるもの。
「そうゆうことばっかり言ってると、女の子にもてないよ?」
「そうだぞカイン、いくらエルザが小さいからって、小さいって言っちゃ、げふっ」
ああ、ソルドのやつも壁まで吹き飛んで行ったな、でもあいつ頑丈だからなー
「なにすんだよ、俺はエルザの味方だったじゃないかよ!?」
「小さいって言った、でしょ!」
「今のは不可抗力だ、子供じゃないんだからそれぐら、ごふっ」
「子供っていうな!」
今度は天井にぶつかって……落ちた……あ、立ち上がった。
「なにしやがるこのチビー、チビエルザー」
そのあとも晩飯ができるまで、ソルドがエルザのことをチビと言い、そのたびにエルザがソルドのことを吹き飛ばしていた。
できれば、屋外でやってほしかったがそんなことを言ったら、俺にも飛び火しそうだったので黙って晩飯を作る。