創発板のお題
お題「神社」「廃車」
国道と名はついていても、この××号線は、とてもじゃないが整備が行き届いているとはいえない道だった
山間部を走る車線は一本しかない
カーブのきつい崖のそばを通りかかる時にすら、ガードレール一本しか、落下から守ってくれるものがないのだ
そのガードレールにも、ところどころへこんだような跡が付いていることから、この道がいかに危険に満ちたものか、分かろうというものだった
ある夕方、そんな国道を、おっかなびっくり走っていく白い車があった
その運転席には、頼りなさそうな記者が一人、不安げな顔でハンドルを握っている
とっくに夕日は沈み、山は薄紫の闇に支配されつつある
臆病な彼にとって、その闇を切り裂いてくれる愛車のヘッドライトだけが、唯一味方してくれているような物だった
彼は、とある不思議系雑誌のライターである
心霊現象や、超常現象について、記事を書く
例えその内容がでっちあげだとしても、買ってくれる読者はいた
そんな彼らを楽しませるためにも、記者は一生懸命、ネタになりそうな話や写真を集めて、西へ東へ走り回っている
そんな中、記者は、忘れられた村に、おどろおどろしい被写体があるという話を聞く
それは、例え恐ろしい現象が、実際に起らなかったとしても、その見た目のインパクトだけで、読者を納得させることのできる被写体なのだ
行かないという選択肢はなかった
この国道の先にある、廃村の神社のご神体、パクパク様とやらを写真に収めてくるのが、今日の仕事である
本来ならば、もう仕事を終えて帰途についているような時間である
しかし今日に限って愛車の調子が悪く、途中で何度も修理のために時間を割かれた
これは、本当に何か、嫌な事があるのではないか……
記者は、恐ろしい予感に身震いした
そしてそれは的中することとなるのである
突如として車のヘッドライトが消えた
エンジンの回転も遅くなり、やがて停止する
車内は真っ暗な闇に包まれた
ガラス窓越しにも、蝙蝠の声や、葉の擦れる音が聞こえてくる
記者は息を飲んだ
フロントガラスに、青白い手が張り付いている
「……!」
一年後
その車は草に埋もれていた所を隣村の村人によって発見された
真っ白だった車体は雨でオレンジ色に錆びつき、タイヤが一つなくなっている
フロントガラスとヘッドライトも割れて、ガラスが飛び散ったままにされていた
車の持ち主は、とうとう発見されずじまいだった
ただ、車内に残されていたカメラ、その写真は現像されたが、村人は不可解なものが映っている事に気づく
「こりゃぁ、パクパク様だべ……」
夏の午後 不思議系雑誌の編集部 ある変人記者と美人編集者の会話
記者「今度の記事は、これでいこうと思う!」
編集者「(一読して)……記事の中とはいえ、よくもまぁ、こんなに自分をポンポンと殺せますね」
記者「そんなの、全然構わんよ。全国3000人のオカルティストが俺の記事を待ってくれているんだからな」
編集者「そうですか(せいぜい30人いればいいほうでしょ)」
記者「ん?何か言ったか?」
編集者「いえ それにしても、今回の写真も、よく出来ていますね」
記者「まぁな、最近のパソコンはすげぇんだ」
得意そうに頬を釣り上げ、記者は一枚の写真を、机の上に放り投げた
写真の中の記者は、大口を開けた伝パクパク様像に襲われ、今にも食いちぎられそうなほどである
記者「いまや、迷信を作り出すのは俺たちの役目になっちまったんだからな」
国道ならぬ酷道
わが故郷にも、ありました