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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第9話

「俺の仕事を見学してみないか?」


 イラホン様の妻になって数日後、満面の笑みを浮かべてそう言うイラホン様に、私は……へ? と気の抜けた返事をすることしかできなかった。


 イラホン様の仕事と言われると、それは神の仕事だろう。


 そんな場所に……つ、妻になったとは言え、人間が立ち入っても良いのだろうか。


「俺はアルサのことを見ていたけど、アルサは俺のことをほとんど知らないだろう? だから俺のことを知って欲しいんだ」


 戸惑って答えられずにいたが、寂しそうな懇願するような表情で恩人であるイラホン様に言われてしまっては……断れるわけがない。


「……ぜひ、お供させてください」


 そう言うとイラホン様はぱぁっと明るい表情に変わって、私の手を引いて早速行こうと歩き出す。


「いってらっしゃいませ。アルサ様、旦那様」


 あっという間に屋敷の外まで出ていて、屋敷に残るマラクがそう言って送り出してくれた。


 そう言えばこの世界に来てから元の世界に戻ったことがないけど、一体どうやって戻るのかしら。


 イラホン様に手をひかれながら、屋敷が乗っている雲の端まで来た。


「じゃあ、行くよー」


 するとイラホン様にぐいっと腰を引き寄せられ、そのまま雲の外へと足を踏み出して……私達は抗う術もなく落ちていく。


「き、きゃああああああああああああああああ……ッ!」


 あまりの恐怖に悲鳴を上げ、目をつぶっていることしかできない。


 すると突然、自分の周りで吹き荒れていた風が止んだのを感じる。


 でも怖くて、目を開けることができない……!


「……着いたよ。アルサ」


 するとイラホン様が、優しく声を掛けてくれた。


 少しだけ恐怖が薄れたのを感じて、恐る恐る目を開けてみると見覚えのある景色が目の前に広がっていた。


「こ……ここは、いつもの教会?」


 周りを見回してみると、たしかに見慣れた教会だった。


 どうやら十字架の前、参拝者がいつも祈りを捧げる場所の前に立っているらしい。


 イラホン様の仕事場というと、なんか豪華絢爛な神の座みたいなものを想像していたのだけど、見慣れた教会でどこかホッとした。


「ここが俺の仕事場! アルサと出会った運命の場所でもあるけどね」


 イラホン様は頬を赤らめながら、優しい眼差しでこちらを見つめてくる。


 一気に顔の熱が上がったのを感じて、もう俯いて困惑するしかない。


 そうしていると教会の扉が開いて、数人の人が神父様と簡単な挨拶を交わしながら入ってくる。


「あっ、あの、私もここにいても良いのでしょうか?」


 不安のあまりオロオロと私が尋ねると、イラホン様は私を安心させるように優しい笑顔を浮かべていた。


「大丈夫だよ。人間に俺たちの姿は見えていないし、そこで俺の仕事ぶりを見ていてよ」


 そう言ったかと思うと、イラホン様の表情と纏う空気がガラッと変わったのを感じる。


 今まで明るい笑顔を浮かべるイラホン様と、絵画のように美しい微笑みを浮かべるイラホン様しか見たことがなかったが……そのどれとも違った、まさに神らしい堂々とした佇まいだった。


 イラホン様に見惚れている内に、一人目の参拝者が十字架の前で祈りのボーズをする。


『家族が今日も幸せでありますように』


 ぼんやりとしている頭に突然、聞き覚えのない声が響いた。


 わけが分からず戸惑っていると、イラホン様が参拝者の頭にスッと手を差し出して、そこに温かい光が灯る。


「いつもの願いだな。そなたと家族に幸あらんことを」


 イラホン様がそう伝えると、一人目は満足そうな笑顔を浮かべて去っていった。


「あの、今のは……?」


「神には教会に来る人間の……心の中にある祈りや懺悔が聞こえるんだ。そして真剣な想いを持っている者には、今みたいにパワーを分け与えるんだよ」


 私が驚くことしかできずにいると、二人目が来た。


『彼との関係が……少しでも進展しますように!』


 若い女性……頬を赤らめていて、恋をしていることは一目瞭然だった。


「がんばれー。でも自分から行動を起こすことも大事だぞ」


 そんな彼女に笑顔でエールを送りながら、パワーを分け与えるイラホン様。


 次の人にも、次の人にも同じように願いを聞いてエールとパワーを与えていく。


 これがイラホン様の仕事。


 祈りを捧げた人たちは、みんな満足そうな表情を浮かべて去っていく。


 イラホン様の姿は見えていないけど、彼らには確かにパワーが与えられていて……イラホン様のエールが届いているんだなと、そう思えた。


 私は教会に来ても、真剣に祈ることなんてしたことなかった。


 でもイラホン様はこうやって、ずっと彼らの願いを聞いていたんだな。


 イラホン様の偉大さに、私は何も言えずにその姿を見守ることしかできなかった。

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