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俺は魔人であいつは勇者で  作者: ほず
第一章 発端編
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第1話 俺はニートでこれが始まりで

『勇者によって魔王は倒された』


 普通なら物語の終わりを告げるはずのこの言葉、しかし俺にとっては違う、俺にとってはこれから新たな就職先を探すという何とも面倒な物語の始まりなわけだ。


 俺の名前はカイン、何? フルネーム? そんなもん長すぎて忘れたとりあえずカイン、たった今職を失った哀れな魔人だ。おかげで、俺の黒い瞳は死んだ魚のようになっていることであろう。

 さっきまでの肩書きは、34番目の魔王軍第三大隊隊長っていう無駄に豪華な肩書きを持っていたわけだが、今魔王が倒されたから魔王軍はこれで解散、よって新しい仕事を探さにゃいかん訳だ。そんなことを思いながらも、俺は城の中で勇者たちが帰っていくのを隠れて見守っていた。


 柱の影に隠れている俺のところに、俺の元部下がやってくる。


「隊長、これからどうしましょう?」

「おい、俺は隊長じゃない元隊長だ、そこんところ間違うなよ。これから、どうするってどうしようもないだろ」

「ですよねぇー。じゃあ、自分は実家帰って畑仕事でも手伝おうかな」

「そうしろそうしろ、親孝行してこい」


 さっきから俺のところにこうやって何人も相談しにきやがる、大変なのは俺もだっつーの。てか、なんで俺のこと見つけれるんだ? 俺、ちゃんと隠れれてるよな?

 それにしても勇者もひどいもんだ、数千人の勇者が一斉に攻め込んできてどうやって、戦えってんだよ。魔王なんて、ただの金持ちの馬鹿か、歳とった爺さんがほとんどだっていうのに、攻め込まれて勝てる訳ねぇだろ。

 最近の魔王はみんな魔王名乗って数ヶ月でくたばるから、魔王軍に入ったって全然稼げやしない。なんか、人間の間じゃ魔王を打ち取った英雄は随分といい待遇を受けれるらしいから、血眼になって突撃してくるし、怖くて岩陰に隠れてるか死んだふりするのが関の山だ。


 とりあえず、城の宝物庫でも漁って、何かもらってから家に帰るか。


 と、思ってきてみたんだが、勇者どもが宝奪い合って殺しあってやがる。うー、こわっ、こんなところ居られるかよ、さっさと逃げようっと。


 ここで俺は重大なミスをしちまうわけだ、何かって? こけたんだよ、それも盛大に。鎧を着てるせいで、うるさいからすぐにばれちまう。

 まぁ、魔王を倒せなくて少しでも稼ぎたい奴の前に、魔王軍の元隊長が転がり込んできたんだ、向こうは手柄建てるチャンスだと思って突撃してくるよなそりゃ、あははは……


 俺は必死に逃げ、なんとか勇者たちをまき、森の中で呼吸を整える。

 あーこわっ、勇者こわっ、あれはもう勇者というより金と権力の亡者だろ。あんな鬼ごっこもう二度としたくない、てか、もう追いかけてきてないよね? まだ追いかけて来てたら俺もう泣くよ? いやマジで。

 うん、とりあえずは大丈夫そうだ、こんな隊長マーク付いた鎧なんて着てるんじゃなかった、よしもう寄り道せずに帰ろう、まっすぐ帰ろう。

 俺は黒い髪に着いた土を払って、立ち上がり帰路についた。


 森の中を歩くこと約20分、我が家にようやく到着する。まあ、家族もいないし特に何もすることないから、もう寝よう。


 その日の夢で、俺は勇者どもに追いかけられる夢を見て、朝起きたら枕がぬれてた。泣くって言ったけど、本当に泣くとは思わなかった。


 さて、仕事探しに街でも行くか、おっと朝飯、朝飯。とりあえず俺はパンに何もつけずに食って、すぐに家を出た、今は仕事見つかるまで節約しないとな。


 俺は職を探すために、家から歩いて5分ほどの街に来てみた。石畳の道に石造りの家屋、鉄塔の上に魔石がつけられているだけのシンプルな街灯が等間隔で立ち並んでいる。


 それにしてもおかしい、街に昨日まであふれていた求人広告がすべて撤去されている。きっと風で飛んでったんだよね、うん、そうだよね。


 そのあとすぐに、知り合いの店を回ってみたが、すべての店でもう働き手は足りてるって言われた。やべーよ、このままだと俺餓死するよ? マジで生きてけないよ? しょうがないから、森で何か仕留めてくるか、このままパンだけの生活っていうのもむなしいし。


