第22話
最近、カーフィンの様子が時折おかしくなる。
心配に思って声を掛けても、なんでもないよと困ったように微笑まれるだけで……心の内を話してもらうことはできずにいる。
何も出来ない自分が歯がゆい。
そうこうしている内に、参拝者がちらほら教会にやってくるようになった。
「私が行きます。どうかイラホン様はご友人との歓談をお楽しみください」
イラホン様が私の腰に腕を回したままいつもの位置に移動しようとしていたけれど、自分一人で対応する旨を伝えて彼の腕からすり抜ける。
あのままの体勢はどうしても恥ずかしい……抜け出せる口実ができて、心のどこかでホッとしている。
イラホン様は不満そうにしていたけれど、バハロン様がニヤニヤしながら来い来いと手を動かすと、ご友神のところへと向かっていった。
私はその様子を見守ってから、参拝者の願いに耳を傾け、それぞれにパワーを与える。
イラホン様の影響を受けてか、私も一言添えるようにパワーを与えているのだけれど……それで参拝者が嬉しそうな表情、明るい表情をしてくれるのは何度見ても嬉しい。
私の存在や声に気が付いていないとしても、私が誰かの役に立てている……気付かれなくても誰かと繋がれている確信を得られるのが、私にとっては嬉しかった。
家族からはずっと役立たずと言われ、家に閉じ込められている状態で、他人と関わることなんて全くなかった。
……こんな素敵な笑顔を向けられることなんてなかった。
この喜びを得られるのも、全てはイラホン様のおかげだ。
イラホン様には感謝しかない。
参拝者が落ち着いたのでちらりとイラホン様の方を見やると、カティ様が彼の腕に抱きつくようにして密着している姿が見えた。
一瞬、妹と元婚約者の姿が重なった。
いやいや……イラホン様とカティ様はご友神だから、仲良くしていらっしゃるだけだろう。
そう思いながら、もう一度チラリとそちらに目をやる。
こちらに背を向けているので表情はわからないけれど、美しい銀髪のイラホン様と金髪のカティ様……とてもお似合いだなと思った。
そうしていると会話をしているのか、ふっと彼らの横顔が見えた。
クールだけれど美しい顔立ちをしていらっしゃるイラホン様、可愛らしい笑みを浮かべて話していらっしゃるカティ様。
……私がいなければ、この光景が当たり前のものだったのだなと思うと、心臓がズキッと締め付けられるように痛む。
……この感情は、知らない。
妹と元婚約者が良い仲だと知ったときも、婚約破棄を突きつけられたときにも……こんな感情になったことはない。
家族に蔑まれて暴力を振るわれても、身体が痛むことはあってもこんな風に心臓が痛むことはなかった。
何なのか分からないけれど、恐怖・不安・焦燥……色々な感情が心の内に浮かび上がってくる。
でも私は、動くことも声を掛けることもできずに、それをただただ眺めていることしかできなかった。
そうしていると、イラホン様がカティ様の絡みをスルリと抜けてこちらに向かってきた。
「……どうかした? アルサ」
心配そうな表情、優しい声色でそう言われて、また心臓がズキッと痛む。
いつもなら安心するのに……イラホン様越しにムーっとした様子のカティ様が見えると、全く安心できなかった。
その声で、その顔で……カティ様に語りかけていたのかと思うと、どうしようもなく心がざわざわする。
「……なんでもないです」
でもそんな汚い心をイラホン様に悟られたくなくて、精一杯の笑顔を浮かべながらそう答える。
「なにかあるなら言って……?」
イラホン様はさらに心配そうな表情をして尋ねてくださるけれど、汚い心を見られたくない私は、なんでもないんですと繰り返すことしかできなかった。
そうしているとふっと、最近のカーフィンの様子が思い起こされた。
もしかしたらカーフィンも、この心臓の痛みや心のざわつきに悩まされていたのだろうか。
カーフィンに自分も同じであると告げて、どうすれば良いのかしらと相談したら……少しはカーフィンの悩みも軽減されるだろうか、自分の心のざわつきも落ち着くだろうか。
少しだけ希望が見えた気がした。
「私はカーフィンと話してくるので、どうかお気になさらず」
先程とは違って、もう少し上手く笑えていた気がする。
しかしそう言うと、イラホン様は急に私の手を引いて抱きしめてきた。
さっきまでの悩み・不安・恐怖が全部吹き飛んで、一気に顔が真っ赤になってしまって……それはそれで私を戸惑わせた。




