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幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される  作者: ちゃっぷ


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第34話

 カティ様とバハロン様が去って、マラクに応接室の片付けをお願いして私は自室に籠もっていた。


 マラクが心配して何度か声を掛けに来てくれたが、うまく返事をすることができなかったような気がする。


 そうこうしている内に、イラホン様が帰宅なさった。


「ただいま、体調はどう? アルサ」


 いつもと変わらずお優しいイラホン様。


 そんな優しさが今は余計にツラくて、お顔をまともに見ることすら出来ず、明るく返事を返すことももちろん出来なかった。


「大丈夫です……」


 そう答えると、イラホン様が心配そうにどうしたのか尋ねてくる。


 全てが申し訳なくて、私は早めに話を切り出すことにした。


「イラホン様。自分勝手で申し訳ありませんが、私との婚約を破棄してくださいませんか?」


 私がそう言うと、イラホン様は言葉を失っていた。


 婚約破棄……されたことはあっても、する側になるとは思ってもみなかった。


 しばらくはいつものような調子で慌てる声が聞こえたけれど、次第に声が小さくなっていき……気がつけば、冷静な声で返事が返ってきた。


「……理由を教えてくれるかな」


 当然の返事だろう。


 でも私はなんと答えれば良いのだろう。


「私が……不幸にするからです。カティ様と結婚なさった方が、イラホン様にとって幸せなのだと……気付きました。だから……」


 言葉がスムーズに出てこない。


 俯いているからイラホン様の表情は見えないけれど、何の返事もない。


 ご理解いただけた……そう捉えて、良いのだろうか。


 これで終わり……あっけないものだった。


 最後くらい笑顔で別れようと、私は勇気を振り絞って顔を上げ、精一杯の笑顔をつくってイラホン様に私の本心を伝える。


「イラホン様。今までありがとうございました。どうか……どうか、幸せになってください」


 それだけ言って私は自室を飛び出し、マラクの静止も聞かずに屋敷を飛び出した。


 そうは言っても行ける場所は雲の下……いつもの教会だけだ。


 外が暗く、教会はもう閉まっている時間なので誰もいない。


 イラホン様が幸せにすると仰ってくださった……あの夜のようだなとぼんやりと思っていた。


 けれど、誰もいなかったあの夜とは違うようだった。


「うわっ! びっくりした……。どうしたの、アルサ。今日は教会に来ないんじゃなかったの?」


「カーフィン……」


 驚いてはいるがいつも通りのカーフィンを見て、思わず涙がこぼれてくる。


 私が泣き出したことでさらにワタワタと慌てた様子のカーフィンは、ひとまず落ち着ける場所にということで……これまた懐かしい別室に連れて行ってくれた。


「――どうしたの? イラホン様とケンカでもした?」


 ただ泣きじゃくる私に、カーフィンは優しく問いかけてきた。


 このままではカーフィンにも迷惑を掛ける……私は、心の内を話すことにした。


「イラホン様は幸せにするって仰ってくださるのに、私は何もお返しできない……私といると、イラホン様が不幸になるの……イラホン様は私と結婚しない方が、幸せになれる……だから、婚約破棄を申し出たの」


 涙で思うように話すことができなかったけど、ありのままをカーフィンに伝えた。


 カーフィンには申し訳ないと思うけれど、もう一つの本音もぶちまけた。


「私とイラホン様が結婚しないと、全人類が消滅するかもしれない。でも、私はそれでも……イラホン様に幸せになっていただきたい」


 カーフィンは全人類消滅という言葉にはさすがに驚いてはいたものの、それ以外の言動を否定することはなかった。


 ただ黙って話を聞いてくれていた。


 それが今の私には、すごくありがたかった。


 ――ひとしきり泣いて話して、やっと落ち着いてきた頃。


「……大丈夫?」


 カーフィンが優しく尋ねてきてくれたので、こくんっと頷くと、じゃあ……と彼は話し始めた。


「アルサのせいでイラホン様が不幸になるって、あの方がそう言ったの? そもそもイラホン様の幸せってなに?」


 そう問われて、私は驚きのあまり目を見開いた。


 イラホン様は……何も仰っていない。


 私がいると不幸なんて、あの方が仰るはずがない。


 でも、イラホン様の幸せ……あの方は、三大神のお父様のもとを離れてこの小さな教会にいるようなお方、権力や名誉を幸せだと捉えていないことは分かる。


 じゃあ、イラホン様の幸せって……?


 私が何も答えられずにいると、カーフィンが困ったように笑いながら続けた。


「……アルサとイラホン様に必要なのは、対話だと思うよ。勝手に決めつけないで、ちゃんと話しなよ」


 そう言って、手を差し出してきた。


 私は誰かの手に頼ってばかりだなと思いながらも、ありがたくその手を取った。


 そして私たちが別室から教会まで戻ると、十字架の前に月夜で煌めくイラホン様が立っていた。

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