 俺は肩を落としながら森へと向かった。


 森の中に入ってもう1時間は経つが、いまだに猪一匹出てこない。木の実ばっかり集まったけど、肉が食いたい。


 それから、しばらくさまよっていると、遠吠えが聞こえてきた。


 その時の俺は肉が欲しくてたまらなかったから、もう、いっそのこと狼でも何でもいいと思って遠吠えの聞こえてきたほうへと駆けだしちまったんだ。いやはや、今思うと軽率だったもう少し考えて行動すべきだった。


 とにかく走っていると狼型の魔物が誰かを襲ってるのが目に入った。ここで見捨てるほど、俺は悪人では無いわけだ。すまん嘘だ、ただ肉を食いたかっただけだったと思う。


 まあ、一応隊長なんてやってたんだそれなりには強いんだよ俺って、そこら辺の魔物風情に遅れなんかとらねぇんだぜ。

 ここで出すのは、俺の十八番、加圧魔法、こいつを使えば大抵のやつは動けなくなるし、動けたとしてもかなり動きは鈍る。こいつを使って今まで逃げ延びてきたといっても過言ではない。当然、大したことのない魔物だから、地面にへばりついて動けなくなるわけ。さて、こいつらを持って帰る前に一つ感謝でもされておくか。


「おい、あんた大丈夫か?」


 俺はさっきまで襲われていたやつを見ると、なんと女だった。しかも、かなりかわいい、金髪碧眼ロングヘアー、来てる鎧は、まだ新しそうだ、腰には1メートルほどの両刃の直刀を携え、背中には弓とえびら、こんだけの装備しててこんな魔物相手に苦戦してたのかよ、ずいぶん弱い奴だな。

 俺なんて適当な麻の服だってのに、こいつより強いんじゃないのか?


「ありがとう、それにしてもすごい魔法ね」


 そう言いながら、立ち上がってこっちに近づいてくるその女を見ていて何か違和感を覚える。なんていうんだろうかこれは、何かがおかしい。


「まあな、これでも魔王軍の隊長やってたんだぜ」


 そういって自慢げに笑った瞬間に、女の表情が変わり剣を振り上げる。


 けど、振り上げすぎて後ろにこけやがった。


「だ、だましたわね」


 さっきから、何かおかしいと思っていたが、もしかしてこいつ……


「お前、勇者かっ!?」


「そうよ、この魔王の手下め、私が成敗してやる」


 正確には元手下だ、ついでに行っちまえば、こいつには倒される気がしない、とりあえず加圧魔法っと。


「えいっ」

「きゃあ、ちょっとなによこれ」


 ああ、やっぱり動けないか。なんだか、見ててだんだんかわいそうになってきた。魔法といておくか。


 女は魔法を解いてみたが立ち上がろうとしない、まさか、今ので殺しちまったなんてことはないだろうな? 今まで数多くの戦場に立ってきたが、殺したことがないことが自慢だった俺がまさか、こんなところで殺しちまったのか?


 不安になって、俺はその女に近づき様子を伺う。


「ひっく、うぅ~」


 あれ、もしかして泣いてる?


「あの~」


「なによー、どうせ私は落ちこぼれのダメ勇者よ、魔物に襲われてるところを敵に助けられるようなダメダメ勇者よー」


 ああ、泣いてるよ、完全に泣いてるよどうしようこのままだと完全に俺悪者だよね。でも、ここで殺されてあげるっていうのも変だし……えーっと。


「泣くな!」

「ひっく……うぅ……」


 あ、泣き止んだていうか、すごい我慢してる。


「いいか、俺だって、すごーくダメな魔人だった。でも、今では隊長になれるくらいにまでなった、だからお前も変われる頑張れ!」


 正確には隊長は狙われやすいから、くじ引きで負けたやつがなったんだけど嘘はついてない、だいたい俺この加圧魔法以外ろくにつかえないし。 


「頑張る……」


 うん、泣き止んでよかったこのまま帰ってこのことが知れたら、女を泣かせた男として有名になっちまうとこだったぜ。


「私、頑張って、魔王を倒す」

「あ、魔王ならもう打ち取られたよ」


 しばしのあいだ、沈黙が続いた。


「えぇぇーーー! じゃあ、あたしは何を目指して頑張ればいいのよ!?」

「知るかボケ、自分で考えろ!」

「もういい、帰る」


 そう言って、女は歩き出したのだが……


「おい」

「なによ、もう帰るんだから放っておいてよ」

「いや、そっち行くと魔人の村だぞ」


 再び沈黙


「お前、もしかして帰り道解らないのか?」


 女はこくりと頷き、うつむいている。

 あ、また泣きそうになってきた。


「案内して……」

「いや、人間の街のほうに行ったら俺が狩られるから無理」


 あ、目に涙たまってきた。


「えっと、とりあえず俺の家来るか? えーっと、名前は?」

「シャル……」


 これがこいつとの出会いだ、何とも間抜けのこの勇者との出会いが俺の人生どころか世界を変えるきっかけになるなんて誰が思っただろうか、だれも思うわけねぇよな……

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